タツザマ疾走
真面目な人ほど、搦手に弱い。
たまに聞く言葉だ。
真面目な人はトリッキーな事をする人に翻弄される。
それは勉強も同じかもしれない。
愚直に公式を当てはめて、問題を解いていく。
そういう問題が続いた後に出てくる応用問題に、引っ掛かりやすい。
少しでも疑ってかかれば分かる問題でも、難しそうに見えてしまう。
それが面倒な点だ。
真面目に授業を聞いていて、普段なら解ける。
しかし、いざテストになると難しく感じる。
応用問題で引っ掛かる人は、全てを真面目に考え過ぎるんだと、僕は思っている。
自慢じゃないが、その点僕は不真面目なので、引っ掛け問題には引っ掛からないタイプでした。
でもね、僕の中ではあくまでも、全ては王道に通じていると思っている。
例えば、公式に当てはめる基本的な数式を覚えていないと、問題は解けない。
数式も知らないのに、問題が解ける人なんか居ないからだ。
ボクシングだってそうでしょ?
左を制する者は世界を制す。
ジャブを疎かにする人は、チャンピオンにはなれないよって意味だよね。
勉強にしろ闘いにしろ、やっぱり基本が大事だよねって話でした。
何かを察していた。
タツザマは何が起こるか分からなかったが、咄嗟に両腕で顔を隠したのが幸いした。
腕や身体には銀の散弾が当たったものの、急所には当たっていない。
少しずつ落下しながら、今の自分の状況を確認する。
身体を動かすと痛みがあるが、行動不可能になったわけではなかった。
「まだ動けるんだ?意外と粘るねぇ」
「こんな程度でくたばってたまるか!」
「強がりを言うと、後が辛いよ。距離的にも、そろそろかな。エイッ!」
握っていた手を再び開き、今度は引き寄せるように手を動かすモールマン。
タツザマは、自分の身体が急に下へと引っ張られる感覚に陥った。
モールマンに引っ張られている。
そう考えると、これ以上引き寄せられないように空中で踏ん張ってみせた。
すると身体の表面に付着していた銀色が、鎧から剥がれモールマンの持つ鞭と融合した。
「戻ってきたね、シルバーちゃん」
「面倒な敵だな。幸い、空が飛べない事だけは助かっているが」
攻防一体の武器を持つ銀色のモールマンに、タツザマはなす術が無い。
さっきの攻撃を食らった場所よりも高い位置まで飛んで、今は体力の回復を待つのみだった。
「ねぇ、来ないの?だったら別の敵を探しに行くけど」
「癪に触る言い方をする奴だな」
タツザマは小馬鹿にしてくるような言い方のモールマンに、苛立ちを感じていた。
だが今は、対抗策が見つからない。
このままだとタケシとベティに、迷惑を掛けてかけてしまう。
何も策は無いが、地上に降りようかと悩んでいたその時、何故か彼がやって来た。
「あら、随分と手こずってそうね」
下を見ていたタツザマは、まさか背後から誰かに話し掛けられるとは思わず、突然のベティの声に驚いてしまった。
「うわあぁぁぁ!!」
「何よ、大声出して」
「べ、ベティ殿!?どうしてここに?」
「アタシが相手をしていた紫ちゃんが、こっちに逃げちゃったのよ。だから先回りして、こっちに来たってワケ」
ベティの話を聞く限り、彼は優勢に進んでいそうだった。
こちらにやって来ないタケシも、おそらく問題無いのだろう。
そうなると、自分だけが苦戦している事になる。
タツザマは焦燥感に駆られていた。
「ねぇ、アタシが代わろうか?」
「そ、それは!・・・困りますな」
「でもアナタ、苦戦してるようだけど」
鎧がボロボロのタツザマを見て、ベティは察知していた。
ベティも口にしたが、実際は代わろうとは思っていない。
何故ならコレを決めたのは、魔王だったからだ。
「敵増えてるじゃん!誰が逃したんだよ〜!?」
