第19話 ウサギのお姉ちゃんと家族
なろうコン大賞のタグつけてみました。
拙い文章と自覚しておりますが、ブクマや評価をいただける度に嬉しく思います。
誠に有り難うございます。
創生の女神《アテイール》様が、この世界を創られたのは一万年前。
それから自然あるれる大地が創られ、動物や人が生まれた。
そして、神様たちは、人に神の御業を授けてくださったけど、《アテイール》様の御業を使う者はいなかった。
だから、神の加護を受けた者が、御業を使うことはあっても、その名を口にすることはない。
祝詞を口ずさみながら、僕は様子を警戒しながら様子を窺っている人たちを見る。
ギルドに貼りだされた緊急依頼。
それによって、集められた兵士や冒険者の人たち。
僕らが来たときよりも、さらに人数は増えた。
どれくらい集まったのかは分からないけれど。
僕は小さいから、集団の前の方しか見えないし。
「我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その意思を継ぐもの。我の纏いし神装束は、この世の理を顕し、あらゆる邪気を祓うものとならん。【神装変身】!!」
足元に金色の幾何学模様が現れると、僕は金色の光に包まれる。
僕の全身を包む、お姉ちゃんの髪の色に似た空色のローブ。
最後に現れた、神器【理を正すタクト】を右手に掴むと、神鎧を纏った冒険者のおじさんへと向けた。
静かに成り行きを見守っていた人たちも、変身が終わると俄かに騒ぎ出した。
「おい、今の聞いたか?」
「そんなはずはないだろ?」
「でも、背中見てみろよ」
「あいつらだろ? 白雪龍をやったのは」
僕の背中に刻まれた《アテイール》様の紋様のことを言ってるんだと思う。
世界一有名な神様でありながら、誰もその寵愛を受けたことがないらしい。
少なくとも、この町で加護のことを、隠すことができなくなった。
でも、今はウサギのお姉ちゃんのほうが大事だから。
「僕は創生の神《アテイール》様の寵愛を受けたアルです! ここに倒れてるウサギのお姉ちゃんにひどいことするなら、ぼっ僕が絶対に許しません!」
『アルちゃん。そんな呼び方しないでって言ってるでしょ?』
僕の近くを飛び回る《あいちゃん》は、いつもふざけてるんじゃないかって思う。
でも、そんな《あいちゃん》が傍にいてくれるから、僕はいつも勇気百倍なんだ。
冒険者のおじさんは、いかつい顔を歪めて怯んだように見えた。
やっぱり《あいちゃん》のお名前は、すごい衝撃があるんだと思う。
「しかし……やはり外道を見過ごすわけには……」
「いいの! 僕がいいって言ったらいいの!」
もう少し。この冒険者のおじさんは、迷ってる。
僕が言ってることは、とても交渉とはいえない、子供の我がままだけど。
「ふざけるな! 外道は殺せ!」
「この人数で掛かればいけるんじゃねーか?」
「そもそも、外道を庇う奴が、《アテイール》様の寵愛を受けるはずないんじゃないか?」
僕らを囲む人たちの雰囲気が、とても嫌なものに変わっていく。
そんな彼らを見わたすと、瞳の色は様々だけど。
でも、外道化した者のような、禍々しい感じがして、とても嫌な気持ちになった。
「アルくん。まずいかも……」
お姉ちゃんの一言に、僕は周りの人たちを見やる。
神鎧を纏ったお姉ちゃんは、いつものように凛々しくて、とても綺麗で。
綺麗な空色の髪の隙間から、少しだけ焦ったようなお顔が見えた。
それは、変わりゆく雰囲気が、外道許すまじ、そんな方向へと傾いていったから。
この人たちが襲ってきたら。僕はこの人たちを殺してしまうのだろうか。
ウサギのお姉ちゃんは助けたい。それは変わらない僕の気持ち。
でも、だからといって、この人たちを殺すこともできない。
シリンギ村で、不幸にも外道へと、その姿を変えられてしまった人たちのことを思い出す。
あの人たちは、僕を……お姉ちゃんも殺すつもりで襲ってきた。
でも、それはたぶん本能的なもので。
外道に堕ちた者は、人間を襲うと殺してその肉を喰らう。
ウサギのお姉ちゃんは?
