◇ 《第42話 沈黙の駒(サイレント・ナイト)》
VIPエリアの中は、先ほどの暴力的な痕跡が嘘のように静まり返っていた。
壁に叩きつけられ、倒れ伏す6人の黒服を、レイトは一切顧みない。
彼はブーツの底に付いた血と塵を払い落とすように、イヨナの前のソファに軽やかに腰を下ろした。
「急に現れたからビックリしたわよ」
イヨナはそう言うと目の前にあるサイドテーブルにティーカップを置いた。
「姉さんが、セキュリティセンサーを切って裏ルートを作ってくれてたんだろ?おかげで簡単にここまで来れたぜ」
レイトは粗野な言葉遣いを隠さない。
「それにしても姉さんらしくないミスだったな。オレが来るの遅かったら姉さん、今頃こいつらに、ヤられてたぞ!感謝しろよな」
イヨナは目を細めた。
「馬鹿ね、調子に乗らないの。……だけど今回は、ほんと助かったわ。ありがとうレイト」
レイトは姉を目の前にして、冷たい目が穏やかに変わった。
「姉さんに言われた通り、ユウラを連れてきたぞ。あんな事件の直後だ、離すわけにいかねぇからな」
その時、レイトが連れてきたルミナより少し年下くらいの少女、ユウラが、イヨナのそばに静かに立った。
「イヨナお姉ちゃん」
彼女の不安げな表情は、目の前のイヨナの存在によって、ようやく安堵の色に変わった。
「ユウラ。平気?元気にしてた?」
イヨナはその少女の華奢な肩を包み込むように抱き寄せ、普段の冷徹な仮面を外し、心底からの優しさで微笑んだ。
そこには『氷華のアフロディーテ』と恐れられるノクターナの女王の姿は無く、ただ一人の春の陽だまりのような、心優しいお姉ちゃんの顔があった。
レイトは、姉と妹の再会を一瞥すると、すぐに厳しい視線に戻した。
「姉さん。あの髪が青い女。やはりオレは知ってる。だけど……肝心なところだけ、どうしても思い出せねぇ」
イヨナは微かに息を飲んだ。
「そうよ、レイト。あの子よ。あなたがだいぶ前に2人で写ってる写真を見せてくれたわ。施設から抜け出した子で色々と協力して助けながら、いつも二人で一緒にいたのよ。あの子がルミナ。ノクターナでは『蒼月の処刑人』って呼ばれている子よ。レイト、思い出せない?あなたが好きになった大事な子なんでしょ」
イヨナはティーカップを握りしめた。
(なぜ、レイトの記憶から、彼女だけが空白なの?少しずつ思い出してるみたいだけど、完璧には思い出せていないのね……)
レイトは深く沈黙したまま、虚空を見つめた。
彼の金髪と、イヨナと同じグレーの瞳が、僅かな動揺を映して揺らめく。
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一方、カジノフロアを迂回する秘密の通路を急いだルミナ、エリサ達一行は、ついに目的地であるトワイライト・ミュージック・ラウンジに到着した。
『B3階...パイプオルガンの音色...』
というヒント通り、ラウンジの中央には、巨大なパイプオルガンが鎮座していた。
「ここは豪華な社交場で、パイプオルガンが売りなの」
エリサが情報端末で場所を確認する。
エリサは、今は舞台を終わらせてみんなの弱ってる身体の回復と治療が最優先と考えていた。
そして、トワイライト・ミュージック・ラウンジの壁に設置された黒曜石の台座には、クリスタルを埋め込む八つの窪みがあった。
ルミナがそれらを次々と埋め込むと、ラウンジ全体が、濃密な青い光に包まれた。
次の瞬間、ルミナの視界が大きく歪む。
クリスタルが起動したことで、このラウンジに刻まれたイヨナの『過去の記憶』が幻影となってルミナの脳内へ直接流れ込んできたのだ。
耳に響くパイプオルガンの荘厳な音色。
中央で鍵盤を叩くイヨナの横顔は、完璧な演奏とは裏腹に、深く冷たい悲しみに満ちていた。
そのグレーの瞳は、遥か遠い虚ろな空間を見つめている。
(イヨナ……どうしてそんなに悲しい顔をして……)
直後、青い光の中から新たなメッセージが浮かび上がる。
『次の鍵はB5階……クリスタル・メイズ』
脳裏に流れてきたイヨナの切ない過去のビジョンに、ルミナは身体を支えきれずフラフラと揺れた。
