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レナータの頼み事

 何処かで会う、と言っても、私は12歳だし、ナタリーちゃんは6歳だし、梨音だって12歳だ。しかも猫のマウリツィオもいる、となっては、ファミレスで・・・というわけにはいかない。

 なので、いつもの公園だ。

 梨音の家の近くにあるコンビニ裏の公園。その奥側に目につきにくい一角がある。東屋になっていて夏の日差しも避けられるし、飲み物とかもおけるテーブルもある。

 待ち合わせ時間より少し早く、私とナタリーちゃん、マウリツィオ師匠の二人と1匹は到着した。

「わあ、日本の公園ですね。こういうの、懐かしいですね」

 ナタリーちゃんが嬉しそう。そして袋からポテチや炭酸、お茶なんかをテーブルに並べていく。

「さあ、これで準備は整いました。梨音ちゃん・・・というかレナータさんが来るまで食べて待ちましょう」

「うん。ナタリーちゃん、奢ってくれてありがとう」

「いえいえ、今回は都代ちゃんにお世話になりましたし、日本円を大事に取っておいても戻ったら使えませんし。なにより、こういう外でお菓子を食べるなんて久しぶりで、ついつい・・・」

 

 数十分後・・・。

「待たせてしまいましたか・・・?って、なにやってるんです?こんなところで」

 そう言って梨音ちゃん、もといレナータさんがやってきた。相変わらずの美少女だったよ。茶色い髪、グレーの目・・・ナタリーちゃんとは違うタイプの美少女だね。ナタリーちゃんは6歳なので、幼女だからね。

「せっかくだから食べ物や飲み物を用意しといたよ、レナータさん」

「お久しぶりです、レナータ様」

「初めまして、ナターリエ・フォン・シュッテルヴァイスビンゲンと申します。元日本人の異世界転生者です。レナータ様がお開けになられた異世界通路で繋がった世界の住人です。この度は、偶然にもこちらの世界に来ることが出来、是非、お礼と・・・少々お願いがあって都代さんに同行させていただきました」

「あ、はい。ナターリエさん・・・ですか。ご丁寧にありがとうございます。私はレナータ・ディ・スカファーティー、日本では倉本梨音と申します。お願い、と申しますと・・・?」

「はい。異世界通路の転移の部屋へ入る許可を私にもいただけませんか?」

「つまり・・・自由に日本と行き来がしたいと、そういうことでしょうか?」

「はい、その通りです。もちろん、タダで、とは申しません。いくつかレナータ様にとって有用なお手伝いをいたします。その見返りに、ということでいかがでしょう?」

「有用な・・・?それはどういったものですか?」

「その件については追々に。私もすぐにご返答を頂かなくても結構です。レナータ様の目的、おそらく冒険の旅へ出られるのでしょう?そのお話を先にいたしませんか?」

 おう、エキゾチックな美少女と、西洋人形のような美幼女が作り笑いで話をしているよ。

「ゾクゾクいたしますなー。二人ともかわいいなあ」

「師匠、声が出てますよ?」

「あ、失敬・・・」


 あらためてレナータさんが話を始めた。

「簡単に言うと、私の元の世界が見つかったので、そこへ行く手助けをして欲しいってことなのです」

「つまり、レナータさんの国だよね?でも、異世界通路で繋がったなら、手助けするようなこともないんじゃ・・・?」

「そうでもないのです。繋がったのは私が住んでいた場所から500キロほど北へ行った辺りなのです。転移先は大森林の中、一番近い村まででも15キロほどありました。以前、マウリツィオとは話をいたしましたけれど、地図上の土地の形はこちらの世界とよく似ています。私が住んでいたのは、こちらの世界のイタリア半島、ナポリの南にある海辺の街でした。転移先は、フィレンツェの東、50キロほどの場所です」

「フィレンツェなら大都市ですよね?」

 ナタリーちゃんが聞いた。

「ええ、こちらの世界ではそうですね。けれども、私の世界では、そこは国境近くの寂れた街に過ぎません。そのあたりはマウリツィオの方が詳しいでしょう?」

「そうですね。転移先はエトルリア国の北東の外れ、大森林地帯ですね。別名、死の森とも呼ばれますね」

「死の森・・・うわぁ・・・」

つい、声に出してしまったよ。

「都代ちゃん、想像通りですよ。我々の故郷のフィレンツェが発展していない理由の一つでもあるのです。その一帯は魔物が住む場所で、その大森林の中ともなればドラゴン伝説もあるのです。近隣の村や街はしばしば魔物に襲われています。そのため、海辺の街に住民は逃れ、住む者も少ない過疎地なのです」

「海岸線まで出られれば安全に旅を出来ますが・・・大森林地帯を突破出来るかどうかが問題です」

「でもレナータさんの魔法は強力でしょ?魔物ぐらいやっつけられるんじゃ・・・?」

「ええ、1体や2体ならなんてことはありません。けれど、群れに遭遇することもありますし・・・」

「そうですな。放棄された村や街にはレイスやファントムの類いも出るでしょうし」

「レイスかあ・・・」

「レイスなんですよ。我々の世界の魔法はエネルギー転移による魔法ですからな。そういう実体のない魔物を根本的に消滅させることは難しいのですよ。聖魔法の研究はすすんでおりませんし」


 レナータさんはため息をついて東屋のベンチに腰を掛けた。

「コーラ、飲む?」

 ブロックアイスで冷やしてあったコーラのボトルをレナータさんに手渡した。にっこりと微笑んで受け取ってくれた。

「好きな飲み物を覚えてくれたんですね」

「いやあ、まあ」

 レナータさんはもう一度、大きくため息をついた。そうして諦めたような顔になる。

「皆さんをお誘いして、申し訳なかったですわ。これは私の問題、一人でどうにかするべきものでしたわ。生死に関わる冒険になりますもの。見返りもなく助けてほしいなんて虫が良すぎました」

「何言ってるのよ、レナータさん。私は行くよ?助けになるかどうかわからないけど」

「でも都代ちゃん、あなたには何も得るものはありませんよ?もちろん、カンパニア王国スカファーティー領について、元の体に戻った暁には、相応の謝礼はするつもりでしたけど」

「ううん。私は今のレナータさんの梨音も好きだけど、元の梨音も好きなの。それにレナータさんが元の世界でレナータさん自身に戻りたいと思っているなら絶対に助けなきゃ、と思うの。だから一緒に行くよ。力になりたいよ」

「都代ちゃん・・・」

「レナータ様、私、マウリツィオも一緒に参ります。このような身であるため、直接にはなんの役にも立ちませんが、都代ちゃんの豊富な魔法力を使えば、何か出来ることもあるでしょう」

「マウリツィオ・・・ありがとう。都代ちゃんもありがとう。でも話していて、無事にカンパニアに辿り着くのは不可能だと思ったわ。無理があり過ぎる。徒歩で突破できる範囲は限られている。持っていける物資だって少ないわ。だって、私達、二人とも12歳の女の子の体だもの。体力なんて期待できないわ。あっという間に魔物の餌食になってしまう」

「一番近い村まで15キロなんでしょ?そのくらいならなんとかなるよ。その後は・・・馬車とか買って・・・」

「そのお金はどうするの?私は確かに、その村まではなんとか辿り着いたわ。けれど、そこは廃墟も同然の村だった。わずかに残った住民が、なんとか村を守って生活しているだけの場所だった。それもいつまでも持たないことがわかっているくらいの。きっと彼らだって脱出出来るならとっくにしていたと思うわ。馬車なんて、その村には無かったわ」

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