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前編

別作品である「転生乙女ゲーム」の前日譚にあたる物語です。

ただし、本編とはそこまで関係性がなく、毛色が異なるため別作品として投稿しております。

気になる方はぜひ、本編も読んでいただければ幸いです。

後編は間に合えば、明日投稿します。

 彼女、シュナーノヴィアーナはその日も夜の空を見上げていた。

 代わり映えのしない日々だが、きっとそれでいいのだろう。

 ここフロスト山脈の中腹、いやもう少し上か。ここからだと街の明かりも微かに下の方に見えるだけ。

 満天の星空を見ると、その美しさにいつも息をのむ。


 どのくらい見ていただろうか。

 少しぼーっとしていたようだ。まあそれもいい。

 空を見上げるのは彼女の日課だった。

 次の日も、その次の日も。


 ある日、麓の街が騒がしくなった。また戦争でも始まるのだろうか。

 彼女は生まれてから何度も引っ越しをしている。理由は単純で煩いのが嫌いだからだ。

 静謐、平穏、雪がしんしんと降り積もる場所で静かに暮らしていたい。

 煩くなるたびに移動をして住み移る。またそこが煩くなれば元の場所に再度戻ることもある。自分の見るべき場所の中で。


 フロスト山脈は北大陸東側のアルトと呼ばれる地域の中でも北側にある。山脈の南側はいくつかの国々があり山を挟んで北側は人が住めない悪魔がいる領域だ。


 さて、次はどこにいくか、また島の方に戻ろうか。そんなことを考えながら街を見下ろす。

 だが、今回は違っていた。どこもかしこも煩い。

 どうやらここだけでなく世界中が煩くなっているようだ。


 自分の見るべき場所、守るべき場所に何かあるのであれば介入する必要がある。

 シュナーノヴィアーナは久々に街まで降りてみることにした。

 街に続く街道の途中で多くの鎧人達が隊列を組んで歩いているのが遠目に見えた。奴隷階級である彼らが集団でいることは珍しいことだ。


 いくつかの街を回ったがどこも同じような様だった。何やら鎧人に指導者が立ったらしい。とはいえ南大陸の話だとか。この辺りの騒乱は人口の集中する中央に比べると小さなものだったようだ。

 そうこうしているうちに騒乱は終わった。この時から鎧人を全く見なくなった。

 特に彼女にとっては気になることではなく、静かになったので再びフロスト山脈に住み続けることにした。


 それから、いくらかの時が過ぎた。代わり映えのない日々。


 ある日、人が訪ねてきた。


「シュナーノヴィアーナ様! お久しぶりです!」

『それほど久しぶりではないでしょう? ついこの間もクララーヴァは来ていたではないですか』

「いやいや、結構経っていますよ! 全然動いていないから時間の感覚がおかしくなっているのではないですか? まあ私にとっては、ここにいていただいた方がありがたいことですけどね」

『そんなものかしら。今日はどうしたの? また氷が必要になりましたか?』


 シュナーノヴィアーナは氷売りの仕事をしている、と言ってもほとんどやっていない。実際は無職のようなものだ。

 時々このクララーヴァのように求めてくるものが訪れるので、気に入った客にだけ渡している。別にお金は必要がないので実際は売るというより物々交換に近い。それもシュナーノヴィアーナにとってはお遊びのようなもので別に何か欲しいものがあるわけではない。


「それもあります。とりあえず幾らか光りものを持ってきました。どれかお気に召すものはありますか?」


 クララーヴァは白銀の髪を腰まで降ろしたエルフ族の美しい剣士だ。しかも生まれは貴族階級だと聞いているし容姿端麗な上、引き締まっているが出るところはかなり出ている魅力的な身体をしている。

 そういったものは総じてプライドが高く扱いにくいのだが、彼女は珍しく偉そうに振舞うこともないのでシュナーノヴィアーナは非常に気に入っていた。彼女のように優秀でありながらも気さくなものというのは為政者の才がある。世界の安寧のためにも貴族としてしっかり治めてほしいものである。


 氷との交換ということだが、彼女の持ってきているものは多数の宝石類だ。実際の所、シュナーノヴィアーナは宝石が好きか嫌いかといわれると、どちらかと言えば好きという程度で別に本気で欲しいものではない。だが、他に欲しいものがあるということもないし、友人であるクララーヴァがせっかく選んで持ってきてくれたものなので貰っておくことにした。いくつかの宝石のうち、種類はわからないが赤黒い宝石のついたブローチを貰うことにした。


「ほほう、やはりお目が高いですね。これは魔石ではない純宝石で魔法効果はありませんが、有名な職人が腕を振るって作ったものみたいです。1000年以上前の物で同じ物を作れる職人はもういないらしいですよ」


 特に宝石に詳しいわけではなく鑑定眼を使っているわけでもないのだが、自分のセンスが褒められたようで少しうれしい。氷は少しサービスをしてあげよう。


 その後はいつもの慣れた流れで非常に大きいサイズの魔法袋にクララーヴァが氷を次々と入れていく。今回はサービスした分もあるので時間がかかってしまった。


『もう遅いので泊まっていってはどうですか?』


 長いこと一人暮らしで別に寂しいということもないのだが、たまの友人兼客との会話だ。せっかくこんな山の上の方まで来てくれたのだし、もう少し話をするくらいはいいだろうと思いシュナーノヴィアーナの方から声をかけた。


「ああ、そうでした。シュナーノヴィアーナ様には別のお願いもあるのでした。少し長い話になりそうですので、ぜひ泊まらせてください。折角ですから色々な世間話なんかもさせていただきたいですしね」


 クララーヴァは二つ返事で泊まっていくと言ってくれた。急ぎ帰ると言われなかったことに少しうれしい気持ちと別のお願いとは何だろうと思いつつ洞窟の方に入り少し片づけをする。先ぶれなどがあるわけではないので友人を泊める準備などしていないが家として改造している洞窟には一つだけ泊まれる用の部屋は用意してある。

 今回のように友人を泊めるということは滅多にないのだが、ここは山なので稀に遭難したものを助けることや氷を求めてきたが気に入らなった無礼者などは少し叩いて転がしておくことなどもあるからだ。


 すぐに夜が来て近況などを聞いた。

 クララーヴァの国、カエデの木国は北部国家連合、通称北連(ホクレン)の主要国の一つではあるが、他の規模が大きい国に押されているようだ。クララーヴァは冒険者で今は国の武官もしているが、こうやって周辺国への放浪もよく行っていて経験があるからと外交も一部仕事として受けるようになってきたという。


『それで、願いとはなんでしょうか』

「まだ確定している話ではないのですが、どうも悪魔がトーハクにちょっかいをかけている可能性がありそうなのです」

『トーハクですか・・・』


 トーハクはこのフロスト山脈の中でも東側に位置する最も高く綺麗な山「マウントダイ」の麓の小国だ。あの国は随分と前にも悪魔が出たことがあったはず。小さく愚かな国だ。国境を面している大陸東の雄たる大国のゴルドガンナにさっさと併合されれば狙われることもないだろうに、未だに小国として維持している。


 思うところがあるものの、私も大陸の東に住む身だ。自分の周辺が煩くなることは望んでいない。


 それにしても悪魔が東側に降りてくることはもうないと思っていたが愚かな悪魔もいたものだ。だが、油断はできない。悪魔は世界の敵であり愚か者ではあるが頭が悪いわけではない。何せ奴らは臆病なのだ。それでも欲に負けてこうやって降りてくるということは勝算があってのことだとすると裏に何かあるのかもしれない。

 基本的に悪魔の欲は支配欲だ。つまりトーハクのような小国を手に入れて好き放題したいのだろうな。


「悪魔かも、くらいの情報しか今はありません。どうもトーハクの住民が悪夢を揃って見続けるという話をギルド経由で確認した、というのが現状です。過去に北連で悪魔狩りをした際にそういった症状になっている村を見たことがあって気になったのです。もし本当に悪魔だとしたら放っておくことはできませんし、この後で私はカエデの木国に戻らず、トーハクまで行ってみようと思います。仮に本当に悪魔がいたとすれば大事になる前に情報を掴むだけでもゴルドガンナにはそれなりの恩が売れるとも思いますし。ゴルドガンナは悪魔の知識はほぼないでしょうから」

『ゴルドガンナは悪魔にも対処できると思いますよ。ずっと前ですけどトーハクにもゴルドガンナにも悪魔は出たことがあります』

「そんなことがあったのですが? 私も知らないということは、それってずっと前ですよね。きっと忘れられているのではないですか。どちらにしろ私が掴んでいる範囲ではゴルドガンナは動いていないですし、トーハク自体も何か対策ができているとは思えないです」


