査定ポイント
サネドゥは、自ら演出した登場の仕方をしていた。
どうやら帝のピンチまで、待っていた節がある。
分からなくはないんだよ。
元々はハッシマー側についていたし、サネドゥという家を存続させるには、大きな手柄が必要にもなる。
スマジと違って逃げたわけでもなく、領地は縮小されながらも生き残ったわけだ。
タツザマも似たような状況だったのだが、彼の場合はトキドの口添えが大きかったらしい。
ボブハガーの配下連中は、あんまり納得してなかったみたいだけどね。
同僚だったニラを殺されてるんだから、分からんでもない。
ちなみにオケツは、帝の決定に従うという事で、沈黙を貫いたという話だった。
しかしサネドゥは、特に大きな後ろ盾が無かった。
唯一帝が味方だったようだけど、そこはやっぱり贔屓には出来なかったらしい。
トキドやウケフジ達を筆頭に、勝利者にはそれなりに褒賞を与えなくちゃいけないからね。
だからサネドゥは、縮小という罰を受ける事になった。
失った信頼を、取り戻す為に仕事に没頭する。
悪くはないけど、ピンチになるまで出てこなかったというやり方はどうなんだろう?
これが好印象になるのか悪印象になるのか、それは帝とオケツ次第なのかもしれない。
サネドゥが手を挙げて見ていたのは、勿論帝である。
帝もそれに気付いていた。
自分がモールマンに膝をつかせたというアピールを、めちゃくちゃしているように思えた。
「な、何故だ!?何故俺が屈しているのだ!」
「そりゃ、私が殴ったからでしょ」
「それは分かる!だが俺の岩は、普通のモールマンより硬いのだぞ!」
「そうでもなかったけど」
サネドゥの顔を見ていたモールマンは、気付いていなかった。
自分の腹の岩に、既にヒビが入っている事に。
「俺のミラーボディは攻撃を反射する。お前だってタダでは済まないはずなのだ!」
「・・・特に何ともないぞ」
「おかしいだろ!さっきまで反射していたはずなのに」
サネドゥに痛みを我慢している様子は無い。
本当に何とも無かったのだ。
モールマンも、自分自身で知らない何かがあるという事だった。
それに気付いたのは、帝だ。
「もしかして」
「分かったんですか!?流石は帝ですね」
ヨイショを忘れないサネドゥ。
やりづらいなと思いつつ、帝は言葉を続けた。
「もしかして、直接攻撃されたからではないでおじゃるか?」
「ちょ、直接?」
「モールマンよ。オヌシ今まで、遠距離からしか攻撃された事が無かったのではないか?」
帝の言葉を聞いたモールマンは、静かになった。
過去を振り返っているようだが、突然顔を帝に向ける。
「お前の言う通りだ。エリート戦士である俺は、過去に接近された事が無かった」
「そういうのは、最初に調べておくべき事でおじゃる。致命的ミスでおじゃるな」
「クッ!強過ぎるが故に、過信していた!だが、自分の弱点が分かった俺に死角は無い」
立ち上がり逃げようとするモールマン。
しかし、背中の体毛をサネドゥに掴まれた。
「そう言われて、逃すはずないだろ」
「クソッ!離せ!アブゥ!」
振り返ったモールマンの顔面を、殴りつけるサネドゥ。
再び倒れ込むと、サネドゥは馬乗りになった。
「さあて、弱点が分かったところで、行きますか」
「ど、何処へ行くというのだ?」
「サネドゥ、アピールタ〜イム!」
「フブゥ!」
サネドゥの左右の乱打で、タコ殴りが始まった。
顔から上半身、色々な場所を殴られるモールマン。
金色に光るガントレットが、モールマンの顔を右へ左へと弾け飛ばせる。
「な、なんか酷いものを、見せられているような気がするでおじゃる」
「え?」
「アピールと言っておったが、逆に印象は悪くなったでおじゃるよ」
「何ですって!?」
「こ、殺せ・・・」
ボロボロになった顔で呟くモールマン。
