死の森。ワイバーン
「急ぎましょう」
レナータが走り出した。
「え、待って、待って」
私は慌てて追いかける。ナタリーと一緒だ。カイトはレナータと一緒に走っていく。
「都代とナタリーは後からでいいから!」
そう叫びながらカイトは私達に手を振った。
「あ、ふう・・・ダメ、走れない」
私はわき腹を押さえてスピードを落とした。
「大丈夫ですか?都代」
ナタリーが覗き込んできた。
「うん、大丈夫。歩いていれば平気」
残念ながら、体力は以前のままだ。ちょっと走っただけでこのザマだよ。
「急いで行っても、戦えなければ逆に危険ですからね。ちゃんと用意をしていきましょう」
「うん、そうだね」
少し遠くの方で再び気味の悪い鳴き声がした。
そして、何かが壊れるような、大きな衝撃音・・・
思わずナタリーと顔を見合わせた。
「都代ちゃん、ナタリーちゃん。ワイバーンは非常に大きな飛行型の魔物です。お二人にわかりやすく言うならば、軽飛行機くらいの大きさで、飛行速度も同じくらいです。主な攻撃は上空からの岩落とし、魔法攻撃によるウインドスラッシュですかね」
「岩落とし?」
「ええ、河原なんかに落ちている岩を持ち運び、上空から落としてくるものです」
「うわぁ・・・いやな攻撃するね」
「直撃すれば被害は甚大ですが、見えていれば避けようはありますし、魔法の応用で落下物の軌道を変えることも可能です。なにせ物理攻撃ですから」
「なるほど・・・」
「ウインドスラッシュは斬撃です。風系魔法ですが、当たると非金属の盾くらいは切り裂きます。ワイバーンは、このウインドスラッシュを放ちながら上空から急降下、地上のものを破壊します」
ナタリーが手を挙げた。
「戦闘機の地上掃射みたいな感じですか?」
「そうです。高速で接近してくるため逃げることが出来ません。防ぐ方法は、やられる前に撃ち落とすか、絶対防御の魔法を使うかです」
「絶対防御なんて魔法、あるの?聞いたこと無いよ?」
「ありますよ。ただ、そんな魔法を使える人は滅多にいませんけど・・・」
息が落ち着いてきたから、再び走った。
ついに森が切れた。
藪や木や草から解放された。
「道路だ!」
砂利の敷かれた道へ出た。砂利は適度に踏み固められている。
そして、草地が広がっている。
「村ですね」
「レナータはどっちに行ったんだろう?」
森が終わったところは、荒れ地のようになっていた。耕作地でもないけど、木は生えていない。
「放牧用の牧場、といったところですね。それと魔物除けの緩衝地の役割もあります。村の中心はこの先、向こうに見える柵の内側でしょう」
「村へ急ぎましょう」
わき腹を押さえながら出来るだけ早く歩いた。
うん、もう走れなかった・・・。
村の柵がはっきり見えてきた。
それは高さ2メートルくらいの高さ。木材を組み上げて作られたバリケードだった。それは村をぐるっと取り囲んでいるようだった。
レナータの姿はない。
ギャオーッス、とワイバーンの鳴き声が聞こえた。
はっとして見上げると、上空から降下してくる姿が見えた。
けっこう高度がある。
その急降下中のワイバーンに向かって村の中からファイヤーボールらしい火の玉が何発も飛んでいく。けれども、そのほとんどをワイバーンは避けた。高度があるため、ファイヤーボールの軌道も読まれ易い。
でも、高度が下がってくると連続で撃たれるファイヤーボールを避けにくくなるのだろう。途中で反転して上空へ上がっていく。
「地上で迎撃しているのはレナータ様でしょう。あれほどの射程を持つファイヤーボールを撃てる者は村人にはいないでしょうから」
「そうなの?この世界って魔法文明が発達しているんでしょう?」
「ええ、発達しています。ですが、戦闘攻撃魔法というのは特別な技能なのですよ。一般の村人というのは、火おこしの魔法、飲料水を出す魔法から始まり、高度な魔法で暖房魔法、冷房魔法といったところです」
「でも、私、攻撃魔法始めて、3ヶ月だけど、結構いい線いってると思うんだ。村人も練習すればいいのに」
「都代ちゃんは・・・けっこう特別ですよ。魔法力も桁違いに多いですし、魔法攻撃に対するイメージ力が異常に高いですし。イメージは魔法にとって重要な要素ですから」
柵のそばまでやってきた。
入り口は何処だ?レナータを助けなきゃ。
再びワイバーンの雄たけび。
見上げると、再度の急降下。ファイヤーボールの迎撃も始まる。
「ねえ師匠。あのワイバーン、こっちのこと全然気づいていないっぽいよね?」
「そうですな、都代ちゃん」
「撃っちゃおうか、こっちから」
「そうですな。それは不意打ち効果が高いですな。うまくすれば撃ち落とせるかも」
「魔法は何がいいかな」
「火系魔法ですかね。一般的にはファイヤーボールかアイスニードルが射程が長い部類ですので」
「さっきのブラストはどう?破壊力ありそうだよ」
「風魔法は距離による威力の逓減が早いですから・・・ワイバーンがウインドスラッシュを撃てない高度なら、こちらの風系魔法も届かないと思ったほうが良いでしょう」
「そっか・・・じゃあ・・・いつものアイススフィア!」
右肩を中心に無数の氷の粒が発生した。それを集め大きめの弾を用意したよ。
「アイスニードル・・・対空ミサイル!」
長さ30センチくらいのロケット状のアイスニードルだ!いっけー!




