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54冊目 悪女な妹(可愛い) と 幼馴染み(クソ野郎)


「……ライブラリアの秘術、その秘奥を知りたかったからだ……」


 掠れたような小さい声で告げられたデュモスの真実に、私たち姉妹は揃って呆れたような顔をしてしまった。


「そんなものがあるかどうかもそうですし、よしんば在ったとしても秘奥の時点で簡単に余所の家の人間に見せるわけないでしょう?」


 サラの言うことはもっともだ。

 デュモスといい、この間のブラックといい――短絡的にもほどがある。


「もっと言うなら、そんな態度で見せてもらえるワケないじゃないですか」


 本当にバカだろうお前――とばかりにサラが顔を(しか)めながら告げた。

 実際にその通りだ。正直なところ、仲良くなる方向で接してくれた方が、よっぽど可能性があったと思うんだけどな。


「オレの態度なんてどうでもいい。見せて貰えればそれでいいんだ。秘奥はある。当主が受け継ぐはずだ。今の代行ではなくお前が。受け継ぐときの条件とかは分からないが必ず当主が持っている。そしてそれが魔法で――」


 こいつ……!

 殴って止めるか。

 いっそココで息の根を止めるか。


 分かってて言ってるのかたまたま当たっただけだか分からんが、さすがにこれ以上言わせておくと、面倒なことになりそうだ。


 密かに拳を握るった時、エフェが私の肩に手を置く。

 エフェの顔は見えないが落ち着け――と、言ってくれているのだろう。


 私がエフェと無言のやりとりをしていると、いつの間にか扇子を取り出していたサラが、それをカッコ良く閉じてピシャリと音を立てた。


「少しお黙りになっていただけますか?」

「え?」

「あなたの言葉が正しかった場合、身内であるわたしですら教えて貰えていない家の重要な秘密の話となるはずです。それを公の場で明かしているコトになるのですけど、その意味をご理解されてますか?」


 ……なんか、サラの方がよっぽど冷静だな。お姉ちゃん反省。


「どうでもいいだろそんなコト。オレは秘奥を知りたいだけだ」


 答えるデュモスの瞳は、どことなく狂気が宿っているようにも見える。

 そんなに秘奥にこだわってるのか、こいつ?


 ビブラテスとしてか? それともデュモス個人がか?


 この状況だとなんとも言えないな……。


「本当にそう思っていらっしゃるのですね?」


 サラは嘆息しながら扇子を開き直して、口元にあてる。


「どういうコトだ?」

「本当に、その秘奥とやらが周囲に知られてしまうコトをどうでもいいコトだとお思いなのですね?」


 念を押すようにサラが確認している。

 なんというかとても丹念に確認作業している気がするので、何かありそうだ。そう思って、デュモスに気づかれないように周囲を見回す。


 ……あ、周囲からこちらに視線を向けてる人たちの中にエピスタンいるじゃん。

 なるほど、だからサラは丁寧に確認しているワケだ。


 これでデュモスが肯定してくれると、余所の秘密を表で公言しようとする輩――しかも相手がライブラリアであれば、密約関係の話から王家が首を突っ込める可能性が出てくる。


 ましてやそれをエピスタンが耳にすれば、当然ケルシルト様――つまりはティベリアム家の耳に届くワケで……。


 デュモスの返答次第では密約の三同盟が全部が敵に回る可能性が生まれる状況だ。


「何が言いたい?」

「別に。ただ貴方の意志を確認したかっただけですわ」

「…………」


 おっと。急に冷静な目になってきたな。

 サラの念押しに、急に頭が冷えたか?


 秘奥が知りたくて狂的にすら見えた空気から一転して、デキる文官ぽい顔になりやがった。


 あ、サラも内心で舌打ちしてるみたいな顔を一瞬したな。

 このまま失言の言質を取ってエピスタンに投げるつもりだったんだろうなぁ……。


 私も冷静さを失わずエピスタンに気づいてたら、同じ事してたと思うし。


「……すまない。ライブラリアの秘奥に興味が強くてね。つい変な発言をしてしまった。君たち姉妹に謝罪しよう」


 素直に謝罪されてしまったか。

 どうしようかな。


 僅かに逡巡していると、サラがチラりと私を見てくる。


「――だ、そうですけど。お姉様、どうなさいます?

