ホノヒサ無双
大勝利!
僕の大勝利である!
まさか接近戦をして、僕が勝てるとは思わなかった。
これも全て、人形の身体のおかげである。
これがもし魔王の身体だったなら、まずは軽々と足をへし折られ、泣いてるところに両腕も折られていただろう。
だって僕、痛いの苦手だし。
その点人形の姿の時は、痛みも何も感じない。
人形万歳!
魔王の身体も痛みが無ければ良いのに。
なんて思ってたんだけど、兄から言わせるとそれはもっと危険らしい。
例えば骨折をしても気付かないから、そのまま動き続けて悪化するなんて考えも出来る。
限界を超えても動き続けて、知らぬ間に膝から先が無くなっていても気付かないなんて事もある。
その話を聞いて、僕は気持ちが悪くなってしまった。
やっぱり人形の姿の時も、痛覚があった方が良いのかな?
しかし僕は今回の一件で、新しい人形の動かし方を発見してしまった。
今までの難点だった機動力というのも、克服しつつある。
何だったら頭だって、物理的にフル回転させられるだろうね。
頭にプロペラを付けて、両腕を翼のようにすれば・・・プロペラ機の完成じゃないか!
と思ったのだが、頭がグルグル回ってたら前が見えないな。
即墜落の可能性が、高い気がしてきた。
この戦いが終わったら、一度検証してみても良いかもね。
キレてないですよ。
別にキレて、あんな倒し方をしたわけじゃないですよ。
新しい戦い方があるなと思って、両手をドリル形状に変えただけなんだけど。
チラッと迷彩柄のモールマンの方を目をやると、確かにグロテスクな死体が残っていた。
敵ながら、ちょっと酷い有様である。
「わざとじゃないです。気に障ったなら、埋葬してあげても良いです」
土魔法で穴を空けると、死体を見ないように延長した踵の部分でそっと押していく。
ドサッという音がして少しだけ振り返り、穴に死体が入ったのを確認すると、そのまま土魔法で穴を埋めた。
「南無」
「南無」
両手を合わせる僕と兄。
敵と言えど、仏になったら関係無い。
「城が無い!」
「魔王様、何をしているでござるか?」
「なっ!?ジェラルディン女王が、凄い姿になってるじゃないか!」
僕達が手を合わせていると、戦場から皆が戻ってきたようだ。
オーサコ城は崩れ落ち、ジェラルディンの姿は満身創痍。
そして一体のモールマンが、兄の横に立っている。
その様子を見た皆は、急遽戦闘態勢に入った。
「魔王様、そのモールマンが女王をやったのですか?」
唯一冷静さを失っていないウケフジが、僕達に質問をしてくる。
しかし、空気の読めない人物が一人だけ居た。
「そのモールマン、早く倒してしまうでござるよ。魔王様なら、簡単でござろう?」
その言葉が癇に障ったのか、上を見るモールマンの王。
すると王は、怒りの声を叫び始めた。
「おのれマエダケ!貴様だけは許さんぞ!」
「マエダケ?」
「兄さん、知ってる?」
「知らん」
誰かに向かって怒り始めた王だが、マエダケなどという人物は僕達の中には居ない。
空に居るトキドやタツザマ達も不思議そうな顔をしていて、やはり知らない様子だった。
彼等が知らないという事は、騎士王国の人間ではないのか?