「あ……イヨナ……悲しんでいる顔……何なの、この光景は……?」
ルミナの呟きは、青い光に満たされたラウンジに虚しく響いた。
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一方、スカイカジノの舞台裏にある最上級モニタールームでは、富豪たちの甲高い歓声が渦巻いていた。
彼らにとって、ルミナたちが命を懸けた出来事など、あくまで金銭を賭ける最高級の娯楽に過ぎない。
「ブラボー!実に面白い映画だった!ヴェスパーのご令嬢と、青い髪の強いお嬢ちゃんたちが主役のライブ・シネマを、本物の映画公開前にこんな特等席で見させてもらえるなんて。こんなライブサービスを用意するなんて、さすが氷華のアフロディーテだ!」
大富豪たちは、
すべてを映画の撮影の生中継だと勘違いし、満足そうに席を立っていく。
イヨナは、直属の精鋭部隊(黒服)たちに指示を出し、イベントが終了したという名目で、残りのVIPたちを静かに帰らせることにする。
彼女の完璧な采配と冷徹な演技で、スカイカジノの騒動は、表向きは大作映画のゲリラ撮影として、静かに幕を閉じた。
カジノの最上層、緊急事態を知らせる赤い照明が空しく回る。
だが、この一連の出来事のすべてを、別室の隠し監視モニターの奥で、誰かが口元を歪め、不敵に笑っていた。
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そして、富豪たちの喧騒が収束したトワイライト・ミュージック・ラウンジでは、状況は一変していた。
満身創痍のルミナたちは、青い光が薄れていく床に力なくへたり込むしかなかった。
先ほどまでの激しい戦闘で、全員の筋繊維が悲鳴を上げ、身体の芯から力が抜け落ちている。
ヨシマサは、意識が朦朧としているエリサを、そっと抱きかかえる。
エリサは辛うじて呼吸を繰り返しているが、その体は限界を訴え、動くことを拒否していた。
その刹那、ミュージック・ラウンジの重厚な扉が、内部から爆発したかのような轟音と共に開き放たれた。
黒い制服に身を包んだ屈強な警備員が30人ほど一斉になだれ込んでくる。
彼らは迷うことなく一斉に警棒などの武器を構え、立っているのがやっとのルミナたちへと正確に向けてきた。
彼らは、ノクターナ・コネクションの正規の表のセキュリティ部隊だ。
スカイカジノで何が行われていたかなど知る由もなく、上層部の指示通り、侵入者の排除という任務しか考えていない。
仲間たちに絶望的な焦りの色が広がる中、ルミナがフラフラになりながらも、再び力強く立ち上がった。
ルミナは、満身創痍の仲間たちを背にして、警備員たちの前に、たった一人で壁となって立ち塞がった。
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【VIPエリア】
その時、電子警報アラームが、VIPエリアを切り裂いて鳴り響く。
イヨナはメインモニターに映し出されたミュージック・ラウンジの状況を確認した。
レイトがモニターを見て、鋭く目を細めた。
「ヤバいぞ、姉さん。あいつらは何者だ?」
イヨナは状況を一瞥しただけで、瞬時に事態の深刻さを察した。
「まずい状況だわ。ルミナがみんなを守ろうとして、前に立っている。でも、今のフラフラのあの子たちに、あれだけの訓練された正規部隊を相手にする力は残っていないわ!このままじゃクリスタルメイズまで辿り着けない。」
焦燥を滲ませたイヨナは、反射的に隣のレイトに視線を移した。
「レイト、なんとかしな……」
しかし、イヨナは言葉を途中で止めた。
レイトが座っていたはずのシャンパンゴールドのソファーは、静寂を保ったままガランとしていた。
冷たい風が、いつの間にか開いていた扉の隙間から、まるでレイトの残した残像のように吹き込む。
イヨナはすぐに表情を戻し、口元に静かで深い微笑みを浮かべた。
「……フフッさすがね。頼んだわよ」
彼女は、レイトが消えた空間に向かって、独り静かに囁いた。
「今は私じゃなく、あの子達を守ってあげて」
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【トワイライト・ミュージック・ラウンジ】