『それでクララーヴァは私に何を望むのですか』

「できれば共闘していただきたいところですけれど、相手次第ですね。私もエルフの中ではかなり強い方だと自負していますが、一人でやれることには限りがあります。もちろん突撃する気はないですし、悪魔を確認した場合はすぐに北連での討伐を進言しに戻ろうと思います。そういうわけでシュナーノヴィアーナ様には私の後ろで一睨みしていただきたいのです。それだけで私の生存率はぐっと上がるでしょう。あとは万が一にも強力な悪魔で私が討たれてしまった時には本国へ伝えていただきたい」

『それであれば受けましょう。ただし、本当に強い悪魔だった場合はすぐに撤退してレッドウッドの木国に援軍を求めます』


 クララーヴァは断られると思っていたのだろう。あからさまにほっとした笑顔をもらした。

 北連では悪魔と戦うことも他に比べると機会が多く知識もある。彼女も貴族であるから色々なことを知っているはず。彼女一人で戦うというのはかなり厳しいということも。

 しかも彼女は斥候ではなく剣士なので調査や逃げることには向かないだろう。そのうえ、トーハクは北連加盟国ですらない。たしかにゴルドガンナに恩が売れるかもというのはあるのかもしれないが、それでも冒すリスクに対し見合うものではない。

 なにせ悪魔と戦うということは掛け金が命になってしまうのだ。それでも行くという選択をするのはきっと彼女自身の良心によるもの。貴族階級でそこまでの選択ができる彼女のことを私はますます好きになった。まだしばらくは良き友人として付き合いたい。


「できればレッドウッドの木国ではなくカエデの木国に伝えていただきたいのですが・・・」

『レッドウッドの木国が一番戦力は大きいでしょう。クララーヴァは友人ですけれど、カエデの木国には思い入れがあるわけではありません。一刻を争う事態であれば優先順位は先に考えておく必要があります。私にとっては世界の敵である悪魔を滅ぼす方が優先されます』

「そこまで強い悪魔がきていると考えているのですか?」

『可能性はそれなりにあると思います。今聞いた悪夢を多くの者が同時に見るというのは確かに悪魔の関与が疑われます。なので悪魔か・・悪魔もどき自体はいると思います。そして、クララーヴァは知らないでしょうけれど過去にゴルドガンナとトーハクを含む東側に出た悪魔はそれほど強くなかったのですが一部は逃げ帰ったはずです。であれば長い時間を置いた再侵攻です。悪魔どもの中でも情報は共有されているでしょうから、それなりに勝てる可能性を見出してきているのだと考えられますからね』


 そういうとクララーヴァは少し困った顔をして考え始めた。


『それでも行きますか?』

「はい、少なくともここのギルドまで噂話が来ているということは時間が無いかもしれません。私は行きます」


 問いかけるとクララーヴァは即断した。力強い回答に私も微笑み返す。


 夜が明けてトーハクへ向かうことにした。クララーヴァは調査のようなものだからということで時間も取られてしまう可能性もある面倒くさい国境での手続きは避けたいらしい。それは私も同じだ。

 ということでフロスト山脈に沿って進むことにした。そもそも移動を早くしたいということもあって私に頼んだのだろう。


 美しい綺麗な三角の形をしたマウントダイまで進みそこから麓に降りていく。少しすると小さな村が見えた。恐らく1000人も住んでいないだろう大きさだ。放牧をしていると思われる家畜が多い、畜産業中心の村のようだ。


 私たちは山側から村を見下ろせる高台で止まる。そこから村に向かって目を凝らすと向こうもこちらに気づいたのだろう、慌てて家畜たちを小屋にしまい出した。心配せずとも盗賊などではないのだけれど・・・


「シュナーノヴィアーナ様、私は少し聞き込みをしてきますのでこちらで待っていていただけますか」

『待ちなさい』


 私はこのくらい近くならわかるかもと、目を凝らして村を見下ろす。

 ここまで離れた位置からだと魔力の流れを感じることは普通は難しい。だが、私であればいくらか掴めることはできる。自分の中で視覚のスイッチを魔力の方に切り替えるとおかしな魔力が見えた。


 まず、この村には恐らく強者はいない。まあ、田舎の村なので当たり前だ。強い者は大抵が貴族や冒険者だ。魔力を隠匿している雰囲気も見えない。よほど巧みに隠していれば別だが、こんな村でその確率は非常に低いだろう。

 悪魔は支配が大好きだ。本気で狙っているとすればこんな村で満足するはずがないし、あいつらはコソコソ動くから支配が完了していないのに村の中にわざわざいることもないだろう。


『不自然な魔力の残滓が幾重にも重なって見えます。非常に薄いので今ここで何かがおきているということはなさそうですね』

「そこまでわかるものなのですか」


 今時点で村に入り込むことは特に危なくはなさそうなのでクララーヴァが一人で村に向かった。



 ♦♦♦♦♦♦♦♦


 クララーヴァは高台から歩いて村に向かう。エルフの国ではないので基本的にはフードを被っているのだが、不審者として警戒されないように長耳をだした状態で近づいた。


「エルフ!?」

「すまないが少し調査をしたい、村長と話をさせてくれないか」

「この村を襲う気だな!出ていけ!」

「出ていけ!」


 刺激しないようにクララーヴァだけで来たのだが、あまり効果はなかったようだ。

 この辺りでエルフは確かに珍しいし、そもそもシュナーノヴィアーナも一緒だったので驚かせただろうが、ここまで拒否反応がでるものか。


 まともに話せそうにないし、どうしたものかと考えていると一人の男が前に出てきた。


「国を脅かす侵略者だな!やはり正夢であったか!」


 正夢という言葉に嫌なものがする。クララーヴァがギルドで仕入れた情報は最近トーハクのギルドが少し荒れている、その理由は寝つきが悪く、どうも悪夢を見る人がかなりの数いてイライラ状態にある。もしかすると季節の変わり目や環境の影響かもしれないので、今はトーハク方面に行く仕事は受けない方がいい。というものだった。


「おい、お前! 今、正夢と言ったな? 私がここに来ることが夢でわかったのか?」

「お前ら、ゴルドガンナの手先だろう! 侵略には屈しないぞ!」

「見て見ろ! 私はエルフだぞ、カエデの木国のエルフだ! ゴルドガンナの人間ではない」


 なぜエルフを見てゴルドガンナが出てくるのだ。確かにゴルドガンナにもエルフはいるにはいるだろうが、滅多にいるものではない。いきなり結びつくのは不自然極まりない。


 しかしながら、その後もまともに話せる感じではなかった。ただの村人相手に暴力を振るって無理やり聞き出すようなことは当然できないので一旦引き返した。


『何かわかりましたか?』

「やはり異常が起きているようです」


 先ほどの出来事をシュナーノヴィアーナに伝えると夜になるのを待ちましょうと言われた。やはり正夢という部分とゴルドガンナの話が気になるとのこと。例えば夢で精神捜査をされているとすれば実際に眠るところまで待ってみようということになった。



 ♦♦♦♦♦♦♦♦


 既に時刻は深夜に入り空には今日も満天の星空が見える。

 シュナーノヴィアーナとクララーヴァはじっと村の方を見つめてひたすら待っていた。


「そろそろ寝静まったくらいの時間でしょうか」

『ええ、見えたわ』

「何かわかったのですか」

『恐らく村の人々に魔法がかけてあって寝ると発動するようですね。完全に魔力の紐を捕らえました。行きますよ』


 シュナーノヴィアーナには魔力の繋がりが大量に村に降り注いでいるように見えた。悪魔かどうかはまだ確定していないが、確実にこの村に干渉している者がいる。紐の先は近くの森の方に向かっていた。


 二人で森の中を一気に抜け、目的の場所に着いた。そこにいたのは青白い霊体の魔物だ。


「悪魔!」


 クララーヴァは即座に抜剣し取り出した聖水を剣に垂らすと魔物に対して切りかかった。

 魔物の方は夢による精神操作に集中していたのだろう5匹ともクララーヴァが切りかかる寸前まで気づいていなかった。

 一匹が切られたことで残りの4匹は慌ててクララーヴァに襲い掛かったものの、そこまで強くないようであっさり倒された。


「こいつらは似たようなのを以前に見たことがあります。やはり悪魔でしたね」

『これは悪魔ではないわ。悪魔もどきよ。レイスの派生のような魔物みたいね』


 厳密に定義するのであれば、この魔物も種族としては悪魔でいいのかもしれないが、一般的には悪魔もどきだ。本来の悪魔は人語を操り頭もよく狡猾、こいつらは多少の知性はあるが魔物の域をでない。


