十一話
そろそろ毎日更新が辛くなってまいりました。
以降投稿日時がずれることがあるかもしれませんが、ご了承下さい。
あけて翌日、俺はベッドから降りて感動に打ち震えていた。
……新しい武具だ。
そう、そこには先日カルーアが言ったとおり新しい武具が置いてあったのだ。
魔獣の鎧と鋼の剣である。
魔獣の鎧は皮の鎧の最高クラスのレベルアップ品であるらしい。
魔獣と呼ばれる魔物の皮のみを用いて作られたそれは鉄製の鎧と同規模の防御性能を持っているらしい。
それでいて重さは皮の鎧とさして変わらないのだから魔授様様である。
鋼の剣は文字通り鋼で作られた剣だ。
鉄の剣より攻撃力、耐久力、リーチとすべての面で上回っている。
「おねだりしてみるもんだなぁ」
俺はいそいそと新しい武具を身に着けるのだった。
やっと食堂までの道を覚えた俺は、リリーの手助けなしに食堂までやってきていた。
やっと一人前になれた気分だ。
食堂の定位置にまで行くと、珍しいことに四天王が揃いぶみだった。
「よお、珍しいな、全員がここにいるなんて」
そんな声をかけた俺に突き刺さる五つの凍てついた視線。
な、何だよう。
俺が何かしたってのかよう?
戸惑っている俺に声をかけたのはサツキだった。
「――昨日のお風呂、皆まだ気にしてる」
あ、はい。
なんかしてましたね、俺。
眼福眼福――ってそうじゃねえや。
改めて考えてみれば謝ってないもんな、俺。
「あんたねぇ――」
必殺土下座!
ふふふ、どうだ。
最終奥義土下座の前には何人も言葉を発せられなくなるのだ。
「昨日はすまなかった。決して疚しい気持ちがあったわけじゃないんだ」
嘘ではない。
本当だ。
ただ、裸を見たときにはその限りではなかったが。
「ちょ、ちょっとちょっと、いいんだよそこまでしなくて!」
「そ、そーよ! だから個を上げてよ!」
慌てふためくレビンとフェイの声。
まだだ! まだ凍てついた視線を感じるぞ!
「――はぁ。いいわよ、もう」
グルタナさんからもお許しを頂きました!
「どうせこの後サツキにボコボコにされるのを見るんだし」
……完全には許してもらえないか。
ッて言うかそのために朝から出てきたのか。
この暇人どもめ!
そして場所は競技場に移る。
改めてサツキを見る。
黒のプレートアーマーを装備し、腰にはいわくありげな剣が一本。
余分なものは他に一切ない。
四天王になるくらいだから強いんだろうが、実は四天王と手合わせするのはこれが初めてだったりする。
強いんだろうなあ。
でもビビッてちゃ始まらない。
俺はこいつらを束ねる魔王にならなくちゃいけないんだからな。
「――準備は良い?」
サツキが尋ねてくる。
「ああ、こっちは何時でもいいぜ」
その言葉に呼応するかのように緑色のフィールドが俺たちを包み込んだ。
先の先だ、待ってるだけじゃ何も変わらない。
「うるああ!」
俺は気合の一声とともにサツキに斬りかかった。
「――遅い」
しかし、その一声と共にかわされてしまう。
「てえい!」
俺は縦に振り下ろした剣先を真横にすると、横へ薙ぐように斬りかかった。
初撃を交わされるのは織り込み済みだった。
低い目標だが、まずは剣を抜かせること。
それが今回の俺の目標となっていた。
「――今のはまあまあ」
しかしこれもかわされてしまう。
俺は奥の手を使った。
左手の掌にずっと溜め込んでいた魔力を開放する。
「フレイムアロー!」
炎の矢がサツキに迫る!
これならかわせないだろ!
俺の読みどおり、サツキは少し驚いた顔をして腰のものを抜いた。
サツキの剣が俺のフレイムアローを叩き落す頃には、俺の剣がサツキに迫っていた。
これで駄目ならごめんなさいだ!
俺がそう思ったのと同時に、フィールドが赤く染まっていた。
「――今のは良かった」
サツキの剣が俺の首筋をしたたかに打ちつけていた。
「最後のどうやったんだ?」
俺は素直に疑問をぶつけた、
最後の一撃は直撃コースの突きだった。
あれをかわされてしまうともう打つ手がなくなる。
「――見えなかった?」
サツキが不思議そうに尋ねてくる。
見えていた。
見えていたのだ、俺には。
ただそれが信じられなかっただけで。
最後の突きの瞬間、サツキは目に留まらぬスピードで身体を回転させ俺の突きを交わしていたんだ。
サツキくらいの使い手になると、小手先の技術じゃどうにもならない実力差が現れる。
そういうことをこの一戦で学んだ気がした。
「さあ、もういっちょやるか!」
「――かかっておいで」
俺はこの日、レベルが10上がった。
それに相応しいくらい、サツキにボコボコにされた。
「リリーやーい」
「御前に」
その日の夜、俺はリリーを呼び出していた。
風呂への案内を頼むためってのもある。
それは勿論だが――。
「リリー、そこに座りなさい」
「御意にございます」
俺はリリーを床に正座させた。
「リリー、俺はとても怒ってるんだ」
「なぜでしょうか」
こてんと首を傾げるリリー。
……可愛い。
ッて違う違う、そうじゃない。
「昨日、俺を浴場に案内しましたね」
「はい」
「そこで何が起きたと思いますか?」
「皆様と仲良くご入浴なされたのでは?」
あかん、この子分かってへん。
思わず似非関西弁が出てしまった。
リリーって天然なのか?
それとも素なのか?
分からないときは質問しましょう。
「あ~、リリー」
「はい。なんでしょうおか?」
「俺の背中流してもらえる?」
「御意にございます」
素だったよ、おい。
しかも何つー確認の仕方だよ。
なし崩し的にリリーと風呂に入る羽目になっちまった。
いやまて、今からでも遅くない、断ろう。
「リリー、すまないが背中は流さなくていい」
「はい? 何故でございますか?」
男女が一緒に風呂に入ることの機微をどうやったら教えられるんだろうか。
「あ~、いいかリリー」
「はい」
「男女で一緒に風呂に入ることは余りよくないんだ」
「何故でございましょう?」
「それはだね、女性が嫌がるからさ」
「私は一向に構いませんが」
「リリーが良くても、四天王の女性陣は嫌なんだよ」
「はあ、そういうものでしょうか」
「そういうものなの」
こうして俺の夜は更けていった。
後五話程度で終わります