ホノヒサとモールマン
皆さんの怒るポイントは何処ですか?
満員電車で足を踏まれた時。
待ち合わせをしていて、相手が遅れてきた時。
ゲームでミスした時。
スーパーのレジが遅い時。
そんなの挙げれば、幾つでも出てくると思う。
でもね、怒るポイントというのは人によって違う。
例えば、仏のように優しく何をしても怒らない友達が居る。
遅刻をしても定食のおかずを一つ勝手に食べても、ニコニコしているだけだったりする。
そんな人が、信号無視をした瞬間に激怒したりするのだ。
たしかに悪い事をしているのだが、それでも周りに車が居ない事を確認して渡っている。
それなのに怒ったりする。
間違ってはいない。
でも、そこでそんなに怒るか?というくらい怒鳴ったりするので、言われた側はビックリして引いてしまう事がある。
阿形と吽形をこれに当てはめるのはちょっと違うけど、要はギャップの問題だろう。
普段は穏やかな口調で、怒る様子も見せない二人なのだ。
それが戦闘中に、突然怒鳴り始める。
その形相も大きく変わって、無表情に近い顔から牙を剥くような獣のような顔になるのだ。
ギャップ萌えってあるけど、彼等にそれは当てはまるのかな?
普段は紳士的な二人だし、そこに萌える人は居るのだろうか。
もしそうだとしたら、僕もギャップ萌えを一考したいと思う。
兄の指摘に、タケシや数人の人物達は気付いているらしい。
ちなみにその中に、僕は勿論入っていない。
遠くて見えないんだもの。
この身体なら熱さは感じないのだが、見てるだけで熱くなってくるホノヒサに、僕は近寄りたくなかったからだ。
「クハハ!そんな事で優位に立ったつもりなのか?お前の問いに答えてやろう。勿論、ダメージはあるさ。トキドの炎を直撃して、よく分からない爆発を起こされている。これでダメージが無い者など、居ないだろう?」
「それはまあ、確かに」
ドヤ顔で言った兄だったけど、考えてみれば当たり前の事を言っているに過ぎない。
トキドの大技を食らって、更に水蒸気爆発。
その間には阿吽の二人の攻撃だって、多少なりとも食らっているのだ。
これで無傷だなんて、僕達でも無理な話である。
強いて言えば、時間さえ経てばタケシなら回復するかなといったところだろう。
「ダメージはある。だが、お前達を屠るのが厳しい程ではない!」
ホノヒサが突然動いた。
狙いは倒れている三人だ。
負傷して運ばれた慶次と、気を失っている阿形と吽形。
この三人は、ウケフジの下へと運ばれていた。
彼の力で回復をしてもらうつもりだったのだが、そこを狙っていたようだ。
「ウケフジの力、なかなか便利ではないか。おいが戴くとしよう」
「やらせるか!」
ウケフジの片腕であるマオエが、ホノヒサの前に立ちはだかる。
しかし彼女では、ホノヒサの相手は荷が重過ぎたようだ。
マオエが放った一撃を、ホノヒサは軽々と左手の脇差で受け止めると、そのまま左手を下に捻り、マオエのバランスを崩している。
前のめりにバランスを崩したマオエに対し、右手の太刀が彼女の背中を斬った。
「マオエ!」
「だ、大丈夫です。自分から前に倒れたので、致命傷までにはなっていません。うっ!」
マオエはウケフジに自分の状況が説明出来ている。
致命傷ではないと言ったものの、それでも深手には違いなかった。
「前回はマエダケに邪魔をされたが、今回はその男も倒れている。今度こそ地獄に送ってやろう」
下ろした太刀を横に振るホノヒサ。
首狙いなのはすぐに分かっていたが、マオエは反応出来ない。
「誰がやらせるか!」
「ハッシマー殿を裏切った下郎か!おいの邪魔をするな!」
タツザマがマオエとホノヒサの間に割って入ると、ホノヒサは激昂した。
彼等は共にハッシマーに与した仲だ。
しかも二人は年齢も近く、領地もそこそこ近いのでお互いの存在を知っていた。
特にホノヒサの主君でもあるノシピコとタツザマの主君であるヌオチョモは、交流があった。
お互いにトーリの侵攻を食い止めるのに、手を組んだ経験もあったくらいである。
お互いに名の知れた騎士であり同世代というのもあって、二人は意識していた。
そんなタツザマの裏切りは、ホノヒサの中で許せる行為ではなかったようだ。
「裏切り者には死を」
「せ、戦国乱世に裏切りは付きものだろ!」
「だったらお前は、主君であるヌオチョモ殿も裏切るつもりか?」
「それは無い!」
何度か斬り結ぶタツザマとホノヒサだが、徐々にホノヒサが優勢になっていく。
「貴様が裏切らなければ、おい達が勝っていた」
「勝負にたらればは無いぞ。それにお前の言い分なら、ハッシマー殿が負けるのは仕方のない事だろう」
「何?」
「ハッシマー殿だって、主君であるボブハガー殿を裏切っているのだ。裏切り者には死をというのであれば、彼が敗北したのは必然なのではないか?」
「暴君を誅滅したハッシマー殿に、正義はあったのだ」
ボブハガーを暴君と呼ぶホノヒサだが、ここにオケツ達が居たのならどう思っただろうか?