「ということは、これで終わりではないと?」

『5匹もいたのよ。それに最初に来た村でたまたま当たりを引く確率は非常に低いと思うわ。ただ、今の魔物も悪魔が使役しているとすれば話はしっくりくるわね。それにそもそも話はギルド経由で聞いたのでしょう? こんな村の話だけがそこまで伝わるとは思えないわ』


 翌日、再度クララーヴァは村で聞き込みをすると出て行ったがすぐ帰ってきた。


「村人の反応は昨日と同じでした。根源の魔物を倒したので精神操作が解除されていると思ったのですが・・・」

『やっかいね。おそらく直接的に操作するのではなく夢の内容を操作して長期にわたって洗脳に近い形で進めてきているのでしょうね。ただ、昨日のを見る限り魔法攻撃耐性がそれなりにあれば効かないと思うわ。実際、たいして強くなかったでしょう』

「とはいっても、一般人が戦えるレベルの魔物ではないと思います。あのレイスのような悪魔もどきの魔物でも冒険者の上位でないと、少なくとも個人でEランク、パーティでのDランクはないと厳しいと思います」

『こんな端の村にも配置できるくらいだから、かなりの数がいるとすると大変なことになるかもしれませんね』

「そうですね。情報収集するにしても、せめてそこそこ強い冒険者がいる場所に行かなくては。ハムへいきますか?」


 ハムはトーハクの首都だ。トーハクで一番発展している街でトーハクの中で強い冒険者となるとハムにしかいないだろう。ただ、ハムへ行くのは幾つか問題がある。

 まずここからだとそこそこ距離がある。まあそれは別に大した問題ではない。


 問題なのはハムの場所はゴルドガンナにかなり近い位置にあるのだ。

 今までの話を総合して考えると間違いなくこの国に悪魔がいるだろう。そしてその悪魔は悪魔もどきを多く使役している。もしかすると悪魔も一人ではなく複数いるかもしれない。そして悪魔もどきを使って行っているのはゴルドガンナが侵略してくるという夢の植え付けだとするならば戦争を起こすことが目的だろう。

 おそらく戦争をさせて疲弊した後に好き勝手する気だ。悪魔の考えそうなことだ。

 そう考えるとゴルドガンナに近いハムで悪魔と戦うとゴルドガンナを色々と刺激しかねない。隠密的に倒せればよいが私もクララーヴァもそういうことには長けていない。

 しかして戦争起こさせたいのならハムかその付近に悪魔が潜んでいる可能性が高いのも事実。リスクはあるが最終的に避けては通れないか。


 あと気になることとしてはかつての再侵略の割には手口が大したことないということだ。

 作戦自体は悪くないが、こんな方法はかなり時間がかかる。それに辺境の村まで含めているとすると広範囲でやっているはずだ。そうするとどこかでばれるリスクはそれなりにある。再侵略であるならば搦め手や電撃作戦でなければならないと思うがやり方に違和感がある。

 今のトーハクやゴルドガンナの実情はわからないが、冒険者や軍人にそれなりの強者が国の中にいなく、その状況が悪魔にも把握されている? とはいえ、手持ちの情報ではこれ以上はわからない。


「ハムへ行きましょう。村人たちの洗脳がとけないことから、それなりに時間が過ぎてしまっている可能性があります。一刻を争うかもしれません」


 ハムへ向かう途中にいくつかの村や町によってみたが結果は最初の村と同じだった。恐らく集落ごとに配置されているであろう悪魔もどきも倒しておきたいところだが親玉を倒さなければ意味がない。ということで夜を待って悪魔もどきを探すということはせずにハムへ向かった。


 ハムが遠目に見えてくる程度の距離を離して草原で夜を待った。といってもここに着いた時点でもうほぼ夜だったのだが。


「シュナーノヴィアーナ様、視えますか?」

『いくらか薄い魔力の線は見えますが、さすがにここからだと正確には視えないわね。多くは森の方に向かっているようだけれど一部はハムの中で絡まっているようです。悪魔は既に中にいるかもしれません』


「一人で向かうのは危険でしょうか」

『そうね、ほぼ今の状況証拠だけで悪魔がハムに潜伏していると断定してもよいかもしれません。ただ、他国を説得し討伐隊を組むまでの材料としては苦しいですね』

「危険だとしても、もう少し踏みこまなければならなさそうですね。とはいっても今回は正規の国境超えをしていないので、そもそも悪魔以前に揉めるかもしれません・・・」


『クララーヴァはテレポートは使えないの?』

「さすがに使えません」

『短距離でもテレポートが即時詠唱できるのであれば安心だったのですが。それでは万が一のためにこれを渡しておきましょう』

「これは?」

『私の氷魔法が込められている結晶です。数日くらいなら持つでしょう、万が一の時はこれを空に打ち上げるのです。その時は私がテレポートで向かいましょう』

「そこまでしてくださるのですか!」

『私も大切な友人を目の届くところで失いたくはないですからね』



 ♦♦♦♦♦♦♦♦


 夜明けと同時にクララーヴァはハムの街中へ向かった。

 シュナーノヴィアーナがここまで協力してくれるとは全く思っていなかったので驚いた。私が思っている以上に私は彼女に気に入られていたようだ。今回お願いしてみたのもダメ元にも関わらず結果としてここまで付いてきてくれた。悪魔に好き勝手させるわけにはいかないというのもあるだろうが。

 内ポケットに入れた結晶の安心感もあり、私は駆け足で街中に入った。


 街に入ると活気があるというよりは少しどんよりとした感じだ。エルフは目立つため私はフードを被り、ここでも少し駆け足で進む。トーハクに来るのは初めてなのだが、だいたい冒険者ギルドはどの街でも似たような位置にあるので探して歩き回る。よく見るとそこらかしこに兵士だと思われる人間が多く歩いているのが見えた。警察ならまだわかるが、兵士が見回りをしているのは少し異常だ。まるで開戦前夜といったところか。


 そもそもトーハクは軍事国家などではない。主要産業は観光である、他はしいてあげるとすれば牧畜か。マウントダイの麓で綺麗な山を見にくる観光客は多いと聞く。にもかかわらず観光地特有の雰囲気は感じない。


「おい、そこのフードを被ったお前! 止まれ!」


 予想はしていたがフードを被ってこそこそしている者など兵士からは不審極まりない。早速、若い兵士に声をかけられてしまった。私の足なら振り切ることもできるだろうが、流石に騒ぎは起こしたくない。


「私でしょうか」

「お前、ゴルドガンナのスパイじゃないだろうな。身分証は?」


 やはりここでも隣国のゴルドガンナか。予想通りだな。


「冒険者カードでいいか?」

「ああ、ってBランク冒険者!? 失礼しました!」


 正規のルートで国境を超えていないとはいえ、こんな道端でそれを照会など一介の兵士ができるわけがないので、そこまで心配はしていなかったが、こういう時に高ランクの冒険者という身分は便利だな。


「この街にくるのは初めてでギルドの場所を教えてもらえないか」

「はい、ギルドは・・」

「おい」


 ギルドまでの道を教えてもらおうとしたところ別のベテラン兵士から声がかかる。


「偽造カードだな? Bランクの冒険者様なんぞハムにはいない。偽造するにしても少しは考えてするんだな。身分証を偽造してうろつくとはスパイに違いない」

「まて、本物だ、ギルドで照会してくれ。私は今日ハムにきたところなのだ」

「このタイミングで入ってきたこと自体怪しい、目的はなんだ?」


 さすがに悪魔の調査をしているということを言うわけにはいかない。どこまで洗脳が進んでいるかわからないし、悪魔側に情報が渡るのも避けたい。


「単純に修行の旅の途中だ」


 冒険者の中でも高ランクの者は実際に諸国を巡って旅をすることも多い。そのために冒険者ギルドは世界規模の組織としてネットワークをもっているわけだからな。なので回答自体はおかしくない。だが、信じてもらえるかどうかは別の話だ。


