異世界
高台からの眺めは良かった。
何処までも広がる海。
さすがの梨音の知識でも太平洋だということはわかった。
同時にパシフィックオーシャン、とレナータの知識が単語を出力する。
おぼろげな梨音の世界地図の記憶とレナータの知る世界地図の形がおおよそ重なった。
するとファーイーストの地域、それもパシフィックオーシャンに面した地域に二ホンはあるのだろうか。
「レナータ様、カンパニア王国では世界地図はご覧になられたことはありますか?」
「ええ。ちょうどそのことを思い出していました。確かにこちらの世界地図とおおよその形は一致しますね」
「こちらの地図は衛星なるものまで使用して精密に描かれていますから。おそらく我々の知っていた地図の方が不正確なのでしょう。完全に一致する、といって差し支えないと思います。エトルリアでは二ホンにあたる地域は「ヤッポーネ」と呼ばれている島国だと思います」
「ヤッポーネ?」
「ええ、そうです。別名ジパングという名称でも伝わっています」
「ジパングって、あの東の果てにあるという国?確か国を閉ざして独自の文化を保っていると聞いたことがあるけど」
「そうでしたね。そしてこちらの世界の二ホンも250年ほど前まで鎖国をしていました。国を閉ざしていたのです」
「つまり・・・どういうこと?」
「パラレルワールド、という言葉がこちらにはあるようです。このマウリツィオにも日本で生きた男の記憶がございます。その男の知識、とくに空想科学と呼ぶ知識には、並行世界についての知識がありました。おそらく、我々のいた世界と、この世界は過去の分岐から枝分かれしたパラレルワールドなのではないかと考えています」
「なるほどね、私の梨音の記憶にもパラレルワールドの知識はあるわ。そもそも異世界というのもパラレルワールドなのかもしれないし。異世界ものの登場人物や世界観って、どことなく中世のドイツっぽいし。似ている地理の世界も少なくないものね。けれど魔法が存在していたりするってことは、やっぱり異世界なのだわ。そして世界構造的に、かなり近い異世界だ、と」
「・・・レナータ様、急に饒舌になりましたね」
「え?なっ、そんなことない・・・」
「梨音様の知識はかなり偏っているのでしょうね」
「・・・それは・・・認めるわ」
梨音はため息をつく。
この知識、向こうに行った梨音は何かの役に立てられるのかしら?
「実は、こちらの世界にも魔法はございます。ただ、それは失われた、とされています。もしくは科学の発達における一段階であり、本来の意味での魔法は無い、とする文献もあったようです。ですが、魔法が発動するための条件は存在しているのです」
「そうね。そうでなければ私の魔法が発動するはずないものね。世界観が近いから、本来は異世界の能力のはずの魔法が発動可能、という理論ね」
「我々の世界でも、魔法は5、6百年前頃から進化を始めて術式、理論、応用、発展を繰り返して来たのです。それ以前の魔法は原始的で一部の者にしか扱えないものでした。それが魔法文明の発達とともに進化を続け、誰もが魔法を行使出来るようになり現代の魔法文明を築いたのです」
「つまり、今いるこの世界は産業革命と科学文明の進歩をした世界、私達がいた世界は魔術革命と魔法文明の進歩をした世界、その程度の違いってことね?」
マウリツィオが頷いた。
梨音は大きく息を吸った。
まあ、今さら考えても仕方ないかもしれない。
そう簡単に元の世界に戻ることは出来ない。
いや、戻る必要性もないかもしれない。
海を眺める。
カンパニア王国スカファーティー領は海沿いの領地だった。
故郷の海は、もっと透き通ったような青い空と光り輝くような海だったけれど。
少し曇りの天気だからということもあるけれど、青の濃い海だな、と思う。
それでも海を見ていると何故か心が落ち着くような気がする。
「レナータ様」
「ん?なに?マウリツィオ」
「あれを見てください」
猫の視線を追って海岸を見下ろす。
「あの男たちのこと?」
「ええ、そうです」
海岸に3人ほどの男が歩いていた。
似たような黒っぽいジャケットの男達だ。
「あれが何か?」
「海岸に出てきたのに、海を見ていません」
「そうね、言われてみれば」
「レナータ様、お伝え忘れていましたけれど、こちらへ転生してきた者たちのうち、生き残ったものを狙う組織があるようです。何人かが連れ去られるところを目撃したことがあります」