 こういう話に関してはお姉様しか分からないコトもあるのでしょう?」

「そうね……」


 ここで変に謝罪を受け入れないのは秘奥は実在しているというようなモノだ。

 周囲に図書館の利用客がある程度いて、このやりとりを聞いている以上は、興味もあるだろうしな……。


 秘奥の話がなくても、他の貴族の目があるところで変な対応もできんし……仕方ないか。


「思うコトはないワケではないけど――まぁいいわ。

 一方的に捲し立てられて迷惑ではあったけれど、そうやって謝罪されたら受け入れないのも狭量というモノですし。

 次からは気をつけてください。私に対する普段の物言いも含めて」


 ついでに、余計なことばかり言ってくることへの苦言も交ぜておこう。

 それでどうにかなるとは思わないけど。


「――と、いうコトですのでそろそろ退いてくださらないかしら?

 ここは図書館ですし、あまり騒がしく言葉を交わす場所でもないでしょう?」


 私の言葉に何か言おうとしたデュモスを遮るように、サラが告げる。

 少しばかり態度が露悪的だけど、わざとだろう。


 とはいえ、デュモスもデュモスで周囲に注目されているのを理解したようだ。


「そちらの言う通りのようだ。失礼する」


 そうして軽く一礼すると、図書館の二階へと上がっていった。

 用事があって図書館に来てたならそれを優先しろよ。


 余計なことばっか仕掛けてくるなら、出禁にするぞ出禁に!


 ともあれ、彼が完全に二階の奥へと消えていくのを確認すると、私は大きく息を吐いた。



「お姉様らしからぬ様子でしたね」


 サラは悪女モードのままだ。

 黙って後ろから着いてきながら小声で話しかけてくる時はともかく、ここまでデュモスとハデにやりあっちゃったからね。隠し部屋まではこのまま続けるつもりなのだろう。


「苦手なのよアイツ。会う度会う度にああいうノリで」

「……もしかしなくとも、お姉様が自分の容姿に自信がないのはそのせいかしら?」


 僅かにサラの片眉が跳ねる。

 さっき以上の怒気を感じるのは気のせいか? 


「どうかしらね。でも、会う度に見目も態度も目つきも口も悪いみたいなコトは良く言われているのは間違いないわね」

「…………」


 あの――サラ……ちょっと、冷たい空気纏ってない?

 ちょっと怒った時のケルシルト様に似た空気だよ、それ。


「つまり、あのビブラテス伯爵家の令息は、息を吐くように女性の容姿を貶めてくるというワケですね。

 お姉様を見ても醜女にしか見えないような目をしている人だなんて、なんと可哀想な目の持ち主でしょう」


 お、おう。

 なんで、そんなに怒っていらっしゃるのですかね?


 そんなやりとりをしているうちに、エピスタンが軽やかな足取りでやってくる。


「エピスタン様!」


 彼に気づいたサラは機嫌の悪い悪女な態度が一変、目を輝かせて可愛らしさをアピールするような様子を見せた。


 これも演技なんだろうなぁ……。

 相手がエピスタンでなければ、コロッとサラの手の平で踊らされてしまいそうな気がするぞ。


 男心を弄ぶ悪女が板についちゃったらどうしよう――などと、お姉ちゃんは心配になるところです。


 まぁエピスタンには効かないだろうし、エピスタンもこれが演技だと理解はしていそうだけど。


「お二人とも、何やら殿方と口論されていたようですが、大丈夫ですか?」

「ビブラテス伯爵令息がわたしたちにケンカを売ってきたのよ。実在するかも分からない秘宝が欲しいとかなんとか言って!」


 エピスタンへと嬉しそうに駆け寄りながら、サラがそう答える。


 おや? サラが秘奥を秘宝と言い換えた?

