彼女たちの仕事(9)
◆
世界に掛けられた病魔のような呪い。
消失現象。姿なき闇の穴へ零れ落ちるという都市伝説。
暗く。静かに。襲い来る一方的な不条理からは逃れることはできない。
だが。
ただ狩られるだけの獲物となった、人の手には余る運命を覆す存在。
それこそが聖剣と呼ばれる神造の武器と、それらを託された戦士たちの逸話。
虚ろに落ちる。消えて居なくなるという不可思議な現象は、皮肉にもとある記録にある〝喰われた者〟が救い出されたことから、〈獣〉と今も続く英雄たちを示す痕跡として、世界の裏を示すもっとも新しい伝説として塗り替わっていくことになった。
――それは夜を謳う幻想。
白刃に幾重にも輝きを走らせたエトリの剣。地を掠めながら弧を描く一撃は〈獣〉の喉を貫いた。
「しょっと――!」
そのまま剣を軸に、石畳を蹴った体が宙を一回転。
通常の生物であれば頭部と頸部を完全に絶たれているはずだが、デヴォ・ギルトは止まりはしなかった。
刃を通したままの首筋からは瀑布のように黒い砂が吹き荒れていた。それは反する性質の相克によって漏れ出した生命の滓。
確実な致命傷。それでも〈罪悪の獣〉は憤怒と共に薙ぎ払うよう爪を振るった。
「う……こ、のっ!」
剣が抜けない。エトリは惜しまず手を離し、魔獣の体を潜るように滑り後方へと飛んでいた。
「痛っ……!」
〈獣〉の黒い血飛沫を受けた銀色の鎧には黒い斑の染みが穿たれ、白煙が噴き出してく。
後退したエトリと入れ替わり、肉薄する二人目の騎士が大型の片刃剣を振るった。
対する〈獣〉は鱗のような多層障壁を纏い防御姿勢を取ったが、それをものともせず叩き潰すように斬り裂いていた。
彼が放った一撃。ただの剣によるものではない。その剣こそ〝聖剣〟である。
其は斬れぬもの無し――創造の斬魔。
其は絶てぬもの無し――破壊の真断。
人には余る二つの奇跡は、ただ人の為という強欲な使命を果たす誓いの刃となる。
戦神が鍛え人の手に落とされたこの力であれば〈獣〉を狩り、殺せる。
人の天敵となった終わりの魔獣を滅ぼすことが出来るのだ。
「■■■■■■――!!」
腕を断たれた魔獣が吠えた。痛み。怒り。怨嗟の轟は幾億の針となって影さえ縫い付ける音の衝撃となる。
剣を掲げ、引き付ける騎士を死角にして回り込むように、エトリが再び迫っていた。
刺したままの剣をさらに捩じりあげ、全体重をかけ振り降ろすように頭部を縦断する三日月。 この一撃でさすがに動きが止まった。
「封撃の赤光」
聖なる剣身より放たれた光の奔流が邪悪な獣を消滅させた。
「はっ……はっ!」
息を吐いた。余裕はなかった。無傷とはいかなかった。
エトリが浴びた〈獣〉の血は魔術の鎧を粗く削り溶かしていた。
対魔力を鎧として可視化させてさえ、ただ〈獣〉の体液を浴びればこの有様なのである。
そして相棒は鎧に大穴を開けるほどの攻撃を受けていた。
肢を絶つ交差の際、矛となった尾によって彼の魔力で編まれた鎧は容易く貫かれていた。
デヴォ・ギルトの全身を覆う禍々しい黒い揺らぎはただの獣皮ではない。
触れただけで体内の魔力を反滅し、死の呪いとなって体を染めあげる穢れの炎であり、それが本体に対する攻撃に対して硬質化し棘の防壁と化すのだ。
〈獣〉は生者がもつ意思の魔力とは相容れない死への呪い、死へ隷従する反転魔力を生体としている。
人がこれに討ち勝つ為には生と死が食い合い、削り合うような灼熱の闘争を耐えねばならない。そして逃げ場無きこの戦場では勝利の鍵は守りではなく、相手の息の根を確実に止める牙を持たねばならなかった。
「大丈夫?」
エトリは相棒ではなく、生存者となった怯え伏せる女性に声をかけた。
「――ひっ……」
人の声が聞こえたことに頭を上げる。だが目は恐怖に竦んでいた。
エトリの鎧に降りかかった黒い血。こびり付いた死の斑に呪詛の幻覚を見たのかもしれない。
彼女にしてみれば、この場へと誘った〈獣〉も、それを打倒した騎士も理解の追い付かない異形――等しく恐怖の対象でしかないのだろう。
何もない白い世界の黒い影。生を感じさせない白と、命を感じさせない黒。
