理由もない大事件が“伏見悠榎”を襲う!! ……事件っつーよりは事故ではあるけれども。
学園祭当日まで次第に日付も近付いてきた。それに比例して俺達のクラスの準備も、順調ではないけれどそれなりには恙無く完成に向かっている。
勿論それは部活動での出し物に関しても例外ではない。
我が隣人研究部での出し物である楽器演奏━━通称“ライブ”の準備もそれなりの出来にはなってきていた。もう少し互いの音を合わせれるようになればいいのだけれど、今のところはまぁ上々と言ったところか。残った時間でしっかりと合わせることが出来ればいい。と、知ったかのように語ってみました。まだまだ期日までは余裕があるのだからゆとりをもって頑張ればいいと思います。まぁ、俺が頑張る訳じゃないので軽く他人事のように語るわけだけれど。
そんなわけで本日も絶賛セッション中。主にやることのない俺は、とりあえず椅子に腰掛けて小説をパラパラと読みふけっているのであった。
こんな騒音のなかでよく気にならないと思うだろう。意外や意外、これがなかなか結構捗るのだ。ぼくもびっくりです。
セッション中に鳴り響くこの音は確かに五月蝿い。ギターやらベースやらはアンプとかいうやつに繋いでいて音量は倍増してるし、ドラムのあのシンバルっぽいやつを叩いたときの音もなかなかの音量である。しかし、これはこれで嫌いではない五月蝿さだ。教室のあのリア充リア充したざわめきよりは確実にマシな部類である。
ペラッ、ペラッ、と数ページ読み進めていると、不意に演奏が止まる。同時に俺もページをめくる手を休める。
「……今日は私、ちょっと用事があるから……」
と、笹原は簡単な説明だけをして、楽器を片して教室を出ようとする。こいつはなんて自分勝手なのだろうと思うけれども、正直言えばどうでもよかった。
笹原がこの部屋を出ていったあと、
「用事なら仕方ないわね。でも、綾瀬が帰っちゃったからもう合わせるのは無理だし、今日は解散にしましょうか」
と来栖は楽器を片付けながら皆に言った。笹原さん、グッジョブ。俺はその一言を待っていた。
正直言えば俺は暇を持て余していたのだ。まぁ、確かにあの空間での読書と言うのは別段苦痛というわけではなかったけれども、しかし、それでもやはり暇であることには代わりなかったのである。
来栖の一言により皆が片付けを始めた頃、別段片付ける物のない俺は、ささっと鞄を手に持ち、
「……んじゃ、俺はお先に」
と、軽い挨拶を交わして教室を後にするのであった。
いつものように部室を後にし、いつも降りている階段へと向かっていると、その付近にて何やら女子生徒たちが屯している様子だった。……んだよこいつら、マジで邪魔なんですけど。
俺はその群れを邪険に思いながら、いつものようにとぼとぼと階段を降りようとする。その群れにすれ違う際に気付いた……というより正しく言えばすれ違う寸手前で気付いたのだけれど、その群れの中心にいるのは俺より先に帰ったはずである笹原が、そしてそいつの目の前には何度も笹原を尋ねて我が部室へとやって来たあのボス的存在のやつがいた。……こいつら階段で群れをなして話し合っているとかどんだけ仲が良いんですかねぇ……。マジで邪魔なのでどいていただきたいです、はい。
と、俺は思っていたのだけれど、どうやらその通りではないようだ。すれ違う際にチラッと一瞥し、更には微かに話し声が聞こえてきた。そのボス的なやつが何かしら熱く語っているが、対する笹原は興味無さそうな顔である。というかはよ終われっていう感じの表情だろうか。分かる、分かるよ笹原。俺もそういう輩は嫌いだし苦手だ。
笹原に同情はするが助け船を出すこともなく、俺はその群れの隣をすんなり通り越し、階段をとてとてと降りるのであった。別に俺にとってはどうでもいいことだし、それ以前に笹原が俺からの援助を求めているとは全く思わない。むしろ敬遠されているまである。群れからは遠退いていくが、それでもその声はこちらまで聞こえてくる。もう五月蝿くて五月蝿くて仕方ない。
「ちょっと待ちなさいよっ!!」
声を大にして誰かが叫ぶのが聞こえた。待てという発言から推測するに、まだ話が終わっていないのに笹原が帰ろうとしているのだろう。まぁ、笹原のことだからそういう対応で切り抜けようもするわな。たったの何週間かこいつのことを観察、もとい共に活動をしていたから、俺はこいつの心境的なやつをなんとなく推測できたが、確かこいつら同じクラスなんじゃないの? まぁ、もっと互いのことを知れ、とか無理は言わないけれども。他人には高望みをしない俺なのである。
俺はそんな声を当たり前だが気にせず階段を降りていると、不意にバタッという音が聞こえた。それと同時に「へ?」という何やら驚きのような声も聞こえた。なんだなんだぁ~? と心にもないことを思っていると、不意に背中を押してくるような抱きついてくるような感覚がやって来た。しかも、結構な勢いで、である。
おいおい誰だよこんなところで抱きついてくる輩は。時と場所を考えて欲しいネー。と、茶化してみるけれども、これ結構ヤバイですのよ?
