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貴族令嬢、回転寿司に行く(前編)

梨音視点になります。

 回転寿司、というものに行きました。

 

 お父様に食事に行こうと誘われました。リクエストをしても良いと仰るので希望を言ってみたところ笑顔で連れてきていただきました。


 本当の所は、回転寿司、に行ってみたいと思っていたわけではありませんでした。

 そもそも、何処へ行きたいかと問われましても・・・何処に行っても初めてなのです。

 私は梨音の記憶を照会しただけに過ぎません。

 父親に食事に誘われたなら、回転寿司と答える、というのが梨音の答えでした。


 この世界の梨音は、父親とうまく話せないでいたようです。

 それは別に父親が悪い人間だからというわけではありません。むしろ怒ることもなく、常に優しくあろうと努力していたようです。


 けれども梨音の記憶の中にある「父親像」というものが悪過ぎたようです。


 梨音は本当の父親というものを知りません。

 そして小さい頃にいた父親というものは、しつけと言って無理難題を押し付けたり、すぐに暴力で言うことを聞かせる怖い人だったようです。

 梨音は幼心に父親というやつさえいなければ、世界は平和であるだろうと考えていたようです。


------

(再生された梨音の記憶)


 2年間。ひどい父親と過ごした後、5歳の時に母親が離婚。

ようやく望み通りにいなくなったと思った。

それからの生活は平和だった。

7歳の時、母親が再婚。

 今度の父親は暴力はしなかった。

けれど、最初だけかもしれない。そうやって身構えていたら、今度は母親が急に「勉強しろ」とばかり言うようになった。梨音の行動や生活に制約をかけるようになった。

新しい父親は、優しい言葉はかけてくれたけれど、逆に言えばそれだけだった。

仕事が忙しいらしく、家にいないことも多かった。

結果、5年経っても打ち解けることも出来ずにいた。


回転寿司は、父親と二人だけでも沈黙せずに済む。


ファミレスに行くと、注文から料理が出てくるまでの時間に何を話せばいいのかわからない。

その点、回転寿司なら好きなものをすぐに取ればいい。注文のモニターをポチポチ押していれば変な沈黙も気にならない。

デザートに何がいいか、と聞かれて、チョコレートケーキ、と答えたら、次からはチョコレートケーキはいいのか、と聞かれるようになったけれど、別にチョコレートケーキが特別に好きなわけではない。けれど、デザートにはチョコレートケーキを頼むのが決まりみたいになっている。そういう流れが出来ていると、なんの話題もなくても、仲良く食事をしているように感じられた。

 ただそれだけのことだ。

 寿司が大好きだというわけではない。


-----


 というのが梨音の記憶です。

 けれども、私は寿司という食べ物に興味があります。

 梨音だって、寿司が嫌いなわけではありません。記憶ではおいしい、となっていますし、食べてみたいと思いました。


 たしかに生魚は少し怖いです。


 スカファーティー家では、生魚は食べませんでした。

 しかし、国境警備で過ごした街は港町でもありましたから、魚料理は頻繁に頂きました。寿司は、アンチョビのマリネに近いのでしょうか?

 ニンニクや塩で味付けしたレモン汁に浸した生のアンチョビにオリーブオイルをかけて頂きました。あれも最初は抵抗がありましたけれど、何度か食べているうちにおいしく感じるようになりました。


 記憶の中の出来事は、映像や意味合いとしてはすぐに引き出せるのですが、味は曖昧にしかわからないのです。梨音が食べたことのあるものだからといって、私に味がわかるわけではないのです。

ですから、私にとっては、これが寿司初体験となります。


 席に着くと、すぐ脇の通路を「スシ」が流れていきます。

 食べ物が注文もしていないのに通り過ぎていきます。それも動く床に乗って。

 それを見ているだけでも何故かわくわくします。これは見ても楽しい食事ですね。

「梨音、遠慮せずに取りなさい」

「ええ。お父様。では最初はこれを・・・」

 

 最初から生魚に手を伸ばすのは、やはり躊躇われました。

 我ながら勇気が足りないとは思いますが、玉子を選択してしまいました。


 けれど、この黄色い四角の卵焼き、素敵ではありませんか?こんなに分厚く均一な卵焼きは向こうの世界では記憶にございませんわ。

 食べてみます。

 パクっ。


 うまぁー・・・。


「おいしい・・・」

 甘いのです。予想と違い、砂糖の甘さが口に広がります。ですがただ甘いだけではございません。この風味、コンソメとも違うおいしさ・・・梨音の記憶では「ダシ」と呼ばれる調味料なのだそうですが・・・ただ卵を分厚く焼いただけではありませんでした!

「おいしかったかい?梨音。ここの卵焼きは隠れた人気商品なんだよ。最初にそれを選択するなんてすごいな」

「お父様。名品の卵焼きだったのですね!納得のお味ですわ」


 梨音の記憶では、こういう些細なことでも褒めてくる父親が鬱陶しかったようですが・・・

 私は、元々貴族令嬢でしたので・・・周囲の人間に褒められ続けて育ちましたから、ごくごく当然のことのように感じます。


「梨音、炙りサーモンチーズなんてどうだい?」

 モニターで注文をしていたお父様が画面を指さします。

「あぶり?ですか?」

「そうだよ。軽く焼いてある。そこにチーズのトッピングが乗っているものだ」

 チーズ!しかも軽く焼いてあることで、生魚に抵抗のある私にも手を出しやすい。

「ええ!そちらを頂きます!」


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