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おっぱ異世界  作者: えすくん
第3章 不自由の塔
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第44話 扉を開けて出会いたい!

 こんにちは! 鷹司たかつかさタカシです!

 迷路が動いて、でっかい毛虫が現れて、おっぱいをうばわれて、でっかい毛虫を追いかけて、現在、でっかい毛虫を前にしながら怖くて誰も手が出せない状況です!



「悩殺ね」

「ほぇ?」



 緊迫した空気を、カーチャンのトンデモ提案がぶっ壊した。



「普通の攻撃が効かないのなら、悩殺して動きを止めるのが一番いいってことよ」

「誰が? どうやって?」

「ふふっ。私に任せなさーい!」



 自信満々に胸を張るカーチャン。



「今じゃどこにでもいる普通の主婦だけど、若い頃は歩いてるだけで、男どもを片っ端から悩殺したもんよ」

「それって本当に悩殺? 撲殺とか圧殺とかじゃなくって」

「どういう意味よ」

「そういう意味だよ」

「殴るわよ」

「カーチャン、かわいい!」



 ギリギリのところで体罰を免れたはいいものの、カーチャンの悩殺芸を見せつけられるのも嫌なもんだ。

 宝百合たからゆりちゃんに照明魔法を発動するよう注文すると、カーチャンはぼくと双子を背中から下ろした。

 魔法の光に照らされて、輝くカーチャン。



「何をするつもりなの?」

「ミュージック、スタート!!!」

「……え?」



 もちろん、どこからも音楽は響かない。

 ただカーチャンが鼻唄してるだけだ。

 そして、腰をくねらせ、拳を突き上げ、頭を揺さぶり、足を蹴りあげて、カーチャンは踊った。



 ズッダン。

 ズダダン。



「ふんふふ~ん♪」



 ズッダン。

 ズダダン。



「ふ~ふ~ふふ~ん♪」



 ズッダン。

 ズダダン。



「ふ~~~ふふ~~~♪」



 巨躯きょくが動くたび、塔がミシミシ音を立てる。

 地震よりヤバイ。

 避難した方がいいかもしれない。

 だけど、あまりの光景に体は動かない。

 ぼくも宝百合たからゆりちゃんも七手土吐人ななたはばきじんの双子も、ただひたすら呆然と立ち尽くしてる。

 ぼく達は一体何を見せられてるんだろうか……。



 ふと毛虫に目をやると、やつの震える姿が目に入った。

 無理もないよ。

 不気味な虫が引くほど不気味な光景だよね。



「……あれ?」



 よく見ると、カーチャンの踊りに関係のないタイミングで震えがひどくなってる。

 おびえてるというより苦しんでるようだ。

 何だろう、こいつを弱らせる原因は?

 音?

 振動?

 踊り狂うおばさん?

 ……いや、



「光だ!」



 宝百合たからゆりちゃんがカーチャンを狙って照射するライト。

 わざとじゃないけど、その光がちょくちょく毛虫に当たって、そのたびにでかい毛虫は全身の毛を揺らして苦しんでる。



「……!!」



 ぼくはあることに気づいた。

 考えを巡らせば巡らせるほど、確信を持てる。

 これって、もしかすると……もしかしちゃうんじゃない!?



瘤瘤こぶこぶ!」

「何?」

「もう一度、伝承歌を歌ってみて」



 目の前で繰り広げられる悪夢のような光景から、彼女ははっと目を覚まして、



「この状況で!?」

「そうだよ。今! ここで! あの毛虫を倒すための方法がわかったかもしれないんだ!」

「うぇ……いや、でも、私……」



 困惑する瘤瘤こぶこぶの背中を押したのは、双子の片割れだった。



「歌ってやれよ。仲間がお願いしてんだからよ」

「あんたね……自分は関係ないと思って!」

「関係ありまくりだっつーの。外に行けるチャンスなんだから」

「何が外よ! あんたねぇ、七手土吐人ななたはばきじんとしての誇りはないわけ!?」

「その誇りをあの気持ち悪りー虫に汚させたくねーだろ?」

「ぐっ……」



 こうして渋々承知してくれた瘤瘤こぶこぶは、頭頂部にある指をもじもじさせながら、古くから伝わる歌を歌ってくれた。

 カーチャンのダンス。

 宝百合たからゆりちゃんの光。

 のたうつ毛虫。

 そこに、瘤瘤こぶこぶの美声が加わった。



 葉のなき山は

 高からず

 押せば引かれて

 かねが鳴る

 追えど追われず

 秋の空



 拾いましたる

 獣ども

 光に渇きし

 つるすべ

 波に揺らぐは

 安きかな



「やっぱりだ!」



 ぼくの推理が正しければ、この歌は迷路を攻略するヒントになってる。

 歌の第2節は毛虫が光に弱いってことを意味していて、となると、第1節はその前の段階、つまり迷路が形を変えることを表現してるんだ。



 押せば引かれてかねが鳴る……。

 ぼくはカーチャンがぶん投げた白黒おっぱいを股間で受け止めたけど、その時に何かを押してしまったんじゃないだろうか?

 そして、本当は押すんじゃなくって、引くのが正解だったんじゃ……?

 これは確かめてみなければわかんないことだ。

 そのためにも、まず、やるべきことは、



宝百合たからゆりちゃん、そいつに光を当てて!」

「わかりました!」



 結果はぼくの想像通り。

 やっぱり光がデカ毛虫の弱点だった。

 光を当てられると、見る見るうちに毛虫は弱体化していく。

 びくんびくん震えるその姿は気持ち悪いの一言だけど、一方で、暖かな光が木漏こもれ日のようにゆらゆらっ。

 この美しいこと!



