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ナターリエ・フォン・シュッテルヴァイスビンゲン

 本日、再び異世界へ行く日。


 来週から夏休みになるという7月の土曜日だよ。


 親には友達の家に泊まると言って家を出た。

 あ、うん。信用してもらえないんじゃないかっていう心配でしょ?しかも夏休み直前で。


 けど、大丈夫。

 うちは放任主義だから。放っておいてもちゃんと帰って来るし、そういう約束は毎回きっちり守って来たからね。

 それに友達のナタリーちゃんのとこに泊まるんだし、嘘は言っていない。


 で、異世界通路を通って、転移部屋から出て、目印の木から川に降りて・・・。


「やっほー。ナタリーちゃん。来たよー!」

「いらっしゃい、都代ちゃん。待っていましたよ」

本日のナタリーちゃんは、フリルのついたブルーのお洋服だった。いやリアルロリ(゜∀゜)キタコレ!!マウリツィオ師匠が固まっているよ。ていうか、この間から師匠は緊張してロクにしゃべってないよ。

 本日の馬車は先日の簡素なやつじゃなくて、貴族が使いそうな2頭立てのワゴンだった。見た目は落ち着いた感じになっているけれど、中は刺繍の入った豪華な生地で仕立てられていて凄かった。

「うわあ、こんなの初めて」

「素敵でしょう?外観は目立たないように地味にしますけど」

 今日も乳母さんが一緒だったよ。乳母さんの名前はテレーゼさん。ナタリーちゃんが通訳してくれるよ。

「テレーゼは生まれた頃から一緒なんですよ。本当の母親も美人なんですけどね。あまり子育てに直接かかわらないのが貴族ですから」

 ロリ声で、おっさんみたいなしゃべり方をするナタリーちゃんは、ちょっぴり違和感あるけどね。


 馬車が動き出し、ゴトゴトと走り始めた。


「じゃあ、私もマウリツィオ師匠を紹介するね」

「ええ、そちらの飼い猫ですか?」

「ううん、この黒猫はね、別の異世界から来た魔術師の成れの果て」

「ちょっ!成れの果てはひどい」

「うわ!猫がしゃべった?・・・いえ、これは・・・魔法による念話ですか?」

「うん、よくわかんないけど、テレパシー的なやつで話しかけてくるんだよ」

「いやー、これはまた驚きました。都代ちゃんは予想の斜め上を行ってますね」

「マウリツィオ師匠はねえ、ナタリーちゃんが美少女過ぎて緊張していたんですよ」

「な、都代ちゃん。あんまり余計なことは言わないでください・・・。初めまして。私はエトルリア王国の魔術師マウリツィオと申す者でした。今は訳あって日本で黒猫として暮らしています。よろしければマウリツィオ、とお呼びください」

「かしこまりました、マウリツィオ様。私はナターリエ・フォン・シュッテルヴァイスビンゲン。シュッテルヴァイスビンゲン領の領主の娘です。ナタリーとお呼びください」

「はう・・・ナタリーちゃん・・・」

「師匠、ナタリーちゃんの中の人はおじちゃんだよ?師匠と同じで男だよ?」

「そんなことは関係ないのですよ。私はナタリー様の外見に圧倒されているのです」

「・・・いや、それもどうかと・・・」

ナタリーちゃんと目を合わせて苦笑したよ。ところで・・・

「ナタリーちゃんも領主の娘なんだね。梨音ちゃんと一緒だ」

「リオンちゃん?」

「うん。日本に転生してきたんだ。私の友達の梨音ちゃんと入れ替わったんだって。名前はレナータ・ディ・スカファーティー。何か知ってる?」

「スカファーティー・・・。聞いたことは無い家名ですね。けれど、ディと言うからには地中海方面の貴族でしょう。日本の知識で言うならば、今、私達がいる場所はドイツのある地方、レナータ様の名前から推測すると、イタリアの方でしょうから、知らなくても不思議はないかもしれません。テレーゼにも聞いてみますね?」

「うん。お願いするよ」

 ナタリーちゃんがテレーゼさんと話をしている間、私は外を見ていた。


 鬱蒼とした森が続いていた。

 馬車の乗り心地は予想以上にいい。馬車って、もっとガタゴトと舌を噛むくらいに揺れるものだと思っていた。前方の窓から見える道路は轍が出来ている田舎道だったけど。これは馬車がいいのかな。

 森の木々は時々、道さえも覆い尽くさんと生い茂っていた。


「都代ちゃん。テレーゼも知らないと言ってますね」

「ナタリー様、このマウリツィオに発言の許可を頂けますか?」

「ええ、もちろん。同じ転生者同士、仲良くしましょう」

 さっき、外見にしか興味ない的な発言をしていた師匠に、なんて寛大な・・・。

「テレーゼさんの言葉は英語ではないですね」

「ええ。私も外国語は得意では無かったのですが、なんとなくドイツ語らしいとは思っていました。英語では無いです」

「このマウリツィオは、レナータ様と同郷でございまして、かの世界では世界共通語がございました。辺境を除き、一つの言語で全て通じました。日本でいう英語に極めて近い言語でございました」

「そうでしたか。でしたら、この世界はマウリツィオさんやレナータさんのいた世界では無いと思います。この世界では、未だ世界共通語はございません。自国民は通常、自国の言葉しか話しておりません。残念ですが・・・」

「いえいえ、全然残念ではないですよ。私、ナタリーちゃんに会えて嬉しいです」

「私も都代ちゃんに会えて嬉しいですよ」

「マウリツィオもナタリー様に出会えて大興奮・・・」

「師匠!」

「失敬・・・大変うれしく思っております」

 ナタリーちゃんは苦笑いしていたよ。けど、そんなに嫌そうでもなかったけど。

「いや、実は私自身、ナタリーはかわいいと思っていますよ。こんな西洋人形みたいな外見に生まれ変わっただなんて、未だに時々信じられないですから」

「まあ、ナタリーちゃんはかわいいよ。けど師匠、自重してね?」

「ところで、どうして都代ちゃんはマウリツィオさんを師匠と呼ぶのですか?」


 今までのことをナタリーちゃんに話したよ。

 私は、いなくなった梨音を探していること。梨音はおそらくレナータとしての自分を取り戻したがっているのだということ。日本の私の地元には、異世界転生者を探して誘拐する組織があるみたいだってこと。

 もしも梨音がレナータに戻りたがっているのなら、私は協力したいと思っていること。私の魔法はレナータが教えてくれたこと。マウリツィオ師匠も魔法の修行に付き合ってくれていること。


 そんな話をしているうちに、目的の場所についたよ。


 「着きました。ようこそ鉄鋼の村、ビューテルシュミットへ」

 馬車を降りたら、村人に歓迎されたよ。


 なんだこれ、祭りですか?

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