放課後(闇)(3)
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承前。全ての努力は無駄に終わった。
少女が愛した日常という甘い世界は、砂糖菓子のように容易く崩れ去った。
――救世の主役たるヒーローは現れない。
願う時こそ奇跡は起こらない。そんな当たり前のことに彼女は涙を流した。
魔術師という定めの真意。それは奇跡を操る進化を手にしたという事ではない。
――その逆だ。
その力を奇跡と呼ぶことはただの欺瞞である。
魔の力に隷属し依存しなければ生きてはいけないという、屈辱に対する小さな虚勢。
人が魔力を統べているのではない。人は単なる魔力を宿し干渉する装置に過ぎない。
奇跡として奇術を謳う道化師。
人の願いはその真実を隠した。その意思こそが魔術師というプライドだった。
「かっ、かは――……」
何かに貫かれ、虫けらのように死んだ。
確かに心臓は停止していた。その事実にも関わらず、身体という器には未だ意思が残されていた。
閉じれなかった瞼の先では未だ時が刻まれ続けていた。
これは今際の際にみた不可思議な幻なんかではない。確かにそうわかる。この異常な世界がそうさせているのだと。
空間の中に発生した過負荷。それによって魔術の核である心は停止していた。
その発生源はそびえ立つ巨大な生体が行う呼吸。それにより魔力が吸い取られていた。
吸い取り、膨張するだけならばいずれ限界は来る。
具現された悪夢には所々に不自然な捻じれが形作られていた。
それが幸運にも無限の循環の象徴のように、中のものが漏れ出すことを防いでいた。
それでもすべての流れは危ういバランスで成り立っていたにすぎなかった。
そして猶予は、尽きた。
薄氷の支えは崩れ、行き場をなくした〝すべての■〟が噴出する。
あるいはこれこそが解放なのかもしれない。
既存法則を無視し、奇跡を生み出したと誤認させる。そうとしか言いようのないものの正体。
何かを等価に交換しているはずなのに、その証明を解き明かすものはいなかった。
知らずに何かを消費する、不安という未来への呪いから解放されたのだ。
遥かに仰ぎ見る。いつしかその巨大な樹は花をつけていた。
反転した精気が作り出す、甘く芳醇な香りは情念という野生を呼び覚ました。
まるで原始の世界に齧った始まりの実を思い出させるように、人はその衝動に耐えることができない。
魔力と瘴気という陰陽の規律が乱れ、混ざり合うことによりどちらでもないものへと変貌する。
「あはは、ははは――」
喉を引き裂いたかのような哄笑が響き渡った。
誰が笑っている?
自分だ。何一つ可笑しい事は無いのに。それでも笑いが止まらなかった。
心身共に魔力という奇跡に汚染され、生を託している人種族はその快楽に耐えることができない。
苦痛と快楽によって擦りつぶされ、内なる何かの色が変わった。
「あ……」
弾けた。
溶けて分かれるように解けて消えた。
同じことが彼女が背にした街でも広がっていた。
いくつもの咲いては消えていく赤い華。
危ういながらも理と知によって生かされている万物の霊長が、混沌の染みへと変わっていく。
断末の絶笑を街中で響かせて、文字通り地図が塗りつぶされていた。
そしてそこに向かう魔力兵器の弾頭が、有無を言わさぬ光の華を咲かせた。
かつてとある少女が守ろうとしたあの町は、こうして滅んだ。
2017/12/01 【加筆修正】文章表現等を修正。内容は変わってません。




