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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、学園祭を楽しみにして……いなかった。
24/33

新しく知り合う美少女に対しても、“伏見悠榎”は全くの関心を示さない。

 夏休みが終わった。実に呆気なく終わった。合宿の最終日なんて海岸でボーッとしたあと再び電車で帰るだけだったから特に思い出らしき思い出はない。

 ついでに言えば始業式も終わった。楽しい時ほど時間の経過が早いというけれど、ぐうたら過ごしてもあっという間に時間過ぎるし、どうでもいいことに関しては刹那の出来事であるように感じる。

 そしてどうでもいい事といえばクラスの雰囲気だ。現在昼休みであるのだが、夏休みの間に何があったか知らんが異様に親しくなっているカップルみたいなのがいたり、髪の毛もしくは日焼けなどでイメチェンをして周りにちやほや言われてるやつとかがいたり、なんだか一様に親しい雰囲気が醸し出されている。勿論俺は全くイメチェンなどしてないし、ましてや誰かと親しくもなっていない。

 それと所々からちらほらと「学祭のクラス展示、何にする?」的な会話が聞こえてくる。何の事かと記憶を巡らせてみると、そういえば今日の六、七限に学園祭のクラス展く示を考えようって担任が言ってた気がする。ホントにどうでもいいことに関しては頭に入らない伏見さんなのであった。

 て言うか、学園祭ってそんなに楽しいものか? 個人的には苦行の一つとしてカウントしているのだけれど……。

 俺はこいつらみたいにリア充リア充してないからわからんだけかもしれんが、嫌々ながら展示の準備をさせられたり、帰りたいのになかなか帰らせてもらえなかったり、本番に至っては友達いねぇから一人ポツリいるしで、全然楽しそうなイメージがないんだよね。

 ちなみに情報源は俺。経験談なので間違いないし信用性もある。もはや信用と信頼しかないのである。

 しかしこの教室ギャアギャア五月蝿うるさいな。確かに今は昼休みだからどうこうしようがお前らの勝手だけど、もうちょい静かにできないもんかね。

 俺の心中を知らない奴等は平然と騒ぎ続けている。クソ、飯が不味くなるだろうが畜生が。

 ……仕方ない。ここから距離はあるけれど、あそこに行くとしよう。多分今現在誰もいないであろう教室……。もしかしたら一人くらいはいるかもしれない教室……。というか、勝手に入ってもいいのかわからん教室……。

 そして、俺が強制的に入らされた部の本拠地でもある教室……。

 そう。科学準備室である。

 俺は机に広げていた弁当を片付け、そのまま教室を後にする。途中で教室内を一瞥し、心中ながら一言叫んだ。

 このド畜生リア充共めが、爆発しろぉぉ!!





 正直、科学準備室の鍵もらえねぇだろと思いながら職員室に行ってみると、どうやら先客がいたらしい。鍵は誰かが持っていったらしい。とりあえず目的の教室に向かうことにした。

 ……というか、本当にあの教室に入っても良いのだろうか。

 確かにあそこは俺達“隣人研究部”の部室ということになっているが、放課後以外に使用してもよいのかどうか甚だ疑問である。でもまぁ、意外にその教室の担当教師が私用で使っているってこともなきにしもあらずだし、それに俺らみたいなわけわからん部活動に部屋を貸し与えるくらいなのだからさほど重要な物はないのかもしれない。まぁ、そこの詳しいことは知らねぇけど。

 目的の教室についた俺なのだが、なんかこの教室から音がする。しかも物音というものではなく、なんとも名称しがたい軽音楽のような音が一つないし二つ聞こえてくるのだ。

 なんだろう。スッゲー入りづらいんだけど……。

 しかし、ここまで来たのだから、入らないわけにもいかない。俺は目の前の扉に手を伸ばして開く。

 そこにいたのは白衣を纏った女生徒で、我が部活の部長的立ち位置におらせられる来栖麻衣くるすまい。何故か肩からギターを担いでいるのだが、こいつの趣味だろうか?

 そして来栖の正面に位置する場所に座られているのは……えと……誰だ?

