第43話 ぬるぬるの秘宝を奪い返したい!
こんにちは! 鷹司タカシです!
パーティーメンバーに双子の銑銑と瘤瘤を加えて、ぼく達は塔の中を進みます。
だけど、魔物の出現する気配なんてまったくない。
あちこちきょろきょろした結果、ああ、階ごとに間取りが違うんだなぁってことに気づいただけだった。
「なんか暇じゃない?」
「コラ、タカシ! 油断するんじゃありません!」
「でもさー、全然魔物なんていないじゃんか」
「そんなに退屈なら、伝承歌を歌ってあげようか?」
Cカップの瘤瘤が優しいことを言ってくれる。
「歌って歌って! 伝承歌が何なのかは知らないけど!」
「その名の通り、七手土吐人に古くから伝わる歌よ。ここでは誰でも学校で習うの。ね?」
「ははっ。俺は授業中に寝てるから、暗唱してねーよ!」
銑銑を無言で叩いてから、瘤瘤は歌い始めた。
葉のなき山は
高からず
押せば引かれて
鐘が鳴る
追えど追われず
秋の空
拾いましたる
獣ども
光に渇きし
鶴の術
波に揺らぐは
安きかな
禍滅して
集わずや
誠の契りを
寿ぎて
新しき宿の
姫と暮らさん
偽り装い
欺けど
盛者必衰
枠外し
暗き太陽
赤を消す
正直、何とも言えない地味な曲調だったけど、取りあえず拍手はしておいた。
ちょっと得意気な瘤瘤、かわいいもん。
歌詞の意味について尋ねてみたら、やっぱり、
「詳しいことは今の時代まで伝わってないの」
とのこと。
これに触発されたのが銑銑。
瘤瘤に負けてられるかと、自慢話をおっ始めた。
「実は俺、こっそり下の階を冒険したことがあるんだぜ」
その場の全員の注目が彼に集まった。
「ちょっと、何それ! 聞いてないんだけど!」
「教えなかったからな」
「バカじゃないの!? 自分がどれだけ危険なことを━━」
「あーうるせーうるせー。な、皆、その時のこと聞きたいよな?」
もちろんだよ。
銑銑は満面の笑みで語り始めた。
「あれは今から1ヶ月……いや、2ヶ月……半年前だったかもしれねー。俺は壁にへばりついて寝たふりをして、夜遅くになってから、こっそり下の階に行ったんだ」
魔物に怯えつつ白濁色の道を進んでると、やがて不思議な存在が視界に入った。
それはネアンデルタール人に似てるけどネアンデルタール人ではなく、右手に光る棒を、左手に光る板を持った生物。
銑銑はそいつを見た瞬間に直感した。
「これは魔物だぞって」
だけど、ぼくには違う考えが浮かんだ。
多分、それは……。
銑銑は話を続ける。
「それからよ、その魔物は光る板に『ここどこ?』とか『電波が通じない』とか何とか言いながら、うろちょろしてた。俺は気になって、後をつけてたんだけど……そいつ、いきなり消えたんだぜ」
「消えた……?」
「一瞬でな。最初は魔法かなと思ったんだけど、よくよく考えたら、その魔物、そん時、胸を寄せてなかったんだよなー。だから、俺は考えたわけ」
もしかしたら、外に繋がる道があるんじゃないか、と。
外の世界に憧れる少年はわっくわくした。
だけど、そろそろ戻らなきゃいけない時間だったし、一人じゃ怖かったから、その時はそこで引き返さざるを得なかった。
「んでもよ、今回は頼もしい味方がいるからな。へへっ。遂に俺、外に出られるのかも!」
「くっだらない。全部あんたの見た夢だったんじゃない?」
「何だとぉ~!?」
双子が喧嘩をしてる隙に、ぼくはカーチャンとひそひそした。
「それって絶対地上人だよね」
「まず間違いないわね」
「じゃあ、もしかすると……」
「塔の外じゃなくって地上に繋がる道があるのかも……ってことだわ!」
棚から牡丹餅。
「有意遺跡」の塔の中に、ぼくとカーチャンの願いを叶える秘密が隠されてるかもしれない。
わっくわくしちゃう!
