スキアヴォーナ、もしくはクレイモア
立ち話もあれだから、と場所を移した2人と1匹。
猫連れなので店に入るわけにもいかず、コンビニで飲み物を買ってコンビニ裏の公園のベンチに腰を掛けた。
「カイ兄様、飲み物を奢ってくださってありがとう」
「いや、最近バイト始めたし・・・このくらい全然」
「バイト・・・ですか?」
バイトが何を意味する言葉なのか、はわかった。拘束時間の短い雇われ仕事のことだ。
「うん、駅裏にあるリサイクルショップだよ。けっこう面白いものを売ってるよ」
リサイクルショップ・・・?ってなに?
「マウリツィオ、リサイクルショップって何?」
「ニャー、ニャー(中古品を取り扱う雑貨屋のことです)」
「そうなの!では、冒険者から買ったショートソードなどは売っているかしら?スキアヴォーナがあれば最高なのだけど、クレイモアでもいいわ」
目を輝かせて海翔を見る。
「え?いやなんの話?・・・武器は売ってないよ・・・たぶん」
「そうなのですか・・・」
急に残念そうになる。国境警備隊、隊長のレナータにとってショートソードはいつも身に着けていた馴染みの物だ。
「あ、でも、エアガンコーナーに何かそれっぽいものがあったような気もするな」
梨音が急に悲しそうな顔をするので、ついそう言ってしまった。
「え?本当ですか?今度、連れて行ってください」
「ん、うん。いいけど」
「あ、でもお金が・・・きっと高額なんでしょうね。私の使っていたミスリルのスキアヴォーナほどのものでは無くてもいいのですけど、普通の剣はいくらするんでしょう?」
「剣・・・えーと500円くらい?だったかな」
妄想用でいいんだよな、これって・・・と海翔は思った。幼女向け玩具があったはず・・・
「500円・・・というと、このコーラという飲み物3つ分くらいですか?」
まだ口を付けていなかったコーラを持ち上げて尋ねる。
「買えそうにないです・・・どうすればお金は稼げるのですか?」
「え?梨音、中学生になったばかりでしょ?まだアルバイトも雇ってもらえないから無理だよ」
「12歳は見習いですら働けないのですか!?」
「いや見習いって。アルバイトは高校生からだよ」
「何故ですか?」
と言いながら海翔に詰め寄る梨音。
「いや、それ、法律だからね?」
「法律・・・。じゃあアルバイトで無くても構いません。なにかお金を稼ぐ方法は無いのでしょうか?」
一瞬、えんじょ・・・という言葉がよぎったけれど封じ込める。
「いや、ないから。というかなんで急にそんなにお金が欲しいの?」
「スキアヴォーナ・・・いえ、取り乱しました。失礼をお詫びします」
ふうっと海翔がため息をつく。
「しょうがない。次のバイトの時、見かけたら買っておくよ」
「本当ですか!」
潤んだグレーの目で海翔の顔を見上げる梨音。
なんか以前よりも表情が豊かになったな、と海翔は思う。何故だかドキドキしてしまう。
年下の、幼馴染、というだけなのに。
いや、ただの幼馴染、というわけでもなかったか・・・
「カイ兄様。コーラとは刺激的な味がしますね」
「梨音は5年生になるまで炭酸飲めなかったもんな」
梨音は茶色い液体を眺める。
細かな泡がふつふつと湧き上がってくる。
レナータだった頃、エールを冷やして飲むことが時々あったので、炭酸にはそれほど驚きは無い。
一日の終わりに、隊の者達と一緒に酒場に行ったことが何度かあるし、旅に出れば、外食も珍しくは無い。
魔法文明の進んだ世界では、飲み物を冷やすのに氷魔法を使うし、魔道具に冷蔵収納箱もあった。
エールは適度に冷えているやつがうまい。
このコーラというやつは、見た目は黒エールのスタウトのようだけど、味は全く違う。
とても甘いのだ。
そして炭酸はきついが、飲んだ後の爽快感が堪らない。
「おいしい」
ぷは、と梨音は空を仰いだ。
隊の仲間は今頃どうしているだろうか。
領主の娘である自分を敬いつつも、食事に連れ出してくれたアルトゥーロ。
熊みたいにでかい男で、片手でビール樽を持ち上げているところを見たことがある。
もちろん中身入りだ。
剣士のリナルドが結婚すると知った時、祝いの酒だ、と中庭に運んで来た。
もちろんその後は中庭で宴会だ。
あの頃は隣国との争いもない時期で、理由を付けては宴会をしていたな。
あれは楽しかった。
もう出来ないと思うと、さびしい気持ちになる。
梨音は、ふうっとため息をついた。