黒い制服に身を包んだ屈強な警備員たちが、武器を構え、冷徹な鉄の壁のように一歩ずつルミナたちを包囲していく。
「この人数……しかも正規のコネクションの警備員よ。絶対無理よ…。もうダメだわ……」
エリサが焦燥に駆られ、歯を噛み締めた。
「私が時間稼ぐから、みんなその間に逃げて!」
ルミナは、疲労で全身が悲鳴を上げる中、フラフラになりながらも必死に立ち上がった。
「構え!」「進め!」
乾いた掛け声と共に警備員の一団が、ルミナ目掛けて一斉に走り出す。
ルミナは応戦を試みるが、体力がない上、ダメージも大きい身体はまったく言うことを聞かない。
繰り出した蹴りはバランスを崩し、まるで威力がなかった。
「くっ…身体が、動かない…」
しかも、敵の数は圧倒的だ。
普段のルミナであれば対処できるであろうはずの相手なのに、今はまるで水底の泥の中にいるように身体が重く、思考が鈍い。
「押さえろ!抵抗するな!」
警備員の怒号と共に、あっけなくルミナは数人に押さえつけられ、無残に地面に膝をつかされた。
アサヒやヨシマサも応戦するが、なすすべがない。
後方に控える警備員たちは無慈悲に構えている。
「チィッ!手が…痺れて…!」
多勢に無勢、彼らも次々と制圧されていく。
カチッ!
超電流銃が床に倒れかけたルミナへ向けられた、その瞬間。
ヒュッ!!
風を切り裂く凄まじい音と共に、何かが飛来し、
『キィン!』という甲高い金属音と共に超電流銃が弾かれた。
警備員たちが一斉に戸惑う中、ルミナがハッと顔を上げ振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
黒いコートに包まれた金髪で長身。
暗いフロアの中で、イヨナと同じグレーの瞳が、鋭い光を放っている。
「……まにあったか」
低く、落ち着いた声。
その声を聞いた瞬間、ルミナの心臓が不意に激しく跳ねた。
(……え?……この声……どうして……こんなに懐かしいの?)
ルミナは呼吸を忘れ、身体を抑えられているのも忘れて、思わず問いかけた。
「あなたは……誰……?」
レイトは射抜くような視線でルミナを見つめ、固まった。
「お前のその瞳……その顔……その声……」
彼の言葉が途切れた、その時だった。
後方で制圧され押さえつけられていたアサヒとユーキが、その長身の金髪の男を見て、歓喜と驚愕に目を見開いた。
「レイトの兄貴ィッ!!」
「レイトさんだ!!」
アサヒとユーキの声に、レイトの冷徹な顔が、ほんの一瞬だけ、感情を露わにして崩れた。
「アサヒ!ユーキ!お前たちだったのか!」
だが、その瞬間、背後から一人の警備員がルミナを乱暴に強く捕まえ、ルミナはまったく動けなくなってしまう。
「話は後だ!」
レイトは、会話を打ち切った。
次の瞬間、彼は視認できないほどの圧倒的な速さで背後に回り込み、ルミナを捕らえていた警備員を、地を這うような鋭い蹴りで数人まとめて吹っ飛ばす。
ルミナは、目の前の光景に息を呑んだ。
まるで、何年も、同じ時間を共にしてきた二人であるかのような、懐かしくも強烈なデジャヴュ(既視感)が全身を駆け巡る。
「なんなのよ……この感覚……私、この人を……」
レイトはルミナを守ろうと冷静に告げた。
「……大丈夫か、お前は下がってろ」
その言葉に呼応するように、警備員たちが怒声を上げる。
「その金髪の男を捕まえろ!逃がすな!」
警備員たちはターゲットをレイトに絞り込み、一斉に雄叫びを上げて襲いかかった。
レイトは不敵な笑みを浮かべ、片手で指をクイックイッと招き入れるように挑発する。
「へっ!おもしれー。かかってきな」
次の瞬間、彼の姿が空間から消えた。
速いのは確かだが、それ以上に無駄が一切ないのだ。
襲いかかる警備員たちの隊列を崩し、レイトは滑るようなフットワークで易々と足を踏み入れる。
振り下ろされる無数の警棒やプロテクター越しの一撃を、首をミリ単位で傾けるだけで全て紙一重でかわしていく。
「な、なんだコイツ……!っ!?」
警備員が焦燥に目を剥いた瞬間には、もう遅い。
ドスッ……!!