背中に襲うなにかがぶつかる勢いそのままに、俺は階段から足を踏み外した。というより背中を押されて階段から落ちているといった方が近いしむしろ正しい。
そうなのです。俺は階段から落ちているのです。このままだと顔段の折り返しにある壁にダーイブ。そして顔面をヒットォォォォォォォォォォ!! なのである。
ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!! 俺、階段から落ちてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!?
……って、リアクションとか今はマジでイラン。それより何か対策をとらねば、とは思った。だがしかし、この状態━━即ち階段からとうに落ちている状態ではもう成す術なし。咄嗟の判断で申し訳程度に顔を腕で庇ったけれど、
「………ッ!!」
頭の、しかも腕では庇いきれなかった部分を強く壁に打ち付けてしまい、しかもどうやら打ち所が悪かったみたいである。俺の意識は次第に遠退いていくのであった。俺の人生終了のお知らせですか?
薄れていく意識のなかでなんとか最後に確認した景色は、俺の体の上に笹原が乗っかっていて倒れている様子であった。
犯人は……お前だったの……か……。ガクッ。
「ごめんなさいッ!!」
隣から多分俺に向けての謝罪が聞こえてくる。そこに立っているのは、あのとき階段に屯していた女子グループのやつら。勿論のこと、そのボス的存在である彼女もいるし、謝ってはいないものの笹原もいた。
「いやまぁ別にいいけれども……」
対する俺は別に気にしてませんよー、という雰囲気を醸し出しながらいつものようにそう答えた。
少し違うところがあるとすれば、今の俺は保健室にいて、そこのベットに寝転んでいて、尚且つ頭に包帯を巻いていて、いかにも病人というか怪我人という状態でいることであろうか。どうしてこうなったんでしょうか。
話によると、どうやらいろんなハプニングが重なったらしい。グループのボス(略)が帰ろうとする笹原を止めようと追いかけた際に躓き転び、その勢いで階段を降りようとする笹原の背中を押してしまったらしい。成程それであの転ぶような音だったのか。納得ですはい。
まぁ、そのまま階段を落ちてきた笹原が、運が良いのか悪いのか俺にぶつかってきたということである。起きてしまったことは仕方ないけれども、なんだこの漫画的なシチュエーションは。ラブコメかっつーの。
俺がクッションになったからなのだが、笹原は単に体の一部をぶつけた程度で済んだらしい。対してクッションとしての役割をこなした俺はであるが、まず頭を強くうちつけ、更に申し訳程度の受け身を取った際に肩やら腕やらに打撲程度の怪我をしたようだと保険医が言っていた。と、そこの女子達から聞いた。まぁ、気を失っていたのだから仕方ないだろう。それにしても、笹原に怪我がなかったのはよいことではあるけれども、その代償として俺はこれなのだからちょっと複雑だ。というか俺、超損してんじゃん。なんだよこれ理不尽に藻ほどがあるとは思い……(略)
まぁ、今回は誰かが悪いというわけでもないし、俺がこんな怪我をしているけれどもそれ以外には全くもって問題が発生していないのだから、この件についてはもう解決ということでいいだろうけれども、とうの本人たちが未だに罪悪感を感じているのだから問題はまだまだ残っているのだ。ッつーか笹原でも罪悪感とか感じるんだな。意外でした、はい。
「……なぁ、お前らさ。別にもう気にしなくていいぞ? 被害者である俺が気にすんなって言ってるんだから気にすんなって……」
「で、でも……」
まぁ、気にすんなって言われても気になるのは当然ですね。というか逆に気にしなかったら人間性を疑ってしまうレベルのクズだとぼくは思います。
でも、ここでいつまでもねちねちねちねちと気にされ続けるというのはどうにも気持ちの悪いものである。尚且つ相手が女というのだからその気持ち悪さは増大されるまである。
……面倒だなぁ。
「……俺はもう帰るぞ? 別に動けんほどの怪我ではないし、というか無理矢理にでも帰るけど、お前らがそこで突っ立ったままでいられると邪魔だし、俺も帰りづらいだろうが。帰れ帰れ」
俺はベットから立ち上がり、ついでに頭の包帯をカッコヨクほどいて、枕元に置いてあった鞄を手に持つ。そして片手で「帰れ」とジェスチャーする。それに断念したのか、彼女たちは渋々と保健室を出ていった。ぅゎちょろぃ。
部屋を出ていく際、チラッと笹原がこちらを一瞥した。なんかあいつしおらしいご様子の瞳をしていてちょっと笑いそうになった俺は多分人間性に難があると思ってしまった。まぁ、あいつも女子だしなぁ。仕方ないと思う。
笹原はこちらを一瞥しただけで別段言葉を発することなくそのまま歩いていった。
「……はぁ」
何だろう。何故今日に限ってこんな出来事が起きるんですかねぇ。マジ疲れた。ヤレヤレといった風に頭を掻こうとすると不意に激痛が走る。そういやこの部分だったっけ? 壁やら地面やらにぶつけた場所って。あらー、たんこぶ出来てますわぁこれ。
こんな感じに茶化さないと今日の出来事を思い出にできそうにない。階段とか超トラウマになりそうなレベルで恐怖しそうになりかけたまである。これからは人混みの少ない階段を選ぶことにしよう。
結構な大事故だったと思うけれども、とりあえずテキトーではあるがそんな感じにまとめて、俺はお世話になった保健室を後にした。
後日、教室にて面倒なことになったことは話した方がいいのでしょうか?