「いや、やはりおかしい、とりあえず捕縛し取り調べをする。やましいことが無ければ解放すればいいだけだ」


 やはり聞く耳もたずか。しかたない。


「冒険者カードをギルドで照会してくれ、私の名はクララーヴァ=モリコジローだ」


 どうやら通じたらしい、二人の兵士は驚いた表情になった。


「エルフの貴族・・・」


 この辺りは北連から距離的にそこまで遠いわけではないのでエルフの貴族特有の苗字のことも知っていたようだ。


「そうだ、カエデの木国との外交問題にしたいか?」


 そういってフードを少しずらしてエルフの特徴である耳を見せた。


「一応、ギルドまで同行させてもらう!」


 結果的に道案内役になってもらって幸運だったか。

 ギルドにはすぐに着いた。さすがに首都のギルドだけあって規模も大きいし冒険者ギルド単体で独立している。


 中に入るとまだ午前中にも関わらず閑散としていた。普通はこの時間は人でごった返していてもおかしくないはずなんだがな。

 そのまま兵士と受付に行きギルドカードの照会をする。受付嬢はBランクだということに驚いて手が震えていたが無事本物であることが証明されて兵士は出て行った。


「Bランクのクララーヴァ様、ギルドマスターがお話をしたいそうです。お会いいただけますで、で、でしょうか」


 どうやら、照会の際に報告されていたようだ。さっきの兵士の話だとハムを本拠地としているBランクはいないらしいからギルマスからすると何事だ!?という感じだろう。観光できたのならギルドに顔をだす意味もないしな。こっちも誰彼構わず情報収集をするというのは効率が悪いからギルマスと話ができるのであれば歓迎だ。


 そのままガチガチに緊張した受付嬢にギルドマスターの執務室に案内される。


「初めましてBランク様、ハムのギルドマスターをしているボールザンだ」

「初めまして、クララーヴァ=モリコジローよ」


 ボールザンはスキンヘッドで強面のいかにも冒険者というような見た目の男だった。


「クララーヴァといやあ最近の活躍は聞かないが、かなりの有名人じゃねぇか。そんな世界有数の剣士様が何の用でハムにきたんだ? まさか観光ってことはねぇよな? だとしたら時期が悪すぎるぜ」


 Bランクというのは冒険者ランクの中では実質的に頂点だ。

 上にAランクがあるものの、あれは特別なランクだから別枠のようなもの。私は実際Bランクの中では一番下で正確にはB―3ランクだ。実際の実力もその通りといったところだろう。それでもBランク、実質的な冒険者の頂にいるわけで自然と有名になってしまう。


 それでもここのギルマスはあまり遜った(へりくだった)対応はせず、あくまで冒険者相手ということで比較的フランクな対応をしてくれている。他国だとはいえ貴族だということもわかっているはずだが、もともとそういう性格なのか、それとも何か思惑があって懐に入ろうと考えているのか。

 彼に関しての事前情報は持ち合わせていないが見た感じそれなりに強そうだ。確実に冒険者上がりでギルマスになったパターンだろう。大きいギルドだしCランクくらいはあるのかもしれない。それであれば悪魔の洗脳は跳ね返していると思うからそこの心配はなさそうだ。


「人払いをしてもらえるか?」

「かまわない。おい!」


 受付嬢と部屋にいた秘書と思われる女性が揃って出て行った。


「これでいいか?」

「サイレントドーム、マジックプロテクション」

「うお、防音魔法か?」


 念のために防音の魔法と魔法干渉を防がせてもらう。あくまで簡易的なものではあるのだが・・・


「実はギルド経由である噂を聞いて確認のためにきた」

「戦争の話か? だとしたら見ての通りだ。いつゴルドガンナが攻めてくるかってみんなビクビクしてるぜ、そのせいでこっちは商売あがったりだ。優秀な冒険者から次々拠点を移すって出て行っちまってる」

「いや、戦争の話ではない。夢の話だ。トーハクで悪夢を見るものが増えていると聞いたんだ。ボールザンはどうだ? 最近悪夢は見るか? そう、例えばゴルドガンナが攻めてくる夢とか」

「いや、別にそんな夢はみていない・・・と思う。そもそも夢なんて覚えてねぇから忘れてるだけかもしれねぇが」


 ボールザンは即答してきた。ノータイムでこう言ってくるということは本当なのだろう。


「失礼だが、ボールザンの冒険者ランクは?」

「俺か?もう引退してるが最後はCまでいってたぜ。とはいってもギルマス就任の箔つけのために最後上げてもらったようなものだから実力はDってとこだな。引退して鈍ってるから大して戦えないけどよ」


 やはり、それなりに高いランクだ。これであれば魔法耐性も十分にあるだろう。


「悪夢の話に心当たりはないか?」

「もちろんあるぜ、結構前だが若い冒険者が騒ぎを起こしたんだよゴルドガンナが攻めてくるって言いだしてな。その時はそんな事ねぇだろって話をしたんだが夢で見たって、同じ夢を見たっていう奴が何人も現れてな。女神さまのお告げじゃねぇかって話がでたくらいさ。最初は笑い話だったんだが、気づけばこの状況だよ。軍の方もほぼ攻めてくるって断定しているみたいだ。本当にお告げだったんかねぇ」

「それはいつ頃だ?」

「半年くらい前だったか」


 思ったより時間が経ってしまっている。半年もかけてじっくり洗脳してきたのか、これは本当に開戦まで時間がないかもしれない。


 普通に考えればゴルドガンナがこの国を本気で奪いに来るとはとても思えない。

 何せ観光だけの国だ。国際社会に対するリスクまで抱えて本気でこの土地を欲する理由がゴルドガンナにはない。国としても大きく土地や資源も十分あることから領土的野心も考えにくい。さらに言えばこの国の先にあるのはフロスト山脈で別の国や交易先があるわけでもない、山方面に国家として進出するなど考えるはずがない。むしろ途上国として別荘地のような形にしておきたいはずだ。

 だが、この状況、悪魔が裏で手を引いて何か一つ事件でも起きればもう開戦だろう。


「状況はわかった」

「それを聞きに来ただけか? Bランク様なんだから塩漬け依頼の一つや二つこなしていってくれねぇか? こんな状況だけどよ」

「すまないが本当に時間がなさそうなんだ」


 少し悩む。このギルマスはほぼ確実に洗脳はされていない。悪魔のことを素直に話して協力してもらうべきか?

 いや、このギルマスは信用できても結果として話せば何かしら指示を出してギルドを動かすだろう。そうなると悪魔に気づかれて先手を取られる可能性もある。そうすると最低でもDランクのパーティだけ動かして探るみたいなことであれば何とかなるか?


「ボールザン、ちなみに依頼を出したいとした場合、今のこのギルドにDランク以上は何人いる?」

「う~ん、白きバラっていうパーティに国内唯一のCランクが一人いたんだが、そいつらは少し前にパーティごと出て行っちまってな。そのパーティは残りのメンバーも何人かDだったんだが・・・それ以外だとDは4人いて全員パーティリーダーだ。パーティで雇うとE以下も入る。もしかしたらもう出て行ってるかもだがな・・・」


 悪魔側の魔法の強さがEで足りるのかどうかわからない中で迂闊に動くのはよくないな。話すのはやめよう。


「ありがとう、依頼はできないことがわかっただけでも収穫だ。あとは、ゴルドガンナが攻めてくるらしいという話で特に国の上層部に対しておかしな動きをしているところとかはないか?」

「なんだ? 結局、開戦を避けるようにどっかから言われてきたのか?」

「いや夢の話を調査しているだけだ。仮に戦争が始まったとしても私がどちらかに加担するようなことはしない。知っての通りカエデの木国の貴族でもあるからね。夢の内容は戦争が起きるっていう話だったから特に強い夢を見ている者とかいないかと思ったんだ」

「夢ねぇ、確かに半年くらい前は色んな奴がそんな話をしていたが、最近は特に聞かないな、それこそ最初にいいだした頃に女神のお告げだって教会の連中も騒ぎ出して国に陳情したりデモもやってたりしたくらいかな。教会なんてなんもしねぇのにこういう時はうるせぇんだよな」


 教会か。確かに悪魔どもからすると聖水を供給する教会は真っ先に潰しておきたいだろう。可能性の一つとして見に行ってみるか。

 あとは国の上層部とも話がしたいが、この状況で他国の人間がいきなりきて会ってくださいなど無理だろう。本来は冒険者ギルドのギルマスも国の幹部といえばそうなのだ。冒険者という括りで情報を得れたことでよしとしよう。


