砂塵
”俺は人間の仲間になれない”
しばらく歩いていると、左目がさっきの言葉を繰り返すように発した。
その後で、あひゃひゃひゃと馬鹿にしたような左目の笑い声が響いた。
明けの空、砂塵はまだ暗い、揚華はあてもなく一人歩いている。
今日は特に寒さが厳しい。
「豺狼が居た頃はほとんど喋らなかったくせに」
忌まわしそうに揚華は言う、
”一人で居る時・・・それが一番、付け込みやすいんだ”
左目は含みのある笑い声で答えた。
すべての事を・・・揚華が見たことをこれは知っている。
追い詰める事、陥れる事だけに喜びを見出す・・・それがこの鬼だ。
左目は続ける。
”いつか死ぬと思っていたが、案外早かったな・・・嫌われ者らしい死に方だぜ”
「ああ」
揚華は答えた、昔ならムキになっていた言葉も、今ではある程度、流して聞ける。
”お前はいつ、そうなるんだろうな”
「俺はそうはならない」
揚華は意志の強い目で呟いた。
・・・ふと足を止めた。
地平線に日が顔を覗かせる。
漆黒だった世界が、徐々に淡いブルーに染め上げられていった。
「誰とも関わらず生きていけるほど強くない」
豺狼から教わった何よりの事だ。
「・・・あの時、あいつに認めて貰えなかったら、俺はもう死んでいたから」
揚華は日の方向に歩き出した。
「だから、見つけなければいけない・・・自分の生きる道を」
完