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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、学園祭を楽しみにして……いなかった。
27/33

“伏見悠榎”は思い更ける。今日の俺、とっても働いたなーって。

 秋と言えば皆は何を想像するだろうか。読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋……。

 夏よりも気温が下がり、暑苦しかった季節もようやく落ち着きを見せ始めてきた今日この頃。俺はこの○○の秋にもう一つの存在を提起しようと思う。

 ━━労働の秋……である。まぁ、労働者である人々からすると仕事に秋もくそもないのかもしれないけれど。

 ということで俺は絶賛労働中。教室展示でも部活動でも嫌々頑張っているのであった。


「……働いてんなー、俺」


 とうとう独り言でこう呟いてしまうほど、俺は頑張っている。超頑張ってるの。

 まぁ、働くっていっても教室や機材の使用許可の申込やら部活動での学祭の出し物についての書類やらのちょっとした事務作業の様なものばかりだからそれほど疲れるものではない。いや、疲れるなこれでも。

 しかし、この書類を書くのって普通部長でしょ? ということは来栖の仕事じゃねぇか。何で俺こんなんやってんの? とブツブツ文句を言いつつもスラスラと書き進めている俺って超優秀な人材。流石はやればできる子なまである。

 そんなこんなで本日も部室にてこう忙しなく働いていると、ガラガラと扉の開く音が響いた。


「邪魔するわよ!!」


 邪魔するなら帰ってくれ、という吉本さながらのボケを繰り出そうとしたけれど全くそんな雰囲気でもありませんね。

 というか数人の女子生徒がやって来たけれど何か用なんすかね?


「ちょっとそこの男子!!」

「………」

「あんたしかいないでしょ!!」

「……へ?」


 あ、俺? 呼ばれてたの俺なんすか? まぁ確かにこの部屋にいる男子って俺しかいないけれども。むしろこの教室には俺しかいなかったわけだけれども。いつもこのパターンは俺を呼んでないことが多いからいつものように「誰だよ」って周りキョロキョロと確認してしまったではないか。


笹原綾瀬ささはらあやせはどこにいるのかしら?」


 なんかリーダー的な立ち位置の女子が尋ねてくる。何故フルネームで呼んでんの? 何? お前とツンデレさんは仲が悪いの? 相手の名前をフルネームで呼ぶヤツは大抵そいつのことが本当に嫌いなパターンか逆にそいつに好意を抱いているツンデレパターンかの二択である。ソースは漫画。

 というか俺、他のやつらの所在を知らないんだけど。

 他のやつらはまだこの部室には来ていない。なんかたまたま用事が被っているらしく、というかあいつらに用事があるのかさえわからず、気付けば俺だけが律儀にいつも通りの時間帯に来ていたというわけである。だから他のやつらのことなんかこれっぽっちもわかりません、はい。


「……知らねぇ」

「知らないわけないでしょ? 白状なさい!」

「や、だから知らねぇって……」

「嘘おっしゃい!!」

「嘘じゃねぇってーーーーーーーッ!!!」


 あーもう何この人超面倒くさいんですけどぉ?

 別に俺は笹原ツンデレさんの友達でもなんでもないわけだから、あいつの行動全部を把握してるわけないでしょうが。むしろ互いに親しくなれないレベル。これであいつの行動全部を把握してたらアレでしょうがストーカーでしょうが。

