死の森。午後の戦闘
初日、後半戦。
お昼ご飯を食べたのが1時過ぎ。後半戦に出発したのが1時40分。
防水仕様の腕時計で確認した。今日のためにホームセンターで買ったよ、2千円。チプカシだよ。
出発までにナタリーが回復魔法をかけてくれた。
疲労回復にも効果があるんだ・・・すごいなぁ。ナタリーがパーティーメンバーになってくれて良かった。
「ナタリーちゃんの魔法は次元が違いますなあ」
「そんなことないよ、マウリツィオさん。ちょっと世界が違うだけ」
「いやあ、これは一本取られましたな」
なにそれ、どこのオッサンの会話のテンプレ?
レナータは何度も来ていると言っていた。
こんな危険な森を一人で突破出来るとか、レナータも大概な強さだよ。
「いちいち戦ったりしてないですよ。避けられる魔物は避けて通りましたし」
「今回も避けられたりしないのかなあ」
「これでも避けているんですけど・・・向こうから寄ってきているようなんです。たぶん、こちらのパーティーメンバーが子供ばかりだから・・・」
「弱そうに見えてるのかなあ」
「都代ちゃん、たぶん、おいしそうに見えてるんですよ」
「・・・うわぁ・・・」
「都代、あと5キロくらいですよ。村まで行けば道がありますから。ナタリーが用意する馬車で移動できます。ナタリー、馬車は持ってきてますよね?」
「ええ、レナータ。持ってきてますよ。ばっちりアイテムボックスの中に収納してます」
馬車サイズのものって、どうやって出し入れするんだろ・・・不思議過ぎるよ。
そんなこと言っていたら、また魔物だ。
「エリートゴブリン、5匹以上!」
カイトが叫ぶ。レナータは既に剣を抜いて臨戦態勢。
「後方からもゴブリンらしき気配接近。複数!」
師匠も叫ぶ。声が小さいから、私も叫んだ。
「後ろからもゴブリン複数、接近中。魔法攻撃で対処します」
「了解、こちらはカイトと前方の敵を排除する!」
そう言ってレナータとカイトは前方へ飛び出した。レナータの風魔法が藪や草を一掃する。姿を現したのは、午前よりも大きなゴブリン。
「都代ちゃん、後ろの敵に集中!」
「はい!アイススフィア!」
ごめんね、こればっかで。魔法のバリエーション少なくて。
「アイスニードル!バースト!バースト!」
タタタン、タタタン、と3発ずつ打ち出す。おおよその位置へ向かって牽制攻撃。当たってくれたら儲けもの。
「来ます!都代ちゃん、フルオートで!」
「アイスニードル!フルオート!」
藪から飛び出したゴブリンに連射でアイスニードルを撃ちまくる。
ダタタタタ・・・・。右肩の横くらいに氷の塊をたくさん用意している。これを順番に尖った形に変形。右手の先当たりから飛ばす・・・を繰り返す。毎秒3発くらいで発射できる。
問題は・・・20秒くらいで撃ち尽くすこと・・・。
3匹を倒し、弾が尽きた。
「都代ちゃん、まだ来ます!」
アイススフィアから弾を作るのは間に合わない。
「ブラスト!フルパワー!」
風魔法を使うよ。グラウンドでスカートめくりにしか使ったことがないけど、パワーを上げれば足止めくらいにはなるでしょ。
新たに4匹が飛び出てきたところでブラストの空気の壁が発射された。4匹のゴブリンは空気の塊に跳ね飛ばされた。どうやら上昇気流を伴うようで、4匹とも上空へ跳ね上げられる。ブラストは突進を止めず、そのまま藪を薙ぎ倒し、大木にぶち当たって消滅した。
あ・・・木が折れた・・・結構太い木が、ミシミシと言いながら横倒しに倒れていく。
「都代ちゃん・・・魔法の腕を上げましたね」
「あ、ありがとう。師匠」
師匠が私の体を使って魔法を撃ち出すと、感覚として残るんだよね。だから、師匠が一度使った技は、基本すべて再現可能。それプラス、パワーを上げる感覚がわかった感じ。
ズシーン、と大木が周囲の木や藪を巻き込んで倒れこんだ。
周辺から鳥が飛び去ったり、砂埃のようなものが巻き上がったりしたけど、こちらまでは届かなかった。
ゴブリンももう、来ないかな。
前方へ注意を向けた。
レナータ達もエリートゴブリンを倒したようだ。
ナタリーに視線を合わせると、手を振られた。
手を振り返したら苦笑された。
あ、アイテム回収はしないって意味か。
恥ずかしくなって駆け寄った。
「都代、凄い魔法でしたね。レナータ達も戦闘力高いですけど、都代も負けてませんね」
「え?そんなことはないよ。わたしなんてまだまだ・・・」
「いえいえ、見てくださいよ、あの破壊された大木や、藪を。まるでブルドーザーでも突っ込んだみたいですよ」
「あ、うん・・・そうだねぇ」
まあ、わりと自分でも威力高いな、とは思ってたけどね。
冷静に見まわすと、レナータ達も森を破壊しているし、辺りの状態はひどいものだ。何本かの木が折れ、藪は薙ぎ倒され、土が剥き出しに・・・。
「自然破壊だねえ・・・」
レナータが戻って来た。
「大丈夫。死の森の再生は早いから。2週間前に偵察で来た時も破壊したけど、藪なんて1週間もあれば元通りになってますわ。さすがに大木は戻らないけど、草に覆われ、キノコが生えてる。きっと帰る頃には見分けがつかないくらい修復してるはずよ」
そ、そうなのか。これだけ道を作ってきたから、帰りは迷わないな、と思ってたんだけど、そうはいかないかもしれないのか。
「あ、大丈夫よ、都代。魔法マーキングしてるから。後で教えますわ」
「うん」
マーキング?と師匠に訪ねる。
「魔力の痕跡を土地に残すことですよ。人はそれぞれ自分の魔力がありますから、感知出来る能力があれば道しるべに出来るのです」
「へええ。目印しになるんだねえ」
「ただし、こんなに魔力の濃い土地だと、近寄らないと感知出来ませんし、痕跡自体も数か月で消えてしまうでしょうな」
「ふええ・・・それはやっかいですね」
「死の森と言われる理由の一つです」
それから何回かゴブリンと遭遇した。
さすがにさっきみたいに群れにかち合う状態にはならなかったけれど、レナータも首を傾げるレベルで遭遇しているようだ。
動物系の魔物とは出会わないのに、ゴブリンばかり現れる。
「何かありますね、これは。警戒して進みましょう」
レナータがそう言い終わるかどうかという時、森に気味の悪い鳴き声が響き渡った。
まるで、大型の鳥が、威嚇するように鳴いたような感じで・・・
「都代ちゃん・・・ワイバーンです・・・」
師匠が上空を見上げて呟いた。レナータも空を見上げていた。
そうして、ぽつっとつぶやいた。
「まずいな・・・。村に向かっている」