「色々参考になった。状況次第では依頼を出させてもらうかもしれない。その時はよろしくお願いしたい」

「塩漬け依頼と交換ってことで頼むわ」

「考えておく」


 冒険者ギルドから出る前に受付でハムの街の地図と女神教会の場所を教えてもらった。

 エルフの国では女神教会はそれなりに大きいのだが他国はそうでないことが多い。冒険者ギルドと医師会と女神教会は世界中に組織が広がっているのだが、そのうち女神教会だけは一段、いや2,3段は落ちる組織だ。信仰を必要とする国とそうでない国の差が激しく世界規模の組織とは名ばかりで統率されていない。

 この国はそれでも規模感としてはマシなほうか。国によっては聖水すらまともに作っていない場所もあるくらいだからな。


 さっきは道がわからずキョロキョロしながら歩いていたのだが既に地図で場所がわかっていることもあり軍人に声をかけられないように移動していく。

 悪魔が何かしら仕掛けをしている可能性も考慮し、いきなり教会には入らず遠目に確認することにした。


 何やら敷地の中で集会をしているようだ。侵略反対と叫ぶ声が聞こえる。やはり洗脳が進んでいるようだ。

 ここから見る限り聖職者の姿は見えない。服装は教会職員と思われるが、聖職者特有の魔力は見えなかった。最低でも聖水を作ることができるレベルの者はいると思うのだが、どうなっているんだ。


 集会が終わったようだし、それ以外におかしな点はここからは確認できないので意を決して近づいてみることにした。少なくとも強者の気配は無いし最悪、私だけでもなんとかなるだろう。


 素直に正門から入っていく。だいたいの教会は入り口付近で聖水を売っているのだが並んでいない。


「すまない、聖水を購入したいのだが」

「ああ、聖水でしたら売り切れですよ」

「そんなに売れているのか?」

「今作ってないんですよね。聖水」


 作っていないだと? 田舎過ぎて作れる人材がいないならともかく、ここは小国とはいえ首都の教会だぞ。


「まさか聖職者がいないのか?」

「いや、いらっしゃいますよ。お一人だけですけど」

「直接依頼できないか話がしたい、取り次いで貰えないだろうか」

「直接いってもダメですよ。禁止されていますからね」


 禁止されている? どういうことだ。

 少し揉めていたからか奥から聖職者と思われる男が出てきた。


「冒険者さん!聖水が欲しいのですか!?」

「カモンゼンさん、ダメですからね」

「わかってますよ。私が説明するのでこちらへ」


 そういうと教会の中の小部屋に連れていかれた。


「冒険者のクララーヴァだ。カモンゼンと言ったか、あなたからは神聖属性の魔力を感じる。聖水は作ることができるだろう?」

「ええ、作ることはできるのですが禁止されているのです。あなたは高位の冒険者とお見受けする。わけがわからないと思うが少し話を聞いてほしい・・・」


 カモンゼンの話によると数カ月前から聖水の販売は禁止されたらしい。なんでも例の女神のお告げとしてゴルドガンナが攻めてくるという話の中で攻めてくるゴルドガンナの兵士は悪人ばかりだから聖水が効く可能性がある。なので聖水は軍の中で使うことにして、スパイがいる可能性のある街中で売ることは禁止になったとのことだ。

 他にも今の街の状態や色々違和感があり怖くなってきたが誰に相談しても適当に流されてしまっていたところ、珍しく聖水の客がきたから気になって出てきたらしい。


「何を言っているのだ? 聖水が人間相手でも悪人だと効果がある? 支離滅裂にもほどがあるぞ」

「私もそう思います・・・ただ、みんな夢で見たと言って聞く耳を持ってくれません。そうこうしているうちに教会の理事会からも市議経由で正式に通達されたとあってこの有様なのです」


 目の前の男は話していても先ほどのギルマスのように正常な感じがする。神聖属性に染まっているから悪魔の魔法の影響を受けていないのだろうか。


「他の聖職者も同じくおかしいと思っているのではないか? この規模の教会だ。あなた以外にも何人か聖職者がいるだろう?」

「他の者は全員徴兵されました。先ほどの話の通り戦場で活躍する可能性があるからと。さすがに墓地の管理ができなくなるとまずいので私だけ残されました。確かに連れていかれる前は聖職者仲間はみなおかしいと言っていたのですが・・・」


 パリィッン!


「え、なに!?」


 来たな、先ほどと同じようにサイレントドームとマジックプロテクションを使っていたのだが、何かの攻撃を受け、マジックプロテクションが防いだ音だ。

 既に聖水作りを中断させていることから、教会に対する作戦は終わっているはずだが念のために見張らせていたのだろう。

 未だに近くに強い気配はないことから弱い悪魔か悪魔に洗脳された人間か。いずれにしても精神系の攻撃だが別に焦ることはない。マジックプロテクションを破れない時点で大した攻撃ではないし実力はないだろう。


「カモンゼンさん!大丈夫ですか!?今すごい音が!」

「え、あっ」


 女性の声がしてドンドンとドアが叩かれる。

 私はカモンゼンの首根っこを掴み部屋の端へ投げると同時にドアの横に移動した。

 それとほぼ同時にドアが開かれて女が入ってきた。


「ラスカさん?」

「カモンゼンさん、なぜそんなところに?冒険者の方は?」


 ドゴッ


 ドアの陰から入ってきた女を蹴り飛ばす。


「いたあい、何をするんですか!あなた!」


 教会職員と思われる服をきた女だが、人間の魔力と少し違う気がする。


「カモンゼン、彼女は誰だ?」

「え?ラスカさんはここの職員ですよ、乱暴はやめてください!」

「もしかしてゴルドガンナのスパイ!?軍人さんを呼びましょう!」


「その必要はない。そいつは悪魔の可能性がある」


 私は抜剣し、女の前に立ちはだかった。


「悪魔!?」

「突然あなたは何をいいだすんですか!」

「そうですよ、ラスカさんは半年も前からここで働いているんですよ!」


「ふふふ、そうか半(・)年(・)前(・)か(・)」


 私は聖水を一本取りだすと女に向かって投げた。


「お前が悪魔ではないというのなら、その聖水を飲み干してみろ」


 女は投げられた聖水を瓶が割れないようにキャッチしたが明らかに迷っている。こいつが悪魔だったとして強ければ聖水を飲むくらい耐えれるだろう。だが、気配を感じない程度の雑魚なら聖水だけも致命傷になりかねない。


「ラスカさん?・・・」


 一向に飲まない女に向かってカモンゼンも疑いの目を向けだした。


「そもそも知らないあなたから貰った物を飲むわけないでしょう!これが聖水?瓶が同じだけで毒かもしれないじゃない!」

「カモンゼン、判定しろ、開ければすぐわかるだろ」


 一度疑いだしたからかカモンゼンは立ち上がって女の方に行こうとする。

 すると女は聖水を地面に投げて割ってしまった。


「カモンゼンさんに毒を触れさせようとしたのね!スパイで間違いないわ!」


「ああ、もういい、そもそも聞こえるはずないんだよ」

「え?」


「お前はさっき、すごい音がしたと言っていたな? 私はサイレントドームの魔法を発動していたから外に音はでない。中にいた私たち以外に音が聞こえたとしたら魔法が跳ね返った攻撃者だけだ」


 私は一瞬で女を組み伏せて新しく出した聖水のふたを開けてふりかけた。


「ぎゃああああああ」


 聖水がかかった部分から青白い霊体のような姿になっていく。恐らく森で倒した悪魔もどきのレイス系の上位種なのだろう。


「おい、殺されたくなければ、お前達のボスについて教えろ」

「教えたら助けてくれるのよね?嘘じゃないわよね?」


 もちろん嘘だ。悪魔を逃すつもりはない。

 ただ、悪魔の特性としてやつらは死の恐怖をかなり感じるらしい。それは上位の悪魔になるほど顕著だ。こういやって死なないですむかもしれないというのは悪魔に対する取引材料としては非常に強い。


「ああ、お前だけは見逃してやってもいい」

「うぐ、ああああ、プラズマさまああああ」


 ダメだった。思ったよりも弱かった。

 人間に偽装して入り込むくらいだから多少なり強さがあるのかと思ったが、元々私が感じ取れなかったくらいだ。霊体だったから感じ取りにくいというのはもちろんあるのだが、それでも聖水だけで浄化されきってしまうとは。

 喋ることはできていたから知能に全振りしたタイプだったのだろう。それでも頭はよくなかったので純粋な兵隊だ。これだけ大掛かりなことをやっている元締めの悪魔ではないだろう。


