お昼ごはん
海岸から上がり、松林へ移動した。
梨音の記憶を参照すると、この先に海の見える場所がある。
少し高台のようになっていて芝が生えている。
腰を下ろして休憩するのに丁度いい感じだ。
「よいしょっと」
梨音は背負っていた小さめのリュックを下ろした。
「マウリツィオはミルクで良かったよね?」
「ええ、レナータ様」
リュックからミルクを入れたボトルを取り出し、持ってきた樹脂の皿に注いだ。
それから自分用のおにぎりを取り出した。
ラップで巻いてある。
小さめのおにぎり、三つ。
向こうの世界でのレナータは比較的食べる方だった。
梨音は食べるかどうかというよりも、かなり不規則で量もバラバラ、気分次第だったようだ。
「うん、おいしい。塩味が効いただけの米だと思っていたけど予想外においしいわ」
「レナータ様、私もちゃんと食べられれば良かったです。この体は半霊体のようなものですから・・・液体程度しか口に出来ないのが残念です」
故郷は海が近かったが海藻料理というものは身近ではなかった。
おにぎりに巻いた「ノリ」というものの香りが食欲をそそる。
国境の町からほど近い港町で一度だけ食べた「マウロ」という海藻が似ているかもしれない。
けれど直巻きで柔らかくなった海苔の風味は数段こちらの方が上だ。
次は食する直前に巻くのも試してみよう。
「いつかマウリツィオも食べられるといいね」
梨音は微笑んだ。
浜風に揺られた黒髪がサラサラと頬を撫でていく。
少し日本人らしくない面立ちがエキゾチックに見えた。
思わずマウリツィオはドキッとしてしまう。
実は美少女の原石か?
控え目に言って、少しだけ幼女趣味のあったマウリツィオは(といっても過去に大人も含めて親密に付き合った女性は一人もいない)挙動不審になって少しミルクをこぼしてしまった。
「そう、ですね。人間に戻れたら・・・と思うことはありますが・・・あ、いえ、決してやましい意味では無くて」
「やましい?どうして?」
グレーの目がマウリツィオをまっすぐに見つめる。
あ、これは間違いなく原石だ。
そして、中身が貴族令嬢だ、人を魅了する振舞いが自然に出来てしまうように教育されてきた貴族の令嬢だ。
「あ、その、違っ、」
「・・・戻れたら魔法も使えるようになるのかしら?」
「と、その、そうですね。人としての器があれば大なり小なりの魔法力はあるでしょうから」
話題が変わってほっとする。マウリツィオは誤魔化すように言葉を続ける。
「レナータ様も梨音様の体においても問題なく魔法を行使出来ますよね?」
「ええ、少し威力は低くなっていますけど」
「我々のいた世界において、魔法は神と魂の契約において行使できるようになるものですから。魂が不変ならば、肉体が違っていても魔法行使は出来るのです」
「世界が違っていても?」
「この世界は、実はそれほどあの世界と差はないようですよ」




