伏兵と援軍
人にはそれぞれ、お世話になった人が居る。
と思う。
それは親であり友人であり先生であり、中には兄弟姉妹だってそれに当てはまる。
タケシにとってこの世界で一番世話になったのは、モールマンに食われてしまったミスタークエルボというプロレスラーだったんだろう。
僕ならそれは、僕達を引き取ってくれた親戚なんだと思う。
何不自由無く生活させてくれたし、ちゃんと大学まで行かせてもらえた。
勿論二人とも、学費は奨学金だけどね。
まあ兄の場合、高校からは特待生として入ってるから、学費は免除って聞いた気がするけど。
ではタケシと同様に考えてみよう。
この世界に来てからと考えると、僕達は誰にお世話になったのだろうか?
最初に僕達を見つけた猫田さん?
その村の村長だった又左や、隣町の長可さん?
それとも初めての友人である、ハクトや蘭丸かな。
改めて思ったけど、それは太田や慶次、佐藤さんにイッシー。
領主の皆も含めて、全員だろうね。
やっぱり僕達は恵まれているんだなと、しみじみと感じてしまった。
沼田とアグーは、今回の責任者であるマルエスタの指示に従った。
だが問題は山積みである。
数で劣っているのは仕方ないと、まだ諦められる。
だが一番の問題は、モールマンの背後に隠されている大きなミミズ、メメゾだ。
脱出をしようと一点突破をしようとしても、モールマンの壁を抜けた先には、天敵であるメメゾの大群が待っている。
モールマンに勝てたとしても、メメゾには勝てない。
マルエスタはそれを見越して、持久戦を選んだのだった。
「本当に気付いてもらえるのだろうか?」
「難しい。上も戦ってる」
沼田の言葉に、珍しく二言で返すアグー。
マルエスタは大丈夫だと言ったが、内心ではアグーと同様の考えだった。
地上も戦いが激化していれば、気付いてもらっても派遣は難しい。
マルエスタは、全滅という二文字が頭をよぎり始める。
「まあ良い。マルエスタが持久戦だと言うんだ。私達はそれを信じて、援軍が来るまで戦い続けよう」
「分かった」
沼田とアグーは前へ出ていく。
薄暗くても分かる数の差。
彼等は全てをマルエスタへと託した。
マルエスタはジャイアント達に指示を出しながら、まだかまだかと援軍を待った。
「怪我をした者は後方へ。回復薬で傷を癒した後は、体力回復に努めて下さい」
若狭国の回復薬で、傷は治る。
しかし疲労までは、そうもいかない。
タウリンが四桁入った栄養ドリンクを飲んで、体力前借りみたいな事は、この世界では出来ないのだ。
だからこそマルエスタは、限られた兵数で如何に長時間戦うか。
それを念頭に置いて戦っていた。
「沼田」
「どうした?」
「アレ」
沼田とアグーは、二人一組で戦っていた。
沼田が攻撃を受けるタンク役を引き受け、アグーは敵の隙を突いて重い一撃を入れる。
沼田の体力次第で崩れるが、彼の後ろには喋る事が出来るジャイアント達が、多く配備されている。
沼田要員と呼ばれるジャイアント達だ。
「良いよ良いよ〜!」
「腹筋板チョコ!」
沼田への掛け声により、彼の身体はより黒く、そして油ギッシュにテカっていた。
沼田はいつになく絶好調だった。
「ここで渾身の、マストマスキュラー!」
しわくちゃの笑顔でモールマンを見る沼田。
後ろからの声援に対し、モールマン達の爪は大きく弾かれる。
モールマンは沼田の笑顔にタジタジになり、距離を取っている。
そこでアグーは、再び沼田に上を見ろと指を差した。
「・・・明かり?」
「そう」
「もしかしたら、あの辺りは地上が近いのか!?」
地上の光が漏れているのでは?
