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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都キャリントン侯爵家5

破られた紙は元には戻らない。切れ端と切れ端を合わせ内容が読めたとしても、一枚の紙ではなくなっている。


スカーレットの心もきっと同じ。

アルフレッドへの気持ちも、側近のテレンスとジョイスへの気持ちもビリビリに破かれ、昔の仲が良かった時の心ではなくなっているだろう。


否、違う。

貴族学院での行為は破くという生易しいものではなかった。テレンス達はスカーレットの心を粉々に砕いたのだ。再び内容を読むことが出来なくなるくらいに。それでもスカーレットは何度も砕かれた心をつなぎ合わせテレンス達へ向き合ってくれていた。しかし、あの日、アルフレッドにスカーレットの砕けた心は二度とつなぎ合わせられないよう吹き飛ばされたのだ。


最後に聞いたスカーレットの言葉が蘇る。今後の遣り取りは侯爵家と直接行うようにとスカーレットは言った。あの時点でテレンス達と向き合う心が無くなってしまったのだ。砕かれ続け粉々になった心は吹き飛ばされ、元に戻れなくなるどころか消えてしまったのだ。どこかへ。


耳に入ってくるスカーレットの噂は心の病で療養中ということ。でも、その心は形を成すこともなく、残滓が辛うじて残っているだけかもしれない。だとしたら、どうやって心は回復するのだろうか。どこへ行ったのかも分からない、砕かれた欠片は誰にも見つけようがない。


それに…残滓の中に回復したいと思う心が残っているかも疑わしい。最悪の場合、スカーレットの状況は一歩も前に進んでいないことが想像出来てしまう。



テレンスはデズモンドが手紙を引き受けなかったこと心から感謝した。

もしも無理にでも渡すよう命令したらどうなっていたのだろうか。デズモンドは『酷』という表現を使ったが、文字が書かれただけの紙が凶器となり、深くスカーレットを傷付け息の根を止めるに等しい役割を果たしたかもしれないのだ。


その謝罪文だって『悪いことをした。謝罪する』、修飾語を削ぎ落せば、言いたいことはそれだけ。中身を読んでいないデズモンドが言った自己満足そのものだ。


思い返せば書いている時も、テレンスは自己満足に酔っていた。

声を掛ければ誰も彼もが喜ぶテレンスからの手紙を貰えば、スカーレットも嬉しいだろうと。そして、デズモンドが言ったスカーレットの拒絶を想像すらしていなかったテレンスはその先のストーリーまで思い描いていたのだ。


そう、テレンスの中では揺ぎ無いストーリーが出来上がっていた。

スカーレットがテレンスからの手紙に喜び、謝罪を受け入れるという。更には、文字だけではなく直接言葉を交わしたいと王都にまで出て来る。そのタイミングでテレンスはスカーレットとアルフレッドが言葉を交わす機会を設けることにも成功するという何とも都合の良いストーリーが。


これではテレンスだけがシナリオを書き、テレンスだけが演じ、テレンスだけが観客として喝采を贈る、テレンスによるテレンスの為だけの舞台だ。

他者が観たら面白味も何もない時間の無駄になるだけの。


テレンスが謝罪するには、スカーレットの気持ちを考えることから始めなくてはいけなかったのに。

それを現状から来る怖さに負け、都合の良い未来を思い描いてしまった。現実逃避の方法が夢物語だったのだ。


しかし、いつまでも逃避は出来ない。テレンスの抱く恐怖の原因の一つ、ジョイスは王都へ必ず戻ってくるのだから。

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