この二週間。ウサギのお姉ちゃんは、野菜ばかり食べてた。
僕もたたかれそうになったけど。
でも、僕のお願いにちゃんと応えてくれた。
僕は襲われなかったんだ。
僕らを囲むこの人たちは?
各々に武器を携えて、今にも襲ってきそうだ。
外道化した者と同じなのかな? ――それは違う。
この人たちは、依頼を片付けるだけだ。
でも、その根底には外道に対しての憎しみとか、いろいろあるんだと思う。
仲間や家族を殺された人たちも、中にはいるかもしれない。
僕が思慮に耽ると、遂に攻撃をされてしまう。
こちらを目掛けて放たれた矢をかわすことはできない。
冒険者のおじさんの後ろにある三階建ての建物から放たれた矢。
僕が避ければ、ウサギのお姉ちゃんに当たってしまう。
そして、それに呼応するように、冒険者のおじさんと周りの人たちも僕らに襲い掛かってきた。
この身を包む、【アテイールのローブ】は、あらゆる攻撃を九九%カットする。
神獣の一種【神蚕】一〇〇%で作られたローブの身体能力は一○○倍だから。
僕らに目掛けて放たれた矢も、襲い掛かる人たちも。
スローモーションのように見えるんだ。
「アルくん!!」
『アルちゃん!!』
僕は両手を広げて、放たれた矢を一身に受ける。
次々と突き刺さるはずの矢は、僕の身体に触れると、力を失い地面へと落ちる。
お姉ちゃんは、僕を守るように冒険者のおじさんの剣を防いでくれた。
でも、相手の力の方が強いみたいで、弾かれた剣は折れて、くるくると回りながら宙を舞い、そして地面へと突き刺さる。
「アルくんには、指一本も触れさせません!」
折れた剣の柄を投げ捨て、僕の前で両手を広げて立ちはだかるお姉ちゃん。
赤い外套と空色の美しい髪を見ながら、心の中で大好きって言ったんだ。
だって、いつも僕を大切にしてくれるから。
「我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その力を行使するもの。我が造り出す風は、あらゆる敵意を粉塵へと還す。【防壁の風】!」
僕はすぐさま防御の御業を使う。
それは、お姉ちゃんが選んでくれた神の御業。
僕を大切にしてくれるお姉ちゃんと、地面に横たわる可哀相なウサギのお姉ちゃんを守るんだ。
そして、襲い掛かる矢も、僕らを突き刺そうとする槍は、【防壁の風】に阻まれる。
みんな細かく切り刻まれていった。
なるべく相手を怪我させないように、風の壁を調節しながら武器だけを粉々にしていく。
「なんだ? どうなってんだ?」
「アブねえ!」
襲い掛かろうとして、逆に武器を失った兵隊さんと冒険者の人たち。
見る見るうちに顔が蒼ざめていくのが分かった。
「僕らに触れることはできません。もう諦めてください」
僕の声に後ずさる人々。
神鎧を纏ったおじさんは、僕の防御壁に気づいてるのか、剣を構えたまま動かない。
すると、囲んでいた人たちの一角が崩れる。
金色の髪を短く刈り上げ、真っ赤なローブを纏ったコスティス男爵だった。
男爵も、炎を司る神《フレイア》様の寵愛を受けているみたい。
「その外道をどうするつもりなのだ?」
「…………」
翡翠のような瞳は、ギルドで見た冷たいものではなかったけれど。
でも、とても威厳に満ち溢れていて、何か僕を試しているような気がしたんだ。
「お姉ちゃんは僕の家族です。ウサギのお姉ちゃんも、僕のお姉ちゃんになってもらって、僕の家族にします!」
ハッキリとした口調で、僕を睨むコスティス男爵へ言った。
「外道を家族にするだと? その者は、創生の神《アテイール》様の理を外れ、外道に堕ちた者だぞ?」
「でも……ウサギのお姉ちゃんは、悪い外道じゃないです。こんな姿になってるけど……ウサギさんのお耳も……僕は大好きだから」
『ちょっと! アルちゃん! なんてこと言うの!』
なんか《あいちゃん》は、文句があるみたい。
ピカピカしながら、僕の周りを飛び回る。
どこから出てきたのか分からない手を使い、あーでもないこーでもないと。
「僕の大好きな《あいちゃん》なら、そんなひどいこと言わないよね?」
『アルちゃんは、いつもそうやって、ずるいから知らないっ!』
