第一話 父さんのカレーと、俺の夢
はじめまして。
この作品は、魔族に育てられた人間の少年が“勇者”を目指す物語です。
ほのぼのとした父子の日常から始まりますが、
物語が進むにつれて、
“魔族と人間の争いの真相”
“父の正体”
“主人公の出生の秘密”
などが明らかになっていきます。
シリアスと日常のバランスを大切にしながら、
父子の絆を中心に描いていきます。
ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。
石畳の上に、鈍い音を立てて俺は倒れ込んだ。
「ぐっ……また負けた……!」
目の前には、訓練用のゴーレムが仁王立ちしている。
何度殴っても蹴っても、びくともしない。
勇者を目指す俺――ハエルは、今日も完敗だった。
ふらふらになりながら家に帰ると、扉の向こうから鼻歌が聞こえてきた。
「るるる〜♪ 今日のは自信作だぞ〜」
台所で鍋をかき混ぜているのは、父さん――アスモスだ。
筋肉ムキムキの大男なのに、料理のときだけ妙に軽やかだ。
「ただいま……父さん、もうくたくただよ……なんであんなゴーレム頑丈なの……」
「おっ、お帰り〜。その様子じゃ今日も惨敗か?」
「いらっ……!」
言いかけて、俺はむっとした。
「そんなことないし! あと何発か当てれたら壊れてたんだよ! 僕は父さんと違って嘘つかないからね!」
「俺がいつ嘘ついたんだよ〜」
父さんは笑いながら、俺の頬を指でつんつんしてくる。
「なあ、ちょっとからかっただけじゃん。ごめんって。にしてもキレすぎだろ〜。カルシウム不足じゃないのか?」
「がぶっ!」
「ああああ!! 指がーーー!!」
「知らないよ!」
父さんはヒール魔法で指を治しながら、苦笑いを浮かべた。
「いってえな……。まあ、ヒール覚えててよかったぜ」
「そうやってからかってられるのも今のうちだけだからね!」
俺はぷいっと顔をそむけたが、父さんは気にした様子もなく鍋をかき混ぜ続ける。
……と、そのとき。
ふわりと、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
「まさか……この匂いは!!」
「やっと気づいたか。今日は特製カレーだぞ。魔豚と魔牛の肉を大量に入れてるからな!」
「水浴びしてくる!! 父さん、絶対食べないでよ!!」
「早く行かないと全部食っちまうぞ〜!」
「行ってくるーーー!!」
俺は全力で飛び出した。
父さんのカレーは、この世で一番うまい。
勇者になって世界中の料理を食べても、きっと勝てない。
水浴びを終えて戻ると、テーブルには湯気を立てるカレーが置かれていた。
「おおお……この匂い……今日のは特に美味そう!」
ひと口食べた瞬間、顔がとろけた。
「うんまあああああ……!」
気づけば皿は空っぽだった。
「ふぅ……明日も早く……って、なんかお腹いっぱいになったら眠くなってきた……」
「明日も訓練だろう? 片付けはやっとくから寝ておいで」
「いつもありがとう、父さん……おやすみ……」
「ああ。おやすみ」
その夜。
月明かりが差し込む部屋で、父さんはうなされていた。
「……もうそろそろだな……」
その声は、どこか悲しげで、苦しげだった。
俺はまだ知らなかった。
翌朝、すべてが変わることを。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第1話は、ハエルとアスモスの“日常”を中心に描きました。
この二人の関係が、後の物語で大きな意味を持ちます。
アスモスはちょっとズレてるけど憎めない父さん。
ハエルは勇者を目指す素直な少年。
この二人の掛け合いを楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回は、父さんとの手合わせ回。
アスモスの“本当の強さ”が少しだけ見えてきます。
続きもよろしくお願いします。




