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第21話 おもてなし迎撃の説得

 ◇


 女鯛家の道場に強ダツが転送されたように陰子も知らない場所に転送されていた。


「ここはどこ!? 私は陰子!! どういう状況!?」


 彼女は銀の十字架に固定されていて、動けず顔を左右に動かして周りと自分を見た。両手首と両足首は拘束具で固定されており、強化された陰子の力でも破壊できず能力が使えない。


「きれいなところ。天国みたい」


 白い雲のような神々しい場所なので見とれていた。


「まさか私、死んだの!?」


 死んだと思い、彼女は慌てた。


「安心してください。あなたは生きていますよ」


 麗子が現れて微笑んだ。


「だれ!? 敵!?」


 味方ではない女性に驚き、陰子はもがいた。


「あなた次第で敵になります」


 麗子に戦意はないが、なにもできない状態の陰子は恐怖で震えており、涙を浮かべている。


「私は蓮根 麗子です」


 彼女は陰子が落ち着くように優しい口調で話した。


「ここは私の神殿ですが、修行をしている私はほとんどいません。今回のように敵を迎撃する時などに利用しています」


 ここは聖女である麗子のために康が用意した神殿だった。しかし彼女がここにいることは少なく、信者達がたまに掃除して、祈る場所になっていた。


「ここに転送された敵を倒すのが私の仕事ですが、私の目はよく見える目なので、あなたが本当の悪人に見えません」


 麗子は白い布で隠している両目で見ている。彼女は視力がとてもよく、隠していても見えており、陰子の人柄なども分かっていた。


「あなたは話をしてから判断します」


 あまり敵と思っていないので拘束して話をすることにした。


「いい人でよかった」


 陰子は少し安心し、ここにクラーケンの肴のメンバーがおらず、麗子が優しいので、なんでも話す感じだった。

 彼女はクラーケンの肴の正式メンバーではないひどい扱いなので仲間意識などない。


「あなたの名前は?」

「名前は美笠野 陰子。クラーケンの肴にいますが、いつもひどい扱いです」


 懺悔するように話した。彼女の声を聞き、体を見ても正直に話しており、麗子の目ならウソはすぐ分かる。


「私の人生はひどいことばかりです。捨て子で奴隷商人に育てられて奴隷になって、だれも買ってくれないから扱いが悪くて、やっと買ってもらえても変わらない人生。嫌になってしまいます」


 たまっている思いを吐きだして楽になっている。


「そうですか。それは大変でしたね」


 麗子にとっては知ったことではない話だが、真剣に聞いて同情している。聖女の仕事と同じなので慣れている。

 相手を話すことしかできない状況にし、情報を得て、信頼を築くやり方だ。


「分かってくれますか?」


 今までの連中と違って、ちゃんと話を聞いてくれるので陰子は麗子のことを信頼している。


「はい。陰子さん。こちらにつけば、今よりいい人生になりますよ?」


 説得し、味方にしようとしている。


「そ、そんなことをしたら殺されてしまいます」


 ここに二人しかいなくてもクラーケンの肴が恐ろしいので迷っている。


「だいじょうぶです。私の目には陰子さんの強さが見えています。弱いのは心のせいです」


 ウソではなく本当に見えており、彼女は強い。潜在能力があった陰子はアイゴロツキの毒で引き出されていた。


「本当ですか?」


 相手が怖くて性格のせいで気づかなかった彼女は麗子の言葉を聞いて、自分の強さに気づいた。


「はい。クラーケンの肴がひどい扱いをするのは陰子さんが強いので自分達より強い者を下にするためです」


 自分達より強い者が逆らうと大変なので陰子が従順になるように恐怖を与えていた。


「なるほど。そういうことですか」


 ひどい扱いを思いだし、まだ恐怖があるので怒ることしかできなかった。


「クラーケンの肴を倒せば陰子さんは自由です。その後は私と康様が後ろ盾になります」


 クラーケンの肴を倒したら用済みということはせず、その後も保証する。


「そちらにつきます」


 麗子の言葉で気持ち悪い笑みを浮かべ、陰子は寝返った。冷遇するクラーケンの肴より厚遇する方につくのは当然のことで無節操ではない。


「歓迎します、陰子さん」


 味方になったので麗子は微笑み、両手首と両足首の拘束具が外れて陰子は自由になった。


「お腹がすいているでしょう。歓迎のお弁当です」


 空腹なのが分かっており、聖女は玉手箱のような弁当箱を出して渡した。


「ありがとうございます」


 ろくなものしか食べていない陰子は高そうな弁当箱を見て喜び、フタを開けた。

 鮭のムニエル、イクラ、ノリ、カツオブシの佃煮がご飯にのっている雑な弁当だった。しかし陰子にとっては贅沢な弁当で香ばしいムニエルとノリの香りが食欲をそそり、イクラが輝いている。


