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倉本梨音のこと

藤田海翔視点。梨音の生い立ちを少し。

 僕の名前は藤田海翔フジタカイト、高校1年になる。

 倉本梨音とは家が近くて幼馴染。

 小学生の頃は同じ通学班だった。


 梨音は・・・

 小さい頃から美少女だった。

 後で知ったけれど、イタリア系の血が混じっているとか。


 最初はそんなこと言わなかったし、父親も母親も日本人だったからわからなかった。


 けれど、何処となく日本人ぽくない目鼻立ちのはっきりした女の子だった。


 それが原因なのか、性格の問題なのか、学校ではいじめられていたようだ。


 梨音は男子には人気があった。

 本人は気付いていないことも多かったけれど、特に年上の男子に人気があった。


 それを見ていた女子が梨音を煙たがったのが原因だと思う。

 梨音は見た目が目立つわりに頭がいいわけでもスポーツが得意なわけでもなかったし、おしゃべりが好きだったわけでもなかった。

 

 ある日、下校しようと下駄箱のところに行ったら梨音がいた。


 僕は5年生、梨音は2年だったから、本当なら梨音はとっくに下校している時間だった。


「どうしたの、梨音」

 声を掛けたら、梨音は涙目でこう言った。

「靴が、ないの」

 その日、梨音は新しい靴で登校した。

 その事は僕も知っていた。朝、登校する時に梨音が新しい靴を買ってもらった、と話すのを聞いたから。


「靴が無いって、下駄箱に入ってないの?」

「うん」

「間違って別の所に入れたとか、探してみた?」

「探してみたけど、何処にもないの・・・」

 そう言って梨音は泣き出した。

 僕は、梨音の靴箱まで一緒に行って、一緒に探したけれど見つけることは出来なかった。


 仕方が無いからその日は上履きのまま一緒に家に帰った。


 数日後、靴はグラウンドの裏で見つかった。

 悪いことに前日に雨が降り、新品だった靴は泥だらけになっていた。


 女子同士のいじめは、直接攻撃じゃないから誰がやったのかわからないことの方が多かった。


 僕は、出来るだけ庇ったし、物が無くなった時は一緒に探したりもした。


 けれど、たぶん、そういうのもいじめをエスカレートさせたのかもしれない、と今は思う。


 僕以外にも年上の男子の中には梨音を庇う子もいて・・・でもずっと庇い続けることも出来るわけじゃない。いじめられる機会はいくらでもあった。


 そんな状態が2年ほど続いた。僕は小学校を卒業した。

 上級生が減れば減るほど、梨音は孤立していった。


 梨音への嫌がらせは、目に見えるくらいひどくなった、らしい。


 梨音が5年になる頃、梨音は休みの日に時々うちに来るようになっていた。


 学校での嫌なことを話す梨音に、僕は聞き役に徹する。


 僕には何かが出来るわけじゃなかったけれど、話を聞くくらいは出来たし、辛いことだけじゃなくて、梨音の好きなアニメや漫画のこととかも聞いたし、お勧めの漫画を貸したり借りたりした。


 一緒にゲームをしたりしていると、うちの親も「ご飯食べてけば?」とか「おやつ買ってきたのだけど」と言われるようになっていった。


 そのうち、梨音はうちの親にもいじめられていることを漏らすようになった。


 そして時々学校をさぼっていることも。


 学校に行きたくないけれど家にいると母親に行けと言われる。

 だから家を出て公園やデパートで時間を潰していたのだけど、指導員や警察官に声をかけられたりして行き場がなくなった。


 僕の家は共働きで、日中は家に誰もいない。


 僕は梨音を無理に学校に行かせたいとは思わなかった。

 辛いなら、行かない方がいいこともある。

 うちの親に相談し、時々なら家で過ごしてもいい、と許可を貰った。

 僕は学校があるから梨音には合鍵を渡した。僕の部屋を使ってもいいよ、と。


 梨音は嬉しそうな顔をした。


 本当に一人で家に来たのは、たぶん、数回だ。


 さすがに幼馴染とはいえ、他人の家に勝手に上がるのは気が引けたのかもしれない。

 むしろ梨音は学校をさぼらなくなっていった。


 あいかわらずいじめは続いていたけれど、ある意味で対処の仕方を身に着けていったのかもしれない。


 小学校を卒業する頃には、梨音は滅多に遊びに来ることも無くなっていた。


------------------------------------


 そんな梨音を久しぶりに見かけて僕は声をかけた。

 中学に入学した梨音はうまくやっているのだろうか。


「久しぶり」

 相変わらずちっこい。

 中学生には見えないな。ほとんど小学生だ。

 しかも何故か黒猫を抱いている。


 レースの袖のついた黒っぽい服。

 ギリギリ普通の服なんだけど、微妙にゴスロリっぽい雰囲気。


 僕は知っている。

 梨音がゴスロリ系が好きなのを。


 でも、そんな服は買ってもらえないとぼやいていたことも。

 だからそれっぽい服の組み合わせで雰囲気を出そうとしているのだ。

 まあ、研究の結果、それなりにまとまってはいる。


 そして目鼻立ちのはっきりした美少女顔。


 何かのコスプレに見えてきた・・・それもかなり完成度の高いやつ。


 すっげーかわいい。


 でも、なんだろう、以前よりも気品があるような・・・気のせいか?そして上目遣いで見上げられた時、かなりドキドキした。

 梨音がこちらの目をまっすぐに見上げてくる。

 これはいったいどう表現したらいいんだろう。やばい、何か理性が崩れそうなのだけど、魅入られたように動けなくなる気持ち。

 蠱惑的?


 なんかそういうやつだ。


 そして、何故かオモチャの剣をねだられた・・・


 わけがわからない。


 でも一つだけ言えることがある。


 僕は明日のバイトで、それを買って帰るだろうということ。

 そしてプレゼントを渡すという理由で梨音に電話をするだろうということ。


 あ、まだ梨音はスマホを持たせてもらえないからね。家に電話するしかないんだ。


 中学生になった梨音が心配だったけれど、この感じならうまくやっているのかもしれない。いじめが完全に無くなったとは思えないけれど、以前よりもずっと意志の強さっぽいのを感じた。

 僕の知らないうちに梨音は強くなったんだな・・・


 なんだろう、このさみしい気持ち。


 いや、まだわからないぞ。学校での梨音と、僕の前での梨音は違うはずだからな!もう少し近くにいて梨音を守ってあげなくちゃいけないんだ。

次回は梨音の学校編です。

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