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風魔法は使えません

 油断していた。

 平和過ぎる日本。

 襲われる可能性などないと何処かで思っていたようだ。


 梨音は反射的に身を低くして肘鉄を入れた。

 だが、効果は無かった。

 梨音の貧弱な筋力では大した威力が無い。しかし梨音の動きも止まらなかった。護身術としての一連の動きは考えなくても出来るのだ。

 さらに身を低く相手の腕の中から抜け出そうとする。だがしかし、これも梨音の筋力と瞬発力では反応が遅く阻止される。

 これでもダメなら・・・

 梨音は腰を下げ体全体を後ろへ、柔道でいう背負い投げのような体勢で・・・

 これも動きを封じられた。

「暴れるな!痛い目に遭いたいのか」

 もはや身動きも出来ないくらい強く締め上げられている。体に食い込む太い腕が痛い。


 本来であれば、こういう場合の対処としては体術で振りほどき、少しでも距離を取り、魔法攻撃へ移行する、という流れだった。そういう動きをレナータは嫌と言うほど訓練していた。


 誤算は、梨音が小柄で小学生並みの力しかなかったことだ。


 19歳の女騎士と同じ動きが出来るはずもなかった。大人の、それも力の強い筋力馬鹿に抑え込まれて逃げ出せるはずもなかった。

 動きを封じ込まれて当然であった。

 男は、タオルで梨音の口も塞いだ。

「ふが、ふが」

 叫ぶことも出来ない。


 梨音は焦った。

 距離を取れないと魔法攻撃が出来ない。


 風魔法にしても、火魔法にしても、ある程度の威力で行使すれば密着している自分自身を巻き込んでしまう。

 ピンポイントで発生させた魔法程度では大した威力にもならないからだ。


 部屋の中にいたひょろい方が立ち上がった。

「そのまま小娘を押さえとけよ。カメラの用意をするからな。なかなかいい素材じゃねえか」

 何の用意だって?ていうか、何する気?

「しかしひどい友達だよな。裏動画に売りつけるなんてな。けど、あんた、きれいな顔してるな。これは儲かる動画が作れますよ、ひ、ひひ」

 気持ち悪い笑い方でカメラをいじる男。

 梨音は背筋が冷えた。


 まずい。何かされる前にどうにかしないと!


 考えろ。自分を巻き込まずに拘束を解く方法を。


 そうだ!雷魔法だ。このあたりの電気をあいつの持っているカメラの中に集めて転移すれば・・・


 バンッ!

 突然カメラの液晶が破裂した。

「が!つっ!」

 破片がひょろい男の顔に傷を作る。

 カメラからは黒い煙が立ち上る。


「何やってんだ!」

「ちげーよ。カメラが・・・急に爆発したんだ。いってーな、おい」

手に顔の血がついて、ひょろい方は顔をしかめる。

「もういいから、予備のカメラ出せよ。あんだろうがよ!」

「ああ、わかってるよ。用意すっから、そいつ、縛っとけよ」


 梨音はカメラを凝視していた。

 カメラの内部の構造はわからない。でも雷撃魔法は効果がある。電気を集めて来るだけで電化製品は破裂したり煙を出したりするようだ。

 他に電化製品は・・・いや、別に電化製品じゃなくてもいいか・・・。

『サンダースタン・・・』

 心の中で唱える。


 バシッ!

 カメラの三脚の間に火花が散った。

「ウオォッ!」

 梨音を羽交い絞めにしていた筋肉男が驚いて少し力が弱まった。

「何だ、今の!」

 しかし振り解けるほどではない。


『サンダースタン!連射!』

パンッ!パン!パパンッ!

 部屋の外、入り口から部屋へ続く廊下の照明が続けざまに破裂する。

「うわっ!」

 背後から続けての破裂音にビクッと反応する筋肉男。梨音はその瞬間を逃さなかった。

 今度こそしゃがみ込むようにして男の腕をすり抜ける。

「あ、このガキが。逃げ場なんかねえっーの」

 逃げ場なんか必要ない。ただ、ほんの一瞬だけでも離れることさえ出来れば。

「サンダースタン!」

 筋肉男に直接攻撃!

「あが!あげげ、あげ・・・」

 梨音は電気を送り込み続ける。部屋の周りの電気を集めて圧縮、筋肉男の体内へ転移し続ける。

「あが、がが、ががが」

「あ?何言っているの?お前。いいから小娘捕まえろ?」

「あが、感、電・・・し、が、がが、して・・・」

「感電?」

 ひょろい方が、筋肉の方に近づく。一応、感電に気を付けているようだ。筋肉の方の足元や周囲を見渡す。

「なんもねえぞ。お前、どうやって感電してるんだ?」

「あが、あがあ・・・はや、はやく止めて・・く、くれ、れ」

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