王手
無自覚ってどう思う?
例えば頭が良いのに、俺は勉強なんかほとんどしてないからみたいな事を言う人。
ムカつきませんか?
ハッキリ言おう。
無自覚とか無意識に人を傷付ける事は、多々あると思ってる。
無自覚や無意識と言っている通り、本人には傷付けたと思っていない。
だって言った人からしたら、何が悪いのか分かってないんだから。
だから周囲から謝れよって言われても、何故?という反応が返ってくる。
そんな態度が余計に、相手を傷付けるのだ。
そして僕の経験上、このタイプにはある特徴がある。
皆、天才肌だという事だ。
冒頭でも言った通り、何もしなくても出来ちゃうんだよね。
塾やゼミに行かなくても、大学行けちゃいましたみたいな。
部活サボってるのに、レギュラーですみたいな。
大学の件はそうでもないけど、部活の件は頑張ってる人からしたら、反感買うだろうね。
ちなみに僕は、兄の事をそんな風には思っていません。
努力してるのも見てるし、大怪我で挫折しかけた事も見ているから。
天才肌だとは思うけど、努力の人だとも思ってる。
恥ずかしいから、兄の話は置いておこう。
そんな無自覚無意識に何かを言う人。
そして僕の中では、無自覚無意識の人には無神経という言葉を追加する事が多いです。
他人の評価なんか僕もそんなに気にしないけど、他人を気遣う事だけは忘れないようにしないとね。
じゃないとトキドみたいに、火柱出して怒られちゃうから。
ベティの怒りの声に、タツザマもウンウンと頷いている。
二人とも危険な目に遭ったようだ。
しかしトキドは、黄色いモールマンを倒す為だったからと普通に受け流している。
「ナハハハ!すまんな」
「下の事を気にしなさいよ」
「もし地上の騎士に当たっていたら、どうするつもりだったのか?」
「俺が一番上空だったし、それは無いかな〜って思ったんだけど。それでやられたら、その騎士が弱かったって事で」
反省の色を見せないトキド。
トキドの騎士は強者揃いだ。
こんなトップなら、強くならないと生きていけないのだろうと、二人は察する。
しかしベティも、深く反省した。
人の振り見て我が振り直せ。
自分も似たような事をしているなと、改めて行動を改善しようと思ったのだった。
「ところでマルエスタちゃんの指示は、これで完遂したわけだけど。これからどうするの?」
「そうですなぁ。拙者もそれが気になっていた」
マルエスタの中では赤青黄のモールマンとの戦いで、三人は深く痛手を負うと思っていた。
倒せるとしても、無傷では居られない。
ジャイアントではない彼等に無理はさせられないと、それ以上の事は希望しなかったのだ。
「俺は一旦帰りたいかなぁ」
「珍しい。トキドちゃんが泣き言を言うなんて」
「戦えなくはないよ。でもあの黄色いモールマン、変な液体掛けてきて臭いんだよ」
蒸発した酸が、トキドの身体に異臭を放たさせていた。
自分でも臭うのだ。
他人はもっとキツイに違いない。
しかし二人はそんなトキドを気遣って、臭いについて一言も言っていなかった。
「マルエスタちゃんは地上に居ないし。一旦戻って、魔王様に確認してみましょ」
「俺、賛成」
「だったら拙者も」
「決まりね」
ベティの考えに賛同する二人。
三人は地上戦で危険な場所への援護をしつつ、一度撤退をするのだった。
その頃とある場所では、落ち着きが無いスマジがある報告を待っていた。
「報告します!空の制圧に向かっていた色付きのモールマンが、敗北しました」
「地上も同じく、突如現れた巨人と奇妙なマスクを被った男に、色付きが倒されています!」
「そうか、分かった。お前達は戻れ」
スマジは極めて冷静を装い、報告に来た騎士達を外へと追いやる。