「ねえねえ、銑銑。その魔物の消えた場所って覚えてる?」
「もう少しで着くぜ!」
元気いっぱいの七手土吐人の案内に従って、ぼく達は塔をどんどん下りていった。
そうして辿り着いたのは、迷路だった。
「この階全体が迷路になってるみたいなんだよな」
「道順は覚えてるの?」
「おう。目印つけといたからよ」
一番効率がいい方法は、魔法で空を飛んで簡単に目的地まで飛んで行くこと。
でも、実際には、迷路を作ってる壁がすべて天井にまで達してるから、それは無理。
と言うわけでひたすら歩き続けること数分。
銑銑が指差して、
「あの台のところで魔物が消えたんだぜ」
そこには、ちょっと背の高い切り株のように、床から台が生えてた。
そして、その上には……
「おっぱいじゃん!!」
色こそ黒から白のグラデーションだけど、その形は桃のようで、先っぽにはぽっちりと乳首みたいな出っ張りがある。
つまり、これ、おっぱい。
「何言ってんのよ。桃の形と言えばお尻でしょ!」
「お尻に乳首はないよ! だから、これはおっぱいで決まり!」
「文化遺産の中で下品な議論をしないでください!」
おっぱいソムリエのぼくにはわかる!
誰が何と言おうと、これはおっぱい!
……揉んじゃダメかな?
「あの魔物はさ、このケツみてーなのをいじってたら、消えちまったんだ」
「この胸に秘密があるってこと……かな?」
モノクロおっぱいを囲むぼく達。
誰も彼も次の一手を見出だせないでいる。
「この物体が何を模した物なのかはわかりませんが、おそらくこれは魔法道具でしょう。微弱ながら、魔力を放っています」
魔女の説明に、ぼくは背中を押された気がした。
道具なら使わなきゃ……ね?
「揉みまーす♪」
「あっ」
「コラ!」
「わっ」
「エッチ!」
躊躇なく手を伸ばして、偽おっぱいを揉ーみ揉み!
ところが、思ってたのと違くて、それは油ぎってぬるぬるだった。
強く揉んだら、弾けるように飛んでっちゃった!
待ってよ、おっぱい!
勢いよく吹っ飛んだおっぱいは銑銑の顔に当たって、瘤瘤に平手で叩かれて、掴み取ろうとした宝百合ちゃんにトスされて、最後はカーチャンにアタックされて、ぼくの股間を直撃した。
「う゛ぐぅ!」
すると唐突に、それもほとんど一瞬で、壁がぐねぐねっと動いて、迷路が形を変えた!
ぼくは他の皆と離れ離れ。
唯一のお供は例のおっぱい。
取りあえず揉んで心を落ち着かせよう。
「ふぅ……だいぶ落ち着いてきた」
「タカシーー!!! 大丈夫なの!!?」
壁越しにカーチャンのバカデカイ声が聞こえる。
微かに他の皆の声も聞こえる。
どうやら全員無事みたい。
ぼくは自分の安全を伝えてから、今後のことを話し合うことにした。
「だって……もう目印は使えないもんね……。どうやって脱出……するのか……」
「声が震えてるわよ」
「金玉が……痛いんだもん!」
「なーんだ、そんなこと」
「そんなことだって!? もう一度言ってみなよ。もう絶対絶対に口を聞いてやらないんだかr━━ぬぁぁぁあぁぁぁあ!!!!」
いつの間に!?
股間を慰めながら座りこんでるぼくの真横に、毛虫がいた。
いや、それが本当に毛虫なのかはわかんない。
だってサイズは馬と同じくらいだし、細長い足が無数に生えてんだもん。
ひいぃっ。
キモすぎる!!!
そして、そいつがぼくの手からおっぱいをひょいっと口に咥えて奪ったタイミングで、近くの壁が破壊された。
「タカシーーーーーッ!!!! あんた、無事ぃ!!?!?」
「ちょっ……塔を破壊しちゃダメだって言われてんのに!」
「あんたの命を守るためならしょうがないわよ。そんなことより……どうしたの!? うずくまって……。ケガしたの!?」
「それはカーチャンのせいで金玉が痛いからだよ! ぼくが悲鳴をあげたのは……ほら」
ぼくはでっかい毛虫を指差した。
「きゃぁん!」
顔に似合わずかわいい悲鳴をあげるカーチャン。
筋肉バッキバキでも、虫はちょっと苦手なんだ。
でも、気合いを入れたら、どんな虫も怖くないでしょ?
じゃあ、あいつからおっぱいを取り戻してよ。
「えっ、あれを取られたの?」
「そうなんだよ。だk━━ひょえ」
でっかい毛虫が体を動かす。
もしかしてぼく達、狙われてる?