銀髪の美しい少女は、いーってしながら、そっぽを向いた。
いつも思うけど、創生の女神様は何を考えてるのか、全く分からないや。
そして、コスティス男爵の登場によって、様子を窺うようになった人たちから、ざわざわとした声が漏れてきた。
たぶん、その見た目と依頼だけで、ウサギのお姉ちゃんをやっつけようとする人たちだから。
でも、それは間違いじゃない。今回の事は、僕の我がままなんだ。たぶん。
「ハッハッハー! これは愉快なことよ。まあ良い。そなたが本気を出せば、我らなど到底蹴散らされるだけなのだろうからな。しかし覚えておくが良い。そなたの力は強大過ぎるゆえ、使い方を過ってはならぬ。そしてその力を利用しようとする者に気をつけることだな」
良かった。どうやらウサギのお姉ちゃんを許してもらえるみたい。
それに、コスティス男爵は、悪い人じゃないみたいだ。
お姉ちゃんもそう思ったのか、僕を見て頷いた。
そうして僕らは解放された。
でも、まだ終わりじゃない。
早く帰って、手当てしてあげないと。
気を失ったウサギのお姉ちゃんを抱っこする僕。
「よし! 帰ろっか」
お姉ちゃんの元気な声が聞こえると、《マリーの宿》へ帰路についたんだ。
* * *
「ちょっと! アルくん! どうしちゃったの!」
ウサギのお姉ちゃんを抱っこする僕を見て、エリカさんが駆け寄ってきた。
お姉ちゃんがエリカさんに説明してくれた。
エリカさんは、急いでベットを用意してくれて。
ウサギのお姉ちゃんをエリカさんの指示で、ベットに寝かせると、手当てを始めた。
肢体に刺さる矢を抜き、濡れタオルで流れ出た血を拭いて消毒をする。
僕は、お姉ちゃんとエリカさんで、手際よくするのを見てるだけだけど。
その時、治療の御業があることを思い出したんだ。
「《あいちゃん》! 治療の御業ってあったよね?」
僕は宙を彷徨う《神書》に話しかけた。
僕の呼びかけに応えるように、ピタって止まったのだけど。
僕を見る《あいちゃん》の黄金色の瞳が、なんていうかジト目なんだ。
また、ご機嫌ナナメらしい。
『そんなの唾でもつけて、ほっとけば治るよ』
「じゃあ、《あいちゃん》が舐めてあげるの? 神様の唾なら確かに効きそうだけど」
『なっ……そんな……。私ができるわけないでしょ!』
口をパクパクさせながら、そんなことを記す《あいちゃん》。
今はそんなふざけてる場合じゃなかったよね。
「じゃあ、僕がペロペロしたら、早く治るかな? ウサギのお姉ちゃんが元気になるのなら、僕は頑張ってペロペロするよ!」
『だっ……ダメーーーーー!』
叫び声を上げるようにピカーって光る。
でも声は聞こえないんだけどね。
それに、なんだかお姉ちゃんとエリカさんの眼が怖い。
手当てをしながら、顔だけ僕に向けるんだ。
僕が何かおかしなことでも言ったのかな? って思った。
僕は、ただ、ウサギのお姉ちゃんに元気になって欲しいだけなのに。
そして諦めたのか、《神書》が勝手にめくり始めた。
やさしい光を灯し、めくれるのが終わると、僕の手元へ降りてくる。
“【完全なる治癒アテイールVer】
祝詞 我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その力を行使するもの。我の力は理に生きる者を完全に癒す。【完全なる治癒】
用途・用法
祝詞を宣えば、一体に限り、怪我や病気で苦しむものを治すことができます。
この御業が効く症状、切り傷、刺し傷、骨折、その他の外傷。感染症、白血病、癌を含む全ての病気。
尚、死人や外道を治すことはできません。
※注意事項
この御業を同じ人に使えるのは一日に一回だけです。理の力を使い、無理やり治すこの御業は、使いすぎると害があります。
又、怪我や病気を患っていない人にも使わないこと。危険です。用法を守り正しくご利用ください。試しにソフィに二度掛けしてみましょう。おもしろいことになるやもしれません。ウヒヒヒヒ”
うん。《あいちゃん》は平常運転だ。
もう慣れたから、突っ込む気にもなれないや。
それに、これがあったら母様は助かったんだろうか?
