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オーサコ城侵入

 家族だと思っていた者に裏切られる。

 どんな気持ちになるんだろう?


 スマジはホノヒサに、誑かされたような感じがする。

 ハッシマーに与した時点で、それなりの罰はあるのは仕方ないけど、オケツや帝を無視してそのまま領地に戻ったのがいけなかったと思うんだよね。

 それさえしなければ、もう少し軽い罰に変更されていた気もするし。

 そんな八方塞がりになった彼は、ホノヒサを名乗るモールマンの口車に乗ったわけだが。

 この様子だとスマジ家は取り潰しになり、滅亡だという。

 戦国の世の常だとは思うけど、実際に聞くとちょっと複雑な気持ちになるね。


 ただ、少し考えさせられる話でもあった。

 もし僕達が別々の身体で、知らない身体になっていたとしたら。

 僕は兄と名乗る人物の話を、真に受けるのだろうか?

 そして逆も然りだ。

 僕が弟だと名乗って、兄は信じてくれるかな?

 スマジのように精神的に弱っていたら、藁にもすがる思いで信じたかもね。

 でも、そうじゃなかったら。

 知識は同じでも、中身は別人かもしれない。

 それを見抜く術は、僕には無い。

 僕は兄を、信じきれるのだろうか?

 そして兄は、僕を信じてくれるのだろうか?

 その結果を想像するのが、僕はとても怖いです。








 一益が電話を終え振り返ると、とうとうスマジの騎士とモールマンはそこに立っていなかった。



「これで大丈夫だ」


「そうですか。数は少ないと思いますが、よろしくお願いします」


 モールマンの用件も何とかなる。



「あの〜、どうしてモールマンと平然と喋ってるんですかね?」


「騎士王か。ちょっと彼は特殊な個体のようでな。話が通じたのだ」


「へぇ、そうなんですね」


「・・・ワシが言うのもなんだが、オヌシはもう少し人を疑った方が良いと思うぞ」


「え?」


 自分で言うのもおかしな話だが、こんな怪しげな話を簡単に鵜呑みにしたオケツを、トップとしては危険だと一益はそれを危惧している。



「よく分からないけど、そういう話は帝に任せてますから」


「役割分担かね?まあ良い」


 一益は視線を他へやった。

 河童達が、こちらへ向かってきていたからだ。



「呑気に会話とはのぅ。もう少し年寄りを労ってくれても、良かったんじゃないの?」


「爺さん、アンタいつもは年寄り扱いすると、怒っていただろうに」


「今は本当の年寄りだからな」


 一益と老人が軽口を叩くと、騎士達も戻ってくる。

 オケツは休憩を指示した後、再び地下水脈が見える場所で待機する事にした。



「次、来ないですよね?」


「それはワシ達にも分からん」


「しばらくは待ちじゃなぁ。相撲でもするか?」


「どうして相撲!?」


 老人の突然の提案に戸惑うオケツ。

 河童達は盛り上がっているが、騒いでモールマンにバレたら元も子もない。

 故に静かに待機する事になった。



「暇だなぁ」


「私はこのまま暇な方が、ありがたいですよ」


「同感だ」


「時間潰しに相撲でも」


「しません」


 老人とオケツの問答が何度か続き、彼等は打ち解けていくのだった。








 一方、スマジと別れたホノヒサモールマンは、誰も知らない地下通路を歩いている。

 そこは地底とは違い、人の手で作られた隠し通路だった。



「全員、分かっているな?」


 ホノヒサが話し掛けると、様々な色の岩で覆われたモールマン達が、ホノヒサに向かって頷く。



「この階段を上がれば、そこは城内になる。即時散開して、見つからないように皆殺しにしろ」


 そこに一体のモールマンが手を挙げる。

 ホノヒサが喋る事を許可すると、口を開いた。



「王よ、強き者が居た場合は、その場で食べてもよろしいのですか?」


「許可する。魔族は手強い。お前達だろうと、簡単にはいかない相手だ。新たな力を手に入れて、蹂躙するのだ」


「おぉ!」


 小さな歓声が上がると、ホノヒサが手でそれを制する。



「今回は特別だ。自らの手で強者を倒し、誰よりも強くなれ。無論、王である私を越えても良いぞ」


 ホノヒサの静かな声に、誰も反応しない。

 王であるホノヒサは越えられないと、彼等は理解しているからだ。

 そして迷彩色のような緑色をした岩を持つモールマンから、更なる質問が始まる。



「もし自分に勝てないと思った相手と出会したら、どうすれば良いでしょうか?王の作戦を遂行するのであれば、その場から逃亡。そして別の者達を倒すのがベストだと判断しますが?」