 女性特有の長ったらしい髪を後ろ手一本にまとめていて、制服もちょこちょこと着崩している。ふむ、知らない子ですねぇ……。

 どこをどう見ても俺の知っている顔ではない。俺のクラスにはいないし、他のクラスのやつなんか俺が知ってるはずがない。女生徒だったならば尚更である。

 それにこいつ、棒ネクタイ着けてねぇから、何年なのかが判別できないんだよなぁ……。

 どういうことかと言うと、うちの学校では制服の棒ネクタイの色を学年別に分けている。例えは、俺達一年だったら青、二年は赤、三年は緑といった風に、パッと見ただけで学年の判別が出来るようになっているのだ。別にそいつの胸を見ていたわけではないから。確かに来栖に負けず劣らずの痩身麗人で、出るところは出ているけれども……。所謂グラマ……ゲフンゲフン。

 勿論この棒ネクタイは男女共用であるので、俺もちゃんと着けている。

 しかし、最近の若者と言うのは制服を着崩すのが流行らしく、中には棒ネクタイを着けていない輩がいるのだ。俺の身近で言えば神城蘭子かみしろらんこ。そしてそこにいる来栖とそいつである。最早来栖のは学校指定のブレザーすら着ていない、上着である白衣が制服のような物なのである。

 とりあえず言いたいことをまとめると、やはりこいつは知らない子なのである。

 そのポニーテール女子はこちらを向く。顔立ちもそうそう悪くはなく、キッとつり上がった瞳はなんだかクールな性格っぽい印象を与える。というかちょっと恐い。俺を見るその冷たい瞳が結構恐い。そんなに睨むなよって感じ。

 しかしまぁ、こういう感じの奴ってラノベとかだったら大概ツンデレに属しそうなキャラだよなー、と心中で思ってしまう。……そうだ、この人のことを「ツンデレさん」って呼ぼう。


「あら伏見君、どうかしたのかしら?」


 この教室に立ち込める沈黙を絶ち切るように、来栖が俺に声をかけてくる。別に沈黙は嫌いではないのだが、こうジッと視線をこちらに集中されるのはどうも慣れなかったので、来栖の行為に少しばかり感謝をしたい気分である。

 その感謝の代わりといってはなんだけど、来栖の質問に答えてやる。


「いや別に、単に飯食いに来ただけだ」

「そうなの?」


 いやいや、別に虚言を吐く必要性は無いのだから、疑問系で返してくるのは止めていただきたい。その疑問には答えずに、俺は近くにあった椅子を引き寄せて座り、机の上に弁当を広げた。

 その間もツンデレさんはずっときっつい視線をこちらに向けている。そして、多分来栖に語りかけたのだろう、小声で、


「……こいつ、誰?」


 と、聞こえてきたのである。むしろそれはこっちの台詞であるのだけれど、俺はあえて口にはしなかった。代わりに来栖が俺の紹介を始めた。


「彼は伏見悠榎ふしみはるか君。私達とは別のクラスの男子で、この隣人研究部の一員よ」

「……ふーん」


 このツンデレさん、自分で聞いといてその興味無さそうな返事をしやがった。まぁ別に興味持たれるよりは粗方あらかたマシなので有りがたかったけれど。


「伏見君にも紹介するわ。この子は笹原綾瀬ささはらあやせ。私のクラスメイトなのよ」

「ふーん……」


 俺も彼女と同じように返答する。別に彼女に対しての対抗からではなく、本気でどうでもよかったのだ。どうせ今回の対面が終わればほぼもう会うこともないし、俺がこのツンデレさん、もとい笹原に会おうと思うこともないだろう。来年度のクラス替えで同じになったり、笹原が俺に用事でもない限りは確実に遭遇することもないのである。

 とりあえず笹原はタメグチ使っておkということさえ分かればいい。俺は弁当のおかずを一つ口にいれる。唐揚げ上手い。

 ……こっちはもう興味ないと言うのに、当の笹原は未だに冷たい視線をこちらに向けている。……んだよ、こっちみんなっつーの。

 俺はただ飯食いたいだけなのになんか不審者と同じ扱い方をされているが、俺はそこら辺の男子高校生より安全安心無害だぜ? と、このツンデレさんに言ってやりたい。超健全なのでご安心ください。