「いただきます」


 弁当箱についている箸を持ち、陰子はかきこむ。汚い食べ方をするほど育ちが悪く、腹が減っていた。


「うまい!」


 頬が食べ物で膨らんでおり、涙を浮かべて喜んでいる。雑でも一流の料理人が上等な食材で作ったものなのでうまい。

 鮭のムニエルはバターがきいていて、イクラはうまみが弾けてあふれ、カツオブシの佃煮は素朴でありながら上品で、香りのいいノリは全体をまとめている。


「ゲホ! ゴホ!」


 慌てて食べたので彼女はむせた。


「どうぞ。お水です」


 麗子は白いカメとグラスを出し、水をそそいで渡した。


「ありがとうございます」


 冷たい水を一気に飲んで陰子は落ち着き、ゆっくり弁当を食べる。

 聖女は弁当を食べている陰子を見て微笑んだ。懐柔がうまくいったことではなく彼女が幸せな気持ちになったことを喜んでいる。


 ◇


 陰子だけでなく、アイゴロツキも神殿にいた。


「ここはどこだ?」


 彼は神殿の闘技場におり、周りを見ている。神に捧げる神聖な戦闘を行う場所で陰子を懐柔するため、ここに転送された。そして、この闘技場で戦闘が行われる。


「ようこそ。招かれざる客」


 麗子が対戦相手のように出現した。


「だれだ、お前は!? ここはどこだ!?」


 アイゴロツキは驚き、警戒している。


「これから死ぬあなたに話すことなどありません。甘瓜家を攻めた罪は死んで償ってください」


 陰子の時と違って冷たい態度だった。陰子は許しても他のメンバーは許さない。


「なんだと!! だったら殺してやる!!」


 彼女の態度でアイゴロツキが怒った時、聖女を守るように陰子が出現した。


「陰子!? なにやってんだ!?」


 クラーケンの肴の盾女たておんなが出現したことに驚き、敵を守っているので怒った。


「見て分からないの? こっちについたんだよ」


 まだ怖いが、調子に乗っており、寝返ったことをアピールして挑発した。


「そんなことをしていいと思ってるのか?」


 彼女の態度と挑発が気に入らないのでアイゴロツキは血走った目で威嚇するように睨んでおり、謝っても意味がない感じだった。しかし冷や汗をかいており、心の中では少し動揺している。


「もう、あんたらには従わないよ。あんたはここで死ね」


 今までの恨みを晴らすような悪い笑みを浮かべた。


「もう許さん!! そこの女と一緒に殺してやる!! あの世で寝返ったことを後悔しろ!!」


 格下の挑発できれ、アイゴロツキは無数のトゲを飛ばした。陰子はその場から動かず、無数のトゲをくらって聖女を守った。


「ハハハ!! ざまあみろ!! 死ぬのはお前だ!!」


 笑っているようでアイゴロツキは必死な感じだった。


「こんなのきかないよ」


 頑丈なので無数のトゲは浅く刺さっており、毒の能力者の彼女は毒の耐性があって弱い毒は無効にし、自分の毒で無数のトゲを溶かした。

 出血はなく、アイゴロツキのトゲでは陰子に傷はつかない。


「なっ!?」


 格下が自分の強さに気づき、アイゴロツキが恐れていたことになってしまった。


「いくぞ!!」


 自分の強さに気づいた彼女は力を解放し、変身した。巨大なミノカサゴになり、下には陰子の両腕と片方の裸足があって支えている。


「クソ!!」


 アイゴロツキはヤケになり、無数のトゲを飛ばした。巨大ミノカサゴは口を大きく開けて無数のトゲを吸い込み、口を閉じると爆発した。


「そんなバカな!!」


 攻撃がきかない相手を見て驚き、味方がいないのでなにもできない。

 巨大ミノカサゴは背ビレにある無数のトゲを向けて飛ばした。


「ぎゃああああああ!!」


 串刺しになり、トゲには毒があってアイゴロツキの毒耐性を上回っている。


「クソがああああああ!! 陰子!!」


 格下に敗北したことが信じられず、彼女を恨みながら毒で溶けて死んだ。液体になったアイゴロツキは神殿の力で浄化されて消滅した。

 巨大ミノカサゴは自分の力で敵を倒したことを喜んでおり、麗子も勝利を喜んでいる。

 麗子の説得で強力な味方ができた。

 アイゴロツキの名前は魚のアイゴとゴロツキです。

 「美女能力者のお腹にある別空間で特訓をして強くなった中途半端な能力者」と「非正規団員の小事件集」も連載中です。

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