「その判断で間違いない。我々は少数で攻め落とすのだ。まずは数を減らす。勝てないと思ったら誰かと協力するか、もしくは逃亡を選択しろ」


「了解であります」


 軍人のような敬礼をする、迷彩モールマン。

 他からは何も意見は無いようで、いよいよ階段に足を掛けた。



「最後に一つだけ言っておく。魔王と呼ばれる存在を見たら、全員にサインを送れ。そして近寄らずに、すぐに逃げるのだ」


「そういえば王よ。マエダケという者を見つけた場合は、どうすれば良いですか?」


 その名を出すと、ホノヒサモールマンの雰囲気が豹変する。

 震え出すモールマンも出てくる始末だった。

 それに気付いたホノヒサは、すぐに元の気配へと戻ると、その質問に対して答えた。



「倒せるのなら倒して良い。私の狙いは魔王のみ。奴さえ食らえば、私は唯一無二の存在として、この世界を支配出来る」


 淡々と答えるホノヒサに、他のモールマンは気を引き締めた。

 そして先頭の迷彩モールマンが、階段を上がっていく。



「行け!我が戦士達よ」


 王の声により、モールマン達は城内へと入っていくのだった。








 そろそろ暗くなってきたな。

 空での戦いも地上の戦いも、ほとんど勝敗は決した気がする。

 地底は分からないけど、ジェラルディンが現れた時点で大丈夫だろう。



【向こうも騎士達が引き返してる。夜戦には突入しないみたいだぞ】


 流石は兄さん。

 僕が見えなくとも、ちゃんと見えているらしい。



「我々も出迎えましょう」


「そうだね」


 ウケフジが高台から下りようとすると、空から一際大きいワイバーンが近付いてくるのが分かる。

 トキド達が僕達に気付いて、こっちに来たようだ。



「怪我人は?」


「かなり少ない。余程酷い連中は、城に戻している」


「そうか。それは良かった」


 トキドの問いに、要点だけ答えるウケフジ。

 二人の間には、僕達には知らない何かがあるんだろう。



「もうすぐ夜になるし、美味いメシ食って明日に備えるかぁ!」


「トキド殿は元気そうなので、夜戦をしてきても良いのですよ?」


「一人で!?」


 ウケフジの冗談に乗っかるトキド。

 そんな時、ウケフジがトキドのワイバーンである国江の様子がおかしい事に気付く。



「どうしたんだ?」


「いえ、ワイバーンが忙しなく、首を動かしているので。少し気になって」


「どうした国江?何か気になる事があるのか?」


 国江が落ち着きなく首を動かすので、僕も気になってきた。

 空から何か降ってくるのかな?

 上を見たが、全く分からない。



【・・・何か臭いな。屁じゃないぞ】


 誰もそんな事言ってないよ。

 トキドもウケフジも、こんな時にしてないだろうし。



【何か肉が焼けるような臭いというか。トキド以外はそんなデカイ炎、使ってないしな。何だろう?近場から臭うのもおかしいし】


 風上はどっちだ?

 戦場じゃないから、城の方だけど。

 城の方からなら、肉の焼ける臭いって、ハクトがご飯作ってるとかじゃなくて?



【そういう臭いじゃない。人の肉が焼ける臭いだ。ハッキリ言ってヤバイ臭いなんだけど、城は関係無い気がするし。ん?】



 その時だった。

 城の中から外に向かって、信号弾が発射された。



「信号の色は・・・赤だ!」


「緊急信号だ!」


「緊急って、城だと何がある!?えーと、えーと」


 慌てるトキドだが、そんな事より行った方が早い。



「トキドは信号が発射された場所を見たか?」


「見た!」


「そのまま飛んで、発射地点に行ってくれ。僕達も後から、急いで向かう」


「分かった」


 トキドは国江をすぐに飛ばし、城の方へと向かっていく。

 すると入れ替わりに、フライトライクに乗った太田と慶次。

 そしてベティとタツザマもやって来た。



「今のは何!?」


「分からん。だが緊急の何かが起きてるらしい」


「拙者達も急いだ方が良いでござるな!?」


「私達も行くぞ。太田殿、城には仲間も居るのだろう?」


 そうだ!