沼田とアグーはそう考え、光の下まで押し込もうとし始める。
「ん?沼田さん!アグーさん!そこは違う!」
一箇所だけ、やけに飛び出している。
円になって隙間を作らず、全員の背中を守るべし。
それがマルエスタからの、今の指示だった。
しかし沼田とアグーは、微かに漏れている光に対して先行してしまう。
「それは罠です!」
「え?」
沼田がマルエスタの声に気付き振り返ったその時、沼田とアグーは落盤に巻き込まれてしまった。
ジャイアントの一部と沼田達は、幸い落盤による直撃は避けられた。
今は運良く出来た大きな隙間に、沼田とアグー、複数のジャイアントと共に生き埋めになっている。
しかし多くのジャイアントが、今の落盤で命を落としてしまったようだ。
「すまない」
「お前は悪くないさ。私も冷静じゃなかった。悪い」
アグーが謝ると、沼田も同罪だと謝罪する。
沼田は生き埋めになってから、逆に冷静になった。
普通に考えれば、地底に潜った段階でそこまで浅いはずが無い。
上から光が見えたところで、そこが地上なはずが無かったのだ。
しかし、彼等はその罠に引っ掛かってしまった。
それは彼等の心理を突いた、巧妙な罠だった。
「危ない!」
マルエスタが叫んだ時には、もう遅かった。
落盤に巻き込まれる沼田達を見て、やってしまったと酷く後悔する。
まだ戦いは終わっていない。
すぐに頭を切り替えたマルエスタは、再びジャイアントの指揮を執った。
すると、モールマンの軍勢から聞き慣れない声が聞こえてくる。
「ヌフフフ、やはり馬鹿でしたねぇ」
「誰だ!?」
「誰だと言われても、今はしがないモールマンですよ。ヌフフフ」
気持ち悪い笑い方をしてくるモールマン。
マルエスタはそのモールマンが、只者ではないとすぐに悟った。
そのモールマンは、トーリ軍の一人を食べていた。
それはトーリ家の中では主に外交を担当する者だったが、人を見る目があり、色々な意味でトーリに重宝されていた人物だった。
その者の名はサンチョクジ・エティーと言った。
実はエティーは、生前のハッシマーとも通じていて、トーリ軍がハッシマーと敵対しなかったのも、彼の功績だとも言われている。
そんなエティーには特殊な能力があった。
彼は人の顔色を見て、大まかな考えが読み取れたのだ。
しかしモールマンに食われた彼には、大きな問題があった。
問題というのは、人の顔色を見れば分かるのだが、モールマンやジャイアントの顔を見てもサッパリ分からなかったのだ。
両者とも人ではないのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
そんなエティーの能力と思考を受け継いだモールマンだったが、彼はある作戦に出た。
それは地底にやってくるヒト族の顔色を、窺う事だった。
暗い閉塞感のある地底に来たヒト族の顔なら、すぐに分かる。
彼はそう思い、今回の作戦を思いついたのだった。
「やはり人の心は、簡単で読みやすいですなぁ。ヌフフフ」
モールマンが一言言うと、落盤した場所が少し動いた。
生存者が居る。
マルエスタはそれに気付いたが、下手に動く事が出来なかった。
モールマンに、自分の心も読まれると思ったからだ。
ヒト族の顔色しか窺えないと知らないマルエスタは、下手に刺激するとバレてしまうと思い、とても慎重になっていた。
「フゥ、よし!皆、堪えて下さい!」
ジャイアントに声を掛けるマルエスタ。
モールマンは声から、マルエスタの心が折れていない事を確認すると、更なる一手に出る。
「降りてきなさい」
「降りて?」
マルエスタは落盤箇所を見ると、ちょっとした空洞がある事を発見する。
そこには複数のモールマンが待機していて、今の合図で下へと飛び降りてきたのだった。
沼田やアグー達が守っていた場所は、今は落盤で空いてしまっている。
そこからモールマンが、マルエスタの居る中央へと侵攻してきた。
「ヌフフフ、どうしますか?」
「・・・」
マルエスタは焦燥感を隠しながら、魔王から用意されていた武器を手に取った。
マルエスタに合わせた、他より細めの棍棒である。
