十二話
俺がこの異世界にきて早数ヶ月が経とうとしていた。
教練によるレべリングで俺のレベルは70にまで上昇していた。
それに伴って装備も変わった。
まずは魔大陸で産出される魔鉄鋼を用いたフルプレートメイル。
こいつは魔法による攻撃を減退させる効果を持つ画期的な鎧だ。
剣も同じく魔鉄鋼製のもので、黒光りする刀身が格好いい。
そんな俺だが、今日はカルーアに話があるといわれ謁見の間に向かっていた。
数ヶ月も城の中で生活していれば内部だって大体は把握できる。
リリーの手助けなしで俺は謁見の間に向かう。
「あれ、タツヤも呼ばれたのかい?」
途中で出会ったのはレビンだ。
「そういうレビンもって事は、四天王は全員お呼ばれかな?」
「そうかもしれないね」
すわ何かあったかと若干の早足で謁見の間に入室した俺たちの予想は当たっていた。
既にそこには俺とレビンを除く全員の姿が揃っていたのだ。
「悪いな、遅くなっちまった」
俺はそういってカルーアの前に出る。
「良いのじゃ、急に招集をかけたのは我じゃしな」
そういって微笑むカルーア。
おりょ、これは勇者ご一行が攻めて来たわけではなさそうだ。
「タツヤ、こういうときぐらい控えなさいよ」
おっと、グルタナの言うとおりだな。
俺はすごすごと下がると、他の皆のようにカルーアの前で膝をついた。
「今日は皆に重大な発表がある:
なんじゃらほい。
「今日限りで我は魔王の座をタツヤに譲ろうと思う」
ふーん、魔王の座を俺にね。
って、ええええ!
「カルーア、それはいくらなんでも早すぎだろう!」
そう反論して気が付いたが、他の皆はそれが当然のように黙ったままだった。
「タツヤよ、そういってくれるのは嬉しいが、お前も力をつけた。ここら辺が潮時という奴じゃ」
力をつけたって、まだ四天王の皆からは一本も取れたことがないぞ!?
そんな俺の内心を見透かすようにカルーアは言葉をつむぐ。
「タツヤよ、何も魔王とは力だけがすべてではない。現に我とて魔法ではグルタナに、力ではレビンに、器用さではフェイに、剣技ではサツキに劣っておるが、魔王をやっておる。魔王とは、皆に認められてこそ魔王足りえるのじゃ」
それじゃあ、俺はみんなに認められたってのか?
この俺が?
「すまなんだタツヤ。実は皆には既に確認を取ってある。タツヤが魔王で異存ないか、とな。返事は聞かなくても分かるな?」
俺は辺りを振り返る。
皆嬉しそうに笑っていた。
「俺なんかが魔王になっちまって、本当にいいのかよ……」
不安だ。
ものすごく不安だ。
どれくらい不安かといえば初めて就職したときぐらいに不安だ。
でも――。
「タツヤなんかがではない、タツヤがいいのじゃ」
「そーだぜ、お前だからあたし達は賛成したんだ」
「そーよ、それに今更でしょ。魔王目指してたんじゃなかったの?」
「――今更びびってる?」
「はあ、やだやだ、ここぞというときに怖気づく魔王か。早まったかしらね」
後半うるせー!
びびってるよ!
怖気づいてるよ!
それでもあの日魔王になるって宣言したのは嘘じゃねえんだ。
やってやるよ、やってやるさ!
「いいぜ、唯一無二の魔王様になってやろうじゃねえか」
しかし疑問。
どうやって魔王になればいいのですか?
「なあカルーア、なるのはいいとして、どうやってなればいいんだ?」
「簡単じゃ。我の持っておる魔王核を譲渡する」
魔王核って何じゃらほい。
「魔王核とは魔王を魔王足らしめている要素よ。長年の魔力の結晶だと思えばよい。これが発現した者が新たな魔王となる」
おいおい、超重要そうな物体じゃねえか。
俺なんかに渡してカルーアに悪影響はないのか?
「カルーア、そいつを俺に譲渡するとして、お前はどうなっちまうんだよ。俺嫌だぜ、代わりに犠牲になるとかそういうのは」
「安心せい。弱体化はするが、我は我のままよ」
弱くなっちまうのか……。
俺のせいで何かすまねえなあ。
「こりゃタツヤ、俺のせいでとか考えておったろう?」
う、鋭い。
もしかしてエスパー?
「タツヤは直ぐ顔に出るからね」
「――読みやすい」
うっせえ。
「先にも言ったとおり、タツヤじゃから良いんじゃ。それともあの日、食堂で宣言してくれたのは嘘じゃったのか?」
嘘じゃねえよ。
だからそんな縋るような表情をしないでくれ。
笑ってる顔が一番好きなんだからよー。
「嘘じゃないぜ。バッチこいだ」
「タツヤ、それでは行くぞ」
魔王核か、どんなモンなんだろうな。
なんて考えてる俺の傍にカルーアがやってくる。
何だろう、手渡し的なあれかな。
そう思っていた俺は、背伸びをしたカルーアに口移しで何かを飲まされた。
「……これで譲渡は完了じゃ」
「ず、ずるい……」
「キスで渡す必要性皆無だよね」
「――抜け駆け」
「……今はそういうことやってる場合じゃないでしょうが」
口移しで飲まされたそれは、確かな存在感を持って俺の中を駆け巡っていた。
まるで新たな宿主を試すかのように飛び跳ねるそれを押さえ込むのに、俺はそれどころじゃなかった。
俺に従え。
――俺に従え。
――――俺に従え!
するとどうだろう、今まで跳ね回っていたそいつがやっと宿主を認めたように、心臓の辺りで留まるのが確認できた。
「カルーア……」
「な、なんじゃ? 別に抜け駆けとかそういうのでは――」
抜け駆け? なにがだ?
とは思いつつ、今最も言わなければならない言葉を口にする。
「ありがとうよ。お陰さまで魔王タカハシタツヤの誕生だ」
俺は能力値カードを見た。そこには種族欄に括弧書きで魔王と確かに記されていた。
特別変わった感じがしないのは俺の祝福のせいだろうか?
なにはともあれ、新生魔王軍の誕生だ。
よし、そうと決まれば宴会だ。
「者共、出陣じゃー! 目指すは食堂! そこで俺の魔王化の宴会をやるぞ!」
オウ、という掛け声と共に全員で食堂目指して駆け抜けたのだった。




