9節 ダンジョン開放
長めです。
セレーナの声で朝を迎える。朝といっても、窓もない小部屋なのでコアの時間管理によって知るだけだが。
セレーナと彼女が作った朝食を食べた後、予定を確認していく。開放した後では遅いのだ。今のうちに最低限やることは共有しておきたい。
「開放は、転移装置の設置で行い、その後地上エリアにダンジョンを拡大。支配能力で、最低限地上エリアの安全を確認し、その後はセレーナの精霊魔法で周囲を確認。もし地上エリアや付近に魔物などがいる場合は、ひとまず戻り対応をねる。ここまでは大丈夫か?」
言いながら緊張感も増していく。ある意味最初の鬼門である。
「大丈夫です。精霊魔法は最上位風精霊、最上位地精霊を転移装置設置前に召喚しておいて、ゴッドの確認後は精霊の能力で確認。召還で残る私の魔力は大体8割程度ですね。」
やることは限られているとはいえ、つめの甘い点がないか、もう一度見直しておく。3度ほど、全過程を見直したところで、ようやく決意が固まった。
「それじゃあ、今から開放を始めるよ。まず精霊を召喚してくれ。」
「はい。最上級風精霊、最上級地精霊召喚。」
俺の指示でセレーナが精霊魔法を使う。
自然魔法が魔法の魔力を自身が提供することで創造を具現化する効果を生み出すのに対し、精霊魔法は魔力によって精霊を呼び出し使役するが、その後は精霊が空気中の魔力を用いて魔法を行使するため、使う魔力以上の結果をもたらすものだ。
ただ与えた魔力は精霊を呼び出している間回復することはない。魔力の大きさ、質が必要なため使い手自体が少なく、最上級の精霊を呼び出せるものはごくわずかだろう。セレーナが最上級精霊一体の召還で魔力の一割しか使わないと言うのは正直やばい。呼び出せる人間でも普通は半分近くは使うはずだ。
ちなみに精霊の使う魔法も自然魔法も決まった形があるわけではなく、個々の想像を具現化するものだ。区分としては下級、中級、上級、最上級があるが、これは魔法の分類ではなく、可能な操作やその精密さによる分類である。
セレーナを中心に2筋の光が回っている。まるで観察するようにいたるところをめぐっていたが、終わったのかセレーナの目の前で2つの光が止まっていた。セレーナもこっちを向いてうなずいている。
初めて知ったが、精霊に決まった形はなく、この光が精霊なんだろう。おれには判断はしづらいが、これで召喚は終わったみたいだ。
セレーナの精霊の準備も終わったし、転移装置だな。
「1000Pを使って隠蔽型、転移装置を設置。この部屋と、イメージ地図上の検索地点を結べ。」
サー。ポイントを1000P消費して、隠蔽型転移装置を設置します。
コアの回答と共に、部屋の端の床に直径1Mほどの魔方陣が現れる。次は地上エリアだ。
「地上の転移装置を中心に高さ0.5M、たてよこ20Mで、ダンジョン拡張。」
サー。ポイントを2000P消費して、指示通りにダンジョンを拡張します。
コアの回答がおわると、とたんに地上エリアの情報が頭の中で把握できるようになった。地上0.5Mまでしかわからないが、どうやら魔物などの危険生物は範囲内にはいないようだ。
原生林地域だけあって、樹木が多く、その上にいられると気付けない。転移装置の隠蔽能力は転移直後は使用者に対しても有効だから大丈夫だと思うが、セレーナには気をつけてもらわないと。
「セレーナ。地上エリアに魔物などはいない。転移して、精霊たちに半径50kmの地域を調べてもらってくれ。頼んだら、一回こっちへ戻って。精霊も契約者のセレーナのもとへは自由に戻れるはずだ。転移先にいる間は、常に敵襲を警戒しろよ。」
「わかりました。早速行ってきます。戻る前に何かあれば心話で伝えるようにします。」
そう言って、転移装置の上に乗ると、こちらを見て
「では、いってきます!」
と言って消えた。無事転移装置は機能したようだ。セレーナもすぐにまた現れた。周囲の安全をすぐ確認すると、精霊たちにあとは任せ、戻ってきたようだ。少なくとも、地上エリアの上部には魔物はいなかったらしい。それから数分で精霊たちも戻ってきた。
「下級の精霊たちと連携していて、これからは常時監視できるそうです。魔物などの分布イメージは私を通してゴッドも見れますよ。彼らが直接広げる速度より大分遅れますが、今も徐々に監視範囲を広げてくれてるようですね。」
精霊の力は思っていたよりも万能だな。最上級精霊だからかもしれないが。イメージを見てみると、どうやら最も近くにいる魔物の群れでも1kmくらいのあたりを動いている。よし。では次は俺が外に出る番だな。
ムッとした空気が満ちている。熱帯の原生林地域を選んだから温度や湿度が高いのは当たり前か。ただ本来不快であるような空気でも、初めて吸う自然の空気というのはおいしいものだ。
なにせあの部屋は完璧というくらいに空調管理がされている。設定を調整することはできるのだが、わざわざ居住スペースを最良の状態から変えようとも思えない。
それにしても。生まれて一日ちょっと、人生初の外出だな。
「隠れるにはちょうどいいが、視界が悪いな。セレーナの精霊たちがいなかったら結構きつかったかもな。」
「そうですね。魔物たちの察知範囲は広いですから、精霊の察知は結構重要になりそうです。まだエリア内にはいませんが、しとめられるように罠などをしかけておきますか?」
基本樹木が茂っているが、エリア内にもひらけたスペースがある。おそらく魔物たちや冒険者の通り道になっているんだろう。仕留めるなら、そこでだろう。群れでもそれなりの数を引き込めるはずだ。
「そうしよう。ちょうどいい魔法はあるか?できれば任意のタイミングで、広間に入っている魔物を一網打尽にできるようなもので。できれば林などは傷つけず。」
林などに痕跡を残してしまうと、魔物ならともかく、冒険者には警戒されてしまう。
「風精霊の魔法を使えば特に痕跡も残らないと思います。監視では下級精霊のまとめ役程度なので、魔法行使にも影響はないはずです。一応樹木精霊も召還しておきますか?環境的には最良だと思います。」
「じゃあ頼めるか?風と樹木の精霊なら最良だろう。足止め用の魔法も頼む。」
「では。最上級樹木精霊召喚。」
さすがに二度目なのでそれほど驚きはない。一度目を考えると、これでもまだ7割も魔力が残っているのか。召喚が終わると、セレーナは光に目を向けている。魔法の指示を行っているようだ。
「ゴッド。魔法の設置終わりました。監視や指示と連動できるようになってます。」
「じゃあ、とりあえず戻ろうか。とりあえずダンジョンマスターとしての第一段階はこれでいいだろう。」




