13. サイド スミス
私はスミス・ハインリツィ。
サウスゲート家にお仕えして35年のベテラン使用人である。
家令のセバスチャン殿には敵わぬが、優秀な使用人であるという自負がある。
これは決して自惚れではない。
この仕事は自身の能力を正しく把握していなければ務まらないからだ。
その長い勤務歴において、私が最も嬉しかったことが、産まれて間もないミーナお嬢様のお世話を任された事だ。
お嬢様は女子であり、三番目の御子でもあるからサウスゲート家を継ぐことはない。
しかし、名門サウスゲート家の長女として期待されていることは間違いなく、その教育と護衛という重要な任務を任せてくれる程に、主家から信頼されていることが嬉しかった。
逆に最も悲しかったことが、そのミーナお嬢様が5つの時、お目が悪いことが発覚した時だった。
以来、ミーナお嬢様はずっと苦しまれることになった。視力の問題で、どうしても魔法の遠距離コントロールができないからだった。
悲劇はそれで終わらなかった。
お嬢様はそのコントロールをカバーしようと必死に勉学と修行に努め、その魔力は同年代のトップクラスにまで強大になった。
そしてその結果、学院での授業の際に、魔法の誤爆で施設を破壊してしまったのだ。
幸い死者こそ出なかったが、重症者が複数発生し、お嬢様は孤立してしまった。
ハンデを克服しようと努力したことが仇となるという、皮肉というには残酷すぎる結果であった。
もちろん、私は決してお嬢様から離れたりはしなかった。
しかし私はお嬢様の使用人であり、友人ではない。
この後、お嬢様は視力回復の手段を求め、1人で旅立った。
もちろん私はお供を申し出たが、学院の事件以来、自身の行動で親しい者を傷つけてしまうことを極度に恐れていたお嬢様は、決して認めてくれなかった。
10代の子供にはあまりにも悲しすぎる決意に、私は涙した。
だからこそ、その2年後にお嬢様から手紙が来て、グリックの領主に着任したことを知った時、私は大喜びで、すぐさまグリックに向かった。
お嬢様は子供の時以来と思われる輝くような笑みで私を迎えてくれた。
そしてお嬢様と感動の再会を果たした私を二つの衝撃が襲った。
なんとお嬢様が結婚したという。
お嬢様に伴侶として紹介されたのは、マコトという名の齢30位の男だった。
中肉中背で、ごく普通の外見の男であり、服装からして貴族ではなかった。
その年齢差に
(まさかお若いお嬢様を誑かしたのではあるまいな)
という疑惑を感じ、
(事と次第によってはこの男を始末しなければ)
と、一瞬のうちに覚悟を固めた。
サウスゲートの家人であれば、その程度の荒事は普通にできるのだ。
しかし、それは杞憂だった。
マコト殿は
「目を治してくれた恩人」
でもあり、その証拠にお嬢様は見事なコントロールの風魔法を披露してくれたからだ。
それはかつてのお嬢様であれば絶対にできなかった事だった。
お嬢様は視力回復という旅の目的を果たし、笑顔を取り戻すことに成功したのだった。
私は号泣してお嬢様にお祝いを申し上げると同時に、大恩人たるマコト殿に忠誠を誓った。




