サンジョウの目的
「……ああ、久しぶり」
にこやかに、話しかけてくるサンジョウに、カグチは思わず身構えていた。
なんで、ここにいるのだろう。
なんで、話しかけてきたのだろう。
そして、なんで、まるで害意がないことを示すように、手を広げているのだろう。
サンジョウの仕草、その全てが、カグチの警戒を最大限までに引き出させていた。
「確か、今夏くん、だったよね? 本当に久しぶり。元気そうで何よりだ。ん? なんだよ、そんなに身構えるなよ。友達ってわけじゃなかったけど、隣のクラスで、一応顔は知っているんだしさ。ほら、今は何も持っていないし」
サンジョウは、何も持っていない手をひらひらと振る。
そう、サンジョウは、本当に何ももっていなかった。
『準備』の時に身につけていたはずの、豪華な鎧も、武器も、何もなく、ただ学校の制服を着ているのだ。
「何もないって……どうしたんだ、その、鎧とか、武器は?」
「ああ、アレ、好きに着脱できるんだよ。こんな感じで」
サンジョウが腕を振ると、その手に豪華な装飾の剣が現れていた。
「……そうか。それで、何しに来たんだ? 何のために……」
「いやいや、たまたま近くを通りがかってさ。それで、思い出したんだよ、天使様の言葉を。天使様が、ここに着いてから、脳内に話しかけてきてさ。『支給品を聖域に用意したから、取りに行け』って」
サンジョウの言葉に、カグチは眉を寄せる。
そんな言葉、カグチは聞いていない。
Fの力の持ち主にだけ伝えたのか、それともカグチにだけ伝えていないのか。
それはわからないが、本当に、どれだけFの力を優遇するのだろうか。
「それで、支給品はどれだい?」
「……テントの中に、いくつかある」
カグチは、テントを指し示す。
「そうか……僕の分はあるんだろ?」
支給品を譲れ、ということだ。
元々、10個もあったものだ。そのうち、1セット譲るくらい、問題はない。
「ああ、そうだな」
サンジョウはテントに目を向けると、不思議そうにカグチに向き直る。
「なんで、そんな所に立っているんだよ。案内するほど広くないみたいだけど、いきなり他人の荷物を漁るほど、常識知らずじゃないんだよ、僕」
「いや、確認だが、サンジョウ……くんは、支給品が目的ってことでいいのか? 支給品として置かれていたアイテムを一式、手に入れるのがここにきた目的ってことで、いいんだよな?」
「ん? そうだよ。そう言って……は、なかったか。まぁでも、その認識でいいよ。僕は、ただ支給品を手に入れるために、ここにきた」
「じゃあ、なんで観察していたんだ? 俺を」
カグチの指摘に、サンジョウは止まる。
「今日……いや、昨日からだよな? 変な視線を感じていたけど、直に会って、はっきりした。お前だよな、サンジョウ? 昨日からずっと見ていたのは?」
サンジョウは、下を向き、頭を軽くかく。
「あー……今夏、くん? 僕たち、呼び捨てにするほど、仲良くなかったよね? ただ、隣のクラスの顔見知り。しかも、お前とか……」
「いいから、答えろよ!」
サンジョウは、顔を上げる。
その顔に、にこやかな雰囲気はなかった。
友好的な態度は、なかった。
ただ、カグチのことを、見下している。
何をしてもいい相手だと、認識している顔だった。