確かに彼は無茶振りが多かった気もするけど、暴君と呼べる程だったのかな?
僕にはそれが、愛の鞭といった受け取り方をしていた気もするし。
まあ彼等が暴君だったと首を縦に振れば、見た目通りだったのねとしか言えないんだけど。
そんな事を考えていると、タツザマが面白い事を言い出した。
「ではお前には、正義はあるのか?」
「何?」
「オケツ殿に恨みがあるのなら分かる。騎士王になった彼に対しての恨みなら、騎士王国を巻き込むのまでは拙者も理解出来なくはない。しかし!何故他の国まで侵攻しているのだ。帝国に連合、王国といった国々は、お前と関係無いではないか!」
そこに魔族は入れてくれない辺り、タツザマは僕達の存在は関係あると思っているのね。
孫市として内乱に干渉したんだから、当然と言えば当然かもしれないけど。
今の阿形達が聞いたら、それだけでもキレてたかも。
「お前の秤で正義を決めるな。俺には俺の正義が、そしてモールマンにはモールマンの正義がある。俺達は生きる為なら、地上の生き物を食べる事に忌避感は無い」
「モールマンの正義だと?」
「お前達はそこで倒れている、くたばりぞこないの女王と仲が良いのは見ていて分かる。モールマンと敵対するジャイアントに何を言われたかは知らんが、一方だけの言い分を聞いて、それで正義を語るのはおかしいと思わないのか?」
「・・・」
正論だな。
ホノヒサの言う通りかもしれない。
僕達はジャイアント側から聞いた話だけしか知らない。
もしそれに齟齬があるのなら、僕達はジャイアントに騙されている可能性だってある。
ジャイアントからモールマンに対して、戦いを仕掛けたのかもしれない。
逃げていたモールマンの中から、ホノヒサという特異な存在が誕生して、形勢逆転したところで僕達がジャイアントと出会った可能性だってある。
そう考えると、正義はモールマンにあって、ジャイアント側が悪いとも取れなくはない。
しかしだ!