白と黒。生と死。背反の二元論。二つの存在しか許されず、そして片方を失う世界。
「……」
見かねたか、相棒のシンクレットはその聖剣を振るい、異世界を引き裂いた。
人が通れるぐらいの光の穴。その先には色づく人の世界。
異世界との接続。この奇跡は人の意思が生み出す魔術の剣でも、ましてやただの鉄切れでは描くことの適わないもの。それを容易く起こして見せるのが聖剣たる所以。
嵐や地震を個人が制御することなど不可能。人が魔術という意思の奇跡を手に入れたとして限界はある。そして限度という定めは、相対としてそれを超える別の存在があるからこそ定義される。
人の手に余る天災であると認められたのならば、その諦めを殺そう。
それは天地の事象を個人が制するということを意味する。
それこそ魔術ではない。
本当の、奇跡の領域だった。
「行け。お前は運がよかった」
救済の英雄は冷酷な騎士として、突き放すように言葉の鞭を打つ。
「あ……ああ……」
女は動かなかった。目に宿る怯え、恐怖、絶望の影は未だ消えてはいない。
外傷はなかったが心が傷ついている。その重さが枷となる。
「行け」
再度告げた。
逡巡しながらも力なく立ち上がり、視線を合わさず首を折り曲げるようにエトリたちを見た。
それは感謝を示しているのかもしれない。
そのままふらふらと夢遊病者のような足取りで空間の裂け目をくぐり、光の中へと消えていった。
「……生きているのならば自分の足で帰るんだ」
〈獣〉の世界を満たしているのは瘴気よりもなお濃く心を犯す生存への諦観だ。
運よく生還を果たした者はほぼすべて、こちら側の世界に大切な何かを捕らわれてしまう。
あの生存者は救われたが彼女の戦いはこれから始まる。安心して眠ることができるまでには、しばらくの時間がかかるだろう。
だからシンクレットはただの優しさではなく、不遜であろうとも心無き言葉でただ道を指した。
心が死んでしまった者を引き剥がすように。
死を越えて新たな生を歩ませるための祈り。
魔術を使わない奇跡の行使力。
感情という、意思の燭台に炎の再起を灯す。
「こういう家業だ。辛いよね」
肩をすくめながらシンクレットはエトリに向き直った。すでに冷徹な騎士ではなく、軽薄そうな声でエトリの顔を覗き込んでいる。
「こっちは……」
そんなシンクレットは無視してエトリは小さくため息を吐いた。
人のような形をした黒い塊がある。燃え尽きた炭のような、歪に固められた黒い泥。
一人は救えた。もう一人は間に合わなかった。
結果としては悪くはない。
強力な魔導戦士として、単純に〈罪悪の獣〉を倒すことは困難である。
そもそも銃火器から魔術兵装まで万全に備えたところで、何時如何なる状況で遭遇を果たすことになるかわからないのだ。戦略も戦術もあったものではない。
〈晄騎〉たちでさえ〈獣〉の狩りに割り込むことが出来るのは莫大な魔力あってのもの。
その方法も各種探知魔術を徹底的に敷き詰め網を張るという物量を頼りに、〈獣〉の痕跡を追う以上の方法はとることはできない。さらに〈獣〉の世界への介入も出現したポイントを辿り、その階層となる座標位置を絞り込まねばならない。
よって人の器のままの限界を持つ魔術師ではまず魔力が持たない。聖剣のような破格の魔力補助が必要となるのだ。
そして〈獣〉の出現を捉えるとともに反転世界へと斬りこんで救出するまでは時間との戦いとなる。接触に遅れれば当然被害は出てしまう事になる。
「気にしない、気にしない」
人類の守護者はそう言いながら亡骸に焔を放った。
この世界でただ朽ちるのではなく、せめて空へと返す。彼なりの気遣いなのだろう。
先ほどの生存者と、この死者と。エトリたちはどういう関係であったのかは知らない。どちらにせよ死者は蘇りはしない。
「ええ。そうね」
エトリも確定した事態に拘る気はなかった。〈獣〉のみならず、こんな場面は幾度も見てきた。ただわずかに瞼を閉じながら踵を返し、後味の悪さを汗のように払い落した。
「シンクレットは大丈夫そうね」
エトリは魔術の鎧を解いた。