 しかし、思いのほか収穫があった。この女の出所を探れば悪魔の情報を掴めるかもしれない。確実にこの雑魚悪魔は自分で人間の姿に偽装をする魔法などもっているわけがないから別に魔法をかけている悪魔がいるはずだ。


「本当に悪魔だったのか!?ここは教会だぞ・・・どうなってるんだ」

「腰を抜かしている場合じゃないぞ。この悪魔の出所を探りたい。協力してくれ」

「もちろんです!」


 悪魔だったラスカは半年ほど前に就職してきたらしい。求人に応募してきたわけではなく、斡旋だったそうだ。そしてどこから来たかというと聖水の差し止めをしてきた市議会議員の斡旋だったそうだ。昔から教会と繋がりが深い世襲議員でハムの有力者でもあるらしい。


 トーハクは貴族社会ではないので王もいなければ貴族もいない国だ。有力者となると政治家や軍人といったところか。

 カモンゼン曰くこの議員は代々ハムの街の有力者であって、この半年で突然成り上がったわけではないらしい。となると脅されているか洗脳されているか、少なくとも悪魔の派遣元であるのは間違いない。拠点にされている可能性がある。


「もう悪魔に我々のことが伝わっているのでは?どうしましょう・・・」

「おちつけ、まだ確実に伝わっていない。少なくとも日中は大丈夫だ。先ほどの悪魔は魔法をはじいてから、この部屋に来るまで時間をかけてはいなかった。テレパスが使えたとしてもあの程度の強さだ。詠唱時間もかかるだろう。可能性としてはここに悪魔が二人入り込んでいた場合くらいか。さすがに半年何もなく二人も置いておくとは思えない。この半年で派遣されたのは一人だったんだろう?」

「はい、そうです」


 まだ、日が落ちるまでは時間がある。普通の職員として入り込んでいたらしいから普段の帰宅時間にあの悪魔が戻らなければ、そこで初めて気づかれるだろう。そうすると帰宅時間になる前に強襲したい。


「その議員の家に行ってみよう。カモンゼンは戦えるか?」

「え!行くんですか!?まずはギルドに報告して軍に・・・」

「駄目だろう、お前は聖職者だからやられていないが、この街の住人はかなりの人数が悪夢で洗脳に近い状態にある。軍だって所詮は寄せ集めだ。強者でなければ魔法抵抗できていないと思うぞ」

「正直、私はそこまで戦えはしません。冒険者だとEランクになれるかどうかというところでしょうか」

「そうか、無理にとは言わん、ただその議員の家までは案内してくれ」

「いや、私も聖職者です! 半年も悪魔に騙されていて黙ってはいられません」


 そう言うとカモンゼンは大量の聖水を抱えてきた。


「私も神聖属性が使えるものとして聖水を投げることくらいはできます!」

「そうか、では行こう」


 先ほどの聖水は本国から持ってきているもので普通の聖水よりも高位の物だ。カモンゼンの持っている聖水ではさっきの悪魔を浄化まではできなかっただろう。まあ効果はあるし、本人も先ほどの聖水で倒せるのを見てやる気だから何も言わないでおく。


「当たりのようだな」


 街の中心部からそれほど離れていないが急に人の気配がなくなった高級住宅街の中にある大きな邸宅を離れた位置の屋上から確認する。ちなみに私は身体能力が高いので軽くジャンプすれば屋上くらいは飛び乗れるのだが、カモンゼンはできないので首根っこを引っ張り連れてきている。

 代々有力者だというだけあって大きな家だ。昼間だが人が何人も出入りしているのが見える、確実に中に人がいるにも関わらず全てのカーテンが閉じられている。


「どういう作戦でいくんですか?」

「普通に突入するだけだが?」

「それだと犯罪者になってしまいますよ!」

「なるかもしれないが、確実に悪魔の証拠があそこにはある。それでチャラにできる」

「だとしても、危なすぎますよ。クララーヴァさんが強いといってもDランクくらいですか?冒険者ギルドに行って高位の冒険者に助けてもらえないか秘密裏に言いにいきましょう!そうしましょう!」


「私はBランクだぞ。ほらカード」

「嘘ですよね?Bランク冒険者と言えば生ける英雄ですよ。初めて見ました・・ってエルフ!?」

「いちいち驚くな。もうそんなに時間が無い。裏の塀を飛び越えて2階のバルコニーから入るぞ」


 できる限り音を消して大きなバルコニーまでひとっ飛びで入る。バルコニーの窓も閉まっていたがサイレントルームを小さく展開して割った。


「手慣れてませんか?」

「便利な魔法だろう?っとお出ましだ」


 早速出てきた。家の中だから油断していたのだろう上半身だけ人間の形のような青白い霊体だ。腰から下はレイスっぽく浮いている。


「なんだオマエラハ!」


 ぞろぞろと出てきた6体のうち5体を私が剣で瞬殺した。残る1体はカモンゼンが聖水を必死にふりかけている。


 気配を探るとぞくぞくとした感じが身体に走る。それなりに強いやつがいる。

 カモンゼンが奮闘しているのを横目に気配のする方に進むと大きな観音開きの扉があり蹴り飛ばして開けた。


「ついに人間がここに気づいたか。いやいや、最後まで気づかれない方に賭けていたのだが驚きだ、冒険者がどうやって嗅ぎつけたのかなあ」


 扉の先の広い部屋にいたのは見た目からして確実に悪魔だ。

 喋っている奴はソファーにどかっと座っていて霊体なのだが他の奴らとは違い、青白いだけではなく全身が燃えているように見える。顔は馬と人間を合わせたような恐ろしい顔面に首から下は人間の体、背中には羽が生えている。ぱっと見3メートルくらいの大きさはありそうだ。

 もう一人は青い肌をしたローブを纏った小柄な老人のように見える悪魔だ。高級そうな大きい魔石のついた杖をもっている。ただし頭の上部だけが異常に大きく顔までは普通なのだがそれより上が顔の3倍以上の大きさだ。こちらは従者なのか横に突っ立っている。

 さらに途中で倒してきたのと同じような霊体だが足までついていて、より人間に近そうな上位種と思われるのが4体か。


 部屋には悪魔以外に人間もいたようで、おそらく例の議員と家族や使用人だろう洗脳済なのか部屋の端で座って何の感情もださずに待機しているような雰囲気だ。


「おい、冒険者、まだ何もしていないのに俺を見て恐怖で動けなくなったか? 俺はナイトメアの王、ザウルス様だぞ」


 先ほどの教会の悪魔が断末魔であげていたプラズマというやつではないのか。

 自分から名乗ってきたが、このレイスの亜種みたいなやつらはナイトメアという種類の悪魔だったようだ。名前のままの特徴だな。

 悪魔は種類が多いからまだまだ知らない種類や人間が把握していない種類の悪魔もいるのだろう。もう一人の青い奴も見た目からだけでは種類がわからない。わかれば弱点も見当がつくかもしれないのだが。


 ナイトメアのザウルスは余裕をかましてケラケラと笑いながら話しかけてきている、少し見ただけでもわかるレベルでこいつはかなり強いな。さっきの気配も間違いなくこいつだ。だが、私の実力は把握できていないと思われる。もちろん油断はできないが、魔力を抑えている私を見て正確な実力も感じ取ることができないような鈍感具合、できれば不意打ちを食らわせたい。


「まあD級冒険者が俺を見て逃げ出さないだけ見込みはあるぞ、カカカ」


 そうか、こいつが私を見て余裕な理由。既にこの街の大部分を制圧していて冒険者の状況まで把握していたか。ギルマス以外で強い者はDランクしかいないと知っていて、私のことをDランクだと勘違いしている。


「ふふふ、そうだな。まさか悪魔がいるとは思わなかったがDランクの私には荷が重すぎる」

「逃げてみるか?カハハ」

「どうせ逃げれないだろう? ザウルスよ、それほど余裕があるのなら一騎打ちで勝負をさせてほしい」

「おお! 冒険者にしては気概のあるやつだ!気に入った!」


「とでも言うと思ったか? シャンガラ!」

「わしもちょうど冒険者と配下のレベル比べをしてみたいところだったですじゃ。小娘、教えてやろう悪魔の強さというものを。お前ごときにザウルス様が動いたとなると恥じゃ、恥、そこらの冒険者のお前は背伸びをせんかったらもう少し長生きできたのに、あわれじゃのう」