こんなでっかいやつの毛に刺されたら、身体中が腫れて、もしかしたら出血もしちゃうかも……。
やだ、怖い!
「……あれ?」
ところがどっこい、そいつはくるっと背を向けて、一目散に逃走した。
まるで馬のような走りっぷりだ。
「わあぁぁあぁ!! ぼくのおっぱい盗まれたぁぁぁあぁぁ!!!」
「まずいわね……。あれがなかったら、人間消失の謎が解き明かせないもの。追いかけて殺すわよ!」
その時、どこか遠くから、悲鳴が聞こえてきた。
きっと瘤瘤が毛虫に遭遇したんだ。
多分、あの毛虫は人に危害を加えることをしない。
だけど、何かしらの理由で、おっぱいを咥えて逃げるんだ。
おっぱいが好きなのかもしれない。
「取り戻さなきゃ」
ようやく金玉の痛みが引いたぼくは、カーチャンによじ登って、
「あのでっかい毛虫を追いかけよう!」
「しっかり掴まってなさい!」
そう言うや否や、カーチャンは壁に向かって猛突進。
次々に壁を破りながら、馬より速く走り飛ばす。
迷路って楽勝だね!
でも、こんなに破壊しちゃっていいのかな……?
有事だし、まあ、いっか!
「いいわけないでしょ!! この塔は七手土吐人の誇りなんだから!!!」
迷路の中で再会した瘤瘤が怒りを顕にした。
「んー、でも、その誇らしい塔の中にあのバカキモイ毛虫を放置していていいの?」
「くっ……確かに、あれは気色悪いものね。……多少の破壊はしょうがないかも」
瘤瘤もカーチャンに搭乗。
再び進む。
「おぉ~い、皆どこ行っちまったんだよぉ」
銑銑の声がする。
「カーチャン、壁を破壊して!」
「あいよ!」
「うわぁぁあぁぁぁ!!! ……って、何だ、お前らかよ……。さっきでっけー毛虫がここを走って行ってよ……あれ? あのケツはどうした?」
かくかくしかじか。
「何やってんだよ、ヒョロガリ! ったく、こうなりゃ迷路を徹底的に壊してでも、あの毛虫を引っ捕らえなきゃな。外の世界に行けるかもしれねーんだからよ」
銑銑からも迷路破壊の賛同をもらったところで、今度は宝百合ちゃんの悲鳴が聞こえてきた。
銑銑をカーチャンの背中に乗せて、現場に急行だ!
壁をバッコンバッコンぶっ壊して迷路を一直線に進んで行って、宮仕えの魔女っ子のいるところに到着した。
「宝百合ちゃん、大丈夫!?」
「えいっ」
「「「「のわぁぁあぁぁぁあぁ」」」」
壁の向こうに突入すると同時に飛来してきたのは、例の毛虫。
カーチャンの動きが俊敏じゃなかったら、きっと今頃ぼく達は毛に刺されまくってただろうね。
ありがと、ムキムキカーチャン。
それにしても、毛虫って飛べるの?
いや、そうじゃない。
宝百合ちゃんが浮遊魔法を使ったんだ。
「わたくしは平気ですが……その……少々虫が苦手ですので、カーチャンさん、対処をお願いできますか?」
「ごっめぇん。私も虫が苦手なの」
「……なんということでしょう……」
と、ここで勇気を見せたのが銑銑。
カーチャンから降りると、瓦礫の破片を掴んでぶん投げた。
「おらぁ! ……ひぃ」
「わっ」
「ひょえぇ」
「いやぁっ」
「わわわ」
だけど、毛虫の癖に動きがすばしっこい。
だから、簡単に避けられてしまった。
しかも、動きがキモイ。
その上、こっちに来るかもしれないという恐怖がある。
「どうしようもないわね」
現在、毛虫は道の真ん中で、カーチャン組と宝百合ちゃん一人に挟まれてる状況だ。
やつにとって逃げ道はない。
だからって、こちらから仕掛けるのも難しい。
迷路が静まり返る。
「どうにか動きを止めることができたらよいのですが……」
「銑銑と瘤瘤の石化魔法をあいつに使えば……あぁ、ダメか」
「卵を避けられちまうもんな」
「宝百合ちゃんの浮遊魔法で━━」
「魔力が少ないので、あまり強力な魔法は使えそうにありません」
「う~ん、難問だ」




