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原石の少女

「な、そういうことは早く言いなさいよね」

 梨音は慌ててリュックをつかむと男達から見えないところへ移動した。

「すみません、レナータ様。ここ数年で何度かそういうところを見たことがある、というだけなのです。ですが、その者たちに雰囲気が似ています」

「そう。こういう場合は最悪のことを想定して行動すべきね。この場を離れましょう」


 梨音の知識を参照する。


 人目に付きにくいルートはどれだろう。

 いくつかのルートのうち遠回りになるけれど近くの集落を抜ける道を選択する。

 いくら田舎とはいえ、人が住んでいる集落だ。

 誘拐もしにくいはずだ。

「こっちよ、マウリツィオ」

 早足で歩きだす。

「やっぱり何か魔法を探知されていると考えるべきね」

「そうでしょうね。狙いが魔法師なら当然でしょう」


 マウリツィオはレナータの聡明さに感心していた。

 マウリツィオでさえ魔法の発動を察知出来るのだから、既にいる何人もの異世界転生者の中にそれがわかるものがいてもおかしくはない。咄嗟の思考でその可能性を思いつくのだから。

 やっぱりレナータ様は素晴らしい。

 美しい女性になるだろう少女・・・原石の少女・・・頭が良くて、そして中身が貴族令嬢で魔法師。・・・ロリ魔法師・・・ロリ魔法使い・・・


 マウリツィオも猫とはいえ何十年も日本で生活してきたため、そして異世界転生について調べるために、その手の本を・・・ページをめくるのに全く向いていない前足を器用に使って読んだり、アニメやコミックスで学んできた。

 それに、人間の魔術師だった頃も幼女趣味の傾向があったし・・・

 

 そして、マウリツィオがこちらの世界で融合した人格にも・・・かなりロリ傾倒の趣味があった。


 細い手足、サラサラの黒髪・・・

「レナータちゃん、ええなあ」

 通りの様子を覗っていた梨音が振り向いた。

「え?なにか言った?」

「あ、いえ、別に・・・」


 あ、あぶない、キャラが崩壊するところだった。

 マウリツィオは暴走気味の思考にストップをかける。


 落ち着けマウリツィオ、初対面から今までうまく出来ていたではないか。

 クールな黒猫を演じるのだ。

 

 元のマウリツィオの人格も、高尚といえるほどは高くはない。けれど、神殿勤めをしていたこともある程度には高潔であった。

 でも、そんなんも50年近く前の話だ。

 日本の中年男性の記憶を手に入れ、そして猫として過ごして来た長い時間。


 もうとっくに「高名な魔術師マウリツィオ」なんていう人格は崩壊している。

 しているんだけど、この貴族令嬢にして高い魔法力をもつ少女に気に入られなければならない。


 この機会を逃してなるものか。

 あわよくば・・・人としての人生を取り戻せるかもしれない。

 ひょっとすると・・・あの世界へ戻ることも出来るかもしれない。


「れ、レナータ様。マウリツィオが見て参りますよ。猫が歩いていても誰も気に留めないでしょう?」

 梨音はマウリツィオをまっすぐに見つめた。

 マウリツィオは少し鼓動が早まるのを感じた。


「そういえばマウリツィオは連れ去られたりしないの?転生者でしょ?」

「その心配はありません。私はかなり以前にこちらへ来た転生者ですから知られてもおりません。それに、そもそも魔法力の行使が出来ません。レナータ様のように魔法力があって、私の言葉がわかる方以外には普通の猫にしか見えませんから。普通の人間には、私はニャーニャーと言っているようにしか聞こえていないはずです」

 そういうとマウリツィオは、ぴょん、と跳ねて通りへ飛び出した。


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