そんな疑問が僕の脳裏をよぎる。
僕はそんな疑問を振り払うかのように、頭を振った。
今はウサギのお姉ちゃんを治さないといけないんだ。
「お姉ちゃん。エリカさん。ちょっと今から御業を使うから」
濡れタオルで、流れ出る血を綺麗に拭いている二人に、少し離れてもらう。
「我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その力を行使するもの。我の力は理に生きる者を完全に癒す。【完全なる治癒】」
右手に持った神器【理を正すタクト】の先に、真っ白な幾何学模様が現れる。
幾何学模様を彩る神文字が完成される頃、その先に真っ白な丸い玉が創りだされた。
幾何学模様も、白い玉も、それほど大きなものではない。
そして僕の指示と願いが込められた白い玉が、ウサギのお姉ちゃんをやさしく包み込む。
矢による傷や、何処かにぶつけたと思われる痣が、見る見るうちに治っていった。
お姉ちゃんもエリカさんも、僕もその光景を見守っていた。
やがてウサギのお姉ちゃんを包んでいた、うっすらと光る靄が晴れる。
「よかった……」
お顔にできた痣も、痛そうだった刺し傷も、みんな治ってる。
綺麗な白い肌も、ちゃんと元通りだ。
「アルくん。よかったね」
「うん」
お姉ちゃんの言葉に安心した僕は、その腰に抱きつく。
それに応えるようにして、いいこいいこしてくれるお姉ちゃん。
僕は嬉しくて泣いちゃった。
「あ……りゅ……」
すると、ベットから消え入りそうな声が聞こえた。
でも、それが僕の名前だとすぐに分かった。
だから、右手で涙をゴシゴシと拭ってから、ウサギのお姉ちゃんに近づいたんだ。
「ウサギのお姉ちゃん、もう痛くない?」
「あ……りゅ……」
「なーに?」
ウサギのお姉ちゃんが、僕の名前を呼んでくれるのが嬉しい。
僕はニコニコしながら、桃色の綺麗な瞳を見つめる。
薄い唇から、僕の名前が何度も漏れてくる。
「ちょっと! アルくん!」
「あれ? なに? どうしちゃったのかな?」
『おい! なにをするんだ!』
「キキキキキ?」
みんなの声が聞こえたと思ったら、僕はウサギのお姉ちゃんに抱きしめられた。
それで、僕の頭を撫でてくれるんだけど、お胸に埋めらる力が強いから、苦しくなっちゃったんだ。
「ウサギのお姉ちゃん、苦しいよ」
「あ……りゅ……。うれしい……。ボク……、うれしい……」
片言だけど、ハッキリ聞こえる話し言葉。
ウサギのお姉ちゃんのお胸は、ぷにぷにしてて、気持ちが良くて、いい匂いがする。
だから僕も嬉しくて、ぐりぐりしちゃう。
『おい! 早く離れろ!』
僕が苦しいって言うと、離してくれるけど、ウサギのお姉ちゃんのお顔を見ると、またすぐに抱きしめられる。
何度も同じことを繰り返して、嬉しいがいっぱいになった。
お姉ちゃんも、エリカさんも呆れるようにしてたみたいだったけどね。
僕がみんなの前で宣言した新しい家族。
でも勝手に決めちゃって、大丈夫かな?
そう思うと心配になっちゃって、ウサギのお姉ちゃんの綺麗な桃色の瞳を見る。
「あ……りゅ……。うれしい……。ボク……、うれしい……」
同じ言葉を繰り返すウサギのお姉ちゃん。
僕はその胸に抱きしめられながら、きっと大丈夫だって思うと、急に瞼が重くなってきた。
「あーっ! アルくん! そんな格好で寝ちゃダメでしょ!」
お姉ちゃんの声が聞こえたけれど、僕は睡魔には勝てなかったんだ。
次で一応のところ第1章は終わりのつもりです。