『カルラウネ』
「……ウィッスンさん。そうなのですか?」
「あー……まぁ、そうじゃのう」
ウィッスンは、なぜか残念そうに笑っている。
一方、緑髪の職員は、奥の方にあった棚までいくと、何やら木の札のようなモノ一枚一枚取り出して、確認しては戻していく。
「『カルラウネ』なんて、えーっと、買い取り価格は……っと」
珍しいモノのため、相場が分からないのだろう。
資料を探しにいったようだ。
一方、ウィッスンは、メディに詰め寄られている。
「なんで師匠は、こんな珍しいモノ見つけて、そんなに残念そうな……あ、もしかして、適当に安い植物だと嘘ついて、安値で買いたたこうとしていましたね!」
「そ、そんなわけないじゃろ!」
慌てるウィッスンを見て、カグチは結論を出す。
(……うん。あのおじいさんは信用しないでおこう)
メディとウィッスンがギャイギャイ言い合いをしているなか、緑髪の職員が戻ってくる。
「お待たせ……この村だと買い取ったことはないモノだからね。これが本当に『カルラウネ』だと、一本5000ロラくらいだ」
緑髪の職員が告げた値段に、カグチは思う。
(……お、高い)
これ一つで、繁華街まで馬車で行ける値段だ。
「何それ!? 安っ!!」
しかし、メディが見せた反応は真逆だった。
「『カルラウネ』なんて、このくらいの大きさのモノを買おうと思ったらふつうに30000ロラはするのに! 安すぎる!!」
「買い取り価格だからね。ここから流通していくんだから、安いのは当たり前なんだよ」
メディの反応に緑髪の職員は呆れながら言う。
「それはメディも知っているだろう?」
「でも、普通の魔物の素材とかは、市場の精々半額から三分の一くらいでしょ? 六分の一って……」
「貴重な薬草とかは、基本的に商人が、依頼主と直接やりとりするモノだからね。総合組合で取り扱いはほとんどしないんだよ」
そういって、職員はカグチをみる。
「だから、正直な話、この『カルラウネ』は、君が信頼できる商人と直接取引したほうがいいとは思う、けど……」
「……そんな人、いませんね」
そうですか、と職員はカグチと一緒に頭を悩ませてくれた。
こうやって、問題を一緒になって悩んでくれるのは、うれしいものだ。
なので、このまま組合に売ろうとカグチが思ったときだった。
「よし、なら儂が買い取ろう」
そういったのは、ウィッスンだ。
カグチは、ウィッスンの方をちらりと見ると、そのまま聞こえなかったフリをして、職員に向き直る。
「下手に騙されるのも怖いので、このまま総合組合で買い取りできますか?」
「……いいのかい? 正直、どんなにぼったくられても、ここで売るよりは、高く買ってもらえると思うけど」
「ええ、そのかわり、ここら辺で、どんな植物が高値で取り引きされているか教えてもらってもいいですか? 旬とか。あと、他に買い取ってもらえるモノはどんなモノがあるのか……」
「おうおうおう。こんな年寄りも無視するとは、中々キモが座った若者じゃのう」
「そんな泣きそうな顔をしながら言わないでください……」
メディにツッコまれているウィッスンは肩を落としていた。
「というか、買うお金はあるんですか? 今でも、総合組合にツケがあるんですよ?」
「そんなもん、あのパトロンが来たら一発で返せると言うとるじゃろ。じゃから、今回もツケで……」
「却下です」
バッサリ切って捨てられたウィッスンがメディの肩をつかむ。
「なんでじゃ! いいじゃろ!! おまえと儂の仲なんじゃ! 昨日も危ないところを助けてやったじゃないか!」
「それとこれとは話が別ですね。これは仕事の話です」
「師匠愛が足りんぞ、弟子よーーー!」
何となくわかっていたが、ウィッスンとメディは師弟関係のようである。
それとは別に、カグチはもう一つ驚愕していることがあった。
「ツケでコレを買おうとしているんですか。今でもツケがあるのにスゴいですね」
「あー……まぁ、信用払いってのは珍しいことじゃないけどね。ただ、これは珍しいモノだし、ツケが溜まりまくっている人には……ねぇ?」
職員は、カグチが決めることだと、苦笑いで問いかける。
「……そうですね」
カグチとしては、お金が手にはいるならどちらでもいいという感じだ。
商人に売らないのは、単にインストールされている知識とのギャップを埋めるまで、ボロを出したくないというだけである。情報がウリの商人だ。
慣れていない状態で、関わると、ロクな目に遭わないだろうというのは、異世界にきた人間が皆警戒することである。
そんなカグチの様子を察したのか。
ウィッスンが弟子との口げんかをやめて、こんな提案をしてきた。
「……そうじゃ! 物々交換ならどうじゃ? 便利なモノと交換してやろう」
ウィッスンの提案に、カグチ以外のモノは、皆微妙な反応を見せる。
(……否定的な感じだけど、なんでだ?)
なんとなく、やめろといっているのをカグチは感じ取る。
いわれているのは、ウィッスンのほうだが。
「よし。今からとってくるからの。ちょっと待っておるんじゃぞ」
そんな空気を感じ取っているのかわからないが、ウィッスンは踵を返して、村の中のほうへ戻っていった。
「あーじゃあ、とりあえず買い取りを進めようか。メディ残りの検分お願いしても良い?」
「うん、こんだけ天然物を見るのは珍しいから、気合いが入るよ」
メディがにこりと笑って、カグチが採取した素材をつぎつぎと調べていった。