誰も居なくなった後、彼は椅子を蹴り飛ばした。
「ホノヒサァ!何処に行きおったぁ!」
苛立ちを隠せないスマジは、誰も居ない中で喚き散らしている。
そんな時だった。
地面が大きく盛り上がった。
「戻りました」
「お、お前!?何処に行っていた!」
盛り上がった土から出てきたのは、モールマンの王と呼ばれる、スマジホノヒサだった。
彼に続いて、モールマンによる精鋭部隊が続々と地上へ上がってくる。
「オジキ殿、攻勢に出ますよ」
「今更遅いわ!お前が用意していた色付きは、全員敗北したぞ!」
「あぁ、彼等は良いのです」
敗北したという報告を聞いているのに、顔色一つ変えないホノヒサ。
スマジにはモールマンの顔色など分からないのだが、その声に全く焦りが感じられない事から、想定内だと暗に言っていた。
「色付きは特殊なモールマンなのであろう?それが敗北したのに、良いとはどういう事だ?」
「色付きならば、彼等は皆そうですよ」
ホノヒサが連れている精鋭部隊は、全員が色付きのモールマンである。
スマジに能力は知らされていないが、中には金や銀色に輝く岩を持つモールマンも居るので、明らかに他よりも格上だとスマジは思った。
「攻勢に出ると言ったな。しかし、地上も空もほぼほぼ勝敗は決していると思うのだが」
スマジには地底の様子は知らされていない。
空や地上は騎士でも判断出来るのだが、地底は喋るモールマンが知らせてくれないと、何も分からないだ。
そんなスマジに対して、ホノヒサは詳しい情報をあえて与えなかった。
「良いのですよ。地上も空も、負けると思っていました。そして地底もね」
「地底も!?」
「地上や空は、モールマンよりも地上の者達の方が、一日の長があります。特に空。あの鳥人族とかいう魔族の登場は予想していませんでしたが、八割がた負けるとは思っていましたからね」
「負けると思っていて、わざわざ兵を使うのか?」
「勝利を描くには、捨て駒も必要ですから」
自分の同胞を、捨て駒と言ってのけるホノヒサ。
スマジは冷淡に言うホノヒサに、いつか自分達も同じ扱いを受けるのではと、心の中で思っていた。
「は、話は分かった。それで、攻勢に出るとはどういう意味だ?」
「オジキ殿は、オーサコ城を覚えていますか?」
「そりゃ多少はな」
「そうですか。では、城の周りに堀があるのも?」
「あぁ、それは覚えている」
スマジはうろ覚えながら、それくらいは頭の中に残っていた。
城の内部までは詳しく知らないものの、堀がある事くらいは覚えていたのだ。
しかし、スマジには理解出来ない事がある。
「城へ向かうのか?」
「えぇ。半分は」
「半分?では、残り半分は?」
「その先ですよ」
「先?」
スマジはホノヒサの遠回しな言い方に、質問しか出てこない。
先と言われ、頭によぎった場所。
それに気付いた彼は、顔色が変わった。
「お、おい!どうやって行くつもりだ!地底だって、あのジャイアントとかいう大きなアリに負けているんだろう!?」
「表向きはね。あんな地底の通路なんか、使いませんよ」
「地底の通路を使わない?」
「とにかく!地上と空の指揮は、他の者に任せましょう。オジキ殿が信頼する騎士を、用意して下さい」
「数は?」
「最速で動ける人数で」
「わ、分かった」
ホノヒサから指示を受けると、スマジは慌てて陣を出ていく。
指揮官クラスの騎士を複数名呼ぶと、地上の騎士達の指揮を彼等に託すのだった。
スマジは後悔した。
初めて入る地底の中。
暗く閉塞感のある地底に、スマジは心が鬱屈していく。
「何処へ行くのだ?」
「こちらです」
ホノヒサに案内された場所まで行くと、スマジは何か聞き覚えがある音が耳に入る。
しかしそれは、地底で聞くとは思わなかった音だ。