魔獣から噴き出た黒い霧によって底の見えない黒点をいくつも穿たれてはいたが、彼女の魔術防御と加護はなんとかそれの体内への浸食を阻んでいた。
擦り傷、切り傷、打ち身。あとは回復魔術の治療で済むだろう。
「当然。あとそろそろシューと呼んでほしいね。……まあ、いいか」
シンクレットも鎧を光に変え、本来の姿へと戻った。
〈獣〉の尾に鎧を貫かれたが、身に着けていた銀細工にダメージを肩代わりさせていたようだ。ぐしゃぐしゃに潰れたアクセサリーをまとめてポケットにしまいこんだ。
エトリと違い、回復魔術もほとんど必要ないようだ。
やはり聖剣を持つ者として、戦闘には抜きんでたセンスと技術を持っている。
「さあ、僕たちも帰ろう」
シンクレットは再び聖剣を振るい、出口を開いた。
焼かれた躯から上る煙も、風となり吸い込まれていく。
狩猟災害。極めて稀であるはずの異界への神隠し。
〈罪悪の獣〉デヴォ・ギルトの出現が週で三度を数えることになっていた。この異常な頻度、原因は先日の幻魔生物現象による魔力層の乱れによるものである。
四散した〈幻魔生物〉の瘴気は通常ならフラットな魔力へと薄まり、やがて大気へと還元されるはずだった。だが観測史上、記録的ともいえる規模で現界を果たしたが故に、いまだ濃い瘴気のままくすぶり続け、〈罪悪の獣〉を呼び寄せる撒き餌となってしまっているようだ。
〈晄騎〉たちもそんなブルツ・アリスに留まり、土地の禊として警戒を行っていた。
「やあ、素敵な学生さん。こんばんは。ひとり? 相席いいかな」
席はまだいくつか空きはあった。わざわざテーブルを共にする必要はない。
だが制服のままのエトリはちらりと相手の顔を見ると、笑みを見せて対面する席を指した。
まだ日の高い昼過ぎ。町の中にあるカフェテラスである。わざわざ一人、このような目立つ席を取る事は無いのだが、今日は事情があった。
「おっと話が早い。それじゃあ失礼するね」
このような感じで見知らぬ男に声をかけられるのは、この三十分で五人目だ。
今回もまた、いかにも軽薄そうな笑顔で、見も知らぬ異性へ声をかけることに何の抵抗も持っていないというような若い男だった。
仕事帰りのような紳士服ではなく、繁華街に溶け込むような既製服のコーディネート。
それでいて学生のような未成熟さはなく、入り混じった人間関係の中で分別を弁えたような落ち着いた雰囲気を持っていた。もっとも今は無遠慮に気安くエトリに声をかけてきたのだが。
「何か頼む?」
言ってエトリはメニューを男に差し出した。
清涼感のあるヘアスタイルに、小さく輝く装飾品をいくつかアクセントとして身に着けている。派手過ぎず、地味すぎず、絶妙なバランスを成立させている。
そんな遊び慣れた若い男、に見える。
「……へえ、ありがと」
手を伸ばした袖からカフスが光った。
「あっ」
エトリが渡そうとした小さな冊子は男の手を逸れて滑り落ちていく。反射的につかみ取るが、一瞬遅れて男の手も伸ばされていた。
メニューを掴んだエトリの指を柔らかく包み込む男の掌。それをエトリのもう一方の手が支えた。
エトリの目が男の視線と合わさり、同時に二つの小さな笑みとなった。
「積極的だね。驚いたよ。けど――嬉しいな」
その手に男はもう一方の手を重ねようとした。
「見かけによらず硬い掌ね。……ああ、でたでた」
エトリは男の手をかわし、掌の中に隠していた小さなカードの様な紙片をパタパタと振って見せた。
「解けた刻印は三つ……〝騎士〟と〝白〟と――そして〝竜〟ってとこね」
「なんだい、その手品」
とぼけるように苦笑を浮かべて見せた。
「魔力情報解問文。追いかけてきたファンからの落とし物」
「へえ――、けどもったいない奴だな。こんな魅力的な女性に一方的にプレゼントを贈るだけだなんて」
的外れなことを言いながら気障に髪をかき上げる。改めてエトリは手元の紅茶を傾けながら相手の瞳をじっと見返した。
「あなたの聖剣を見るためには、このままホテルにでも行かないとダメかしら」
エトリが発した聖剣のキーワードで髪をなでる手が止まった。
「ははは……」
「……」
「あ~あ、とても話が早いね。僕としてはもうちょっと楽しみたかったんだけど」
