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貴族令嬢、回転寿司に行く(後編)

 画面で注文をしてしばらく・・・

 炙りサーモンチーズがやってきました。

「良い香りがいたします」

 小さな真っ白なライス。薄ピンクの切り身。その上に乗せられたチーズ。その状態で炙ってあるでしょう。炙られたことで香りがふんわりと立ち上ります。

 パクっ。

「ああ・・・とろけていきます・・・」

「はは。旨そうに食べるなぁ、梨音は」

 お父様が嬉しそうに笑いました。

 表面が炙られているだけで切り身には完全に火が通っているわけではありません。

ですが、これはおいしいです。チーズとサーモンが混然一体となって舌の上で溶けていきます。

 

 ああ、これはプロシュートとチーズの組み合わせに似ていますわ。

 香ばしさを増したサーモンが上質な生ハムのように口の中でとろけていくのです。


 あっというまに2つとも食べてしまいました。

 

 2皿を食べたことで、お腹も落ち着くかと思ったのですが、むしろ食欲が増してきたように感じます。

 何故でしょう。

 目の前を不思議な食べ物が次から次へと流れていくからでしょうか?


 あ、生ハムのお寿司・・・


 つい手を伸ばしてしまいました。

パクっ。

 

 ふむ。

 期待を超えてはいませんね。生ハムもおいしいですが、予想通りというか・・・


 知っているから手を伸ばすなんて、私としたことが臆病に過ぎましたわ。

 次こそは生の魚に挑戦しなくては・・・


 でも、何が良いでしょうか・・・


「お父様」

「うん?なんだい?」

「このお店のお勧めはございますか?」


 わからない時は聞けばよいのです。

「うん、そうだね。しめ鯖が人気があるようだけれど・・・梨音には向かないかな。外国の人に人気があるのは・・・トロかな。あとはサーモンも良いね。海外では寿司と言えばサーモンを思い浮かべる人も多いと言うからね」

「では・・・トロを」

「ふむ。注文しよう」

 お父様は画面で注文をして、そしてご自分用にサバを取ります。満足そうに口にして、そして私を見ます。


 そういえば、お父様は「外国の人に人気」と言いました。確かに梨音は半分イタリア人です。けれど、日本で育った日本人・・・。外国の人・・・?

 まるで私が外国からの旅行者であるような・・・


 いえ、考え過ぎでしょう・・・。


 トロがやってきました。


「トロという部位は冷凍技術が発達する前は傷みやすくてね。あまり重宝されてはいなかったようだね。冷凍、輸送技術のおかげだね」

 お父様は2皿注文されたようです。

 

 お父様の真似をして、ワサビをほんの少し。醤油でいただきます。


 これは・・・炙りサーモンよりも蕩けます。サーモンもおいしかったのですが、こちらは味の濃さが違います。これが・・・脂がのっている、ということなのですね。

「おいしい・・・」

 生の魚、おいしいではないですか!


 ああ、エールが飲みたくなってきましたわ。

 

 なるほど、この口の中でとろけていく感覚は脂分、エールが合うに決まっています。


 け、けれども、今の私は12歳の少女。特にこの世界では成年になるのは20歳で、それまではアルコールの類は飲めないのだそうです。

 残念ですわ。


 ふむ。生の魚、もう少しいただきましょうか・・・。


------


 この後、梨音はサーモン、ハマチと続け、フライドポテトやから揚げも食べて、最後にチョコレートケーキをデザートにした。

 雅臣は、梨音の様子を見ながら、複雑そうな笑みを浮かべていた。


 自分の思い描いていた理想の親子像。


 けれども、用意が整い次第、梨音は拘束されるだろう。

 出来るだけ穏便に進めたいとは思う。

 だが、結果は同じだろう。最終的に梨音は道具のように使い捨てられていく。


 今までも、見てきた、からな。


 今日一日で、梨音は雅臣を何度「お父様」と呼んだだろう。

 もう何年も聞いたことのない呼び名だった。

 所詮は血の繋がらない妻の連れ子・・・そう諦めていた。

 それでいいと思ってきた。


 でも今、実感している。

 そう思おうとしてきただけだったのだ、と。

 手に入らない幸せを、無かったものとして忘れてきただけなのだ、と。


 だが、それは転生、意識の入れ替え・・・そういう不可解な現象の結果に過ぎない。

 そして、数日後には永久に失われる幸せに過ぎない。


 これ以上、踏み込むはやめにしよう。


 どうにも、ならないのだから。

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