 その後も黙々と弁当を食べる俺。 その間もずっと笹原はこちらの様子を伺っていたが、途中で警戒を解いたのか、はたまた俺の観察を諦めたのか冷たい視線を送らなくなった。お疲れさまっす。

 弁当を食い終わり、空になった弁当を再び片付ける。このま教室に帰ってもいいのだけれど、あのガヤガヤと騒がしい場所に帰ろうとは流石に思わなかった。なのでこの教室で時間を潰そうとしたのだけれど、その為の道具であるラノベを教室に忘れてきてしまった。まぁ初めから食事の為だけに来たのだから仕方がないのだけれど。とりあえず俺はそのままぼーっとするのであった。


「……なぁ来栖、その手に持っているギターは何?」


 暇潰しがてら入室時から気になっていた疑問を訊ねてみる。


「あぁこれ? 綾瀬から借りたの」

「え、何で……?」

「ふと弾いてみたくなったんだよ。よくあるでしょ? 不意にギター弾きたくなること」

「あぁ、あるあ……ねぇよ」


 正直俺は一度もない。むしろ自らが率先して何かをやりたくなることなど微塵も存在しない程である。

 ついでいえば、男がギターを始める理由は二つに一つだ。一つは音楽演奏が好きだから。もう一つはモテたいから、である。

 俺は別に音楽演奏が好きなわけでもないし、ましてや異性からモテたいとはこれっぽっちも思わない。むしろあまり異性とは関わりを持ちたくないほどだ。まぁ現実のところ、その思いが報いることはないのだけれど。


「………」


 とりあえず一通りの会話は終了。時計を確認するとまぁまぁ丁度よい時間になっていた。意外と時間潰せたな、と思いつつ、俺は弁当袋を手に席を立つ。


「……あら、もう帰るの?」

「まぁな。最初にも言ったが、飯食うために来ただけだし、これ以上お前らの邪魔するのもなんだしな」


 さりげなく他人のことを気遣える俺、超大人。むしろ気遣いの達人と言っても過言じゃないほどである。

 ……というのは建前で、単純に笹原の冷たい視線に耐えれないのと、来栖がいつなにを仕出かしてくるのか不安で仕方ないのだ。驚くほど些細な出来事だろうと不安に感じるのが伏見さんの特徴なのである。

 それにしても今回は大人しいな、来栖のやつ。俺の想像だけれども、こういう風な状況だと必ずくっついてくるか何かしら誘惑をかけてきそうなイメージなのだけれど、今回は一度もくっついてこない。なにこれなんて奇跡? と小声で呟いてしまうほどである。勿論、心のなかで、である。

 ……やはり、来栖の考えはいまいち掴めない。というか、こいつのキャラをいまいち掴みきれてないような気がしてならない。今の小悪魔的な行動が本当の彼女の性格なのかもしれないし、もしかしたらキャラの一つであって本心ではないのかもしれない。内に秘めてある別の性格が存在しているのかもしれないのだ。俺の考えすぎかもしれないけれども……。

 ……まぁ別に、来栖の性格がどうとか俺には関係のない話だ。こいつがどんな性格だろうと、俺には指摘する権利も義務もない。顔見知りだろうと部活仲間だろうと、結局は赤の他人。他人の細々とした所を、他人である俺がとやかくいうべきではないのだ。

 これ以上熟考を続けるとややこしくなりそうだし、どうでもいいことを口に出してしまいそうなので、ここで適当に結論を言おう。結局は来栖麻衣=謎キャラなのである。例えるならゲームの隠しキャラ的存在。存在自体は分かっているが技の出しかたが分からないみたいな感じだ。……逆に分かりにくいか。

 まぁそれはまた別の機会に考えてみよう。扉に手を掛けて開く際、来栖には「また放課後に」という一言を、笹原からは冷たい目線を送られた。だから俺が笹原に何をしたというよ?


「……はぁ」


 溜息が溢れる。とりま教室から出た俺は、自分の身の出来事をしみじみと思い返していた。

 また面倒な奴と顔見知りになってしまった。しかも女子て……。

 別に望んでいるわけではないが、何故か女子との接点が増えている。このチャンスを別の男子に分けてあげたい気分である。

 俺は存在しているか分からない恋愛の神様に向けて軽く愚痴やら提案やらを心中で呟きながら教室に帰ったのであった。

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