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ひねくれ“悠榎”は、恋をしない  作者: 小梅沢田 明
高一の“伏見悠榎”は、心なしか夏休みを楽しみにしている。
19/33

合宿当日の朝、“伏見悠榎”は今だに件の目的地を知らずに、集合場所へと向かうのであった。

 時間という概念は、確かにあっという間に過ぎていくものである。幾度となくやって来る長期休暇の度にそう思ってしまう。

 俺は素晴らしきグダグダゴロゴロぐうたら生活を過ごしていると、気付けばもう件の合宿当日ではありませんか。

 そういう訳で、俺、逢坂、神城、来栖、そして千夏の五人は、電車に乗って件の合宿場へと向かっている……らしい。

 ……色々と尋ねたい事もあるだろうし、とりあえず話を数時間前に戻そう。





 合宿当日の朝。俺は合宿の荷物の最終的な準備を終え、待ち合わせの駅前にて他の奴らを待っていた。荷物といってもたいしたことはない。数日分の着替えと数冊の小説位である。

 俺が到着して数分後、神城蘭子かみしろらんこの姿が見えてきた。こいつ意外に時間通りに来るのな。ちょっと歓心しました。


「やっほ~、ふっしみん」


 相も変わらず恥ずかしいあだ名で呼びやがって、という意味合いを込めてジト目で睨むと、神城の視線は俺の横をジッと見ていた。その表情は少しばかり驚いているみたいである。

 まぁ、仕方がない。何故なら、俺の隣に一人の少女がいるからである。言わずもがな我が妹の千夏である。しかし、俺はこいつが千夏であると識別出来るが、神城は千夏と初対面である。そりゃあ驚きもしますわな。


「え……と、ふしみん」

「……何?」

「その隣にいる子……誰?」


 やはりというべきか、神城はこいつについて尋ねて来る。何故かその表情はムスッとしている。


「……妹だよ」


 俺は事の真実を伝える。それでも神城は半信半疑である様子だ。いやいや、嘘をつく理由がなかろうに、何故半信半疑なんだよ、とつっこみたい。


「……おい千夏。数日間お世話になるんだから、挨拶しとけ」


 とりあえず俺は千夏にこう促す。千夏はコクりと頷き、


「はじめまして、伏見千夏ふしみちなつと申します」


 と至極丁寧な御挨拶を披露した。いつもと違った千夏の挨拶に、申し訳ないが悪寒を感じてしまった。申し訳ない。


「あ、えと、私は神城蘭子、です。あの……よろしく、ね?」


 神城もアタフタと挨拶を返す。お前それでも先輩なのだから少し落ち着けよ。


「ねぇ……本当に彼とは兄妹なの?」


 神城は千夏にボソッと尋ねているつもりだろうけれど、こちらからは丸聞こえなのである。おい、まだ信じてなかったのかよ。俺ってそんなに信用がないのだろうか。


「はい、勿論です」


 千夏はニコッと微笑み答えた。


「よかったぁ~」


 おい貴様、何が「よかったぁ~」だ。こっちは別段嘘偽りを語った覚えがないのだけれど。


「……あ、もしかして神城さん……」


 ふと何か気づいた様子の千夏は、神城にコソコソ話し掛ける。すると神城はアタフタすること阿呆の如し、こちらからも分かるくらい顔を赤く染めてアワアワとくちごもっている。千夏の奴、神城に何いいやがったのだろう。まぁ、どうでもいい事である。


「ち、違っ! 違うよ、ふしみんとはそんなんじゃっ……!」


 ……何故そこで俺が話題に出てくるのだろう。ジト目で奴らを睨むと、ふと神城と視線が合い、神城は再び顔を染めて俯く。……何? 俺が悪いの? 謝罪か何かを求めているの? いやいや、俺無実だし、そもそも何もしてないし。

 俺は大きく「はぁ……」と溜息を零す。


「……何故、貴方は溜息ついているのかしら」


 うわっ!? いつの間にいたのか分からないが、気付けば側に逢坂皐月あいさかさつきが立っていた。


「……何時からいたんだよ」

「ついさっきよ。ちょうど神城さんがアタフタしていたのを見たし」

「……さいですか」


 俺は再び溜息を零す。何故朝っぱらからこれ程溜息をつかなくてはいかないのだろうか。

 ……ところで、件の首謀者である来栖麻衣くるすまいはどうした? 今だ来る気配がないのだが。

 と思っていたその時、


「フッフッフッフッ」


 ふとそんな感じの高笑いがホームから響いてきた。振り向くとやはり、そこにはいつもと変わらず白衣を羽織った来栖麻衣の姿があった。おいそれ私服なのか? とつっこみたい。


「……ようやく全員集合か」


 時計を確認すると、俺がここに到着してから約数分しか経っていない。よきかな、よきかな。


「………」


 ふと俺の服を引く感覚が。チラリと一瞥すると、逢坂が引いていたみたいで、何やら聞きたそうな顔をしていた。


「……何?」

「どうして妹さんが来ているの?」


 俺が尋ねてみると間髪入れずに質問が返ってきた。……まぁ、普通はそう思うわな。

 これには一応理由がある。


「そうだな……、今現在、我が家には両親がいないんだ」

「……何か嘘臭いのだけれど」

「いやいや、俺がお前らに嘘付く意味あるか? ないだろ?」

「……それはそうだけれど」

「どっちもこの時期出張でいねぇんだよ。社会人となれば夏期休暇なんてねぇんだから働くのは当たり前だな」


 ……ふむ、あながち間違った事は言ってないな。どうやら逢坂も御納得の様子だし、これで良しとしよう。


「……で、来栖よ」

「……何かしら?」

「これからどこ行くわけ? そこんとこ俺知らないのだが」

「……メールしたはずよ?」

「いやいや、お前のメアド知らねぇし」

「私もそう思って神城さんに伝えたはずなのだけど……」


 何……だと!?