「さあ、今度はこのすきに、あいつを固めちゃおう!」

「おう!」

「えいっ」



 双子の七手土吐人ななたはばきじんが毛虫に向かって卵を投げつけ、そして胸を寄せて魔法を発動。

 毛虫は細長い足を固定されて、動くに動けない。

 作戦成功!

 すぐさまぼく達は毛虫のところに駆け寄って、例のぬるぬるおっぱいを取り戻した。



「ふんふふんふふ~……あら? もう悩殺しちゃってた?」



 ようやく踊るのをやめたカーチャン。

 さてさて、おっぱいを引いてみる実験をしなきゃいけない。

 引くって、どこを?

 決まってるでしょ!



「うひょお」



 満面の笑みで、乳首を引っ張った。

 ぼくの考えた通りだと、これがこの魔法道具の正しい使い方だ。



「今度は何が起こるんだろうね? ……ね? ……ちょっと、みんな無視しないでよ」



 振り返って気づいた。

 誰もいない。

 え?

 誰もいない!

 手元には、あのおっぱいがない。

 えぇぇえぇ!!?

 おっぱいがない!!!!

 これじゃ揉んで落ち着くことができないじゃないか。



 そわそわしながら、周囲を見る。

 ここはせまい廊下のような空間で、壁に四つの扉がある。

 扉にはそれぞれ古代の壁画のような古臭い絵が描かれていて、左の扉から、長剣、大杯、金貨、棍棒こんぼうを持った人物画だ。

 これはとっても



「エッチだ……」



 だって、絵に描かれた人達はみーんな全裸なんだもん!

 顔を近づけてまじまじと見つめる。

 う~ん、肝心の部分は薄くなってて見えないや……。



 ぼくはあきらめきれなくって、目をらして絵画を見つめながら考える。

 どうやらおっぱい型魔法道具を正しい方法で作動することには成功したみたい。

 で、近くの人は巻きこまず、ぼくだけがここに移動した。



 すぐにカーチャン達も来るだろうけど、それを待たずに、ぼくはどの扉を開けるのか考えなきゃいけない。

 だって、この廊下は右も左も行き止まりで、扉を開けて進む以外どうしようもないんだもん。



「ど・れ・に・し・よ・う・か・な?」



 なんて言ってテキトーに選んじゃダメだ。

 さっきの迷路改変と毛虫出現みたく、またひどいことになるかもしれない。

 頭を使おう。

 今までにわかったことは、この塔の中では伝承歌がヒントになるってことだ。



 第1節はおっぱい型魔法道具の使い方。

 第2節はでっかい毛虫の倒し方。

 じゃあ、第3節がこの空間の攻略のヒントになってるはずだ。

 えっと……確か第3節は「姫と暮らしたい」だか何だかだったような気がする……。

 ぼくは扉に描かれた絵を見比べる。



 剣を持つ女性。

 さかずきを持つ男性。

 金を持つ男性。

 棒を持つ男性。



 ひとつだけ女の人の絵だ。

「姫と暮らす」っていう歌詞は、この女性の扉を開けるっていう意味なんじゃないかな。

 100%の確証はないけど、何かを選ばなきゃ前に進むことはできない。



 というわけで、扉を押して……びくともしない。

 あっ、これって引くのかな?

 ……びくともしない。

 あーこりゃ参った参った。

 引き戸だったのかぁ。

 ぼくったらうっかりさん♪

 横にスライドさせ……びくともしない。



「どうして開かないのぉ!!? ねえ開けてよ! 誰か中にいませんかーー!??」



 イライラをぶつけるようにノックしまくってたら、扉が上に向かって動いた。

 上に動かすのが正解だった。

 にしても、誰が開けてくれたのかな??

 扉の向こうを覗きこんだ途端とたん、ぼくは絶句した。



「タカシーーーーーッ!!!! あんた、勝手に瞬間移動しちゃって!!! 勝手にいなくならないでって言ったでしょ!!!!」

「……」

「ちょっと、タカシ! 聞いてんの!?」

「……」



 後ろからカーチャンが、続いて宝百合たからゆりちゃん、銑銑ずくずく瘤瘤こぶこぶが出現した。

 皆の無事を喜びたい。

 でも、それどころじゃない。



「何か言いなさいよ」

「……あれ……」

「あれ?」



 ぼくの指差した方に、皆が目を向ける。

 そして、一緒に絶句した。

 そこはまたしても行き止まりの廊下のような空間で、入り口以外には扉も窓も家具も何にもない。

 ただ……お年寄りの七手土吐人ななたはばきじんが壁際にずらーっと並んで立ってる。

 ぼく達を歓迎してる?

 違う……。



「嘘よ……」



 ぼくよりも驚いてるのは双子の七手土吐人ななたはばきじんだった。



「こいつら歴代のおさじゃねーの? 最下層にはお偉いさん達がいるって話だから……ここが最下層なのか? って言うか……」

「この人達、みんな死んでる……?」



 そう、老人達の目には生気がなく、しかも全身にほこりをかぶってる。

 誰も動かずしゃべらない。

 まるでインテリアのようにそこに存在するだけ。

 おずおずと宝百合たからゆりちゃんが七手土吐人ななたはばきじんの老人達に近づき、一通り観察した後、こう言った。



ろう人形の類ではなく……本物の死体のようです」

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