「モールマンとジャイアントのどっちが正義とか、僕達の中では関係無いんだよ」
「何だと?」
急に話に割り込んだからか、ホノヒサの威圧感が凄い。
怖いとかじゃないけど、敵対心が強くてちょっと話しづらい。
だけど、そうは言ってられない。
言いたい事を言われるだけなのは、性に合わないからね。
「皆もよく考えれば分かる事だ。モールマンは地上に出てきて、何をした?僕達の町や村、都市を攻撃したんだよ。そして人を捕らえては食べ、僕達と同じ言葉を得ている」
「生きる為だ」
「生きる為なら何をしても良いと?馬鹿だなぁ。だったら共生という考えだってあったはずだ。それを選ばずにいきなり攻撃を仕掛け、僕達と敵対した。それってさ、もう僕達からひたら悪だよね」
「そうだ!弟の言う通りだ。お前達が襲ってこなければ、地上は平和だった」
いや、それは無い。
僕達からしたら、帝国という脅威は残っていた。
だから逆に言えば、モールマンがキッカケで帝国と和解する道も模索出来るかもとは思ってるけど。
その辺だけは感謝している。
「どうした?反論は無いのか?」
僕の論破で終わりかと思ったのだが、やはりそこは弱肉強食。
「別にお前達に、分かってもらおうなどと思わない。おい達は生きる為に、ジャイアントを潰して地上も制圧する。そしてついでに騎士王、帝に与する輩は死んでもらう。お前達が死んだら、連合や王国といったよく知らん国は、お前の言う共生とやらを考えてやらんでもないがな」
「よく言うよ。共生という名の家畜化だろ?」
「クハハ!言い得て妙だな」
結局は地上において、モールマンは脅威だという事だ。
僕はウケフジの方をチラ見した。
この会話という時間稼ぎのおかげで、慶次達は無事に回復したようだ。
「さて、お前の考えていたように、回復する時間は与えてやった。だが、戦闘には参加出来ないだろう。そろそろ終焉を迎えさせてやろう」
バレてたか。
しかもまだ戦える連中は多く居るのに、余裕のある発言だ。
「だったら次は俺が」
「待て、ここは騎士として俺が」
タケシとトキドが同時に名乗りを上げる。
お互いに顔を見合うと、譲れないといった表情で我先にとホノヒサへ向かおうとしていた。
「お前達はダメ。トキドはタツザマと、怪我人を運べ。タケシと太田はその護衛。ギュンターとマルテは、他のモールマンが来ないか警戒を怠るな。ウケフジは回復の要だ。絶対に怪我するな」
「何を勝手な事を!」
兄が急に、テキパキと指示を出し始める。
どうやら本気になったようだ。
「マジな話をするぞ。トキドの炎は奴には通用しない。タケシはホノヒサに近付く事も難しい。それで戦いを挑むのか?」
「う、うーん・・・」
「お、俺は超回復あるし、やろうと思えば何とか・・・」
歯切れの悪い二人。
そして兄が、腰に差している剣を抜いた。
「俺の剣は、魔法が付与出来る。それこそ水魔法も可能だ。水蒸気爆発は、弟が何とかしてくれる」
「そ、そうね」
知らぬ間に参戦決定か。
まあ良いけど。
さっきも言ったけど、僕は奴の勝手な言い分に少し頭にきているし。
正義だ悪だなんて話は、ぶっちゃけどうでも良いんだよ。
昔から言うでしょ。
勝てば官軍ってね。
「ワタクシだけでも魔王様の盾に・・・駄目ですね。ハイ」
太田が兄の為にと申し出たけど、目だけでそれを却下していた。
どうやら他の連中は、ここから遠ざけたい考えみたいだ。
「おいは構わんぞ」
「というわけで、皆はここから離れなさい」
「お前だけが残るのか!?」
「ギュンター、俺は誰だ?俺は魔王だぞ!」
「いや、しかし・・・」
帝国の人間からしたら、僕達は魔王と呼べない。
それでも兄は、自分が魔王だと言い切った。
「王様ってのは、他人から認めてもらわないといけない。だから俺達は、ホノヒサに勝ってお前等に俺が魔王だと認めさせてやる。さっさと離れろ!」
「い、言ったな!マルテ、お前も聞いたな!?」
「え、えぇ・・・」
「俺は既に認めてるけど」
「おい、タケシ!」
タケシは正直だな。
「ワタクシ達は下がります。ご武運を」
「ハクト殿の居る場所へ行けば良いのですね。お任せ下さい」
全員がオーサコ城から離れていく。
いや、オーサコ城があった場所というべきか。
これで後顧の憂いは無くなった。
「待たせたな。お前も回復出来たのか?」
「クハハ!分かっていたのか」
真っ赤になった岩のヒビが、小さくなっている。
兄はその辺、見落とさないよね。
「さて、バッグにも入ったよ」
「よし!」
兄はやる気十分だ。
しかし、それ以上にホノヒサもやる気が満ち溢れているように見える。
「孫市として騎士王国に現れ、色々と掻き回してくれたお前にも、復讐をしたいと考えていた。そして何より!魔王と呼ばれるお前を食べれば、絶大な力が手に入るのは自明の理。この時を待っていたぞ!」




