捜索
「折湊監視制御システム室」と書かれたドア。
いったい折湊市の何を監視して制御しているのかは謎だ。
最初の魔法の検知から、立て続けに2度ほど魔法が検知された。
どれも比較的規模の大きい魔法で、データ解析で詳細な場所を特定する前に実働部隊を向かわせた。
実働部隊は、魔法行使者の特定、調査、そして確保をするチームのことだ。
社内での通称は「調査チーム」
先日の異世界からの転生干渉を感知してから市内のホテルをベースにして4人が待機していた。
データ解析と並行しながら、折湊市の南東部、特に海沿いを調査するように伝えた。
彼らには、大きな魔法だということ、3度発動していることを付け加えた。
『そりゃあ、試し打ちだろう』
現場リーダーの元警察官、高倉が電話の向こうで言っていた。
『だとすると、人目のつかないところか。ちょっと地図を貸してくれ、ああ、すまんな』
移動中のバンの中、ガサガサという紙を広げる音がする。
「アナログですね、高倉さん」
『いやあ、こういうのがいいんだよ。全体像をみることで調査の的を絞るんだ。もちろん詳細なとこはネットだぜ?』
ガサガサという音が続く。
『たぶんここだな。工場誘致地区、ここはまだ誘致計画が始まっていない。誰も人がいないし、海が近い。お、サンキュー、ネットの地図でみると海岸もあるな。しかも防風林で陸地からの視界が遮られる。第一調査はここだ。ここへ向かえ。じゃあ、また何かあったら報告するわ、黒岩ちゃん』
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「磁気ノイズ異常値を検出、現場はここですね」
海岸を歩きながらイヤホンでノイズを拾う。
魔法の影響で空間に異常な磁場が残ることが、これまでの研究でわかっている。
磁気ノイズは、電波のノイズとして感知出来るので、特定の周波数をカバーするように改造されたラジオのようなもので音として聞き取ることが出来る。
簡易的に魔法の痕跡を追跡する場合には持ち運びも簡単で、よく利用されていた。
もちろん拾ったデータは記録され、あとで分析に回される。
魔法の種類、規模、威力などがわかるだろう。
「海に向かって魔法を使ったんだな。転生か、転移か。いずれにしても異世界で魔法が使えることを試したって感じだな」
「高倉さんの推理が当たりましたね。今回はうまくいきそうです」
「大居、まだ始まったばかりだ。ここらは田舎だから監視カメラが少ない。ここにいたやつを特定出来るとは限らない」
「ですね。周りを捜索しましょう」
辺りを見渡す。
砂浜に松林。
波に侵食されて出来た地形だろう。
切り立っていて出入口は少ない。
「高倉さん!足跡がありますよ!」
大居が呼んでいる。
砂浜の出入口に向かって小さめの足跡がついている。
水たまりの淵にはっきりとした足跡があった。
「大居、大きさは測れそうか?」
バッグからメジャーを取り出す。
「23センチ前後ですね」
「女か、もしくは子供だな」
靴の長さは足のサイズよりも3センチ程度長いから、実際のサイズは20センチ前後、ということになる。
女性のサイズで最も多いのは23.5だから、それよりも小さい。もしも成人女性だったとして、かなり小柄だろう。
おそらく子供だ。
小学生の可能性もある。
高倉は頭を掻いた。
「子供だな・・・」
「そうっすね、高倉さん」
「気が重い仕事になるかもな」
見た目が子供の人間を本人の意思に逆らって捕まえるのは、わかっていても精神的にきついものなのだ。
「そう、すね・・・協力的ならいいんですけど」
「体は子供でも、中身がそうだとは限らないのが転生者だからな。簡単に騙せるわけじゃない」
ため息をつく。
しかしそんなことで仕事の手を抜くわけにもいかない。
グループメッセージで捜索対象が子供であることを伝える。
付近の捜索にあたっているスタッフも対象を絞りやすくなるはずだ。
魔法の使われた場所。
足跡からわかった身体的特徴。
小学生以上の小柄の女性だということ。
街へと向かうルートに設置されている防犯カメラの場所。
スタッフが見かけた捜索対象に一致する人物の写真・・・
防犯カメラの映像の入手。
黒猫と一緒に映っている女児らしき人物が、通りを覗っている様子が映っていた。
後にコンビニの防犯カメラ映像から、より鮮明な顔写真を入手する。
高倉は警察手帳を見せてデータを入手した。
退職時に警察手帳は返却しなくてはならないが、まあ、それはそれなのだ。
それに、高倉が黒岩を通じて申請を出せば、本物の現職警官に防犯カメラ映像の入手を依頼することも出来る。
ただ手間を省いてやっただけさ、とは高倉の談である。
捜査とは地道な調査の積み重ねだ。
そうして捜査対象の絞り込みは梨音の知らないところで進んでいった。
そして梨音の元に捜索の手が伸びるのは、2週間後になる。