頭には既に、水色の岩など残っていなかった。
「今すぐにどきます」
「え・・・」
「ば、馬鹿にするのも大概にしろ!」
左爪から至近距離で、サネドゥの腹に氷柱が命中する。
何発も連射して、サネドゥは押し返された。
「ど、どうだ!?」
「サネドゥ!」
まさかの反撃に、帝はサネドゥの心配をした。
オケツが倒れている今、戦える者は彼しか居ないからだ。
「イタタ。連発で食らうと、内臓に響くなぁ」
「なっ!?それだけ!?」
「すまないな。私の鎧は、氷柱くらいではダメージにはならない」
腹をさするサネドゥの鎧には、大きな傷は残っていなかった。
モールマンは自分との相性の悪さが分かり、大きく項垂れている。
「サネドゥ、モールマンに勝つのでおじゃる!」
「もしかして、命令ですか?これは査定アップのチャンス!」
帝の声にやる気をアップさせたサネドゥは、右腕をぐるぐると回し始める。
「く、来るな!」
氷柱をサネドゥの顔目掛けて連射するモールマンだが、左腕で顔を隠しながら向かってくるサネドゥには、一切ダメージは無かった。
「エクスプロージョンパーンチ!」
「クッ!ナメるなぁ!!」
渾身の右ストレートを、モールマンの顔に叩き込むサネドゥ。
しかしその瞬間、真下から長い右爪がサネドゥの顎を打った。
大きく顔が跳ね上がったサネドゥと、頬を大きく打たれて首が捻じ曲がったモールマン。
二人は同時に倒れてしまった。
「か、カウンター!?」
帝は二人がダウンする瞬間を、見逃さなかった。
危うくカウントをしそうなくらい、見事なパンチの応酬だったのだ。
「サネドゥ!」
先に起き上がったのはサネドゥの方だった。
思わぬ攻撃に脳が揺れたのか、膝がカクカクしている。
対してモールマンに動きは無い。
「め、目の前がフラフラする」
千鳥足で立ち上がったサネドゥは、自分の足をバンバン叩いている。
プルプルと震えながら立っているサネドゥだが、明らかに大きなダメージが残っていた。
「こ、来い!」
サネドゥはどうにかファイティングスタイルを取ったが、モールマンは一向に立ち上がらない。
恐る恐る近付くサネドゥ。
膝をつきモールマンの顔を覗き込むと、彼はそのまま胸に耳をやった。
そしてもう一度フラフラしながら立ち上がると、振り返らずに帝の下へとやって来た。
「ど、どうしたのでおじゃる?」
「既に切れていました」
大きく息を吐くサネドゥ。
モールマンは今の一撃で倒したと、サネドゥは言った。
「か、勝ったのでおじゃるか?」
「ハイ、私の勝利です。このサネドゥ・トブユッキーの勝利です。サネドゥ、アイアムサネドゥ」
「いや分かるから。そこまで言わなくても、見てたんだから分かるから」
しつこく自分アピールをしてくるサネドゥに、帝は素で対応する。
危機は去った。
モールマンの倒れている姿を見て、自分の命が救われたと実感すると、帝は改めてサネドゥを見直した。
「本当に助かった。感謝するでおじゃる」
「い、いえ、私も騎士ですから」
真顔で謝礼を言われた事で、サネドゥも調子が狂い真面目に返答してしまう。
すると帝は、サネドゥが求めていた話を切り出した。
「サネドゥが求めているモノ、マロが応えられるのならどうにかしよう。それは何でおじゃるか?」
「ほ、本当ですか!?や、やった!頑張って良かった!」
身体全体で喜びを表すサネドゥ。
少し見守っていた帝だったが、長いので尻を叩いた。
「はよ言わんかい!」
「え!?あ、そうでした。・・・ん?」
「どうした?」
サネドゥの動きが止まった。
何かを考えているのは分かるのだが、どうにもしっくり来ていないのか、唸るだけだった。
「縮小した領地を、戻したいのではなかったのでおじゃるか?」
「そう思っていたんですけど。モールマンに襲われて気付いたのが、以前の領地だったら領民全てを救えなかったかなと思いまして」