 ザウルスに弱いふりをして一撃を食らわせるのが理想だったのだが・・・ザウルスは座ったままだから恐らくシャンガラと配下のナイトメアで戦うつもりだろう。まあ副官だと思われるシャンガラと呼ばれた悪魔を先に倒してしまうのでも悪くはない。一人で同時に複数を相手をするのは長い詠唱を許す可能性があるしリスクがあるからな。


「マルフロートフンマノイグ! ダースベルシンガ!」


 恐らく悪魔の強化魔法だろう。シャンガラが詠唱すると周りにいた4体のナイトメアの様子がみるみる人間の姿になっていく。こいつが教会にいた人間の姿をした悪魔を用意していたのか。


「シャンガラ様!力がミナギルヨウデス!!」

「そうじゃろう、そうじゃろう、種族変化以外に戦闘向けの強化もしてやったのじゃ! お前ら!武器を持って冒険者を倒して見せろ!」


 シャンガラの号令に合わせて見た目が大柄の人間になった4体のナイトメアはそれぞれ斧や鈍器などの重そうな武器を軽々持ち上げた。身体能力だけだとそれこそD級冒険者近くあるかもしれない。


「きしゃああ」


 4体揃ってこっちに向かってくる。既に剣には聖水をふり掛けてあるのでそのまま応戦だ。私もフードを脱ぎ捨てて臨戦態勢に入る。


「エルフだと!?」


 ザウルスの驚いたような声が聞こえたがもう遅い。


「連撃閃華!」


 4体のナイトメアは一瞬で灰と魔石になった。


「お前!何者じゃ!」


 シャンガラがびびって一歩後ずさりながら聞いてきたが素直に答えてやる必要はない、無視をして飛び込む。


「ファイアーボール!」


 やはりシャンガラは魔術師だったか。だが!

 私はファイアーボールを切り捨ててシャンガラに肉薄する。


「ひいいプロテクション!」


 パリィン


 一撃目でプロテクションはガラスのように壊れ、そのまま二撃目が腹にあたりシャンガラは吹き飛んだ。


「アガガ、リカバリーエイド」


 かろうじて杖を手放さず持っていて小癪にも回復魔法を使いながらポーションを体にふり掛けまくっている。


「人間ごときが!」


 次の瞬間、杖の巨大な魔石が強く赤く光った。


「地獄は我らの居場所、灰燼の炎でここを地獄とす」

「やめろ、シャンガラ! 俺まで巻き込む気か!」

「ヘルフレイム」


 詠唱と共に青黒い炎がいくつも召喚される。


「死ねぇ小娘!」


 地獄の炎がポコポコと周辺に生まれこちらに向かってきた。もはやまともに操作できておらず、かろうじて私の方向に向かってくるものの一つ一つがこの屋敷をまるまる灰燼にできるほどの魔力を持ってふらふらしている状況だ。


「オーラブレイド」


 私は魔力を開放し剣が壊れないように魔法をかける。

 そして次々と目の前の地獄の炎を切り捨てながらシャンガラの前までたどり着いた。


「嘘じゃこんなの、助けてく・・・」


 もはやプロテクションを張る魔力もないのだろう。一振りでシャンガラは事切れた。どうやらナイトメアではなかったようで灰にはならずにそのまま死体は残っている。横を見ると杖についていた巨大な魔石は割れ、本体部分もヒビが入っていた。あれだけの炎をだしたのだ。相当な業物だっただろうにもったいない。


「お前には過ぎた装備だったな」


 最後に残ったザウルスは口をパクパクさせている。さっきの炎は切り札だったのだろう。明らかにシャンガラが扱える魔力を大きく超えていた。万全の状態で操作しながら炎を正確に撃ってこられたら危なかっただろう。まああいつの技量では万全の状態でもまともに操作することまではできなさそうではあったが。


 シャンガラを倒した私はザウルスの方を向きなおして構える。なんとか炎は魔力で切り伏せたもののオーラブレイドで私もかなりの魔力を消費している。だが、戦えないほどではない。シュナーノヴィアーナからもらった結晶を使う判断はまだできない。


「聞いてねぇぞ! エルフがいるなんて聞いてねぇ! それもこんな強い奴なんて聞いてねぇ聞いてねぇ!ふざけんじゃねぇぞプラズマァ!」


 ザウルスは喚き散らしているが油断しているようには見えない。武器はもっていないから戦い方は不明だがどうでる。


「あああ、最後まで見たかったがもういい、もう出来てるからな。俺は絶対死にたくねぇ」


 そういうと臨戦態勢に入ったザウルスは両手で殴り掛かった。残っていたヘルフレイムの炎に。


「あぢいいいい」


 炎は私の方に・・飛んできていない!

 この家の人たちの方に向かっていく、私はとっさに住人に向かった炎に向かって飛び込んで切り捨てた。まだオーラブレイドは解除していない。


 ドゴオオン


 先ほどザウルスが両手で一つずつ殴った炎のもう一つは天井に向かっていき天井が崩壊して燃え始めた。


「それじゃあ、お先に失礼しまあす」


 ザウルスは背中の羽をはばたかせて空に上がっていく。


「貴様、配下を見捨てて逃げるつもりか!」

「当たり前だろ、お前の強さは異常だ! 番人かもしれねぇやつを相手にする意味なんかねぇ! 多分それでも俺は勝てるが死ぬかもしれないリスクをとる理由がない! もう作戦は終わってんだ。明日には開戦するぜぇ! どこの国の差し金で来た英雄様か知らねぇが、無駄な努力ご苦労だったなあ!」


 せっかくここまで追い詰めたのに逃がすわけにはいかない。それにプラズマとかいう悪魔も恐らく別にいる。こいつは間違いなく首謀者本人か幹部だ。なんとしてでも捕まえて全容を吐かせなくては。


 私は全身に魔力を漲らせ身体強化をしていく。ザウルスが徐々に上に登っていくのに対し落ちてくる瓦礫を踏み台にしながらザウルスに迫った。


「嘘だろ、なんて身体能力してやがる」

「加減できんがしかたない、飛閃華!」


 魔力そのもので作り出した斬撃をザウルスに向かって放つ、数m先であっても届く斬撃だ。


「ぐあああ。いでえええ」


 当たったものの距離が離れていたせいでザウルスを墜とすまではいかなく、まだ浮いている。これ以上は追えないか。


「ザウルス! お前の負けはもう決まった! 戦争が起きようが悪魔の証拠がある以上、討伐隊が組まれてお前はもう終わりだぞ!」

「カハハハ、そっくりそのまま、その言葉返してやるぜぇ、戦争が始まったら簡単に国の外になんざ出られねぇ、特にお前みたいな他国の人間はなぁ! ハムでゆっくりしてろ、討伐隊を組むのは俺たちの方なんだよ! すぐに討伐してやるぜぇ、エルフ女!」


 苦しそうな顔で捨て台詞を吐いていったザウルスは北に向かって飛んでいく。プラズマとかいうやつも残っているし本陣はハムではなかったか。


「はぁはぁ、やりましたよ! 私でも役に立てました。悪魔を一体浄化しきりました!」


 息を切らしながら今更カモンゼンが薄く暗がりが広がり始めた広間に入ってきた。


「そうか倒したか」

「それにしてもさっき大きな音が、えーーーーー! これ、どうなってるんですか!? めちゃくちゃ壊されて、え?」

「この部屋にハムで暗躍していた悪魔がいたが一番強かった奴には惜しいところで逃げられた。ほらこれが証拠だ」


 そう言ってカモンゼンにシャンガラの死体を投げ渡した。


「はいよ、ってこれ悪魔の死体!? うわ気持ち悪っ!」

「あっちを見ろ、この家の人間達だ。もう干渉はされていないはずだが、深くまで入り込まれた洗脳はすぐに解けないだろう。病院へ搬送する必要がある」

「そうですね、どうしましょう。警察でしょうか、でも悪魔だと冒険者ギルドでしょうか、ああ軍が先にきてしまうかも」

「カモンゼン、あとは任せる。その証拠の死体を使ってくれ、私はシュナーノヴィアーナ様の所に一旦戻る」

「誰ですかそれ! 私一人でなんとかなんて無理ですって! B級冒険者なんですよね、とりあえず冒険者ギルドまで一緒にいってください!」


 一刻もはやくシュナーノヴィアーナに状況を伝えたいのだがカモンゼンがぐずるので仕方なく後片付けを手伝うことにした。

 幸いにも家の中の人は大怪我をしていることもなさそうだ。全員が未だにうつろな目で大人しく座っている。外を見ると軍人が走ってくるのが見えた。さすがにこの状況を説明するのは難しい。


