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サンジョウの力

「な、ん……で」


「いや、いや、さすがに知っているでしょ? いや、わからないか? 僕の力は『軟体スライムの力』『スライム』と言えば、分身分裂でしょ? 『火の力』なんて手に入れているようじゃ、わからないかー」


あはは、とサンジョウは笑う。


「しかし、やっと刺せたね。実はさ、昨日から魔物に化けて何度も狙っていたんだけどさ、その度に分身が燃やされていてねぇ。伊達にSSランクじゃないってわけだ。いや、まいったよ。しょうがないから、目の前で動揺させて、背後から大量の槍で狙う作戦にしたんだけど、成功してよかったー」


サンジョウは、実に嬉しそうに語っていく。


よく見ると、サンジョウの周りの地面には、いくつか炎が上がっていた。


無意識に、カウンターで撃退していた槍のようだ。


「さてと、そろそろかな?」


そうサンジョウが言うと、同時に、カグチの体に衝撃が走る。


「がぁっ!?」


槍が引き抜かれたのだ。

カグチの内蔵ごと。


「ふむ、問題なし、っと」


引き抜いたカグチの内蔵を検分し、うなづいたサンジョウはそのままカグチの内蔵を自分の体に納めた。

カグチの内蔵が、グルグルと溶けて、サンジョウのスライム状の体と混ざっていく。


「あー、別に僕、人食趣味とかじゃないからね、誤解がないように言っておくけど」


なにやら急に、サンジョウが弁明を始める。


「ただ、こうしないと馴染まないっていうかさ。ここ10日、僕も色々試したんだよ。『軟体スライムの力』で出来ること」


内蔵を失い、カグチは力なく地面に倒れた。


「知らないと思うけど『スライム』といえば、分身分裂の他に、他の生物の力をコピーする力ってのが、異世界チートだと定番でさ。それを使えないか色々試したわけよ」


カグチの体から、血がドクドクと流れ出す。


「武器とか、防具とか、生き物以外は狙い通り、簡単にコピー出来たんだけどさ。問題は生き物でね。あのネズミみたいな魔物でさえ、そのまま取り込むのは出来なかった」


(……熱い……)


傷口から感じる熱はまるで火のようだ。


(……寒い……)


傷口から出て行く血液は、カグチの体温を奪っていく。


「徐々に慣らさないとだめみたいでね。毛を取り込んで、しっぽを取り込んで、少しづつ消化しながら自分の体と混ぜていかないと、ネズミ、『デッドワズ』の力は得られなかった」


サンジョウは、自分の右腕を大きなネズミに変える。


「ここまで言えばわかると思うけどさ。僕の狙いは支給品もあるけど、全部だったんだよ。言ったでしょ? 全部。君の『火の力』を含めた、全部を取りに来たんだ」


ネズミを大きなカラス、『シュザリア』に変えて、サンジョウは飛ばす。


サンジョウの『シュザリア』は、まだ燃えていたサンジョウの分身と、地面にいる分身を次々と回収し、サンジョウの体に戻っていった。


「思い出したからね。天使様の言葉を。『『火の力』はアナタが得るべきだった』ってさ。天使様に言われたら、回収しないと。僕が、責任を持って」


サンジョウの手から、炎が上がる。

カグチの『火の力』の、火のような。


「うんうん……これこれ。この『力』。『準備』で炎を出せる剣を手に入れていたけど、今の時点でも『火力』はこっちの方が上っぽいね。まだ、全部取り込んだわけじゃないのに」


サンジョウは、笑みを浮かべていた。


満足げで、実に、凶悪な。


『力に蝕まれる』そんな、メディの言葉を思い起こすような顔。


「これなら、いけるか? アイツにも、勝てる……いや、勝てるようになる。天使様に選ばれた僕が、世界最強に、なれる!!」


サンジョウは、突然手を振るった。


すると、火が、草原を走り始めた。


試し打ちなのだろう。


サンジョウが放った火は、聖域を燃やしていく。


草原に生える草も。その周りに生い茂る森も、そして、当然、サンジョウの火が聖域の全てを燃やすつもりだったのなら、当たる。


「……あ」


カグチは、それをただ見ていた。

やけに、時間が遅いような気がした。

だから、だろう。


ゆっくり、ゆっくり、はっきりと見てしまった。


サンジョウが放った火が、『火の力』の火が、草原を走り、白い木に当たるのを。


「あ、あ……」


白い木が、一瞬のうちに燃えていく。


『火の力』の火は、燃やそうとしたモノを、燃やし尽くす。


例外なく。

魔物だろうと、白い木だろうと。だって、実際にカグチは白い木の枝を、これまでも燃やしてきたのだ。


白い木が、揺れていた。


苦しむように、揺れていた。


断末魔は聞こえないし、熱も臭いも届かないが、燃える白い木の様子は、今までの何よりも、カグチの感情を狂わせた。


「あ……あぁああああああああああああああああ!!」


カグチは立ち上がり、サンジョウに向かっていく。


傷口から内蔵の残りがこぼれ落ちているが、関係なかった。


拳を握り、カグチは全力で振りかぶる。


「そんなに吠えて、向かってくるなよ」


サンジョウが、手のひらをカグチに向ける。


「そっちが殴るつもりなら……僕は燃やすしかないだろ?」


にこやかに、サンジョウは言う。


巨大な火が、カグチの体を包み込んだ。


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