 まぁ遠巻きに聞いている人たちからすれば、その辺りの聞き間違いも勝手に納得しちゃいそうだし、乗っておくか。


「ライブラリアの秘宝だなんて、私も聞いたコトがないのですけどね」


 実際、秘宝なんてものはないしな。

 ただそれでも、ケルシルト様に仕えているエピスタンであれば、その裏にある言葉の意味を理解できるはずだ。


「よしんば存在していたとしても、家の秘宝を見せろや寄越せや言われて、はいどうぞ――と、とお出ししたりはできませんよね」


 エピスタンは苦笑したような様子を見せるけど、その瞳の奥には『あいつ正気か?』というような色が宿っている。恐らく正しく通じたのだろう。


「ともあれ、お二人とも何事もなくて良かった。

 もう少し早く声を掛けて、助け船を出して上げられれば良かったのですけどね」


 恐らくはライブラリアの秘奥という話が出てきたので迂闊に飛び込めなくなったのだろう。

 変に助けようとすると、エピスタンが意図せずそれについて聞いてしまう可能性があったから。


「いえ、気を遣って頂きありがとうございます。

 是非ともティベリアム公爵閣下にもよろしくお伝えください」


 知ってる人からすれば、さっきまで一緒に食事してただろと言われそうだけれど、それを知っているのは関係者だけだから問題なし。


 何よりこの言葉の意味は、ケルシルト様にこの件は報告しておいて欲しい――である。


「はい。もちろん。お二人はこの後、本を見てかれるのですか?」

「ええ。後日また王都に来る予定がありますので、本を借りていこうかと思いまして」

「こっちはこっちで、ウチにはない本も置いてありますらかねー」


 さっきまでの嫌味ったらしいレディ仕草から一転、妙に媚びた感じのサラである。こちらはこちらで大変可愛い。私だったらコロっと手の平で転がされてしまいそうな可愛さだ。


 わざとらしく仔犬のようにエピスタンにペタペタくっつこうとしている。


 まぁ周囲にいる淑女の方々は、サラへ妙に敵意の強い視線を浴びせているようだけれど、サラからすればそれも狙ってのことだろう。


 サラとエピスタンの二人のことだから、そういう目線を向けてくる人すら、顔を覚えて武器に変えてしまいそうだ。

 ……って、いつの間にかサラもそういうことで出来そう……みたいな感覚が前提になってるな、私。


「自分も必要な本は借りれたので、そろそろ仕事に戻りますね」


 言いながら、サラをやんわり自分から離す。

 サラは名残惜しそうな演技をしつつ、素直に離れた。


「はい。気に掛けていただきありがとうございました」

「またお会いしましょうねエピスタン様」

「では失礼します」


 淑女として挨拶をする私の横で、サラはキラキラ笑顔で手を振っている。

 そしてエピスタン様がいなくなるなり、スンっとまた悪女的通常顔に戻った。


 すごいな、サラ。

 日に日に演技レベル上がってない?


「エピスタン様のコトは名残惜しいですけど、そろそろ移動しましょうお姉様。わたしたち、目立ちすぎてしまってます」

「そのようね。行きましょうか」


 変に付いてこられても困るな。

 本棚迷宮に行く前に、一度地下の書架を経由していくか。


「地下にある資料を見に行くけれど、貴女はどうするの?」

「そうね……一緒に行くわ。ここの地下って、行ったコトないので気になるから」

「そう」


 そうして私たちは地下を一周してから、周囲を警戒しつつ本棚迷宮にある隠し部屋へと入っていった。


 なんていうか、ようやくそこで一息付けれた心地だ。


「……なんか、疲れたね……」

「……ええ、本当に……」


 サラと私は言葉少なめにそう交わす。


 エフェもミレーテも同意するようにうなずいていた。


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