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異世界通路の作り方

 梨音=レナータの本質は魔法大好きっ子である。

 根本的に、新しい魔法を知ることが大好きで、そのための研究も大好きだ。

 魔法の実力も折り紙付き。

 そして、これが一番重要なことなのだが、この世界で魔法を行使することが出来て、さらにその効率がかなりいい。


 これは元の世界とこちらの世界との差が小さければ小さいほど影響が少ないためだ。

 元の世界でどんなに優れた魔法を使えても、こちらの世界との構造の差が大きければ、こちらに転移してきた瞬間に、まったく魔法行使が出来なくなる可能性もある。

 そういった転移者も過去にはいたし、転生でこちらに記憶を持って生まれた者の中にも異世界では魔法使いだったけれど、こちらでは普通の人、ということもあった。


 その点で、レナータの世界はこちらの世界にかなり近い。

 そして、近い世界にも関わらず魔法文明が発達していた。

 実際にレナータの魔法は日本で発動させても元の8割以上の性能で発動した。

それどころか、日本で生まれた子供に魔法を習得させることにすら成功している。

 現時点では、都代に魔法を教えたことも、マウリツィオという魔術師が黒猫の姿でこちらの世界にいることも話すつもりはない。

 それはレナータにとって切り札になるかもしれない。

 きちんと教えることで、日本生まれの子供でも魔法を使えるようになることも話すつもりはない。まだ秘密にしておく方がいい。隠し札はいくつあってもいい。


EPGメンバー内での魔法の披露をはじめ、レナータが実力を認められるようになるまでに、それほどの時間は必要なかった。

その過程において、梨音は本来の人格である「レナータ」を名乗ることにした。

レナータの目標は、元の自分に戻ること。その目標を見失わないためにも名前の件は彼女の中で重要だった。

レナータの目標が元の自分に戻ることだと聞いたメンバーや日本の監視制御システム室のスタッフからは計画の完遂の後でなければ困る、などと意見が出たが、それをレナータは一蹴した。

「私が私自身に戻ることは絶対条件です。ですが、そうなった場合、この体には本来の梨音が戻ってきます。私と梨音の二人分の知識と経験を持つ存在として。あなたたちの実験は、梨音が引き継ぎます。きっと彼女なら喜んで手伝うと言うでしょう」

 レナータが自分の体に戻っても、折湊監視制御システム室にとっても、EPGにとってもなんら損失は無い、と言い切った。その後は人格が「梨音」になるだけで、実質的には変わらないはずだから、と。


 レナータと梨音の入れ替えをする魔法は、①二つの人格の記憶の統合②魂の入れ替えの二つが起きるため、魂=人格が入れ替わっても、これまでの経緯は全て覚えているままだし、状況把握も数時間もあれば終わるだろう。

 ましてや梨音の性格からしても、学校で勉強をするよりも魔法の研究をしたいというに決まっている。多少、子供っぽくはなるだろうけれど、知識や経験の上で問題となるようなことは無い。


 ま、建前上はそういうことにしておこう、というのがレナータの本音であった。


 そうやってレナータを中心とした実験は始まった。

 レナータは、宣言通り、異世界への通路を開く方法を模索し始めた。


 異世界転移でやってきたカルステンも協力した。

 カルステンだって人の子だった。もしも、偶然に、カルステンの産まれた、あの世界へ繋がることがあったなら、もうここへは戻ってはこない。異世界の数が膨大であることは予測されていることだ。けれど、万が一にも・・・


 一月ほどを掛けて準備を行い、そして最初の魔法が発動した。

 それが、都代の見つけた転移の通路である。異世界に繋がる歪みのことだ。


 レナータの計算通り、転移の通路は実験を行った施設の中ではなく、郊外の森の中に開いた。

 転移通路の空間歪みは、お互いの世界の結合の弱い分同士を近づけて一部融合させることで発生する。そのため、魔法の届く範囲という条件はついていても、半径2キロ以内の何処か・・・という曖昧さで発動したのだった。

 でも、これもレナータが意図的にやったことだった。

 やろうと思えば、あらかじめ異世界と繋がる可能性のある場所は調べられたのだ。でもあえてそれはやらなかった。

 研究を突き詰めれば、繋がりやすい場所ではなくて、目の前の空間に歪みを作ることも出来そうだった。

 でもそれはやらなかった。


 マウリツィオなら、きっと異世界への通路を発見するだろう。そして見つければ都代の力を借りるはずだ。

 二人には、異世界へ行って経験を積んでもらいたい。

 いざという時に、優秀な魔法士としてレナータの力になって欲しかった。異世界を探検することで、日本で普通に過ごすよりも、はるかに急速に実力を身につけるはずだ。


 レナータは続けて魔法実験を行った。

 

 そう、あの森に開いている「異世界通路」は一つでは無かった。

 複数の異世界を同時に調査することで、より一層研究の進むスピードが上がる、と主張した。

 でも、それも異世界通路を複数用意することで、マウリツィオと都代が異世界に行ってもEPGに知られなくするためだ。


 そしてマウリツィオ達を予定通りの異世界通路におびき寄せることに成功したのだった。

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