「三回も会えば十分でしょ」
「三回?」
「〈幻魔生物〉の時、アートバロンズ東方山付近、そして今日」
「いや、君と会うのはこれで二回目だよ。〈幻魔生物〉の時は素晴らしかった。そして美しかった。もう一度会いたいと思っていた。ぜひ名前を聞かせてほしいな」
「知ってるくせに」
「まあ、いいじゃない。僕の名はシンクレット。シューと呼んでほしいな」
軽薄ではなく、紳士的なまなざしでエトリに向かい握手を伸ばした。
「エトリよ。握手はまだしないわ」
「……それは残念」
「あたしはあなたを待っていた。あなたはあたしを探していた。――それで、要件は?」
「そうだね、それでは本題に入ろう」
注文していたコーヒーとケーキセットを運んできた店員が離れていくのを見ながらシンクレットは内容を告げた。
「君は〈幻魔生物〉の城に単独で潜入し、最深部まで到達して見せた。この成果はあの学園の教師のみならず、おそらく現代の一流の魔術師でさえ困難だろう」
「どうかしらね。私と同程度の実績を持つ〈S.S〉はいくらでもいるわよ」
エトリは会話の主導権をあえて握らないために、どうとでも解釈できるように否定しておいた。結論に対する予防線のようなものだ。
「無論、現時点での君のランクが高位とは言え〈騎爵〉ということは知っている」
〈S.S〉におけるランク〈騎爵〉は最高位というわけではない。
幻魔生物現象のような公的な緊急事例に対し、指揮及び実行部隊としての現場権限を認められてはいるが、〈S.S〉内ではさらなる階位があり、さらには存在さえ秘匿された特殊なクラスがいくつか存在するという噂すらある。
「そうかもしれない。けど仮に僕たちが〈S.S〉に参加したとしても、君と同じかその下ぐらいの階級となるだろう。あそこはランクが上がるにつれ、戦闘以外の希少技能の方が加点として見られる傾向にあるからね」
謙遜しているのか、伝説級のアイテムホルダーでありながら、それ以外は普通の魔術師と同程度の力量しかない、そんな言い方だった。
「話を戻すよ。確かに君は〈幻魔生物〉の最奥に到達した。そして、もしかしたら僕たちの介入がなくともあの〈幻魔生物〉の打倒手段を持っていたのかもしれない。なら簡単だ。結論としては――君は聖剣の力を持っているんじゃあないのかい」
「聖剣なんて、もっていないわ」
即座に否定し、ちらりと視線を立てかけている剣へと向けた。
愛用とは言え、ただ手に馴染むそんな当たり前の理由で使っている一振り。
「あの剣は――」
特に明文化されているわけではないが、街中で武器を携行する際はそれとなく形状を隠すような細工をしている事が多い。
エトリもそれに倣い、布を巻いた棒状の何か、という状態で普段は背中に吊るしていた。
だが古い蔵で眠っていたわけでも、どこかの泉の真ん中に突き立てられていたような曰くある代物ではない。
普通の店で購入し何度か修繕も行っている。そこそこの値打ちではあったが、普及レベルの域を出ない工芸品に過ぎない。
何らかの偶然が重なって、修行中の天才刀剣師が鍛え、戯れに露天に並べられていた。はたまた世紀の大魔術師が関り伝説級の武器として隠された秘密がある――などということはないはずだ。
シンクレットはその剣を凝視するように視線を向けた。まさか透視できるわけではないだろう。おそらくその剣から感じられる何かの波長のようなものを捉えようとしているのだろうか。
「君はあの時もその剣を持っていたね。確かに、あれは聖剣ではない。そして僕たちもただ並外れた能力を持つ魔術師に対し、必ず聖剣が与えらえるわけではないことぐらいは知っている。ただ、近い将来そうなる素質を持つものは何かしらの片鱗の輝きを持つ。訂正しよう。僕の結論としては――多分君は覚醒前なのだと考えている」
そもそも聖剣とは唯一無二のものではない。
その形状も、秘められた力の量も異なる。聖剣はただの剣ではない。剣の形をした魔術師の触媒。それ自体が莫大な力を秘めた魔力そのものなのだ。
それを持つものは〈晄騎〉と呼ばれる。