「来い!」
彼は死ぬかもしれないと覚悟を決め、棍棒を構えた。
「アグー、出られそうか?」
「大丈夫。多分」
アグーは周りを見回し、そう簡単には崩れないと判断。
今は言葉が話せないジャイアントを率いて、脱出の計画を考えていた。
すると、上から何か乗られたようで、ズシンという音が聞こえてくる。
「な、何だ?」
「何かが乗ってきた。複数」
「複数?モールマンか!」
「多分」
モールマンが落盤の上を移動している。
それでも崩れない事が分かると、沼田は岩の一部を撤去しようと言い出す。
「大丈夫だと思うか?」
「・・・ジャイアントに聞く」
「話せないのにどうやって?」
アグーはジャイアントの前に移動すると、岩をどかすような身振り手振りを始める。
アグーもジャイアントも一切言葉を喋らないので、沼田はサイレント映画でも見ているのかのような気分になった。
しかし、沼田は驚愕する事になった。
アグーのジェスチャーは、ジャイアントに通じたのだ。
「頼む」
動き始めたジャイアントに、アグーが請願する。
するとジャイアント達は、四方八方に分かれて周りの岩を確認を始める。
二体のジャイアントが他のジャイアントを呼び、そのうち一体のジャイアントの発見した場所へと全員が集まった。
沼田とアグーも移動すると、彼等は流れ作業で岩をどかし始めた。
「おぉ!?」
「速い」
重たいはずの岩が、一気に撤去されていく。
ヘビー級の二人も手伝おうとしたのだが、この輪の中に入るのは逆に足手まといだと二人は判断し、見守る事にした。
「暗くて出られたのか、サッパリ分からんな」
薄暗い地底の通路に出られても、特に明かりは無い。
だから外へ出られたかの判断は、全てジャイアントに頼るしかないのだ。
「ジャイアントの動きが止まった。もしかして、外と繋がった?」
先頭のジャイアントが岩を運んでこない。
しばらく二人は見ていると、突然先頭のジャイアントが腕を伸ばした。
そして、何かを引っ張っている。
「ロープでも見つけた?」
「違う!モールマン!」
「は?」
ジャイアントが引っ張り込んだのは、モールマンの足だった。
おもいきり中へと引き摺り込むと、後ろで待機していたジャイアントが両手をモールマンの頭へ振り下ろす。
丁度後頭部に岩をぶつけたのか、モールマンは痙攣してから動かなくなった。
「よし、外に出られるぞ!」
ジャイアントがモールマンを食べ始めたのを見た二人は、それを直視しないようにモールマンが入ってきた穴へとすぐに移動する。
そしてとうとう、元居た地底通路へと復帰出来たのだった。
しかし、彼等は出た瞬間に驚きの光景を目にする。
「あ、アグー!」
アグーは沼田に言われる前から、すぐに走り出していた。
「生きていたんですね!助かりました」
エティーモールマンは、沼田達が居なくなったのを機に、メメゾを前線へと送り込んできていた。
虎の子のメメゾが前線に投入された事で、ジャイアント達の守備はズタズタになってしまう。
「飛車角は落ちました。さて、貴方を取って投了ですかねぇ。む?しぶといな。ゴキブリ並みか」
沼田とアグーが脱出したのを確認したエティーモールマンは、悪態を吐く。
すると、今度はマルエスタの表情が変わった。
「フ、フフフ、アハハハ!」
「詰んで気でも狂いましたか?」
「ハァ、では僕も言わせてもらいましょう。確か、将棋というヤツでしたね。お二人のおかげで、起死回生の一手に間に合いました」
「どういう意味だ?」
沼田が質問すると、地底で軽い振動が起き始める。
地震だと思った沼田とアグーは、今度こそ生き埋めになるのではと緊張し始めた。
「大丈夫です。もうすぐ来ます」
マルエスタがそう言うと、突然地面から大きな手がエティーモールマンを掴んだ。
「な、何だぁ!?」
沼田が驚愕すると、その手の持ち主が姿を現す。
「やれやれ。アタシの部下の分際で、アタシに命令してくるとは。マルエスタ、お前もやるようになったなぁ。さて、悪巧みをしていそうな臭い考えが、コイツからプンプン臭ってくる。ゴミは処理しておこう」