レイトの踏み込みから放たれた目にも留まらぬ高速のワン・ツー(ジャブからのストレート)が、先頭の敵の眉間とプロテクターを貫く!
衝撃を内部へ直接浸透させる無慈悲な打撃。
男は叫び声をあげる隙すら与えられず、白目を剥いて垂直に崩れ落ちた。
敵の突進の勢いすら利用し、最小限の力で軸をずらして同士討ちを誘う。
体勢を崩した二人目の胸元へ、鋭く突き立てられる二重のストレート!
ズガァンッ!!
重厚なプロテクターが粉砕する爆音が響き、男の巨体が砲弾となって後方の部隊ごと吹き飛んだ。
「ひっ……!?」
怯む警備員たちに対し、レイトの動きは留まることを知らない。
レイトは、次から次へと警備員を制圧していく。
ズバ抜けた天才的な格闘センスを、生死を分けるスラムの地獄の環境で磨き抜いたその技は、ボクシングを主軸にし、色んな格闘技を極限まで独自昇華させた予測不能な戦闘スタイルだ。
ダッキングとウィービングで相手の動きを容易く外し、旋風のようなバックスピンキックで左右の敵をまとめて壁際まで圧殺する。
ステップインからの閃光のようなフックが顎を貫き返す刀での強烈な右アッパーが重装備の男を宙へと跳ね上げ、一撃で沈める。
ドカァッ! バキガッ!!
打撃音が途切れることのない重厚な打撃のシンフォニー。
レイトの身のこなしは、あまりにも優雅で、あまりにも残酷だった。
敵の必死の抵抗は全て空を切り、レイトの手元や服の端に触れることすら許されない。
金属製のプロテクターが凹む音、骨の軋む音、そして鈍い打撃音だけが、トワイライト・ミュージック・ラウンジにリズムを刻むように響き渡った。
圧倒的な武の暴力。
圧倒的なカリスマ。
数分後、トワイライト・ミュージック・ラウンジを支配していたのは、数で勝る正規部隊ではなく、たった一人の男だった。
怒号も消え、沈黙が訪れる。
パイプオルガンの残響だけが、静かにラウンジに漂っていた。
「す、すごい…。全員倒しちゃった。何この人…圧倒的な強さ… 。この人が、レイトさん……」
ムツミとマキは、その光景を呆然と見つめて呟いた。
アサヒとユーキが、堰を切ったように興奮して前に出る。
「やっぱ、スゲ〜や、レイトの兄貴!今までなにしてたんですか!?オレたち、ずっと心配してて、サウス・ベイサイドタウン中を探してたんだ!」
そしてルミナの視線は、もはやレイトから一秒たりとも離れなかった。
「あなた……レイトなの?」
レイトは、ルミナの深く揺らぐ瞳を見つめ、静かに答えた。
「……お前ルミナ?……オレはお前を知ってる気がする。いや、絶対に知っているのは確かだ!だが、霧の向こうにいるみたいで、思い出せそうで、思い出せない」
その言葉を聞いた瞬間、ルミナの脳裏に、生々しい映像が浮かび、駆け巡った。
笑いながら自分のヘルメットを直してくれた男の姿。
月夜を背にして笑う、優しい横顔。
どんな時でも、ずっと一緒に並んで歩いてくれた、一人の男。
声も輪郭も彼の名前も、稲妻のようにルミナの脳裏を走る。
(レイト…。私がこの街に来た理由は、失った記憶の欠片を取り戻すのと、あなたを探すことだった……!)