 もしかして、俺以外の奴は合宿の内容を知っているというのか?

 そしてその原因が……。


「……何故伝えなかった、神城」

「え? 何を?」


 神城はキョトンとしている。


「合宿の件についてよ。ふしみんにメールしてって伝えたはずなのだけど」

 ……さりげなくそのあだ名を呼ばないで頂きたいのだが、今はそれどころではない。


「メール? ……メール。……あ!」


 畜生、今思い出しやがったぞこいつ。

「ご、ゴメンふしみん。忘れてたよ」


 手をあわせて謝罪をする神城。流石阿呆の子、と言ったところかな。


「……別にいい」


 俺は凄まじく素っ気ない返事を返す。今更謝られてもどうもならんし、忘れる位の連絡なのだから、別段重要な事ではないのだろう、多分。よし、もう気にしないことにする。


「……さて、どうでもいい争い事はお済みかな?」


 羽織る白衣をフワッと靡かせた来栖が呟く。もとはと言えば、お前が俺のメアドを知らないことから始まったんだからな、と言いたいけれど、ここはとりあえずスルーで。


「それでは皆の衆、電車に乗り継いでレッツゴーだ」


 成る程、件の合宿場には電車で行けるのか。してその行き先は如何に? 電車賃など金銭面も考慮して、俺はとりあえず来栖に件の行き先を再び尋ねてみる。


「……で、どこ行くわけ?」

「フフフ、知らないほうが楽しみが倍増するんじゃないかしら?」


 その問い掛けには、いいえと答えておこう。むしろ合宿自体が楽しみでないレベル。

 あぁ、憂鬱だなぁ……。






 そんなこんなで今現在に至るのである。そのあと結局どこへ行くのか知らされないまま、俺はガタゴト電車に揺らされるのである。唯一行き先を推測出来た電車賃も、来栖が全員分切符として準備している始末。千夏の分も準備してくれたのだが、感謝すべきか否か分からずじまいである。いや、感謝しろよ、俺。

 しかし、何この不安しかない旅行、窓から見える風景を全く楽しめない。

 ……それに比べて、


「千夏ちゃんは、何か部活とかやってんの?」

「はい、この間までやってたんですけどはれて引退ということになりまして……」


 我が妹の千夏は、早くも神城と意気投合している。その適応力に、お兄ちゃんちょっと歓心しちゃった。や、マジで。

 そちらを見ているのに気付いたのか、千夏は俺の座る席へと向かって来る。


「兄貴兄貴ぃ、凄いね」

「何が?」

「このグループが、だよ。まるで兄貴のハーレムみたいじゃん? 流石、目だけ隠せばイケメン兄貴♪」

「ハーレムて……そんなん造った覚えはねぇし、そもそもハーレムにしては規模小せぇし。あと、後半の台詞は何?」

「目以外のパーツは整っているって事♪」


 それは逆説的に、「目が酷い」ということですか。兄さんは悲しいです。

 それに話は変わるが、一男性が想像するハーレムというのは、もっとこう……半端じゃない数の女性に囲まれる様な状況を言うのではないだろうか。そうだとすればたった三人でハーレムと呼ぶのは些か規模が小さく感じる。まぁ、俺にとってハーレムとかどうでもいいし。

 どうでもいい話題をぶつけたあと、千夏は再び神城達の下へと戻る。俺はチラリと来栖の様子を見て推測する。ガタゴトと揺れる電車は、今だ目的地に着かない模様だ。まだ着かないのかよ。


「………」


 このままボーッとしているのも飽きてきたし、俺は徐に鞄から小説を一つ取り出す。この時の心境ときたら、案の定持って来ておいて良かったと心から思うのであった。





 どれ程時間が経ったのだろうか。周りを気にせず黙々と読書に勤しんでいると、


「わぁー、海だぁ!」

「おぉー、海だぁ!」


 神城と千夏の二人が意気投合どころか、もはやテンプレ化した感想を声に出していた。高ぶる気持ちを押さえられない様子の二人の声に顔を上げると、成る程確かに海だ。太陽の光をキラキラと反射させながらもユラユラと波を打つ、よくテレビなんかで見掛けるような海が、電車の窓から見えた。

 来栖と逢坂も顔を振り向き、窓辺に見える海を見つめている。来栖はどうか知らないけれど、心なしか逢坂も興奮気味のご様子だ。だって、足元がパタパタ落ち着いてねぇし。


「……綺麗」

「……そうね」


 ボソッと呟く逢坂と来栖。俺からは何も聞こえないけれど、何だか楽しそうである。全く以て俺と真逆の感想だ。まぁ、本人が楽しそうならそれは良いことだと思う。


「次の駅で降りるわ」


 すると不意に来栖がそう宣言する。全く以ていきなりの発言に驚きを隠せないである。……勿論俺だけが、である。

 来栖の一言をきっかけに、全員荷物を再び抱えて、電車を下車する準備を始める。

 そして、件の駅に着くや否や、俺達はぞろぞろと降りたのであった。

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