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放置プレイ終了のお知らせ

ドラゴンと思った?それとも蛇?


残念!攻略相手は怪物だ!


外側へねじれた2本の太い角、小さくぎょろりとした目、スリット状で平べったい鼻、短く不揃いで鋭い歯、龍の鬣を彷彿させるぼさぼさの髪、そして全身を覆っているであろう細かい鱗。

それだけ人間離れした要素をそろえておきながら、顔も体も輪郭が人からさほど外れていない。

モノクロでこのインパクトだ、耐性のない女の子なら卒倒ものだろう。

フランケンシュタインの怪物も真っ青な異形だ。

これに一目惚れしたなんて言ったところで信じてもらえるわけがない。

なので、立候補の際には『もらってくれる人が他にいそうにないから』と言う理由で通した。

嘘はついていない、事実それくらいの危機感を感じていた。

(自分で言うのもなんだが)見た目に大きな問題はないはずなのに、全くもってそういう興味を持たれないので不安どころの話じゃない。

何度でも言うが、異性と仲良くなる分には問題ないのだ。

それこそ乙女ゲームのサポートキャラ(♀)みたいに、恋愛感情を持たれないだけで。


さて、何故こんな話をしているのかというと…ついに王子に会う事なく1週間経ってしまったからだ。

使用人達の態度にも特に変化は見られず、かろうじて1人の若いメイドと軽い雑談ができるという状態だ。

王子の趣味なのか本は大量にあるので暇ではないが、寂しい。

ここに来るまでは毎日騒がしい環境で生きていた。

数えきれない人達と挨拶を交わし、両手両足じゃあ足りないくらいの人達とそれなりに雑談し、家族の声はBGMのように常に聞こえている、そんな環境だ。

恋愛面では全く満たされない上に平凡な毎日だったが、気の良い人達で溢れかえるような毎日だった。

望みすぎてしまったのだろうか。

たかがモブが王子と結婚だなんて、やはりおこがましいのだろうか。

この手の転生ものだと割とあるあるな展開だが、調子に乗りすぎてしまったんだろうか。

出る杭は打たれるというが、二度とないチャンスに迷わず飛びつくってそんなにダメなんだろうか。

私はただ、最強で最凶にかっこいい人が幅広い枠で嫁を探してるから自ら名乗り出ただけなのに。


涙をこらえつつ、今朝メイドに手渡された額縁を箱から取り出した。

私が少し前に頼んでいたもので、しっかりした作りであれば安物でも構わないと言っておいたのだが、そこそこ高級そうな木製の額縁だ。

まあ、宮殿に安物を置くのは確かにまずいだろう。

気のきかない台詞だったかもしれないと、自己嫌悪が胸中を蝕む。

どうにか気を取り直して前もって出しておいた王子の肖像を、額縁の中に丁寧に入れてベッドの横の壁にかけた。

満足感で少しだけ気分がマシになり、私は気合いを入れ直した。

疑われるのは覚悟していた、と自分でも思っていたじゃないか。

たかが1週間だ、勝負はまだまだこれから。

諦めるのはせめて1ヶ月たってからにするべきだ。

王子だって今まで色々あって大変な思いをしてきただろうし、乗り気じゃないのは仕方がない。

不快に思われない程度に、地味にアピールしつづけよう。

せっかく前世の記憶を持ったまま転生したのだから、精一杯やってみるべきだ。

「まだチャンスが作れそうな分、町にいるよりはマシなはずだもんね!」

自虐発言だが、事実なのでむしろやる気が出たのはここだけの話である。



***



私の妻に立候補した庶民の娘が帰るそぶりを見せない。

10日も無視すれば諦めて戻るだろうと思っていたのだが、まるで与えられたあの部屋が自分の家だと言わんばかりに動かない。

それどころか、1週間たったあたりから毎日短い手紙を送ってくるようになった。

今夜も届いた、これで五枚目の手紙だ。

正直、扱いに困っている。


そもそも結婚の話は宮廷魔導士のせいで急に進められたものだった。

私の呪いが興味深いからと長年調べている男で、解けたら名誉も転がり込んでくるだろうと他の仕事の片手間に続けていたらしい。

そしたら『真実の愛』とやらで呪いが解ける事が昨年判明した。

馬鹿げた話だ、笑い話にもならない。

仕事中に童話でも読んでいたのかと、報告を聞いて頭が痛くなった。

同じく報告を聞いた国王は何を思ったのか、そこらの結婚が決まっていない貴族の娘達をこの離宮に送りはじめた。

結果は言うまでもなく全滅、私がほんの少し姿を見せるだけで皆裸足で逃げ出す勢いだった。

初めからこうなるとわかっていた私は必要ないと言い続けたのだが、自分の評判を上げたいのか国王はやめようとしない。

ここで働く使用人達を集めるだけでも数年かかったし、1年以内に辞める者が出てこなくなったのは一昨年からだというのに。

化け物の世話なら耐えられる者も一定数いるだろうが、化け物の妻など誰もなりたがらない。

少なくとも、私はそう思っていた。


リジーという平凡な名を持つ彼女は、どこにでもいるような町娘だったと聞いている。

立候補の理由は『他に相手がいないから』らしいが、容姿に問題はないように見えた。

じゃあ性格はどうかと言われると、今のところ問題は見られない。

彼女の要望はささやかなものばかりで、華美なものは求めてこない。

最初ここに来た時はずいぶんと強引な娘だと思ったが、こちらが頑な態度をとらなければ割とおとなしい。

毎日来るようになった手紙も、さらりと読めるように簡潔かつ短く書かれている。

手紙の内容もその日の出来事やこちらの対応への感謝、私に対する1つ2つの質問や要望といったもので、媚を売っているようには思えない。

強いて言うなら私に会いたい、私の事を知りたいという気持ちを常にアピールしているので面倒に感じている。


今回の手紙もさらりと読める内容だったが、最後の段落を読んだ瞬間思考が止まった。

『私は1ヶ月で結論を出そうと思っています。

よろしければ、1ヶ月がすぎてしまう前に私を見定めていただけると幸いです。』

1ヶ月。

1ヶ月とは彼女がここに来たその日から数えてだろうか。

だとしたらもうすでに半分近く消費している。

つまり、放置すれば最短半月程度でいなくなってくれるのか。

………こう来られると、逆に真面目に考えたくなるのは何故だろうか。

それを狙っての言葉かもしれないが、少なくとも今までの娘達よりは話がわかりそう…いや、対話が可能と言う方が正しいか。

思えば差し出された娘達とろくに言葉を交わさなかった気がする。


ひとまず、彼女に関して一通り情報をまとめてみるとしよう。

考えるのはそれからでも良いはずだ。


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