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オリハルコンの女~ここから先はわたしが引き受けます、出来る限りではありますが~  作者: 五十嵐 あお


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王都キャリントン侯爵家2

「マーカム子爵、お久し振りです」

「テレンス様もお変わりないようで」

「そう見えていますか?」

「いいえ、残念ながら」


テレンスが疲れているのは一目瞭然。しかし、話を早々に切り上げるなら定型文で返すのが一番賢い。キャリントン侯爵への挨拶が終わったデズモンドは、必要以上に留まることを避けようとテレンスの状態を見て見ぬ振りで言っただけだった。

けれど、問われてしまえば見えている以上、嘘をつき通すことは難しい。テレンスの顔にはそれ程疲れが見て取れた。


「父から聞きました。子爵がファルコールへ行くと。申し訳ございません、わたしのせいで」

「いえ、テレンス様とわたしのファルコール行きは関係ありませんよ。わたしは仕事をしに行くだけです」

「でも、切っ掛けはわたしです。立ち話もなんです、サロンでお茶でもいかがですか。王宮へ向かうまで、今日はまだ少し時間があるので」


テレンスにそう言われてしまえば、デズモンドに否やはない。しかも、王宮へ向かう前の貴重な時間を割くと言われているのだ。デズモンドは得意の本心を隠す人当たりの良い顔で、『ありがとうございます』と答えたのだった。


様々な事情で忙しいテレンスが、デズモンドにファルコール行きを詫びる為だけに邸に滞在していたとは考えにくい。侯爵同様、マーカム子爵家など自分の手の内にあるとデズモンドを使い倒す為に呼び止めたと考えるのが筋だろう。


「子爵をサロンへ案内してくれ」

使用人にデズモンドの案内を命じると、テレンスは少しお時間を下さいと邸内へ消えていった。


待つこと数分、パーラーメイドがワゴンを押しながら入って来たのに続いてテレンスもやって来た。香り高いお茶が淹れられるとテレンスは壁に控える使用人達全員を退出させ、徐にデズモンドへ手紙を差し出した。


「今日、子爵がお見えになると父から聞いていたもので、時間が合えばこれを渡そうと思っていました」

「これは?」

「キャストール侯爵令嬢への手紙、いえ、詫び状です。ファルコールで彼女に会うことが出来たら、これを渡してもらえないでしょうか?」


渡された封筒の中身には仕事の依頼が書かれていると思いながら質問したデズモンドだったが、テレンスの答えは意外なものだった。しかも、命じるのではなく、封筒そのものが依頼内容だったとは。


テレンスがどこまで侯爵からデズモンドの仕事内容を聞いているのかは分からない。しかし、口振りからは深くは教えられていないことが窺える。

それもそうだろう。キャストール侯爵家が正面から王家を守る家ならば、キャリントン侯爵家は裏から手を回す家。水面下で動くのだから、正々堂々などという言葉とは無縁。仮令親子でも言えないことがある。


その一つが今回のデズモンドのファルコール行き。

テレンスには違うと言ったが、それが嘘であることは言わずもがな。キャリントン侯爵は息子の失態を償う為、腹心と呼ばれるデズモンドをまるで自分の身を切るかのようにファルコールへ送ることにしたと世間では見做されている。

国とキャストール侯爵家に労働で奉仕することで償うと。


けれどデズモンドが本当に命じられているのは、どんな手段を用いてもスカーレットを国に留めておくこと。間違っても隣国へ嫁がせてはならないと言われている。

キャリントン侯爵の読みは、キャストール侯爵がスカーレットを隣国へ嫁がせる為にファルコールへ送ったのではないかというもの。それはキャリントン侯爵でなくても、そう考えて然り。アルフレッドの婚約者だったスカーレットをこの国で妻に娶ることが出来る者はいないに等しいのだから。しかし、隣国ならば可能だ。それも、王族や公爵家で。

国が恐れているのは、そうなるとスカーレットが嫁すタイミングでファルコールが化粧領として持っていかれること。

本来ならば、国はファルコールを化粧領として認めないが、隣国の王家の血筋すら汲むスカーレットがアルフレッドから婚約破棄されたのだ、外堀を埋められてしまっては国も頷くしかない。


テレンスはデズモンドがスカーレットに会う機会があったらと前置きしたが、デズモンドは是が非でも任務の為にスカーレットに接触しなければならない。何故なら『どんな手段』の手段はキャリントン侯爵によって決められているからだった。

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