 私たちはシャンガラの死体を担いで再び入ってきたバルコニーから裏口に向かって塀を飛び越えて走る。この時間であればギルマスはまだギルド内に残っているかもしれない。緊急事態にもほどがあるから、最悪の場合はなんとかして呼び出してもらおう。


 カモンゼンは途中息を切らしていたので私だけ先に冒険者ギルドまできた。中は相変わらず空いている。シャンガラは元々ぶかぶかのローブを被っていたのでそれで隠しつつ受付にいく。朝見たのとは別の受付嬢だ。


「すまない、緊急事態だ。ギルマスはいるか?」


 そう言って私は冒険者カードを出して見せる。


「え!? B級!?」

「緊急なんだ!はやくしろ!」


 少し凄むと慌てて受付嬢はバックオフィスに走っていく、あまり褒められた行為ではないがしかたあるまい。


「はぁはぁ、追いつけました」


 カモンゼンが来ると同時にギルマスが走ってきた。どうやらまだ居たらしい。


「おいおい、いきなりどうした?ってボロボロじゃねーか! マジでどうしたんだよ」

「話せる場所を借りれるか」

「もちろんだ、こっちにこい」

「カモンゼンもついてこい」

「は、はい~」


 2階にあがってすぐの応接室のような部屋に通される。


「こいつを見てくれ」

「なんだ、こいつは!? 人間・・じゃないよな?」

「悪魔だ」

「冗談・・・なわけねーか・・・」


 もはや証拠があるので隠す必要はない。元々悪魔がいる可能性を考えてトーハクを訪れたこと、そして先ほどの戦闘の話をボールザンには一通り説明した。


「信じがたいが辻褄はあうし、目の前の証拠がなぁ・・、逃がしちまったものはしょうがないが、どうしたものか、どうやって討伐するか。Bランク様でも勝てなかったんだろ?」

「逃がしてしまったとはいえ、まともに戦ってはいない。実力的には私に分があると思うし、もう半年も放置された結果だ、この後も多少犠牲が増えるのは割り切ってしまい討伐は後回しにするということもできる。それよりも問題なのは開戦の方だ」


「そのザウルスってやつは明日にも開戦するって言って逃げたんだったか」

「そうだ、ボールザンが考えている通り、この国の戦力で討伐するのは無理だ。ザウルス以外にも同程度かさらに強い悪魔がいる可能性が高いからな。そして戦争中は他国に助力を乞うことは難しい。戦争の状況について何かわかることはないか? なんとしても開戦せずにおさめて討伐隊を準備しなければならない」

「手元に開戦に関する情報はないな。軍については外でみただろ、確かに戦争準備中なのはそうだが、そこまでの機密情報は冒険者ギルドの方にはこない。冒険者はよほどでなければ徴兵できないしな。今から緊急網で情報を集めたいところだが精神干渉が解除されても洗脳状態が即時回復できないのは厳しすぎる。どこまでの人間が干渉されているかわからないし」


 恐怖体験で植え付けられた偽の記憶を「あれは悪魔の仕業だったんですよ」の一言で乗り切れるか。そんなことは普通の人はできない。何年も何年もかかってようやく癒えるような傷だ。ましてやザウルスがでたらめを言っていないとすれば明日までにという話になる。既に夜になり始めている中で何から対処すればいいのか、正直見当もつかない。


「聖職者さんよ。あんたの魔法で解除できねーのか? 洗脳状態ってやつ」

「えっと、キュアーとかでしょうか、あれは毒とかいろいろ効きますけど、この洗脳って悪夢の影響だとしたら難しいのではないでしょうか」

「とりあえずやってみて考えるか」

「あ、私はつかえないです」

「カモンゼン、お前キュアーもできないのか」

「そんな使いない子みたいな目をしないでくださいよ。そもそもトーハクにキュアーができるレベルの聖職者は一人もいませんからね」


「とにかく情報が欲しい。明日、本当に開戦するのかボールザンの伝手で聞けないか? 例えば軍部のそれも悪夢魔法をはじけるクラスのやつはどうだ。冒険者あがりで軍に入ったやつもいるだろ?」

「いるにはいるが、そもそも連絡をつけようとしたら軍に話を通すことからだから間に合わない。一旦緊急網で警察と軍には表から連絡をしてみる。お前たちも待機していてくれ」


 ボールザンは急いで部屋を出ていき職員に指示を出し始めた。冒険者ギルドも緊急要請を各所にするようだ。


「私たちはどうしましょう」

「街中で悪魔が暴れているというわけではないから、できることはそうないな」


 少し待っているとボールザンが戻ってきた。


「その証拠は一旦こちらで預かる。あと、現場に一緒にきてくれ。ひとまず洗脳されて動けないものがいるのであれば助けないと」


 ボールザンは何人かの冒険者と職員を連れてきたので一緒に事件現場に戻る。

 再び議員の家にもどると既に軍と警察が入り乱れて混乱しているようだったが、家の人間は病院に運ばれたらしい。


「レイスが出たんだ、街中で魔物がでるとは」

「そのレイスはどうした? 倒したか?」

「いや、2体見つけたのだが逃げられた。冒険者ギルドでも捜査協力してくれ」


 ボールザンと警察と軍の現場リーダーで状況確認がされる。レイスと言っているのはおそらくナイトメアのことだろう。何体か低級のナイトメアは残っているかと思っていたがザウルスと一緒に逃げたようだ。低級とはいえ、ただの警察には荷が重いだろうから逃げられたことで逆に無事だったのはよかった。私たちは見られると厄介なので残党は倒さずに即座に脱出したからな。


「クララーヴァ、これから軍の上層部と話ができそうだ。B級がいた方が信ぴょう性がでるし一緒にきてくれないか」


 正規の国境超えをしていないから危ないかと思ったが、これだけ混乱中ならなんとかなるかと考え一緒にいくことにした。

 行った先は軍庁舎で会議室に案内され説明した。証拠もあったことから悪魔出現自体は信じてもらえたもののゴルドガンナの侵略についてはやはり洗脳状態が続いていて微妙な反応だ。何人かは無事そうなのだが、


「悪魔に騙されている、洗脳されている可能性が高い!開戦命令は出ているのか? だとしたらすぐに取り消すんだ。悪魔の思惑通りになる!」

「悪魔についてはわかったが、そこのB級冒険者はどうなんだ、それほどの者が突然くるのはおかしい!ゴルドガンナのスパイで悪魔と共謀した可能性はどうなんだ!」

「悪魔はまず冒険者ギルドで対処するべきではないか、軍を動かす余裕は今はないぞ!」


 B級という高位の冒険者本人を前によく言うな。まあ洗脳が解けていなく混乱状態なのだろうから見逃してやる。話の流れ的には悪いし、軍機なので開戦情報については誰も喋らないものの暗に開戦命令はでていると認めている。

 結局、悪魔の件は軍と冒険者ギルドで共同捜査を継続ということで国から冒険者ギルドへ依頼されることになったものの、軍はほぼ動かせないとのことだ。

 私についてもスパイ容疑は証拠不十分だしB級という高位であることから一旦は追及されることなくギルドまで戻ってきた。


「結局、悪魔の思い通りだな。開戦するというのは間違いない。どうする? その悪魔が攻めてくる前に追いかけて見るか? 追跡ならできるかもしれない」

「どういうことだ?」

「お前がその悪魔を追い詰めたお陰で飛んで逃げたとしても魔力の残滓は残る。俺は斥候職(スカウト)だからそういうのを追跡するのは得意なんだ。追っていった先で勝てるかというのは別の話だが・・・」


 ボールザンは見た目から戦士だと思っていたがスカウトだったようだ。


「すぐに出せる戦力はどうだ?」

「軍にも実質断られているし単純な人手を出すことはできるが質はない、悪魔と相対するというのは無理だろう」

「私でも聖水でなんとか倒せたんです! 聖水はまだありますので使えませんか?」

「カモンゼン、お前が倒したのは低級の雑魚ナイトメアだ。見ていないだろうが広間にいたクラスのやつは次元が違う。一瞬で殺されて終わるぞ」

「そんなぁ」

「これ以上ここにいても仕方ないな。シュナーノヴィアーナ様に相談に戻ろう」

「だから誰ですかそれ」


 ギルドの高速馬車を使って朝きた道を戻る。既に時刻は夜だ。

 トーハクの関係者としてボールザンにも一緒に来てもらっている。

 カモンゼンも乗りかかった船だといってついてきた。

 何か打開策が見つかるとよいのだが・・・



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