馬車とナタリーの新しい乗り物
荷物をまとめたらお店の前で集合。
チプカシは7時15分。私はシャツにジーンズ。トレッキングシューズ。そしてナタリーに貰った革のエプロン・・・じゃなかった、防具。肩当てを装備。腰にはショートソード。
フル装。
マウリツィオ師匠は足元で暇そうにしている。
私も暇だ。一番に出てきたけど、みんなまだかな?
最初に出てきたのはカイトだった。
「お、早いね」
「うん。馬車が楽しみで」
「馬車かあ。僕は乗ったこと無いな。都代は?」
「私は、少し。ナタリーの馬車に乗せて貰ったことと、農村馬車みたいなのにも少し乗ったかな」
「へえ、いいな」
「カイトも、もうすぐ馬車に乗れるよ」
「馬車の乗り心地はいいのかな?あとスピードはどのくらい?」
「乗り心地は・・・物によるかな。ナタリーのなら、バネが付いてて乗り心地は良かったよ。スピードは・・・あんまり出ない。ママチャリくらい?」
「そっか。じゃああんまり速くはないか」
次に出てきたのはナタリーだった。
「お待たせしました。片付けに手間がかかってしまって」
「いえいえ。荷物も持ってもらってるし、お世話をかけます」
「僕も、お礼を言うよ。ナタリーがいてどれほど助かっているかわからないよ」
「そんな、お互い様ですよ。カイトが近接戦闘してくれたから、この村までの移動がスムーズでしたし。これからの道中もよろしくお願いします」
カイトも戦闘用の服装。背中に勇者みたいなバカでかい剣を装備。グレートソード。
ナタリーは軽装だった。というか、ほぼ普段着だった。それも日本にいた時の・・・。つまり何処かの小学校の制服みたいな紺色のブレザーにスカート。
「ナタリー、防具は?」
「アイテムボックスの中ですよ。私、運転しなくちゃいけないので」
「あ、邪魔になる?けど、運転台は危なくない?前から攻撃された時、なにか防具があったほうがいいんじゃない?」
「大丈夫ですよ。強化ガラスですから。けっこう頑丈なんですよ、あれ」
「強化ガラス?あ、取り付けたの?」
記憶の中の馬車の運転台は剥き出しだった。御者は使用人なので、客席とは別なのだ。
でも、そうだよね。考えてみたら、馬車を扱えるのなんて・・・ナタリーくらいだもんね。それはなんか悪いな。私も運転台に座ろうかな。
「ナタリー、僕が馬車を扱えたら良かったんだけど。なんか悪いね、大変な仕事をおしつけるようなことになって」
「そうですね。じゃあカイトも後で運転の仕方を覚えますか?時間はきっとたくさんありますし」
「本当に?もちろん!教えてください!」
目を輝かせてカイトがナタリーに頭を下げた。
「そんなに難しくないですよ。オートマだし」
「オートマなんだー。それってどんな馬車なの?」
「え?都代?カイト?馬車じゃないですよ?」
「「え?えー?」」
ナタリーは、不思議そうな顔で見返してくる。
「アイテムボックスに生きた馬を入れるのは怖かったので・・・」
「時間停止なんだっけ・・・」
「ええ。生き物を入れたことは無いんですよ。どうなるか想像すると怖いでしょ?」
「時間停止してるなら、大丈夫なんじゃないのか・・・?」
「例え大丈夫だったとしても、入れられた方は怖いと思うんですよ・・・」
「う、確かに・・・。で、馬車じゃないとしたら、乗り物って何?」
「あ、これですよ、カイト」
そう言うとナタリーは道に、その白い車体を、発現させた。
うん、発現としか言いようがないね。何もない空間に、一瞬のもやの様なものが浮かび上がったかと思ったら、音もなく白いアレが現れたんだから。
「「軽トラ!!」」
カイトと声が揃っちゃったよ。
ま、まさかの軽トラ!それも真っ白な軽トラ。
ファンタジーな異世界に・・・昨日、ワイバーンと戦った、この場所に・・・軽トラって・・・。
カイトの顔は引き攣っていた。
「いや、有り得ねえ・・・」
「そうですか?でも考えてみてください。馬車よりもスピードが出て、荷物がたくさん運べて、小さいから馬車道も走れて、頑丈です。これ以上の選択は無いと思いますけど?」
「あ、うん、え?そうなの?」
「そうですよ、都代。農家さんは、これで何でもしてしまうんですよ。作物も肥料も運ぶし、スーパーに買い物、畑の中だって走るし・・・。それに見てください。これはH社のアク〇ィーです。エンジンミッドシップの軽トラ界のスーパーカーと呼ばれているんですよ?」
「ほ、本当ですか?スーパー軽トラックってことですか?」
「スーパーに買い物に行ける軽トラっていう意味じゃないよな?」
「違います!本当に高性能ですよ!」
少しプンプンという顔でナタリーが主張する。
お、面白いけど・・・。異世界で軽トラの優位性を主張する美幼女。
「でも、これ、二人乗りじゃない?てか、ナタリー、運転出来るの?免許は?」
「座席は二つしかないですけど、荷台に乗ればいいじゃないですか。そんなにスピード出せないでしょうし、盗賊や魔物に襲われた時、車内からでは先制攻撃が難しいでしょう?それと、私は生前、30年くらいの運転歴があります。ベテランドライバーです。安心してください」
「でも免許は・・・」
「異世界に免許証は不要でしょう?第一、そんなものあっても、誰も読めませんよ?」
「た、確かに・・・けど、ナタリー、ペダルに足、届くの?」
「よく聞いてくれました、都代。見てくださいよ、これ」
そう言ってナタリーがドアを開けた。ナタリーの顔は自慢げだ。
「あ、なるほどね・・・」
アクセルペダルとブレーキペダルは延長金具が溶接されていた。あと、台も固定されている。床のかさ上げ用だ。つまり、足が短くても運転できるように改造されていた。
「これ、どこでやってもらったの?」
「ヴューテルシュミット村でやってもらいましたよ」
「やっぱり・・・」
そんな話をしていたらレナータが店から出てきたよ。
レナータの後からアンジェラさんも出てくる。
アンジェラさんが軽トラを珍しいものでも見るような目で見ていた。
「ナタリー、いいわね、これ。軽トラっていうんでしたっけ?綺麗なクルマが手に入ったのね」
「ええ。中古車ですけどね。本当は4WDが欲しかったのですけど・・・オートマの仕様では4WDは無いそうで。普通の後輪駆動ですけど、そこはミッドシップのトラクションで・・・」
「ナタリー、難しい話、禁止!ていうか、異世界感ゼロだから、軽トラのメカ解説も禁止!」
「えー?久しぶりのマイカーなのに・・・」
「というか、レナータは軽トラで移動するのは知っていたのか?」
「もちろん、聞いていましてよ?カイトには言いませんでしたっけ?」
「聞いてないよ・・・」