「何か言っているが、太田殿はマエダケという人物を知っているか?」
「ワタクシも存じませんね。誰の事でしょう?慶次殿はどうです?」
「拙者が知るわけないでござる」
誰も知らない様子の上空だが、今の言葉で王は更に怒りを露わにする。
「き、貴様ぁ!」
「なっ!?」
「翼が生えた!」
王の背中にワイバーンのような翼が生えると、物凄い勢いで空へと向かっていく。
トキド達はそれを見て武器を構えたが、彼等を素通りした王はある場所で止まった。
慶次の前である。
「アンタの前じゃないの!」
「マルテ殿の知り合いではないでござるか?」
「アタシが知るわけないでしょうが!」
「まだしらばっくれる気か!」
フライトライクの後部座席に座るマルテは慶次に怒っていたが、それ以上に怒っているのはモールマンの王だ。
彼の態度に、今にも攻撃を開始しそうな勢いで、後ろに座るマルテは気が気でない様子。
「拙者、喋ると言えど、モールマンに知り合いは居ないでござるよ」
「おいとは、このオーサコの地で会っているだろうが!」
「オーサコ?」
「ウケフジの家臣を逃したのは、マエダケ貴様だ!」
「わ、私ですか!?」
いきなりモールマンの口から名前が出てきたマオエは、声が裏返るくらいに驚いている。
しかし彼女も、王の事は知らないと、右手をブンブン横に振っていた。
「あいにくだが、やはり拙者は知らないでござる」
「ん?その刃は?貴様、おいの太刀を奪ったな!?」
「は?何を言ってるでござるか!この槍の穂先は、拙者が勝ち取った物でござる」
「だから、おいの剣から取ったんだろうが!」
「だから何を・・・お前!スマジでござるか!?」
「スマジだって?」
話が見えてこないぞ。
スマジの領主は、モールマンと手を組んだと言っていた。
だからこうやって、足並みを揃えて御所目指して攻撃をしてきている。
それが、どうしてモールマンの王がスマジなんだ?
「どういう意味だ?」
「ワタクシにもサッパリ分かりません」
トキドと太田は、やはり見当がつかないらしい。
しかし、さっき王は変な事を言っていたな。
ウケフジの家臣を逃した。
となると、マオエなら知っている?
僕はマオエの方を見ると、ウケフジも同様の答えにたどり着いていた。
「知っているのですか?」
「すいません。私もモールマンには知り合いは居ません。・・・いや、待てよ?」
何かを思い出したかのように、考え込むマオエ。
眉間に皺を寄せながら、考えをまとめているようだ。
そして彼女が急に顔を上げた。
「スマジ!スマジ・ホノヒサ!」
「スマジ・ホノヒサ!?」
彼女の口から出てきたのは、ハッシマーに与したスマジ家の騎士、スマジ・ホノヒサだった。
それを聞いたトキドやタツザマ、ウケフジといった面々は驚きを隠せないでいた。
「す、スマジだって!?」
「タツザマ、お前ならスマジを知っているよな?」
「あ、あぁ。拙者と同じく、ハッシマー殿に手を貸したスマジ家の騎士だ。そう、騎士だったはずなのだ」
モールマンの姿になって現れた事で、彼等は動揺している。
ただ一人を除いて。
「なんだ。それなら確かにこの槍の穂先は、オヌシから頂いた物でござるな。だが、アレは勝ったらもらって良いと、言質を取っているでござるよ」
「クッ!分かっておるわ!」
淡々と話す慶次の言葉に、ホノヒサは怒鳴り返す。
「いやいや!お前、どうしてそんなに冷静に受け入れられるんだよ!」
「に、兄さんの言う通りだよ」
モールマンとして現れたホノヒサを、普通に受け入れられる神経が分からない。
コイツ、図太い通り越しておかしいぞ。
「あの〜、それでコイツは誰なの?」
「私も分かりません」
そ、そうか。
タケシ達帝国の連中や阿形と吽形は、前回のハッシマー戦に参戦していないんだった。
スマジの名は知っていても、あの時に戦死していたはずのホノヒサの名前までは知らないのは当たり前だ。
「おいの名はスマジ・ホノヒサ!マエダケと帝に復讐を誓い、地獄から舞い戻った騎士よ!」
高らかに名乗りを上げる、モールマンの王改めホノヒサ。
しかし、これで合点がいった。
奴がどうして、スマジと手を組めたのか。
騎士王国に集中して、モールマンが現れたのか。
彼がホノヒサなら、帝や騎士王に恨みを持っていてもおかしくない。
ただ一つ、知らない名前がある。
「マエダケって誰だ?」
「コイツだ!コイツがマエダケであろうが!」
ホノヒサは慶次に太刀を向けて叫んだ。
その慶次が首を捻っているのだ。
どういう事なのだろう?