「では、金銀や財宝を求めるでおじゃるか?」
「うーん、あったら箔が付くのは分かるけど、あんまり実用的ではないような」
帝の提案を、全て断っていくサネドゥ。
最終的に彼は、求めているモノが大して無い事に気付く。
「ど、どうしましょうか?保留とか出来ますかね?」
「出来なくはないだろうが、褒賞の席で何も渡さない事になるでおじゃるよ?」
「だったらその席では、私が帝を救ったのだと大々的に言って下さい。東の田舎者が、帝をモールマンから救ったと」
「ふむ、それくらいはお安い御用でおじゃる」
サネドゥは、実利よりも名声を選んだ。
なんとなくそっちの方が良いと、彼は判断したのだ。
元々はハッシマーに与したサネドゥ家である。
ここで帝をオケツの代わりに救ったと知られれば、世間から見られる目が変わると思ったからだった。
しかしその名声は、全く違う意味でも知られる事になった。
トキドやウケフジ、タツザマのような有名騎士でないと倒せないと言われていた特殊個体を、単独で倒した。
他の騎士達にそう知らしめる事によって、他からの侵略を防ぐような役割も担っていく事になるとは、その時のサネドゥは知る由も無かった。
「ジェラルディン!」
「四本あるうちの一本が、切り落とされただけだ。慌てるな」
淡々と話すジェラルディンだが、その切断面から血のような液体が流れてきている。
「そうでしたか。ならば他の三本も落とすとしよう」
何処からか聞こえる何者かの声に、兄は咄嗟に僕を振り回した。
「ぬおぉぉ!?何するのよ!」
「どおりゃあぁぁ!」
物凄い気合いで僕を振り回す兄。
最初はふざけてるのかと思ったが、次の瞬間、考えが変わった。
僕の身体に、金属のような物が当たったのだ。
何故金属かというと、甲高い金属音がしたからだった。
「見つけた!」
その瞬間、僕を投げつける兄。
コイツ、やっぱりふざけてる!
「弾かれた!?」
「気を付けろ、魔王よ。奴は特殊な個体だぞ」
「分かってる」
「分かってないぃぃ!!」
兄とジェラルディンがシリアスに話しているが、弾かれた僕の「身になってくれ。
空をクルクルと回りながら、明後日の方向に飛んでいっているんだぞ!
「ぶべっ!め、目が回った」
吐き気を催すなら、確実に吐いていたと思う。
というか、説明してから僕を使ってほしい。
「よくぞ見破った」
「お前がジェラルディンの腕を切り落としたのか!」
「その通りだ」
姿を現したのは、緑色というより迷彩柄というべきか。
見ただけで、そういう感じのモールマンだと分かる岩の色をしていた。
このモールマンは爪ではなく、手の形をしている。
やはり破壊工作のような作業をするのなら、爪よりも指があった方が便利なのだろう。
「よくもやってくれたな!」
「女王さえ居なくなれば、ジャイアントの士気はガタ落ちになるのは目に見えている。その命を狙うのは、当然であろう?」
「魔王よ、奴の言う通りだ。アタシが気付かなかったのが悪い」
右手で傷口を押さえるジェラルディン。
どうやら筋肉を収縮しているのか、止血は出来ているらしい。
「流石は戦場を駆け巡る女王。そこの馬鹿とは言う事が違うな」
「ば、馬鹿だと!テメーに言われたくないわ!」
モールマンの挑発に乗り、兄は殴り掛かった。
すると、ジェラルディンが急に叫んだ。
そしてその声に、僕もジェラルディンの言いたい事に気付く。
「待て!ソイツじゃない!」
「え?」
「あっ!違う!切ったのはソイツじゃないんだ!」
「え?」
兄はよく分からないまま、迷彩モールマンへと殴り掛かった。
しかしモールマンは、目の前で姿を消してしまう。
そして次の瞬間、今度はジェラルディンの右腕が空を舞った。
「避けたか。女王の悪意を読む力は、やはり私の覇道を阻む脅威となる。先に消えてもらおう」