「何あの間の抜けた声は。馬鹿なのかしら?」
「クワ〜!ムカつく〜!気持ち悪い話し方のクセに〜!」
「アンタも十分気持ち悪いわよ」
ベティはモールマンと言い合いをしている中、タツザマを一瞥する。
怪我は負っているが、致命傷ではない。
その後、今度はモールマンの方を一瞥した。
向こうは無傷の様子で、あの感じだと押しているのはモールマン側だと察する。
するとベティは突然、カラフルな羽の形をした投げナイフを数本取り出した。
「何をするんです!?」
「何って、投げるのよ。ベティィィビューティフルアロオォォ!!」
「アローって、ナイフじゃないか」
「細けぇ事は良いんだよ」
タツザマのツッコミにめげず、ナイフをモーラマンへと投げつけるベティ。
しかしナイフは、肩から伸びた銀色の流動体に弾かれてしまう。
「今更投げナイフって、何がしたいんだよ」
「ふむふむ、じゃあコレは?」
ベティが突然、目の前から消えた。
タツザマはベティを目で追うと、モールマンの背後に回り込み、首筋を右手の短剣を狙っていた。
しかしまたしても、銀色がそれを阻んでいる。
「残念!そう簡単に傷なんか付けられないよ」
「なるほどねぇ」
ベティは一撃を防がれると、驚く事も無くタツザマの横へと戻ってくる。
タツザマは彼が何をしたかったのか、よく分かっていなかった。
「ベティ殿、奴は拙者の獲物なのだが」
「や〜ね〜。そんなの分かってるわよ」
「では一体、何の為に今攻撃したんです?」
ベティは顎に手を当てると、考え込んだ。
自分の中で何かを納得したかと思うと、タツザマにアドバイスを送る。
「アンタ、色々考え過ぎ。自分の得意な事だけやりなさい」
「はい?」
「分かったの!?分からないの!?」
「それは分かるのだが、何故そんな事を言われるのか分からないというか・・・」
しどろもどろ答えるタツザマに、ベティはイライラを募らせる。
「シャッキリしなさいよ!」
ケツを叩かれるタツザマ。
こんな経験は子供以来な彼は、驚きを隠せない。
「銀色のモールマンは、アナタの獲物よ。アタシの獲物はやっと来たから、そろそろお暇するわね」
ベティがそう言うと、急に銀色のモールマンの足元近くの土が盛り上がった。
そこに向かって、再びナイフを投げつけるベティ。
「うわっ!アイツ、もう追いついたのか!?」
「馬鹿ね。追いついたんじゃなくて、待ってたのよ」
紫色のモールマンの顔色は悪い。
逃げたはずなのに、逃げた先がバレていた。
彼は再び、土の中へと潜っていく。
「じゃ、アタシは奴を追うから。アタシのアドバイス、分かってるわね?」
「ええ、それはまあ」
「じゃあ最後にもう一つ。もう少し自信を持ちなさい。アナタの速さは、アタシが認めてあげる。スカイインフェルノと呼ばれるアタシが認めるの。分かるわね?」
「ベティ殿に認められる速さか・・・。はい!」
ベティの言葉の実感が湧いたのか、突然声が大きくなったタツザマ。
ベティは笑みを浮かべると、その場から消え去った。
「アンタなら、余裕で勝てるわよ」
再び一人になったタツザマ。
「良いのかい?二人がかりなら勝てたかもしれないのに」
「拙者一人で十分だとさ」
余裕のある声で答えるタツザマに、モールマンは不快感を露わにする。
「さっきまで手も足も出なかったのに、よくそんな大言が言えるもんだね」
「ヒントは得た。あとは実行あるのみ!」
タツザマが得たヒント。
それはベティが教えてくれていた。
ヒントの内容は分からなかったが、やるべき事だけは理解した。
「行くぞ!」
タツザマは空から猛スピードで、モールマン目掛けて急降下していく。
カウンター気味に銀色の流動体が、刺突武器のようにタツザマを襲った。