「あっ!思い出しました!」
「ナイスだマオエ!」
「私を助けてくれた時、彼はスマジにマエダケと名乗っていましたよ」
「えっ!?拙者、そんな事言ったでござるか?」
おい。
どうして本人より、マオエの方が詳しいんだよ。
「確か、孫市殿の配下として名乗っていたかと」
「・・・あぁ!名乗った!そんな名で名乗ったでござるな。あんまり覚えてないけど」
コイツ、ノリで答えてやがる。
覚えてないのに、マオエが正しいみたいに言ってるし。
「お前、あの時は偽名を使っていたのか!?コケにするのも大概にしろよ!」
「だって仕方なかったでござるよ」
怒りに震えるホノヒサと、悪びれもしない慶次。
慶次がホノヒサを煽っているようにしか見えない。
「だが、丁度良い。貴様を探す手間が省けたのだ。まずはお前から血祭りに上げてくれるわ!」
「誰がお前なんかに負けるでござるか。そもそも拙者、一度お前に勝ってるでござるよ」
「クハハハ!いつの話をしている?おいはもう、あの頃とは違うのだ!」
ホノヒサは右手をフライトライクに乗る慶次に向けると、大きな火球が飛んでいった。
慶次はその大きさに慌てて避けると、一気に距離を詰められる。
「は、速い!」
「こんにちは。そしてサヨナラだ」
「キャアァァ!!」
トライクに向かって手を振り下ろすと、大きな衝撃音と共にトライクが急落下していく。
「ま、マルテ殿を頼む!」
回転しながら落ちていくトライクから、マルテが放り出された。
下で待ち構えていたタケシが、マルテを難なくキャッチする。
慶次も地面に衝突する前に、トライクから飛び降りていた。
「グゥゥ!」
「堪えたようだが、ダメージはあるようだな。では、これはどうかな?」
ホノヒサが地上へ落下していく。
僕は下からそれを見ていたが、最初は目の錯覚かと思っていた。
「慶次、避けろ!」
「避けろ?」
上を見上げた慶次だったが、地上付近に来て初めて気付いた。
ホノヒサの身体は、巨大化していたのだ。
そのままホノヒサの左足の下敷きになった慶次。
「クハハハ!脆い、脆いな!」
左足をどけると、そこには気を失った慶次が倒れていた。
「吽形!」
「執金剛神の術!」
阿吽の二人がすぐにホノヒサに対抗するべく、合体をしていた。
背後から巨大化したホノヒサの肩を掴むと、投げようと技を掛ける。
「魔族は多様だな。巨大化する奴まで居るのか」
「なっ!?グフッ!」
再び小さくなったホノヒサに、腹を蹴り飛ばされた阿吽は、後ろに居たタケシの所まで飛ばされた。
「おっと!」
マルテをお姫様抱っこしているタケシは、阿吽を難なく避けた。
「スマジめ、最早騎士ではなく化け物と化したか!」
「燃えろやぁぁ!!」
国江に乗ったトキドが、空からホノヒサを中心に大きな火柱を立てる。
太田達はそれに巻き込まれないように、既に離れていた。
「こ、これがトキド殿の本気か!?」
「ギュンター殿は初めて見るんでしたな」
「こんな大火力なら、いくらバケモノと言えど無事ではないはず」
「ちょっと!そういうのフラグ立つからやめてくれない?」
「フラグ?」
太田は空から、僕の近くに避難していた。
ギュンターはトキドの本気を間近に見て、勝った気でいるみたいだけど。
そういう事を言うと、大概はこうなるんだよね・・・。
「ば、馬鹿な!?俺、かなり本気でやったんだぞ!?」
「クハハ!確かにかなりの火力だ。だが耐えられない事も無い。おいは地底の奥底、マグマ溜まりがあった場所で過ごしていたからな。悪いがトキド、お前が一番厄介だと感じて、対策を練らせてもらっている」