「地底にも川が流れているのか?」
「地下水脈です」
「地下水脈?」
「地底にも水の流れがあります。そしてこの水脈は、色々な場所に伸びています」
「・・・それで、水脈とやらに来て何をするのだ?」
「勿論、水脈に入るのですよ」
「ワシ等に真っ暗な中、泳げというのか!?」
まさかの案に、スマジは声が裏返る。
それを聞いたホノヒサも、珍しく大きな声で笑った。
「アッハッハッハ!流石の私でも、オジキ殿達に泳げなんて命令はしませんよ。だから、これを用意しました」
ホノヒサが口笛を鳴らすと、近くに居たモールマンが光を照らした。
スマジはそれを見て驚いたが、照らされた物を見て更に驚いた。
「ふ、船だと!?」
「オジキ殿は、この船に乗って下さい。私の用意したモールマンが漕いでくれます」
ホノヒサが言うと、腕の太さが他の倍近いモールマンが、船にスタンバイしていた。
彼等が漕ぐのなら、自分達が漕ぐよりも倍近く速いだろう。
そう思ったスマジは、ニヤリと笑った。
「ふむ、では聞こう。ワシが向かうのはどっちだ?」
「フフ、オジキ殿はどっちに行きたいのですか?」
「・・・」
答えないスマジ。
しかしホノヒサは、既に彼に向かわせる場所を決めていた。
「意地悪して、すいませんね。オジキ殿は勿論、帝の首を狙ってもらいますよ」
「そうか!そうだよな。ワシ達が色々と辛酸を舐める事になったのは、奴等のせいだからな。恩に切るぞ」
「当然の事をしたまでですよ。地下水脈を通れば、御所の下まで行けます。これは確認済みですので、安心して向かって下さい」
「ならば、奇襲が掛けられると?」
頷くホノヒサ。
それを見たスマジは、獰猛な笑顔を浮かべた。
「地上やら空やらを制圧して、地道に攻めるなんて面倒はしません。盤面をひっくり返して何も無い場所からいきなり王手を掛けるんです」
「今なら騎士の大半は、このオーサコに出てきているものな」
「大半のモールマンを集めたのも、このオーサコが決戦の地だと思わせる為。全ては奴等を欺く為なのです」
「分かった。それで、お前はどうするのだ?」
「私は王ではなく、玉将を取りに行きますよ」
「玉将?」
王が帝なのは、スマジも理解していた。
しかし玉と言われると、誰の事なのか想像が出来なかった。
「オジキ殿は、騎士王と帝以外で一番厄介なのは誰だか、知っていますか?」
「厄介な者?トキドやタツザマ・・・ではないな。手強いが、やり方次第では勝てる相手だ。となると・・・騎士ではない?」
「流石はオジキ殿です」
ホノヒサはスマジの様子がいつもと同じに戻り、本心で誉めている。
地底に来た時は陰鬱な雰囲気だったが、今は作戦の内容と光を得た事から、いつものスマジに戻っていた。
「・・・魔王の事か!」
「その通り!雑賀孫市と名乗り、ケルメン騎士王国内を我が物顔で動いていた人物!あのガキが居なければ、ハッシマー殿、そして私達に敗北は無かった!」
「そうだ、そうだな!奴が動いていたから、ハッシマー殿が負けたと言っても過言ではない」
ハッシマー敗北のキッカケは、全て魔王のせい。
オケツへの恨みよりも、魔王への恨みの方が二人には大きかった。
「なるほど。ワシが帝を、オヌシが魔王を倒すというのだな?」
ようやく玉将が誰なのかを理解したスマジ。
そしてホノヒサは、他にも色々と調べていた。
「オジキ殿が王将である帝を。私が玉将である魔王を。私達はルールに則って戦う理由なんか、無いんです。盤面なんか無視して、いきなり王手を掛けてやるんですよ。王将も玉将も、いきなりぶち壊してやれば良いんです。帝を守っているオケツは、ハッシマー殿にたまたま勝てたんでしょう。オジキ殿なら絶対に勝てますよ」