ルミナの瞳が、感情の奔流に耐えきれず、淡く揺れる。
名前を聞いた瞬間、胸が抉られるように締めつけられた。
(この名前……どうして?……どうしてこんなに、涙が溢れそうになるの……?)
ルミナの指先が、堰を切ったように震え始めた。
「どうして……泣いているの、私……?」
まるで風が吹いたようにルミナの髪が静かに揺れた。
「ルミナ?大丈夫か?」
アサヒたちは皆、心配そうにその姿をただ、静かに見つめていた。
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スカイカジノの別室──
赤いランプが薄暗く回る、隠された監視モニター室で、ノクターナ・コネクションの数人の幹部たちが、事態の終結を無言で見届けていた。
レイトによる警備員制圧の一部始終も、彼らの視界に鮮明に入っていた。
「……まさか、あのヴェスパーグループのご令嬢まで巻き込まれていたとはな。もしエリサに万一のことがあれば、即座に全面戦争になりかねん。我々はそれを絶対に避けねばならんのだ! それに……あの金髪の男は何者だ? 正規のセキュリティ部隊をいとも簡単にねじ伏せただと……!?」
彼らの視線は、レイトに救出されたルミナたち、そして事態を表向き収束させたイヨナの映像に向けられていた。
「それにしてもイヨナ……あの娘、予想以上の切れ者だ。曲者というレベルではない」
一人の幹部が不快そうに舌打ちを鳴らし、手元の通信端末を睨みつけた。
「……おかしい。イヨナの処理に向かわせたあの6人、何度連絡を入れても応答がない。あの6人なら喜んで飛びつくような極上の上玉だと思って送り込んだが…」
幹部の一人が操作し、VIP室の拡大映像を画面に映し出す。
次の瞬間、モニターを見つめる幹部たちの顔から血の気が引いた。
「な……!? 全員ヤられている……!?」
画面に映し出されていたのは、VIP室で佇むイヨナの姿。
そしてその足元には、血祭りにあげられて無惨に転がる6人の黒服たちの姿だった。
「……殺し(バラし)そこねた上、しくじったということか! そんなバカな! 腕っぷしにはかなりの自信を誇る6人だぞ! イヨナがやったのか……!? いや、あの女にそんな芸当、不可能だ!一体どういうことだ……!?」
幹部たちに困惑と戦慄が走る。
何者かがイヨナの背後にいる。
ただでさえイヨナは『ノクターナのボスのお気に入り』であり、おいそれと手を出せない厄介な存在だ。
それに加え、彼女の後ろには自分たちの想像を超える『とんでもないジョーカー(影)』が控えているのかもしれない。
その目に見えない圧倒的な影の存在に、彼らは喉を鳴らした。
「……理由はどうあれ、イヨナのバックに何かがいるのは確かだ。ただでさえボスの大のお気に入りの女だ、下手に動けば我々の立場すら危うい。この先、あの女は最優先で要注意人物として観察を続けろ」
発言した幹部の言葉に、周りの幹部たちも異論なく深く頷く。
彼らはすぐさま部下たちへ連絡を入れ、騒動の痕跡を完全に揉み消すよう命じた。
彼らの目には、ルミナたちはもはや小さな侵入者ではなく、ノクターナとヴェスパーという巨大な権力間の争いを引き起こしかねない、極めて危険な火種として映っていた。
「我々の計画をボスにだけは知られてはならん。
このまま警戒を怠らんようにせねばな。
今日はこれにて解散とする」
数人の幹部達はここにいたという形跡を全て消しさり、全員が姿を消した。
そして静かなる暗闘の渦へと、深く沈んでいく。
─── 作者のクリエイターズ・ノート ───
第42話をご愛読いただきありがとうございました!
ついに果たされた、ルミナとレイトの衝撃的な再会……!
記憶の霧の向こう側に眠る真実と、溢れ出すルミナの涙。
そして、30人のセキュリティ警備隊を瞬時に制圧したレイトの圧倒的な強さ。
ノクターナ幹部たちの暗闘も加速する中、次なる舞台はB5階『クリスタル・メイズ』へ!
次回
《PROJECT∞HEART-X 第43話》
( ── LUNAEDGE編 第19話:記憶の鏡)




