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戦神

 光の剣が宙を走る。それに触れた襲撃者たちから大量の血飛沫がとぶ。

 急に戦況が変わったことにパニックになっているのか、雷鳥サイドも襲撃者サイドも固まっているようだった。


 そしてそれは俺も同様で、体は全く動かしていない。なんならしゃがんで顔を伏せていてもおかしくなかった。

 だが、俺の意志とは裏腹に、まるで操り人形にされているかのように身体が勝手に動く。何なら見た目まで変わってしまったのか、胸部に膨らみがあるようにも感じた。黒かった髪も銀色に輝き、肩あたりまで垂れ下がっているように見える。


「神卸をしたんだ。見た目は変わるに決まっているだろう。キミより上位の存在のボクが憑依してるんだ、性別もボクの性別で上書きされる。長い間この状態だと後遺症が残るかもね」


 俺の声ではない。だがそれは俺の口から発せられた。しかし聞き覚えのあるその声は、アフロディーテ、彼女の声とそっくりだった。

 そんな話は聞いていなかったが、どんな話にも裏があるに決まってる。多少の犠牲は仕方ないと思っていたところだ。この際俺の体を乗っ取られようと文句を言う資格はない。女体化だけは許せないが。


「まあ、ひどい後遺症が残らない程度には善処するよ。久しぶりに下界でひと暴れしたいという欲望が出ただけでキミの身体を乗っ取ろうだとか、そういう気はこれっぽっちもないんでね」


 俺の身体を扱うアフロディーテはそう言いながら、次から次へと襲撃者の首を刎ねていく。今まで人を殺したことのなかった俺が、自分の意思と関係なく第一人称でその光景を眺めなければならないのは苦痛以外の何でもなかった。

 視線までも乗っ取られているため、アフロディーテの次に狙うところまで正確にわかる。


 次死ぬのはコイツか……と、自分の頭の中で一歩先の未来がわかってしまう感覚だ。


「意外とキミとの相性が良すぎるみたいだ……、身体がどんどん馴染んでくる。本来なら喜ばしいことなんだけど、ボクの侵食スピードが早くなるということだから、この身体を返すとなると全く喜ばしくないな」


 先程まで肩くらいまでしか降りてなかった銀髪は、戦っているうちに背中あたりまで長くなっているように感じられた。アフロディーテもそれを見て察したようで、さらりと流れる銀髪を右手で払うと、「はぁ……」とため息を漏らし、数多くいる軍陣の中に単身で斬り込んでいく。


「何となく察してるとは思うけど、ボク自身、実は戦闘に特化した神なんだ。愛と戦の神とか大それた敬称で呼ばれているけど、ぶっちゃけ戦9割ってところさ。愛の神が異性を洗脳する能力なんて持ってるわけないだろう? キミに最初に与えた加護だって、他の愛に携わる神なら異性と目が合うだけで一目惚れ……みたいな加護なんて朝飯前。ボクが与えられる加護は『like』が限界で『Love』には及ばないんだ」


 淡々と、敵陣の中央で無双していきながら、俺に話しかけてくる。

 周りから見ると一人でブツブツと呟きながら殺していくんだから、相当狂ってるようにしか見えないだろう。


「戦神のボクがキミの望む力なんて本来分け与えることなんてできないんだ。でも都合よくキミは女性が苦手だから克服したいというボクの力と関連性のある望みを持ってボクのところへきた。キミならボクがずっとキミに固執してるところからなんとなくわかっているだろ?」


 周りの襲撃者を一網打尽にし、親玉のいる最後方まで相手を追い詰めていく。いつのまにか戦闘していた雷鳥たちも安全圏まで後退し、アフロディーテの姿を見守っているようだった。


 アフロディーテは親玉の方を睨むと、ジェスチャーで首を切り落とすよう促した。

 始めはそんなアフロディーテを嘲笑していた親玉であったが、すぐに自分の腕がプルプルと震えだし、自分の意志とは関係なく刃を自らの首に向け始めたところで顔面蒼白になった。が、もう下した命令に反くことはできない。

 親玉は狂ったように動く右腕を押さえようとするも、そのまま喉元を切り刻まれ、大量の血飛沫と共に絶命した。


 全ての敵を殺し尽くしたところで、少しずつ身体に自由が戻ってきたように感じた。おそらくアフロディーテが俺の身体から離れたのだろう。

 先程まで背中まであった銀髪は同時に抜け落ち、元の短髪に戻ってゆく。骨が軋み、肉が身体中を移動するような感覚は俺の意識を奪うには十分すぎたらしく、一瞬で俺はその場に倒れ尽きた。

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