カマイタチ
森の入り口に自転車を停め、徒歩で森へ入ったよ。
魔力感知の出来るマウリツィオについて歩いていく。
さっき、ヘルハウンドを倒した広場を通り過ぎる。
林道は舗装こそされてはいなかったけれど、水たまりが出来ていたりするほど荒れてもいなくて、歩きやすかった。
ピクニックみたいだね。
次に来るときはお弁当を持って来よう。
そんなことを考えながら歩いていたら、マウリツィオ師匠が急に立ち止まり身構えた。
「都代ちゃん!2時の方向、魔物、来ます!」
「え!急にそんなこと言われても、どうすればいいの?」
「迎撃してください!ファイヤーボール、用意!」
慌ててファイヤーボールを作って待機する。
「カウント、3,2,1!今!」
道の脇から突然、何かが飛び出した!
「ファイヤーボール!」
叫んで撃ちだす。
魔物の動きは早かったけれど、ファイヤーボールは軌道を変えて命中した。炎に包まれて道端に転がったのはイタチっぽい何かだった。
私のファイヤーボールはマウリツィオ師匠直伝で、ホーミング機能付きだ。適当に撃っても当たるように出来ている。
師匠が「都代ちゃんの反応スピードではファイヤーボールを撃っても当てられない」と言うものだから、勝手に敵を追随するファイヤーボールの練習をさせられたのだ。敵の姿を確認した後に撃ち出せば、ファイヤーボールの飛翔スピードを上回られない限り、射程距離を超えない限り、当たる・・・はず。
「カマイタチですね。危なかった。スピードが速い魔物です。都代ちゃんのファイヤーボールでは追随出来なかった可能性もありました・・・」
「カマイタチ?って魔物なの?」
「ええ。あ、自然現象のそれとは別物ですよ」
「そうなのか」
よくわからん。
とりあえず、魔物だったのならドロップ品がきっとあるはず?
ドロップ品、でいいよね?体内に取り込んでいるのなら。
案の定、炎の消えたカマイタチの姿はどこにも見当たらず、地面についた黒い焦げ跡だけが残っていた。
「ドロップ品あるかな?」
「ドロップ・・・?なんですかそれは」
「魔物を倒した時に出る報酬だよ、師匠」
「・・・ああ、ゲームの・・・」
私の部屋には、各社のゲーム機、高性能PCがある。時間があればRPGをやっている。特にMMOの。
マウリツィオ師匠も時々それを見ていたので・・・。
「都代ちゃんがそういう呼び方をしたいのなら、このマウリツィオは構いませんが・・・」
あらたまって言われると、何か恥ずかしい・・・けど、今更だし・・・
「では、以後、残留した魔物の核をドロップ品と呼称します!」
と高らかに宣言した。
「誰に宣言してるんですか?都代ちゃん」
で、黒焦げの周辺を探してみる。
アクセサリーは無かったけど、水晶っぽい大きめの石が見つかった。
「おそらくその水晶が核だったのでしょうね。自然物ですから、そのまま持ち帰るか、捨てていきましょう」
「持ち帰ります!」
氷砂糖くらいの、氷砂糖みたいな色、形の石。けっこう綺麗だし。
「カマイタチが出てきた方向に空間の歪みが感じられます。ここからは道を外れての移動になるので気を付けて」
そう言うと師匠は藪の中へ、ひょいっと入っていった。
「ちょ・・・ちょっと待って」
慌てて追いかける。藪を迂回して獣道っぽい感じのところを入り込む。
視界が狭まる。
木、蔓、背の高い草、斜面・・・見通しが効かないし、方向も分からない。
「師匠!」
呼びかける。返事がない。
不安になる。
「師匠!!」
ひょいっと獣道の先に黒猫が姿を現した。
「都代ちゃん、こっちですよ」
再び藪の中へ師匠が入っていく。
私も意を決して搔き分けて藪の中へ
マウリツィオ師匠の声を頼りに、藪をかき分けて進んでいく。
藪は深く、視界はほとんどない。
「まだですか、師匠」
息が切れる。素肌の腕に枝や葉が小さな切り傷を与える。
Tシャツで来るところじゃなかったな、と今さら後悔し始めた。
「あと少しです、5メートルくらい」
その言葉で、少し頑張る気になった。
ガサゴソガササ・・・
黙々と藪を掻き開けていくと、藪が切れた・・・
そこには直径3,4メートルの広場があった。
いや、藪が綺麗に倒されていた。
完全に円形に円を描くように綺麗に倒された藪。まるで、でかいローラーか何かで圧し潰したような・・・ミステリーサークルというのが流行ったことがあったらしいけど、思わずそれを思い出した。
そして、その中心には何かがあった。
目では捉えにくい、安定しない黒いもの・・・
ノイズのように消えたり揺れたりして不安定なもの。
「空間の歪み、異世界への通路ですよ、都代ちゃん」