彼らは星を旅し各地の問題を解決する。一部国家に所属する者もいるが、その多くは〈罪悪の獣〉といった人の手には余る種族を越えた敵を払うことを生業としていた。
彼らは〈S.S〉とは異なり、特殊であり超法規的な存在――いわゆる、現代の英雄として一般では認識されている。
「本当にそうなの。力を持つ魔術師と聖剣との関係がイコールではないのならば、あたしがその力を持つことが前提になることはおかしいのではなくて」
その返答は予想していたのだろうシンクレットは浮かべた笑みをカップで隠した。
「多分君は過去に〈罪悪の獣〉と対峙し、倒したことがあるんじゃあないのかい」
エトリの記憶に、それは――ある。
「……それが、関係すると?」
「絶対的にそう、とは言えないかもしれないけどね。僕が聞いた限りではかつて聖剣を手にする前に〈罪悪の獣〉と戦った経験を持つものが殆どだ。倒した、というわけではない、いや、倒すことは不可能だが退ける、防衛するといった具合にあの世界を一方的な狩場ではなく戦場として凌げたという実績があった。それぞれに秀でた技能があり、それを利用することで――刃とすることで〈獣〉と戦うことに成功したものたちはいずれ聖剣を手にしている。僕たちが刃としている魔力とはその力の到達点でもあるのだからね」
「……」
「なにより、あの規模の〈幻魔生物〉を倒せるのならば〈罪悪の獣〉に対しても後れを取る事は無いはずだ。それに――」
シンクレットは何かを取り出した。あれはついさっき見た。魔力情報解問文。おそらくエトリと同じくあらかじめ用意していたのだろう。
「五つの刻印がみえた。三日月、狼、陰陽、騎士、そして硝子、かな――これはいい聖剣の騎士になりそうだ」
「用意がいいのね」
「歓迎するよ、新たな聖剣の使途。僕たちとともに戦いを始める覚悟はあるかい――その前に」
「……?」
「そういえば。フラッグが言ってたんだけど、付き合っているヤツがいるんだって?」
「……ああ、彼ね」
〈幻魔生物〉事件が終わった際、帰宅時にエトリはシンクレットとは別の聖剣の戦士と遭遇していた。その少し前に話していた学園の教師との関係をそういう相手だと察しいるのだろう。
「いやいや別に。そういうことが禁止というわけじゃあないさ。ただちょっと気になっただけ」
「大した仲じゃあないわ。ただの――使い魔のようなものよ。色々と都合がいいから」
一流の魔術師はいくつもの使い魔を擁している。ブライカたちでさえ普段の学園生活を行いながら、動物などを模した精霊魔術を徘徊させ簡単な諜報などを行っている。
学園の教師という立場であるならば、公務上様々な機関に立場が認められ、そこから事情を探るという様なブルツ・アリス内外の動向を知る情報源として貴重な人材と言える。
「へえ、じゃあ今君はフリーなんだね。いい事を聞いた。これで気兼ねなく仕事を共にできる」
「仕事?」
「そう。世間では〈晄騎〉は名誉職みたいなもので直接的な金銭では動かない、というイメージかもしれないけど、実際はスポンサーがいる。まあ世界の破滅より、平穏な方が利益を見込めるという国家や商人たちからの寄付のようなものだ。それでも〈S.S〉の規定の一ランク上の報酬を払うことが出来る位は潤沢だよ。というわけでまずはお試しとして仕事として僕たちに協力してみるのはどうだい?」
「それはお気遣いどうも」
「いえいえ。知っての通り〈幻魔生物〉討伐の為の招集だったが、討伐後の瘴気がいまだこの町に漂っている。これは非常にまずいことだ。瘴気が多いと次は〈獣〉を呼び寄せちまう。そんなわけでこの町の案内を頼みたい。暗い場所、怖い場所、潜む場所、漂う場所。そんな所かな。あと時間がある時でいい。町の警邏も手伝ってほしい――まあこれは君の入隊見極めみたいなオリエンテーションだね。僕らなりの歓迎会みたいなものさ」
そういってシンクレットは快活に笑った。
こうして少女は伝説の騎士たちと行動を共にすることとなった。
この先、彼女も伝説を授かる者としてその名を刻む力を手にするのか。
それとも――
2019/07/21【投稿】今年も半分過ぎましたが、相変わらずペース遅いっすね(-_-;)