それを簡単に避けていくと、モールマンの脇腹を狙って太刀を滑らせる。
「だから無理なんだって言ってるじゃない!」
タツザマはモールマンの言葉を聞かず、今度は背後から首筋を狙った。
再び金属音が鳴り響く。
「諦めろよぉ!」
タツザマはモールマンに一太刀浴びせると、すぐに方向転換をしてまた太刀を浴びせる。
何度も繰り返していくうちに、辺りはタツザマが地面を蹴って起こした土煙で見えなくなっていた。
「土煙の中から狙おうっていうの?そんなの無駄だからね」
「そんなケチな作戦ではないわ!」
何度も何度も太刀を浴びせるタツザマ。
するとモールマンは、ある異変に気付いた。
「ん?」
脇腹に少し痛みが走ったのだ。
痛みがあった場所を見てみたものの、土煙が邪魔で確認が出来ない。
気のせいだと思い過ごそうとしたその時、とうとう激痛が足に走った。
「うわあぁ!!」
自分の足から血が流れている。
見えなくともそれはすぐに分かった。
「この!この!」
太刀を振り回すモールマンだが、タツザマに当たる気配は一切無い。
徐々に痛みを感じる場所が、増えていく。
「何だよ!何なんだよおぉぉ!!」
左手で銀色の鞭をブンブン振り回しながら、右手で太刀を振るうモールマン。
それでも攻撃が止む事は無く、肩や腹、側頭部に鈍痛等、斬られただけではなく様々な痛みを感じる事となった。
「ど、どうして攻撃が当たるんだよおぉぉ!!」
「遅い!」
タツザマの声が耳元を通り過ぎた瞬間、モールマンの首が空へと刎ね上がった。
「アレ?どうして空から、地面を見下ろしてるんだろ?」
「それは拙者が首を刎ねたからだ」
タツザマが状況を教えると、首は地面へとゆっくり落ちていく。
首が落ちると共に、立っていたモールマンの身体も倒れ始めた。
「ど、どうして攻撃があ、当たったのかなぁ?」
「ハァハァ!た、単純な話だ。お前の銀色の防御よりも、拙者が速く動いただけの事」
ベティからもらったヒント。
自分が出来る事をやれというのは、言葉通りの意味だった。
タツザマの能力はその超スピードである。
そのスピードで相手を翻弄して戦えという、至極単純な教えだったのだ。
そしてタツザマはそれを実行すると、最初は防がれていた攻撃も徐々に岩に当たるようになった。
少しでも速く動こうと考えた彼は、モールマンから離れずに攻撃をする事にした。
その結果、半径三メートル近い距離を四方から飛び回って攻撃していたのだ。
そして慣れてきた頃には、岩の隙間へと攻撃が出来るようになり、最後は首を守る岩の隙間から刃を通したのだった。
「なるほどね。はあ、シルバーちゃんに頼り過ぎたなぁ・・・」
その言葉を最後に、モールマンは動かなくなった。
「努力なくして、強くなる事は無い。しかしその努力が報われているのかは、結果が出ないと不安に思う気持ちはある」
タツザマはトキドに負けて以来、努力を積み重ねていた。
その結果が空を走れるようになった事に繋がったのだが、やはりそれだけでは自分が強くなったのかは知る事が出来なかった。
だがベティから認められたという言葉が、彼の中で気持ちを吹っ切れさせるキッカケになったようだ。
最後は防がれても、自分を信じて動き続ける。
それをした結果が、今に繋がっていた。
ただタツザマは、ベティの想像より上を行く行動に出た。
それが短い距離での方向転換だ。
より速く攻撃する為にした結果、足腰に大きな負担を掛けていた。
今は立っているのもやっとの状態で、彼はベティが飛び去った方向へ目をやっている。
「スカイインフェルノか。拙者も彼のように、炎を巻き上げる事が出来るのだろうか?ゲホゲホ!あ〜、土煙対策しないと駄目だな。口の中が埃だらけで気持ち悪いわ・・・」