 誰か助けてください。そう思っていた矢先、ガラガラと再び扉の開く音が聞こえた。

 来い、笹原。こいつの面白おかしい会話の収拾をつけてくれ。

 ……まぁ、来たのは笹原ではなくて、


「……あら、見知らぬ顔がたくさんいるわね」


 来栖麻衣くるすまいだったけれども。あ、そう言えばこいつ笹原と同じクラスだっていってたような気がする。俺は来栖にツンデレさん……もとい笹原について尋ねようとした。

 すると、である。


「あら、誰かと思えば来栖麻衣じゃないの。奇遇ね」


 と、突然の訪問者(女子)が一言もの申した。


「……何あの人お前の知り合い?」

「知り合いというよりはクラスメイトね」

「あぁ、成る程」


 だから来栖を見た際に知っている気な物言いだったんですね。どうでもいい。


「ところでうちの部に何かご用かしら? 本日はお休みなのだけれど……」

「笹原綾瀬を探しに来たのよ。彼女はどこよ!!」

「綾瀬なら帰ったわよ。言ったでしょ? 今日はお休みだって。用がないのにここに来たりはしないわ」


 ……え? ちょっと待って。すごく大事な事があたかも当たり前のように語られているのですけども。

 ━━今日って部活休みなの?


「き、聞いてないんすけど、俺」

「あらそうなの? メールで伝えたはずなのだけれど」

「メール来てないんですけど? その前に俺、お前のメアド知らないんですけど? しかもこのパターン前にも経験したことがあるんですけどぉ?」


 アレは確か夏休み終了前の合宿の時だ。他のやつらには行き渡った連絡を俺だけが知らないという何これいじめ? な出来事があった。結局それは神城の伝え忘れということで収拾はついたけれども。

 ……は!!? まさか、


「もしかして今回もアレですか? 神城経由のパターンの連絡ですか?」

「え、えぇ、そうよ?」


 キマシタワー。カミシロサンキマシタワー。ワスレテマスワー。

 おいもうあの人は何なの? 鳥頭なの? それとも俺と同じでどうでもいいことはすぐ忘れちゃうの? でもそれ俺にとってはどうでもよくないのだけれども。


「もう嫌だそのパターン。絶対忘れられるもん、俺」

「じゃあもういっそのこと、私とメアド交換しておく?」

「……する」


 正直、女性のメアドとか知りたいと思ったことはここ最近一度もない。前にも言うたかも知れないが、女性のメアド知ったからといってそこまで優越感は持たないし、むしろ面倒が増えそうなので欲しくはないのだ。しかし、来栖から送信される必要情報が俺のもとへと来ないとするならば話が変わる。つまり、今俺は来栖のメアドが超欲しいのです。

 とりあえず互いのメアドを赤外線で交換する。これで連絡先がまた一人増えて四人から五人になった。……連絡先少ないな、俺。

 しかし、これで俺だけ連絡が来ない、という軽くいじめみたいなアレが無くなるのだ。グッバイ、神城に忘れられていた俺。


「ぐぬぬぬ……」


 ……あ。来栖との会話ですっかり忘れていたけれど、そういえばお客人がいたのであった。というかこいつの用件はもう済んだのだから帰ってよいのではないだろうか。というか帰ってください。じゃないと俺が帰れない。


「もうわかったろ? 笹原は今日は来ない。これさえ分かればもう用はないだろ? 今日はもう帰れ」

「ぐぬぬ……」


 彼女は不満気な声を出すものの一向に帰ってくれそうにない。……何で?

 まぁ相手も無視していたわけではなかったらしく、結構な間を唸り声で埋めたあと、


「覚えてなさい!!」


 と、いかにも悪役が吐き捨てそうな捨て台詞を残して部室をあとにした。勿論、忘れられていたであろう取り巻きたちも一緒に帰っていったまである。それにしてもその取り巻きたちの申し訳なさそうな顔ったらない。見てるこっちが申し訳なく思ってしまうくらいでした。


「……何だったんだあいつら」

「……さぁね」


 学祭にはまだ日付があるのだけど、俺はもうお腹一杯なのであった。何かもうてんやわんや過ぎるだろ、これ。


「……じゃ、俺も帰るわ」

「そう。私も帰るから鍵の後始末よろしくね」

「了解」


 彼女たちの後を追うように俺達も解散することにした。書類の記入もまだ途中だし、明日はきっと部活もあるだろう。机の上に広がっている書類をそのまま、俺は部室の鍵を閉めた。

 ……アレ? 結局のところ俺って、今日働き損じゃね? 

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