9. 初めての新婚生活
「うん、別に実家とは敵対しているわけではないのだけど、これまで色々あったし」
ミーナは少し悲しそうに言う。
なんとなくだが、ミーナの悲しみは僕にも理解できた。
僕はミーナのような王族ではないが、両親双方の実家にとり初孫だったこともあり、子供の頃からすごく可愛がられると同時に、同じくらい将来に期待されていた。
勉強は得意だったので、学生の頃はある程度はその期待に応え続けることができた。
しかし、恋愛に関しては全くダメで、社会人になってからは、祖父母に会う度に結婚の予定を聞かれるのが少々辛かった。
一般人の僕でさえこうなのだから、家ごとに重要な役割がある貴族ともなれば、一族の期待に応えられない辛さは、僕と比べるべくもないのだったのだろう。
「それに、貴方との出会いという最高の幸運を、これまでの苦い思い出と一緒にしてしまうのは勿体無いわ。私は貴方と新たな場所で新たな人生を築きたいの」
・・ここまで言われて意気に感じない男がいるだろうか、いやいまい。
僕はミーナを抱きしめて、
「僕はこの世界での人生、全てミーナに捧げると誓うよ」
そう約束したのであった。
その後、改めて今後の生活計画についてミーナと話した。
「村を作りたい、と言っていたけど、何か当てはあるのかい?」
いうまでもなく、愛の力だけで乗り越えていけるのは漫画の世界だけだ。
いや、最近は漫画でも無理かな?
とにかく、現実に村を作るとなると、資金や人手など、実に様々なものが必要になる。
「うん、資金はある程度あるし、場所も心当たりがたるわ。私も貴族だしね」
流石は貴族様だ。
「問題は人だけど、何人か信頼できる人に声をかけてみるわ」
そう言うとミーナは紙を何枚か用意し、手紙を書きはじめる。
時々念を込めるような動作もする。
魔法も使っているのだろうか?
ミーナは手紙を書き終え
「召喚」
と呟くと、目の前にカラスが現れた。
「さあ、これを届けて」
そう言って手紙を纏めてカラスの首にかける。
カラスは
「カァ」
と一鳴きすると飛んでいった。
使い魔というやつだろうか?
「これでいいわ。流石に全員が来てくれるとは思わないけど、きっと強力な助っ人になってくれるわよ」
その後、僕とミーナは計画の作成を始めた。
ミーナの言っていた場所というのは、ロイヤルゲート王国の辺境にある寂れた村とのことだった。
この村はミーナの実家の領地にある村の一つで、代官が管理しているそうだ。
ただ、その代官が高齢のため、そろそろ後任を決めなければならなかったのだが、自ら進んで辺境に行きたがる人材は簡単には見つからず、困っていたとのことだった。
先ほどの手紙の1枚は実家にあてたもので、その辺りの調整を依頼したらしい。
ミーナは兄弟の3番目の子供だそうで、家の後継者ではない。
このため、彼女は常に本家にいなければいけないわけではない。
また、ミーナの両親としても、娘に各地で当てのない旅をされるより、辺境とは言え自領で落ち着いてくれる方が安心だろう。
更に僕とミーナにとっても、ミーナの実家の領地ということで色々と融通が利くというメリットがある。
確かに都合の良い場所だった。
それから1週間後、ミーナの実家から
「辺境領の代官就任を認める」
という手紙が来るまで、僕とミーナは今後の生活プランを議論したり、イチャイチャしたりと、新婚生活を満喫したのだった。
「生きているって素晴らしい」
久しぶりにそのことを実感できた1週間だった。