 城にはハクトが居る。

 信号弾を上げたのが誰か分からないが、彼なら色々とやってくれているはず。



「ギュンターの言う通りね。怪我人も居るし、心配だわ」


「マルテ殿、拙者達も行くでござるよ。魔力は残っているでござるか?」


「あんまり無いけど、そんな事言ってられないでしょ」


 皆、既に戦ってきた後なんだよな。

 余力を残して戦うほど、余裕があったわけじゃないし。



「ウケフジとギュンターはここに待機。何かあった時の為に、戦場から戻ってくる連中をまとめてくれ。僕達が行ってくる」


「承知しました」


 この中で一番指揮能力があるのは、この二人だと思う。

 ギュンターは帝国のエリートだし、ウケフジは騎士の中でも有能だ。



「太田、僕を乗せて城へ行ってくれ」


「お任せを!」


 ギュンターが高台に飛び移り、入れ代わりに僕が飛び乗る。

 タツザマとベティは先に行くと言って、そのまま城へ向かっていった。



「太田、慶次行こう」


「ちょっと待ったぁ!!」


「んあ?」


 大きな声で呼び止められ、僕達はトライクを止めると、そこにはタケシが汗だくになって立っていた。



「さっきの何?」


「城からの緊急信号だ。お前も乗っていけ」


「え?良いの?」


 トライクに乗れるとあって、嬉しそうなタケシ。

 ギュンターとマルテが乗っていた時、ちょっと羨ましそうな目をしていたからな。



「今度こそ出発だ!」








 ハクトは怪我人を寝かせていた一室で、とある重傷者の怪我を診ていた。

 回復魔法と薬草のダブル効果もあり、怪我人は無事に治療を終える。



「血は足りないので、まだ寝ていて下さい。しばらくは頭がフラフラすると思います」


 ハクトの治療を終えた騎士が寝たのを確認すると、彼は席を立とうとする。

 すると、外から妙な音が聞こえてきた。



「どうかしましたか?」


「起こしてしまいましたか。すいません、外の様子がおかしいです」


「外の様子が?」


 ハクトは外の音を聞こうと少しだけ扉を開けると、急いで扉を閉めた。



「ど、どうしました?」


「て、敵が来てます。しかも、城の中に」


「えぇ!?うっ!」


 思わず起き上がった騎士だったが、貧血のような症状で再びへたり込んでしまった。



「戦闘音は聞こえませんよ」


「多分、暗殺のような手口です。僕じゃなければ、気付かなかったかも」


 ハクトは施錠をすると、腰にナイフがあるのを確認する。

 すると、ドアノブをガチャガチャと回す音が聞こえた。



「喋らないように」


 ハクトの言葉を聞き、両手で口を覆う騎士。

 ドアノブを凝視しながら、扉横へと移動するハクト。

 外の状態を聞く限り、敵は音を立てるような荒事は避けるはず。

 もし少しでも扉が開いたら、ナイフを突き出せるように準備していた。


 しばらくすると、諦めたようにドアノブが動かなくなった。

 ホッとした様子の騎士とハクト。

 だが、敵は二人の予想外の行動に移る。



「グハッ!な、何故?」


 扉横に立っていたハクトは、壁を突き破ったモールマンの手によって、首を掴まれてしまったのだ。

 慌てて掴まれた腕を見て、岩の隙間を狙ってナイフを突き刺すと、転がりながらベッド横まで移動する。



「ビンゴ!普通じゃない気配がしたと思ったら、魔族だったか」


「な、何だコイツ!?」


 オレンジという今まで見た事の無い色をしたモールマンに、ハクトは警戒感を強める。

 そして彼は、咄嗟に騎士に向かって叫んだ。







「オナキギャワさん!僕が囮になる間に、窓から信号弾を上げて下さい!」

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